川での会話と約束
こんにちはifです。悩みに悩みまくった第四話です。本当どうしようか迷った結果なので温かい目で読んでもらえると嬉しいです。それではどうぞ
宵宮を家に連れてきてから三日後の夜。ハンカチと一緒に置いていった紙に書いてあった時間になった。
「私はあなたに今までの人と違う何かを感じます。三日後の夜、あの川でお話ししましょう。そのハンカチはその時に返してください」
別に呼び出さなくたっていいだろう。まさか、告白されるのだろうか。
(いや、ないな)
浮かんだ可能性を俺は即座に否定した。学校で黒の姫と呼ばれている宵宮が出会って間もないよくわからない俺に告白するなんてありえないだろう。
(じゃあ一体なぜ…)
何か怒らせただろうか。まさか黒の姫を怒らせて俺は消されてしまうのだろうか。
(まあ、暇だから行くけど…)
そんなこんなでいつもの川にやってきた。
(夜とは言ったものの、何時からが夜なのかわからねぇ…)
あの紙には夜と書いてあったが、何時かはわからなかった。だからついでに夕日でも見ようかと思い、6時くらいからいつものベンチに座っている。
「よかった。来てくれたのですね」
不意に耳元で優しい声が聞こえた。それが宵宮の声だと気がつくには彼女を視認する必要があった。それくらいの、いつもと違い、優しい声だったのだ。
俺が振り向くと宵宮がいた。いつも結われていない長い美しい黒髪は後ろで一つに束ねられていた。
(こうしていると黒の姫感全くないんだよな…)
俺が初めて宵宮と話したのは数日前だった。学校ではクールで無口。人を寄せ付けない佇まいの宵宮がノクターンを歌いながら川の中を眺め時々「お魚さん可愛い」と言っていたのだ。
俺自身、全く知らない信頼の置けない人と話すのは怖いし、普段話すことは絶対にない。でも、年相応の可愛らしい笑顔を浮かべて歌う姿は普段の彼女を感じさせず、気になってしまった。
「あぁ。ハンカチ置きっぱなしだったし…」
そう答えると宵宮は安心したような表情を見せた。
「よかった。そのハンカチとっていてくれたんですね」
「まあ、人のものだし勝手に捨てたりはしないだろ」
なんで捨てられているという可能性があったのかわからないが、宵宮の雰囲気を見るに俺は試されていたのかもしれない。
「そのハンカチ、お母さんからもらった大切なものなんですよ。ピンクと白。可愛いでしょう?」
そういう宵宮は本当に良い笑顔をしていた。
(ピンクと白なんて黒の姫である宵宮らしくないな…)
そんなことを考えていると宵宮は俺の思考をよんだが如く呟いた。
「私だって白とかピンクとか普通の女の子が好きなもの、好きですよ。らしくないし、気持ち悪いですよね…」
そう言って俯いてしまった。
「なんで気持ち悪いと思うんだ?意外ではあったが別に気持ち悪くはないだろ」
なぜか宵宮の頬が一気にピンク色に染まった。
「え…あ…ありがとうございます…」
何をそんなに気にしているのだろうか。俺はちょくちょく見せる宵宮の本性を知っているから学校でのクールキャラではないことも知っているし、年相応の可愛らしさがあるのも知っている。宵宮が照れている理由もよくわからない。
(謎だ…)
本当に分からない。かれこれ数年間女の子とは無縁の生活を送ってきたが、女の子ってこんなのだっただろうか
「とりあえずこのハンカチ返すよ。大事なものなんだったらこれからは人を試すために使うなよ」
そう言って綺麗に洗濯したハンカチを手渡した。
「洗濯までしてくれたのですか...。本当にいい人なんですね」
そう言って宵宮は笑った。
「別に大したことしてねえよ。川でコケた時に濡れてたしな。それで、俺をここに呼び出した理由はなんだ?」
最も気になっていたことを聞いてみることにした。
「いえ、特に深い理由はないのですが少しお話してみたいと思いまして」
「そっか...とはならないぞ。話したいだけならあの時話せば良かっただろ」
「いえ、あの時はとても警戒されているような気がしたので」
(バレてた...)
確かにあの時はかなり警戒していた。綺麗だなとか可愛いなとかは思っていても深く接することはしなかった。普段は人助けなんてしないけど、あの時は何故か体が動いた。でも、出会って間もない人に俺のことを話す訳にもいかない。
「まあ、ほぼ初対面の人に向かって警戒するのは当たり前だろ。宵宮は誰もいない時と学校でキャラ違うよな」
「え...まあ、そうですね」
「なんで俺の前では本性でいてくれるんだ?」
「信頼...」
言葉が徐々に弱くなっていったので最後は聞き取れなかった。でも、宵宮が何故か俺に心を許してくれているのは事実だろう。
「まあ、別になんでもいいが...。それに自分であげておいてなんだが警戒もせずに男の家に上がるのはやめといた方がいい。宵宮くらい可愛かったら襲われるかもしれないだろ」
(あ...やべ。勢いで可愛いとか言っちまった)
宵宮の顔がピンクを通り越して真っ赤に染る。
「雛さんは襲わなかったのでいいでしょうっ!!」
なんだか怒っているようだ。
「いや、ごめん。怒らないで欲しいかな...」
「別に怒ってません!!」
完全に怒ってる...。普段人とあまり関わらないせいでこういう時の対処の仕方が分からない。
(とりあえず水でもあげてみるか)
「これあげるから許して欲しいんですけど...」
(あ、まずい...)
