針の筵に一輪の花 【月夜譚No.224】
視認できないのに煩わしい――まるで、蜘蛛の糸のようだ。いや、蜘蛛の糸はまだ頑張れば見えるから、全く見えないというのはより質が悪いだろう。
彼は教室の後ろの席で机に突っ伏して、早く休み時間が終わることを祈った。しかしこういったことは、願えば願うほど恐ろしく時の進みが遅く感じるものだ。そろそろ良いかと顔を上げても、まだ一分も経っていなかったりする。
全身で視線を感じる。クラスの連中だけでなく、他クラスの生徒も廊下に見にきているようだ。それはもう痛いと言っていいほどのもので、息をするのも苦しくなりそうである。
どうしてこうなったのか、詳しいことは省くが、まあ言ってしまえば彼自身のせいなのだ。正義と思ってしたことが実はとんでもないことだった、なんて、物語の中だけの話だと思っていた。
机に溜め息を吹きかける。早退してしまおうかと考え始めたその時、彼の肩が叩かれた。
皆、話しかけるどころか近づきもしてこなかったというのに、どういう風の吹き回しだろう。
重たい首を持ち上げた彼は、そこにいた人物に目を丸くした。
「ねえ、噂になってるのって、君のことだよね?」
周囲を明るくする笑顔――彼女は、一つ上の学年の〝マドンナ〟と呼ばれる存在だった。