第一章 最強の用務員爆誕(2)
「腰痛ぇ……」
フランの身体は丈夫でテキパキと校庭の草刈りができたのだが、いかんせん広すぎる。
「やっと十分の一ぐらい……これ、一週間で終わるんか?」
草刈り用の鎌を持って俺は途方に暮れるしか出来なかった。
だが俺には秘策がある。
「あったあった。地下室の入り口」
小屋に入ってすぐに泥を落とし、装備を整えた俺はチュートリアルの入り口を見つけ出したのだ。
早速地下室へ入ると中は薄暗い牢屋のような石造りになっていた。
本来の使い方は生徒の懲罰房かな、などと検討をつけながら部屋を見て回ると奇妙な石板を見つける。
「これ、数字と文字が書いてるな……変な文字だけど読めるな。なになに? 其の一武器相性、其のニ得意武器……もしかしてチュートリアルの内容か?」
チュートリアルの番号やら内容などをはっきりとは覚えていないが、恐らくゲームと同じように並んでいるのだろう。
そう確信し、目的の文字を探す。
「あった! レベルアップのチュートリアル!!」
俺はすぐさまその文字を押した。
すると部屋がゴゴゴと少し揺れたと思うと、地下牢からマネキンのような謎の物体が現れる。
確か名前はダミー。
ゲームではグラフィックを適当にペタペタしただけのチュートリアル専用の敵キャラだ。
「動かない……そりゃそうか。レベルアップするだけのダミーだもんな!!!」
ダミーが動かないのを確認し、剣で斬りつける。
思ったよりも腕に負荷がかかる事なく、ダミーは簡単に真っ二つに割れた。
「………………で、レベルアップ出来たのか?」
戦闘終了BGMも勿論鳴らないし、リザルト画面もない。ゲーム通りならば上がっているのだろうが、それを確認する方法がないのだ。
「ステータスオープンとか言ったら出たり……するのかぁ」
まさかなぁ、と冗談半分で言ったというのに目の前には見知ったステータス画面が半透明に出現していた。
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名前 フラン
種族 人族
職業 用務員(下級職)
レベル Lv.2/20
体力 16/35
力 8/20
魔力 1/15
技術 4+2/20
速度 6/20
守備力 4/15
魔守 2/10
統率 3/10
幸運 7/50
武器ランク
剣D 弓E
スキル
整理整頓(技術+2)
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レベルが2になっているが、元が分からないので何とも言えない。
「てか、弱くね?」
SLでは下級職、中級職、上級職という風にクラスチェンジで上がることが出来るのだが、下級職だとしても右側の上限値が低過ぎる。
「力、技術、速度の最大値が高いってことは剣士に近いんだろうけど……それにしたって普通得意能力は30代まで行くだろ。まさか俺の得意能力幸運とか言わないよな?」
だとしたら笑ってしまう。幸運値はゲームでは回避率、必殺率に関係する数値なのだが、リアルバトルを繰り広げるであろうこの現実版SLではほぼ無意味に等しい。
「これは早急に考えないとな……いや、それよりももう一回レベルアップのチュートリアルだ!!」
俺はステータスを開いたままレベルアップの項目押し、ダミーを倒す。
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名前 フラン
種族 人族
職業 用務員(下級職)
レベル Lv.3/20 △
体力 17/35 △
力 9/20 △
魔力 1/15
技術 5+2/20 △
速度 6/20
守備力 4/15
魔守 2/10
統率 3/10
幸運 7/50
武器ランク
剣D 弓E
スキル
整理整頓(技術+2)
——
——
——
——
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「レベルが上がってる!! それに一応、ステータスも上がったよな?」
前回確認した時にはなかった謎の三角形が追加されている。恐らくこれがステータスの上がったところなのだろう。
因みに三つだけの上昇は最低限の上昇値なのであまり嬉しいとは言い難いが、それでもレベルアップが可能という事実が俺を奮い立たせる。
「よしっ!! この調子でマックスまでいくぞー!!」
その後俺はただ現れるダミーを倒し、レベルを下級職の最大値まで上げたのだった。
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名前 フラン
種族 人族
職業 用務員(下級職)
レベル Lv.20/20
体力 35/35 MAX
力 20/20 MAX
魔力 6/15
技術 19+2/20
速度 20/20 MAX
守備力 12/15
魔守 6/10
統率 4/10
幸運 21/50
