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第一章 最強の用務員爆誕(3)

続きが書けたことに自分のことながら驚いてます。

 俺がゲーム世界に転移して一週間。

 今日は待ち望んだ入学式だ。


 正直待ち望んだと形容したが、プラスの意味合いは少ない。


 俺からすれば入学者にストーリーキャラがいるかどうかを確認し、戦争までの大まかな時間を逆算するためだけの日なのだ。


「主人公はいるかなぁ……あ痛っ」


「キョロキョロしない! あんたが田舎者みたいなことすると私も田舎者扱いされるんだから!」


 入学式で周りを見ていた俺を暴力で宥める赤髪美女のレイラ。作中であまり主人公との絡みが少なかったので気にしなかったが、割と面倒見がいい性格らしい。この一週間で嫌というほどそれを理解させられた。


「これから生徒代表の挨拶よ。アンタより立派に演説するから少しでも見習ったらどうかしら?」


「生徒代表……? あ……」


 学園長に呼ばれて壇上に向かう美少女。銀髪の彼女は間違いない。作中一番の人気キャラで主人公と同年代の女の子でありながら隣国のお姫様、ミカエラだ。


「ってことはやっぱり主人公が入学してくる年代か……戦争までもう少し、大丈夫だよな……?」


「だから静かにしなさいよ!」


 ポキン、と今度は軽く殴ったようで小気味いい音がした。


「ぽきん……?」


「……………………フラン、ひとついいかしら?」


「え? あ、はい」


 先程まで私語厳禁と言わんばかりのレイラが俺を呼ぶ。見れば俺を殴った左手を抑えているようだが……。


「折れたわ……」


「え……」


 俺の防御力に負けたようだった。






「えっと……担任のレイラ先生が怪我をしたので用務員の私、フランが本日のホームルームを担当します」


 緊張してカラカラな喉を無理やり唾で潤して告げる。

 代わりの先生がおらず俺がレイラの担当クラスのホームルームをすることになったのだが、本気で嫌だ。俺だって一週間前にここに現れた新参者である。

 それに前世じゃ普通の高校生。彼らと同年代だったのに先生の代わりなんて荷が重すぎる。


「せんせー、せんせーは彼女いますかー?」


 そしてこのあるあるすぎる質問。もはやため息が出そうだ。


「えっと、私は用務員なので先生ではありませんし、彼女は今までいたことありません。悲しい気持ちになるのでこの質問を次した方にはレイラ先生に告げ口しておきます」


 答えれば笑う学生たち。

 いや、ほんと陽キャ集団って感じで無理である。こちとらゲーム大好きクラスの陰キャくんだぞ。メンタル削るなよ。


 だが何もかも悪かったわけでもない。

 ミカエラの姿を見て今の時代を確信したが、もっと革新に迫る人物をこの目で見ることができたのだから。


 ガイア。この作品の主人公で、青髪に整った顔立ちに無口なキャラクター性をもった男。

 彼を確認出来たのは怪我の功名……この場合レイラの怪我だが。


「と、まぁ今紹介したような感じで教室が並んでます。皆さんはこの学園で三年間魔法に武術、色々なものを学ぶとは思いますが無理をしない程度に頑張ってくださいね? はい、それじゃあこれでホームルーム終わりますけど最後に何か質問ありますか?」


 業務連絡のように諸連絡を終わらせ、俺が最後の確認と皆に告げる。大抵このタイミングで手を挙げるやつはいないので実質終了か。


「はい、先生」


「先生じゃないけど、どうぞ」


 質問する奴おるんかぁ〜。と思いつつも俺はその生徒に発言を許す。というか、今の声聞き覚えがあるな、と思って顔を上げると青髪の少年がそこにいた。


「先生、他の人より強いよな? 何で用務員なんだ?」


 主人公は真っ直ぐな瞳でこちら見て、敬語もなしにそう告げる。すると同時に彼の周りで小さな笑いが起きた。

 それもそうだろう。

 魔術や武術のプロフェッショナルが揃い、各国の才能ある若者に戦闘を教えるセフィロト学園。

 そこにいる用務員が先生よりも強い、というのは流石にジョークにしても出来が悪い。


 だが、彼の考えは間違っていないというのが恐ろしい話だ。


 俺は一週間前に地下室でのチュートリアルを終えた。その結果ステータスだけで言えば間違いなくこの時点で最強と呼べるレベルになっている。

 それを低レベル帯で見破る主人公。やはりその称号は伊達じゃないということだ。


「…………なんのことです?」


「とぼけても無駄だ。明らかにあんた強い……いや、バケモノだ」


 普段無口な主人公が鬼気迫る顔でそんなことを告げる。原作ファンからしたら歓喜する光景だが、俺は自分の身を守るために再度首を横に振るう。


「何度も言いますが意味が分かりません。皆さんはしっかりと強い魔法使い、強い剣士に三年間教えてもらってくださいね。それでは解散」


 俺は何とか誤魔化し、教室から出て行った。


 俺が強いことがバレれば間違いなく戦争に駆り出されるだろう。戦争から生きて逃げるために力をつけたというのにそれでは本末転倒だ。


 だから俺はこうやって厄介なことはみんなに任せて隠居生活を送るつもりである。


「送るつもり、だったんだけどなぁ……」


 俺が呟く声は歓声と目の前にいる赤髪の美女の怒声に掻き消された。


「ふらぁぁぁぁん!! どっちが担任に相応しいか決闘で決めるわよ!!!!!」


「ナンデコウナッタ……」


 俺とレイラの一騎打ちが今、始まる。

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