愛すべき『彼』という存在
初めてリストカットをした時から、自傷行為をした時から十年間。
その十年間は本当に呪われているかのようだった。
何かに取り憑かれているかのようだった。
痛みがあると安心した。
血が流れると、安心した。
そうなってしまった事が、間違いだったのだろうか。
でも、当時の私にはそれしか選択肢が無かった。
唯一の救いで、逃げ場だったのかもしれない。
何より一番救いになったのは『彼』の存在だ。
でも『彼』には会えない。
『彼』が、全く関係ない他人だったらどれだけ良かっただろう。
ほんの一滴も血が繋がっていない人ならば。
何度そんなありもしない事を考えただろうか。
『彼』は『彼』だからこそ、私は好きになった。
他人ではない。血縁者だけれど、だからこそ。
きっと私と『彼』は、血縁者でも無い限りは出会えなかった。
『彼』がいなければ私はきっと死んでいた。
苛めにあっていたあの頃も、『彼』の存在が救いだった。
学校の人達は私をもうそういう眼で見る。
態度が変わらなかったのは『彼』だけ。
例え悪態しか付いてくれなくても良い。
月日を経て、口を聞いてくれなくなってもいい。
そのうち、私を見ることがなくなっても、それでも良いんだ。
『彼』の存在を見るだけで、私は救われた。
『彼』がそこに居るだけで私は十分救われた。
気持ち悪いと思われるかもしれない。
それでも、構わない。
『彼』に、私を救ったという意識が無くてもいい。
まあ、無いのが当たり前。
私が勝手に『彼』を恩人だと思っているだけだから。
同じ苦しみを味わった人には分かるでしょう。
他愛の無いことなんです。救いになるのは。
苛めをしない。態度を変えない。
たったそれだけのこと。
昔から知ってるから、色眼鏡で私を見ない。
流石に見てくれが変化し始めたら、ちょっと表情が変わったけれど。
仕事を始めてから数年間は集まりに参加できなくて、
久しぶりに行った時、私はストレスのお陰ですっかり別人になっていた。
肉付がかなり良くなってしまって、それはもう、『彼』のあの時の
顔は忘れられないくらい面白かった。
あんな顔が見れるなら、肉が付いてしまった事も損ではない。
何しろ『彼』は鉄火面でも被っているのでは?と思うほど表情が無い。
普段はふざけていたり、面白い事も言うみたいだけど、私の事が嫌いなので
私の前ではいつも同じ顔をしている。
私は、好きになればなるほどその人に近寄れない体質なので、『彼』と
会える時も、部屋の端と端にいる。
そうしないと私が動けなくなるので。
嬉しくて、気が狂いそうになるよ。『彼』といると。
自分は今生きているんだって、感じるんだ。全身で。
そういった色んな事から、『彼』は命の恩人。
私に生きている事を実感させてくれる唯一の人。
どれだけ他に好きな人が出来ても『彼』以上に生きてる心地を与えてくれる人は居ない。
それだけは、血の繋がりの所為か?と思うけど。