第一章 最強の用務員爆誕(4)
「あの〜先生? やっぱりやめませんかー?」
「やる必要がないとでも言いたいのかしらァァァァァ?」
「いや、そういう意味でなく」
本当にこれが人気キャラだったのか? と疑問が生まれるほどの鬼の形相で彼女は自身の髪と同じ赤色の杖を構える。
もはや話し合いは通じないようだ。モンスターか何かになってしまったと諦めよう。
「とにかく怪我させないようにしなきゃだな……」
そう呟き、俺はことの顛末を思い出していた。
*
「というわけでレイラ先生とフラン先生の担任の交換を申請してきました」
「は?」
入学式から一週間と少し、俺がいつもの日課の校舎清掃をしていると、銀髪の美少女が凛とした態度でそんなことを言ってきた。
視線を横にずらすとガイアがおり、彼は確かに先日俺のステータスを見破った張本人であり納得できる。
だが何故ミカエラまでもがこの場にいてそんなことを言うのだろうと疑問が生まれる。
「どうしてミカエラ様まで?」
「先生? ここは各国から人種、身分関係なく集まるセフィロト学園。他国の姫であろうと敬称は不要です」
それでも流石に姫様に敬語を使わないのはちょっとなー、と内心思っていると彼女は肯定と取ったのか話を続けた。
「私は強い人に教わりたいんです。だから学園長に提案してきました」
「そこに至る経緯が気になるんだが……」
俺自身の実力を見る機会は勿論ないし、現状出会って数日のガイアの妄言を信じるというのもありえないだろう。いや、もしかしたらありえるかもしれない。
ゲームでも彼女は、平民でありながらも戦闘センスのあるガイアを評価していた。学園での信頼関係があるからこそ作中で第三部、第四部と話が進んでいくのだ。
ガイアの発言をこの時点では鵜呑みにしないとしても、考察の余地はあると思うのかもしれない。
だが、そこの二人が仲良くなったとしてもそんな提案が通るわけがないだろう。
俺は姫様という肩書きに驚いたが、うちのトップ層は学園の理念である「平等性」に煩いはずだ。
「そもそも学園長が許すわけないだろう?」
「はい、これ正式な文章です」
「まじじゃん……」
渡された羊皮紙にはしっかりとセフィロト学園の学園長の名が書いてあった。十秒前になんか、したり顔で考えた俺が恥ずかしい。
「ん? てか待てよ、これ!! レイラ教諭とフラン用務員の決闘を許可する!?!?」
「はい。快く学園長は引き受けてくださいましたが、強さの証明を出来ねば却下すると仰られましたので……」
しかも文章をもっと読んでみれば全校生徒の前で行われるイベントのような扱いになっている。一般人である俺とレイラの戦闘力差を理解しているであろう学園長が何故そんなものを通してしまったのか。
「というか、普通に考えて俺の同意もなしにそんなこと決めるなよ……」
「提案すると楽しそうですねって言ってましたよ?」
「決闘の提案もお前かよ!!」
この姫様にもう敬語を使うことがない、そう決まった瞬間である。
俺がツッコミに疲れて肩で息をすると、タイミングを見計らったかのように後方に居た青髪が動いた。
「でもアンタ、負けないだろ」
「……ガイアさん? 前のホームルームの時にも思ったけど、どうしてそう言えるんだ?」
ゲームの主人公、勘がいい、そうだとしてもここまで俺を持ち上げる理由が分からない。
それだけでは説明出来ない裏付けが彼の中にあるのだろうか。
「一つはレイラ先生の腕を折ったこと」
「え、先生……女性に暴行ですか……?」
「言い方が悪いよなぁ!?」
冤罪だ! と叫ぶように言うとミカエラは「ふふっ」と口を上品に抑えて笑う。こいつ、知ってたな。
「……でもよく見てたな。あの時は確かミカエラさんの挨拶の時間だったはずだ」
「まぁ姫の挨拶とか興味なかったんで」
「それ酷くないかしら?」
ジト目になって姫様がガイアを睨む。しかし、ゲームファンからするとご褒美だが朴念仁主人公にはノーダメージらしく彼は会話を続けた。
「まぁ、とにかくアレを見たらステータスが高いだろうな、と想像付くのは容易だろ?」
俺はつい黙ってしまう。
図星ではある。
レイラの腕が折れたのは間違いなく攻撃力と防御力の差から起こるものであり、魔法職といえど中位職の彼女を圧倒する防御力は普通はありえない。
それこそ防御特化の上位職でもない限り。
だが、それだけではないのだ。
俺の秘密はそれだけでは足りない。
「先生。一週間後、決闘楽しみにしますわね」
「……手加減だなんてつまらないこと、学園長や俺の前でするなよ?」
作中一の人気キャラと主人公が次々にそう言い放ち踵を返す。
すっごいかっこいい二人へ言ってあげたい。ありえない秘密の答えを。打ち明けられない俺の秘密を。
……俺世界一強いけど、実戦経験ゼロだからな? と。
無論そんなことは言えずに時は無情にも流れるのであった。
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