武器ランク
剣C 弓E
スキル
整理整頓(技術+2)
器用貧乏(どの武器種でも使用可能となるが最大Cランクで止まる)
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体力、力、速度がカンストでその他も結構いい数値で上がってくれた。ゲーム本編でもここまで綺麗にステータスが上がってくれることはなかなかないので、今回は運が良かったのだろう。
「けどこれで終わらないのがゲーマーだ。ここからクラスチェンジするぞ!!」
本来ならばチェンジレガシー、マスターレガシー、セイクリッドレガシーというアイテムが必要なクラスチェンジ。
チェンジレガシーは今の職以外で適性があるものにクラスチェンジ。
マスター、セイクリッドはそれぞれの中位、上位職にクラスチェンジに必要な装備である。
今回はその内のチェンジレガシーを使用する。
チェンジレガシーは同じ武器種の職につけるものなので、俺の場合「剣士」や「弓兵」になれるだろう。
別にその二つの職になりたいわけではないが、職業固有のスキルが欲しい感じである。
「剣士は素早さアップと必殺率上昇、弓兵は技術と……飛び攻撃回避率、とかだったかな?」
下位職のためあまり良いスキルではないがそれでもあるだけマシだ。
俺はレベルアップではなく、クラスチェンジのチュートリアルの項目をタッチする。
するとポンっと、そこそこレアリティの高いはずのチェンジレガシーが落ちてきた。ゲーム内では一万ゴールドぐらいするのだが、こんな簡単に出るなんて。
若干呆れつつ俺はチェンジレガシーを使用する。
「ん?!」
瞬間、俺は驚きの声をあげてしまった。
項目を押し、半透明の見知ったクラスチェンジ画面が出たのは良いのだがおかしいのだ。
俺が今なれる職業は「剣士」と「弓兵」だと思っていたのだが……。
「これ、全部の職業出てないか……!?」
剣士、弓兵、魔法師、槍兵、重騎士、馬騎士、竜騎士、天馬騎士、暗黒騎士……その他、プレイアブルキャラどころか敵専用の職業まで出る始末だ。
「王族とか行商人まであるぞ……なんだよこれ…………いや、まさか!?」
俺は今手にしていた一つのスキルを見る。
「器用貧乏……全部の武器が使えるスキル……?」
注意書きでCランクまで、と書かれているがこれは破格のスキルだ。ゲームシステムを理解しているものならば驚きでは済まないレベルの。
「いや、でも確かに動画サイトにあったぞ。違法改造でフランをプレイアブルキャラにした動画……確かにアレだとフランはどの職業にもなれるキャラだって……」
改造は男心をくすぐられるが、絶対に出来ない行為だとしっかりと見なかった。
だが、今ならばその職業を全て選べるという理由が分かる。開発者め、使えないキャラだからって変な設定突っ込みやがった!
「ふふふ……こうなったらとことんやってやる!!!! 全スキル、最強ステータス取るまでチェンジレガシーでリセマラだぁ!!」
気がつくと一睡もせずにただダミーを斬り、ボタンを押すだけの作業を続けていた。
そんな俺のステータスは……
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名前 フラン
種族 人族
職業 神聖用務員(上級職)
レベル Lv.20/20
体力 150+15/150 MAX+
力 80+8/80 MAX+
魔力 65+6/65 MAX+
技術 85+8/85 MAX+
速度 80+8/80 MAX+
守備力 75+7/75 MAX+
魔守 55+5/55 MAX+
統率 30+3/30 MAX+
幸運 50+5/50 MAX+
武器ランク
剣A 弓D
スキル
器用<神聖用務員>
(どの武器種でも使用可能となるが最大Aランクで止まる)
最高神の加護<王族>
(全ステータス10%上昇)
神速剣<神剣聖>
(剣を使った際、技術%の確率で発動。通常攻撃が力/2の八連攻撃になる)
豪運の盾<神聖暗黒騎士>
(幸運%の確率で発動。敵の攻撃が0になる)
再行動<神聖天馬騎士>
(攻撃時、速度%の確率で発動。攻撃が二回攻撃になる)
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正直、やりすぎた気がする。
本編は一本道のゲームのためレベルマックスは量産出来ないし、仮に出来たとしても全クラスのめっちゃ強いスキルをこんな風に混ぜるようなキャラは出来ない。
出来て「神速剣」と「豪運の盾」の両立だが、これも俺の記憶通りならば敵の総大将が一人持っていたぐらいだ。
「俺もしかして今全世界で一番強い用務員?」
今日この日をもって、このSLの世界最強が勇者でも暗黒騎士でもなく、用務員になったのであった。
今回の更新はここまでです。
ブックマーク、高評価ありがとうございます。
こちらはエタらないように頑張ります。