宵宮の目が鋭くなっていく。というか膨れ顔になっていく。
「怒ってないです!!でも水はもらいます」
そうして宵宮は俺の渡した水を飲み始めた。
「あの...1個いいですか?」
とペットボトルを口に付けたまま上目遣いで尋ねてきた。
「もう、水はないぞ」
「違います!!」
違ったらしい。
「今度、どこか行きませんか?」
(今、今度どこかに行かないかって聞こえたがきっと気のせいだろう)
「すまん、聞き取れなかったからもう一回言ってくれ」
「今度どこかに行きませんか?」
聞き間違いじゃなかった。
(私の本性を知ったからには消えてもらいます的なやつかな…)
「それはまた唐突に…何で?」
「それは…雛さんのことを知りたいからですかね」
顔をピンク色に染めながらそんなことを言ってきた。正直ものすごく警戒している。
「まさか樹海にでも行くつもりじゃないだろうな…」
「なんでそうなるんですか!」
また怒ってしまった。
「いや、ごめん。俺消されるのかと思って」
「なんで私があなたを消そうとするんですか…」
なんか今日俺おかしい。普段ならこんなに人と話すことなく簡潔に話を済ませて帰るのだが、宵宮相手だと思ったことが言葉に出てしまう。
「とは言ってもまだ数回しか話したことないですし、二人きりだときっと気まずいのでお互いに一人ずつ友達を連れてきませんか?」
「まだ行くとは言ってないけど…」
「お願いします。あなたなら私をわかってくれると思っています。だからあなたと少し仲良くなりたいと思ったんです」
俺に何を期待しているんだろうか。大した特徴もなく学校でも一人でいるような奴に…。
「分かった。ただ俺は安易に人を信用しないと決めている。その点はわかっておいてくれ。それにお前はもっと人を疑うことをした方がいい」
「本当ですか!ありがとうございます」
(はぁ、厄介なことになってしまった。しっかしこんな綺麗な子とどこか行くなんてことになるとはな。)
勢いに押されて了承してしまったが、宵宮が何を考えているのかが全くわからない。
「あの…連絡先交換しませんか?日程とか話すのに知っていた方が便利かなと思いまして」
「まあ、いいけど」
よく知らないし信頼をおいていない人に連絡先を教えるのに抵抗があったのだが、どこかに行くというのを了承してしまった以上仕方のないことなのだろう。
そして俺のスマホに宵宮小夜の4文字が追加された。
赤坂 秋
雛 友利
雛 修造
宵宮 小夜
俺史上4個目の連絡先だ。
(そういや秋、元気かな…)
赤坂 秋。彼は俺が唯一信頼をおいていて、仲良くしていた友達だ。一年くらい連絡を取っていないがどうしているのだろうか。俺と全く性格が逆な彼だがとても仲がいい。
(後で連絡してみよ…)
「雛さん、聞いてます?」
全く別のことを考えていたら不審がった目をした宵宮の顔が目の前にあった。
「すまん。別のこと考えてた」
「まあ、私が勝手に呼び出して私が勝手に話を進めているので何も言えませんが話は聞いてほしいです」
そう言って頬を膨らませる宵宮を見て不思議と口角が上がった。
「悪かったよ。こんなところでずっと話しているのもアレだし、時間も時間だから親御さん心配するだろ。連絡先交換したんだしそっちで話さないか?」
「そうですね…もう遅いですし」
「送って行こうか?」
そう尋ねると宵宮は首を横に振った。
「わざわざ来てもらったのに送ってもらうのは申し訳ないので大丈夫です。それにここから十分かからないですし。お気遣いありがとうございます。やっぱり優しいんですね。ハンカチありがとうございました。パーカーは忘れてきちゃったので今度お家に持って行きます。ではおやすみなさい」
「わかった。おやすみ」
そうして俺たちは別れた。
(人生何があるかわかったもんじゃないな…。しかし、俺が出会って間もない人と出かけることを了承するなんて…どうかしてるな)
本当にどうかしている。あの日、絶対に人は安易に信用しないと決めたのに宵宮と話していると何故か落ち着いてしまう。それにしても宵宮が何を考えているのか全くわからない。
そんなことを考えながら俺は帰路を辿った。
ここまで読んでいただきありがとうございました。本文に出てきた雛 友利と雛 修造は藤花くんの祖父母にあたる方です。小夜と出かける約束をした藤花くんですが友達、どうするんでしょうか。次回には新キャラが登場する予定です。それではまた。