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衝撃


「ほわぁ~……見た事ない物が沢山ですねぇ~……」



 小動物みたいに縮こまってキョロキョロと家を見回すミシェルさんは、歳相応で実に可愛らしい。

 

 お茶を一杯と、少しの時間で落ち着きを取り戻したので、一度外に出てお馬さんのお世話をして……再び家に入り、今に至る。



「この世界の文化と、そんな違います?」



「えぇ……そうですね~。ここまで機能的な――――す、すみません! 不躾にキョロキョロと……!!」



「はは、構いませんよ」



 僕が見ているのに気付いた彼女は、頬を染めて頭を下げるものだから、思わず笑ってしまった。


 なんだろう、暫く一人だったから……些細な事でも凄く楽しい。



「と、いうより……一人で男の家に上がるの、流石に不用心では?」



「え? あー……兄から何も聞いていませんか?」



「えぇ。急いで直ぐに帰られましたから。自己紹介程度しか」



 僕の言葉に頭を抱えるミシェルさん。

 心做しか、さっきより顔が赤い。



「本っ当に兄が失礼を……!! 恐らく、渡された封書に、詳細が……!!」



 なるほど、恥じらいか。

 丁度リビングに戻ってきたし、早速アレックスからのお手紙読もうかね。



「そちらにお座り下さい。アレックスからの封書、頂いても?」



 椅子を引いてミシェルさんに座って貰い、紅茶と、お茶菓子にクッキーやマドレーヌをインベントリから出して目の前に置き、僕も対面に座る。



「ご丁寧にありがとうございますっ! こちらが封書です」



 差し出されたのは純白の封筒と……一冊の本。



「ありがとうございます、読ませて貰いますね。それとこの本は……?」



「其方は……その、兄の友人が是非と押し付けてきた、建国王の手記の写しでして……」



 なんとも歯切れの悪い。翻訳して欲しいのかな?



「わかりました。手紙の後、目を通しますね。暫く時間がかかると思うので……宜しかったら召し上がって下さい」



「申し訳ありません……! ありがとうございます」



 紅茶とお茶菓子を指したら頷いた彼女を見て、僕も手元の手紙を読み始める。


 翻訳魔法は字も翻訳してくれるみたいで、字が読める……楽で良いね。



 【親愛なる我が友へ


 友に送る手紙に時候の挨拶なんて要らないよね?


 だから早速本題に入ろうと思う。


 先日は本当に感謝している。貴方の優しさと寛大さに。


 まともに会話もせず去った不躾をどうか許して欲しい。


 だが、貴方のお陰で上手くいきそうだ。本当にありがとう。


 そんな貴方に、是非礼をしたい。


 向かわせた馬車でどうか我がカムヤ王国の王都の我が家へ、来ては貰えないだろうか。

 

 叶うなら自分の足で迎えに行きたいのだが、世間がそうさせてくれない事を申し訳無く思う。


 また君に会えるのを心待ちにしている。


 共に向かわせた、最愛の妹ミシェル。


 少々武闘派だが……気立ても良く、美しい。

 

 君にピッタリだと思う。良ければ前向きに検討して欲しい。


 それと、護衛兼話し相手に我が友を同行させた。


 いや……同行を願われて、止められなかった。

 

 彼はギド。建国王を研究する学者でもある。是非、貴方の世界の話を聞かせてやってくれ。


 追伸


 我が家の女は強い。


 従者でさえも。


 圧に耐えられなかった不甲斐ない私を許してくれ。


 君が良かったら……その、二人の事も気にかけてくれ】


 

 アレックス……弱すぎひん?


 色々気になるけど……ひょっとして、アイツ僕の『友情より愛情だろ?』の言葉を誤解してないかな? たぶんそうだよね?

 僕の話じゃなくて君の話だよ。

 

 それともう一つ……。



 「あの、手紙に馬車って書いてあるんですけど……」



「あっ……えと、つ、露払いですっ!!」



 一人で突っ走ってきたんか!?

 


「それ……貴方の仕事じゃないでしょうよ」



「うぅ……待ち切れなくてつい……」



 ひょっとして……かなりお転婆だな?



「ま……気にしないでおきますね。手記の方、読ませて貰います」



 僕の言葉にホッと息を吐くミシェルさん。

 まぁいいや……手記を読もう。


 今の僕の興味は、彼女のお転婆具合より……この手記だ。


 正直……アレックスの手紙より気になるし、今も手が震える。

 

 凄く……ドキドキしている。


 誰かの努力の跡……それは、とても尊いと思うから。


 誰かが書き写した、一冊の綺麗な本。


 本物の手記は……どれだけ草臥れて、味が出ているのだろうか。


 不意に目に止まった、表紙に書かれた一文。


 その文字を見て――――僕は、本を落としそうになった。


 これは、武者震いの震えじゃない……紛れもない、ショックからくる震え。

 


【カムヤ王国建立記――――広川優】



 その、著書の名前に……酷く動揺した。


 ――――だって、彼の誕生日ケーキのプレートを書いていたのは、僕だったから。


 僕が店に務め始める前から、ずっと常連だった人。


 偶にスーツ姿で来店されて、嬉しそうに持って帰る……普通のおじさん。


 余り愛想の良くない人だったけど、誕生日だけは心做しか笑顔で、嬉しそうにケーキを受け取っていた……彼。


 そして……皆の口振りから思うに、その人はもう死んでいるって事。


 もう、昔の人……だって事。


 何故、同じ時代に生きた僕達が別の時間にこの世界に来たのか――――そんな事は、どうだって良い。


 ただ……顔見知りが同じ境遇だった事に、酷く困惑した。

 そしてもう……会えない事実に、酷く動揺した。


 ――――心の何処かで気付いていて、だけど気付かないフリをしていた事。


 普通の僕が、何故この世界に来たのか。


 それは……建国王、広川さんとの繋がりがあったからだとすれば、納得が出来る。


 女神様も……わかってて、連れてきたんだろ……?


