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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
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cys:100 魔力クリスタルの闇

「ノーティス! やったね」

「まだだメティア!」

「えっ?」


 自分に駆け寄ろうとしたメティアを、ノーティスはアネーシャを見据えたまま制した。


「ハァッ……ハァッ……メティア、まだだ。まだ終わっていない……」


 ノーティスは剣を杖のように使いググッと立ち上がると、アネーシャを哀しい瞳で見つめる。


「アネーシャ……なぜだ。キミは強い。途轍もなく……けど、なぜキミの剣からはそんなに悲しい想いが伝わってくるんだ」

「……黙れ」

「俺はこれ以上キミと……」

「黙れ!」


 アネーシャはそう叫びノーティスに飛びかかった。


 ガキインッ!


 振り降ろしてきた剣を受け止めたノーティスは、アネーシャと鍔迫り合いをしたまま見つめる。

 悲しみに満ちたアネーシャの瞳を。


「アネーシャ……なぜキミは戦う! それだけ澄んだ心と悲しみを背負いながら」


 けれどアネーシャは答えない。

 怒りと悲しみに燃える瞳で、剣を強くノーティスに向かい押し続けるのみ。


「くっ……アネーシャ」


 ノーティスにはどうしても分からなかった。

 なぜアネーシャから、こんな澄み切った想いが伝わってくるのかが。

 トゥーラ・レヴォルト軍は蛮族のハズだからだ。


 悪魔の呪いからの感染を防ぐガーディアン・クリスタル。

 トゥーラ・レヴォルトは、それを埋め込む事を拒否して呪いにかけられ、スマート・ミレニアムを攻撃してくる悪しき者達が住む国。

 進化を自ら拒み、スマート・ミレニアムを攻撃してくる愚かな人間達のハズなのだ。


───けれどなぜ、ここまで美しく澄みきった悲しみが伝わってくるんだ……正義はこちらで、相手が悪である事は間違いないハズなのに……


 アネーシャにだけにではない。

 それは、ノーティスが忘れる事の出来ないシドに対しても感じていた事だ。


───シド……アネーシャ……キミ達はなぜ……


 ノーティスが切ない気持ちに想いを巡らせた時、バチンッ!と、大きく剣が弾かれた。

 互いに一旦間合を取ったノーティスとアネーシャは、再び強く何度も剣をぶつけ合う。


 ガキインッ! ガキインッ! ガキインッ!


 その度に伝わってくるアネーシャの想い。


「くっ……答えろアネーシャ! 俺はこれ以上、キミと戦いたくないんだ!」


 しかし、ノーティスの決死の問いかけにアネーシャは答えず、ノーティスに鋭い斬撃を打ち続ける。

 再び鍔迫り合いを始めたノーティスとアネーシャ。


 普段の会話で、人はいくらでも嘘がつける。

 けれど、人は感情が高ぶったり自分が危機に陥った時は、嘘ではなく本心・本性が現れる。

 ならば、互いの命をかけた戦いの時は?


 そう。皮肉にもその時こそが、人はお互いに一番深いコミュニケーションを取っているのだ。


「なぜキミは俺達を……罪も無いスマート・ミレニアムの民を攻撃してくる?! そこまで澄みきった心を持ちながら!」


 ガキンッ!!


 再び大きく剣を弾き合うと、ノーティスはアネーシャに向かい、剣を両手で斜めに構え必殺剣の構えを取った。


「アネーシャ……キミの想いがいくら澄みきっていても、魔力クリスタルの救いを拒み、俺達スマート・ミレニアムを攻撃してくる邪悪なる国家トゥーラ・レヴォルト。それを率いるキミは、絶対的悪に他ならない!」


 そして、鋭い眼光をアネーシャに向ける。


「だから俺はキミを……斬る!!」


 その瞬間、アネーシャは体を震わせ始めた。


「絶対悪? 私達が? ウフフ……ハハハハ……アーッハッハッハッハッ!」

「何がおかしい!」


 すると、アネーシャは高笑いから一変し、キッとノーティスを睨みつける。


「ふざけないで!!」

「なっ……」


 ノーティスは一瞬たじろいだ。

 アネーシャの気迫にだけではない。

 アネーシャの激昂の中に深く澄んだ悲しみを、更に強く感じ取ってしまったからだ。


 アネーシャは、そんなノーティスに片手で剣先をビッと向け、凛とした瞳に怒りと悲しみを宿す。


「私達が悪? 何も知らないくせに!! アナタ達は()()()ユグドラシルを……いや、どうせ言っても信じもしないし、分からないわ。クリスタルの輝きという偽りの光に目を眩まされ、何も見えない……いえ、何も()()()()()()()()アナタ達には!!」


