第二章 用務員、仕事が増える(1)
第二章だ〜(*´꒳`*)
あの悍ましい事件……いや、決闘が終わった次の日。
俺は学園長に呼び出しを受けていた。
学園長はこの世に来て何度か遠巻きに見ることがあったため、緊張はしないと思っていた。だが、いざ学長室前まで来ると「あのゲームのキャラが……」というゲーマー独特の緊張が生まれてしまう。
清掃も禁止されている学長室、ゲーム内でも本当にイベントシーンで一瞬見れるかどうかの場所へ俺はノックをして足を踏み入れた。
「よく来たね、まぁ適当にかけてくれるかい?」
優しそうな口調なのに、どこか威厳と重みを感じる声。
翡翠の長髪と猫や蛇のような印象を受ける黄金色の瞳。若々しく整いすぎている容姿。
そして何より、長細い耳。
それだけでSLというゲームに詳しくないものでもエルフだと理解出来るだろう。
セフィロト学園の創始者であり、学園長、ニコラス・エルロード。
彼が俺を値踏みするような目で見ていた。
俺は居た堪れない気持ちになりつつも、しかしなるべく冷静にニコラスに尋ねる。
「今日はどのような御用件で……?」
「それは勿論、キミが教師になりたいという希望が叶うかどうか、だよ」
あの、僕教師になりたいなんて一言も言ってないです。と言いたいが、言えそうな雰囲気ではない。絶対この笑顔の裏に何か怖いものを隠しているタイプの男だ。
ゲーム発売当時も大半のプレイヤーにネットで黒幕っぽい、黒幕っぽい、と言われた奴である。実際は別の黒幕がいたためミスリードのためのキャラだったわけだが、それでも一度染み付いた感情は簡単には拭えない。
レイラ、ミカエラ、ガイア。
彼ら彼女らも三者三様で怖いが、この男の怖さは身体の大切な部位を常に握られているような錯覚を覚えさせる。
そんな男が重い口を開く。
「まぁ、要望は嘘だって知ってるんだけどね」
「じゃあ何で戦わせたの!?」
前言撤回。
ただの愉快犯だった。
「いやー、レイラ先生の魔法を見て皆喜んでくれたり、士気が上がるかなーなんて思ってたんだよねぇ……だけど、それを全部キミが打ち砕いた訳だ」
「うぐ……」
実際問題俺は被害者でしかないのだが、それでも何故か責められた気分だ。いや、やっぱり俺悪くないよな? なんでそんなお前悪いぞって感じの言い方するの? 年甲斐もなく泣いちゃいそうだ。
「だが、僕からすれば掘り出し物を拾えたので問題無しなわけなんだけど……もう一回改めて聞くよ? 教師になりたいかい?」
「なりたくないです」
「即答だね?」
ノータイムで答えるとノータイムでツッコミが返ってくる。
いや、しょうがないだろう。
何度も言うが俺はただ戦争に巻き込まれて死にたくないだけだ。ならば面倒なことは万事無視する。これが答えだろう。
「まぁ分かったよ。キミはウチの用務員だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ありがとうございます」
面倒な奴に目をつけられたなぁ、と思いつつも俺は顔には出さないように努める。ここで下手に誤魔化しても仕方がないので嫌なことは嫌とはっきり言うのが大切だ。
兎にも角にも面倒臭いやつナンバーワンの彼はこうして俺を用務員として置く、としっかりと言ってくれた。何か裏がある気もするが、それはゲームの時からずっとそうだ。
今はこれで十分だろう。
そんなことを思っているとニコラスはわざとらしく顎を触って「うーん」と唸った。
「だけど、勝負でキミが勝ったのは学園全体周知の事実。これはどうしたものかなぁ……」
「で、ですね……」
嫌な予感がする。
「キミは用務員になりたい、けど強いものを野放しにするわけにはいかない……分かるよね?」
「そう、ですね」
予感は正解だった。
この人に会って既に二度目になってしまうが前言撤回だ。
何かやらせる気満々だぞコイツ。
「という訳でフラン用務員くん。今日からキミは森の警備担当に任命するね!」
「嫌です」
「決定です」
「嫌です!!!!!」
森の警備担当。
恐らく隣接している森の話をしているのだろうが、具体的な内容は分からない。
だがそれでもはっきりと言える。
絶対やりたくない。
十中八九面倒臭いことだ。
戦闘系の面倒臭い奴だろう。そんなものはやりたくない!!
俺が全力で首をブンブン振るうの見てニコラスは大きくため息をつく。
「警備兵と言ってもただ夕方に巡回するだけの役割なのになぁ。そっかぁ、そんなにやりたくないかぁ……じゃあレイラ先生のとこの副担任が妥当かなぁ」
「森の警備担当、喜んでやらせていただきます」
「うむ、よろしい」
即答した。
仕事が増えるのは嫌だし、面倒だとは思う。だが、レイラ先生の代わりならば百歩譲っても、副担任は絶対に嫌だ。
あの人の下について働くのはゲームファンとして嬉しい限りではあるが、今の俺が副担任になったら間違いなく生徒からは好奇の目、担任からは殺意の目の毎日だろう。
そんな生活耐えられない。
だが裏を返せばニコラス学園長は俺を気遣ったのかもしれない。
優秀な人材を放置しておくのは彼自身や負けたレイラの面目を潰すことになり、また俺にもやっかみだとかもっと面倒な問題が降りかかる可能性がある。
それを警備という小さな仕事一つで手を打ってくれると彼は言っているのだ。
感謝するべきかもしれない。
「よし、じゃあ早速今日から警備担当のレイラ先生と一緒に夕方森に行ってくださいね」
「え」
今、彼は何と言ったのだろうか。
耳がおかしくなった可能性もあるので俺は再度聞き直す。
「すみません、もう一度お願いします」
「レイラ先生と行ってくださいね?」
本日三度目でしつこいと思うだろうが前言撤回だ。
どうやら、嵌められたようだった。
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