 僕がお店で作ったお菓子で、初めて美味しいと笑ってくれた人。


 あの人の誕生日ケーキを作りたい、と初めて自分の意見を言った事。


 客と店員。

 

 言葉では繋がらなかったけど――――お菓子という商品で、どこか繋がっていると思っていた相手。


 この世界に飛ばされて、国を興した同郷。


 それが……いつも窓際で、何も無い外を見ながら、甘いお菓子を苦いコーヒーで流し込み、小さく幸せそうな顔をしていた、広川さんだったなんて……。


 震える手で、手記を捲っていく。


 知り合いの日記を見る……凄く悪い気がするけど、止まらない僕の手。

 

 突然この世界に来た事。


 困惑しながらも、足掻き……苦しみ、それでも生きようと仲間を集めた事。


 いつの間にか使えた魔法で……世界に革新を起こした事。


 それから……死を悟るその日までの事。


 全てが……彼の生き様の全てが、ここに書いてあった。


 この、何故か勝手に流れる涙が……手記に落ちないようにするのが大変だ。



「ル、ルイ様……?」



 今は、まだ……言葉を放てない。


 続きを、続きを読まなきゃ……。


 日本に残してきた妻子を想う気持ち。

 

 そして……この世界でもまた、人を愛してしまった葛藤。


 全て生々しくて……全部、僕の心に刺さる重み。


 後半のページは空白だった。

 

 書き写せなかったのか、書かれていないのか……僕にはわからない。


 パラパラと白紙のページを進み……最後の一ページ。

 一文書かれている事に気付いて、ページを捲る手が止まる。


 

 また日本に戻りたい事。

 今度は恥ずかしがらずに、妻子を連れてお菓子を食べたかった……と。

 

 そう書かれていた。



「そっかぁ……」

 


 きっと廣川さんは、恥ずかしくて一緒に行けなかったんだろうな。

 

 いつも閉店間際、人気の少ない景色の悪い窓際でひっそりと楽しんでいたから。


 自分の涙の理由がわからない。


 同情か、嫉妬か……恐怖か。


 だけど――――その黒ずんだ心に一つ、明かりがある事は確か。


 人が死ぬその時に、またウチのお店で作ったお菓子を食べたい……そう思われていた事に、心が救われた。


 僕が歩んだ人生は、決して間違いじゃなかったんだって。


 僕が嫌になりながら、数千と作ってたお菓子。


 でも、召し上がるお客様にとっては一つのお菓子。


 とても大切な事を忘れていた。


 そしてそれをまた思い出す事が出来た。



 でも……あの店には戻れない。


 だって……こんなにも、遠い所に来てしまってから。


 やり直せない。進むしか……ない。

 

 だから……ここで、この地で……人と人の繋がりを作りたい。


 ――――広川さんも、こんな気持ちだったのだろうか。


 どんな想いで、この地に骨を埋めたのだろうか。


 若い僕には……まだわからない。



「ありがとう……ございます。この手記を読めて良かった」



 気付けば涙は止まっていて、声も……心も、張りのある感じ。



「良かったです~。突然泣かれましたから、てっきり良くない事が書いてあるのかと思いました~……」



 ミシェルさんからホッと安堵の溜息が一つ。

 

 申し訳無い事したなぁ。



「この内容を、後からくるアレックスの友人にお伝えすれば?」



 国は興せないけど……お菓子文化なら、興せる。

 

 程度は違えど、やるかやらないかが大事なんだ。



「差し支えなければそうして貰えると――――あっ」



 微笑みながらティーカップを持つミシェルさんが、不意にカップの中を覗く。


 空っぽだったかな? 良く見ればお茶請けも綺麗に食べて貰えている。


 この世界の人の口に合ったのなら、良かった。


 ――――あっ、丁度良いモニターいるじゃないか。


 僕じゃ手に入らない……異世界人の味覚を持つ彼女が。



「気付かなくてすみません、お代わりをどうぞ」



 そっとティーポットを差し出し促せば、カップを寄せてくれるので……新しい紅茶を注ぐ。



「わわっ、すみません! 貰ってばかりで――――」



 ――――かかったなァ!!


 流石広川さん、日本人のワビサビをちゃんと伝統してるね!!



「じゃ、じゃちょっと手伝って貰えません!? 食べた感想を知りたくてっ!!」



「えっ……? えっ……?」



 ペンと紙を創り出してテーブルの上に。


 さぁ……微調整の時間だ。

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