12話
ミスリル。それは白銀色の鋼とも呼ばれるまことの銀。
銀が採取出来る鉱山の最奥でしか採取出来ない希少な鉱石。
定期メンテナンス明けはこのミスリルを求めて多くの者が採取ポイントの場所取りのために銀鉱山に向かって行く。
「個人で場所取りに行くヤツはほぼいない。ボクが競う相手はクランだ」
奥に行けば行くほど、採取出来る回数が増えるため、最奥にいるのはいつも大手のクラン。
ボクはノーデスの称号と生産マスターの称号を持っているから、最奥まで行って最高品質のミスリルを30個採取しようと思えば出来るかもしれない。
だがそこまで目立つ事をすれば、当然リスクもある。
ノーデスの称号や生産マスターの称号が知られてない今のボクなら先行者利益でお金を稼ぐ事は簡単に出来るから、リスクを背負う必要はない。
ひっそりと欲張らずに少しだけ採取して帰ればいいだけ。
未加工品で持てる上限の3個のミスリルを未加工品の状態で持ち帰る。
最奥まで急いで行って、見つかる前に3個ミスリルを採取して、帰還アイテムを使ってチカクの街に戻ってくる。
これがボクの考えたプランだ。
そのプランを成功させるために必要不可欠な物がある。
サーベルウルフの毛皮と銀を加工して、銀狼のマントを作る事。
銀狼のマントは隠遁の効果があるため、人や敵に気付かれにくくなる。
大手クランの採取チームの人は高品質の銀狼のマントを皆装備している。
ボクもこれを装備していれば、少なくとも変に思われる事はない。
銀狼のマントをこれから作っていれば、採取ポイントの下見に行く事は出来ないが、先頭集団に付いていけば採取ポイントには少なくとも入る事は出来るだろう。
「結局はまた鍛冶作業の開始だな」
さてと、作業開始だといきたいところだが、その前にやる事がある。
銀狼のマントを作る際の工程の確認だ。
サーベルウルフの毛皮を魔力水で洗う。
魔力水で洗う事によって、表面の余分な毛や内側の脂分がなくなる。
その状態にしたら、表面に銀を塗装する。
これで銀狼のマントの完成。
「よし、作業工程の確認はオッケーだ」
「一点集中スキル・オン」
「加工作業・開始」
鍛冶場にある魔力水が入っている器から桶に魔力水とサーベルウルフの毛皮をいれて、揉んでいく。
こうする事で皮を革に変えるなめしを出来るのだ。
「実際のなめし工程はもっと複雑で大変だし時間もかかる。ゲームではここまでは凝らなかったんだろうな」
しばらく揉んでいると、皮についていた毛や脂分もなくなり、よく見る革の状態になった。
「次はこの革に銀を塗装する。革の表面は銀面と言われているが、そこに銀を塗装するなんてシャレが効いてるね」
革を広げて、溶けた銀が固まらない内に塗って行く。
「そういえば、この作業は生産マスターの輝く点は見えないな。という事は品質アップは期待出来ないだろう」
「よし、完成だ」
「加工作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
フゥー、連続の作業はさすがに疲れたな。
「そして品質は・・・」
銀狼のマント、70%の高品質。
「まぁ、こんなもんだろ。って言っても高品質の銀狼のマントなんて、大手のクランくらいしか持っていない。高品質の銀狼のマントを作れたから、ミスリルの採取ポイント争いに参加してみようと思ったって言っておけば、トラブルにもなりにくいだろう」
寝て起きたら、定期メンテナンスも終わるだろう。
「今日はゆっくり休もう。明日も大変な1日になりそうだ」
ボクは現実世界に戻った。