 ノーティスはこの言葉を聞いた時、全身にゾクッとした悪寒と恐怖を感じた。

 そして、胸の鼓動が急激に早くなり胸が苦しくなる。

 先程まで強く打ち合ってた時よりも遥かに。


「ユ、ユグドラシルが、キミ達の物……そんなバカな!」

「そうよ……あの神聖樹は……」

「バカな! アレは俺達の物だ!」

「哀れね……偽りの光と歴史に照らされた勇者ノーティス……」


 アネーシャの哀しみに満ちた瞳に照らされた時、ノーティスの直感が告げていた。

 アネーシャが言う偽りの光とは、クリスタルによる誤作動やフェクター。

 クリスタルの色や光の強弱から生まれる差別。

 そういった事を指してる訳ではなく、更にもっと深く、そしてドス黒い何かを指しているという事を!


 ノーティスは、それを振り払うかのようにギュッと剣の柄を握りしめ、辛うじて絞り出した言葉をアネーシャにぶつける。


「アネーシャ……キミは……何を言っている……」

「……フッ」


 アネーシャは一瞬ため息を漏らすと、言葉ではなく再び鋭い斬撃で答えてきた。

 まるでこれ以上は、話してもムダだというように。


 ガキインッ!


 だが、ノーティスはアネーシャの剣を何とか弾き飛ばし、真摯な眼差しをぶつける。


「答えろアネーシャ! 偽りの光とは……ユグドラシルがキミ達の物だとは、どういう事なんだ!!」


 するとアネーシャは再び凛とした表情で、右手で剣先をスッとノーティスに向けた。


「勇者であるアナタには、決して信じる事は出来ないわ。けど……ヒントだけはあげる」

「ヒント……?」


 胸をバクバクさせ顔をしかめるノーティスに、アネーシャは凛とした瞳を向けさらに続ける。


「ノーティス。アナタは今から100年前……本当にこの世界に悪魔、カターディアが現れたと思っているの?」

「なんだと……」

「本当にカターディアからの呪いの感染防止の為に、魔力クリスタルが必要になったと思ってるの?」


 その瞬間、ノーティスの心臓の鼓動はさらに加速した。

 胸が苦しくて倒れそうになる程に。

 ノーティスの直感が、この先にある答えを出す事に最大限の警告を出していたからだ。


 けれど、ノーティスはその苦しみの中で声を絞り出す。


「どういう……事だ。そのに皆自分の額にクリスタルを埋め込んで……」


───ハッ!!


 ノーティスはそこまで言った時、固まったまま体を震わせる。

 その先を答える事が出来ない、いや、したくなかったのだ。

 それをしてしまえば、これまでの全てが間違っていた事になってしまうからだ。


 そんなノーティスに、アネーシャは哀しく微笑む。


「だから言ったでしょう。ましてや、勇者であるアナタには信じる事が出来ないって……」


 ノーティスはアネーシャの言葉を否定したかったが、その為の言葉が出てこなかった。

 アネーシャの話が真実である事を、直感よりも遥かに深い魂の部分で分かってしまっていたからだ。


「だとしたら……だとしたら俺は……俺達は……!」


 アネーシャから告げられた真実に、心を抉られたノーティスは剣の構を解き、ゆっくり手を下に下ろした。

 そして、絶望の瞳でアネーシャを見つめる。


「あっ……あ……そんな事が……」

「ノーティス、しっかりして! 惑わされちゃダメだよ!」


 メティアはノーティスに大声で叫んだが、ノーティスの耳には入らない。

 今分かってしまった事が脳内を駆け回り、絶望が全身に広がってしまっているからだ。


「全て……全て、俺達は……」

「ノーティス!」


 アネーシャが放った必殺剣の神桜裂華よりも遥かに強く深いダメージを心に受け、震えながら立ち尽くすノーティス。

 全身から力が抜けて、剣を地面に落とし両膝をドサッと地面についた。


 そんな状態のノーティスにアネーシャはゆっくり近付いていき、澄んだ悲しみの瞳でノーティスを見下ろした。


「ノーティス、今楽にしてあげるわ……」


 アネーシャがノーティスに向かい大きく剣を振りかぶると、その剣先がまるでノーティスに対するレクイエムのように、キラリと妖しく輝いた。


 ノーティスの命は、アネーシャによって今絶たれようとしていた。

 彼女と悲しい運命の交錯をしたままで……

剣よりも真実が心を斬り裂く……



次話はノーティスの勇者としての魂が輝きます。

どんなに絶望しても、決して光は消えはしない!

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