八話『マキと屋上の昼食を』
晴天の屋上に出て、程よいスペースに腰を落ちつかせた。教室や廊下と比べて人もいないため静かな場所だった。そして、隣に座ったマキと目が合う。
すぐに目線を逸らして、咳払いをしたのち手元に目をやった。
マキから渡されたお弁当を開けると、豪華な装飾が施された日本料理だった。
い、伊勢海老がある。これスズが作った弁当じゃないだろ。
「たぶん、お弁当間違えてると思う」
「そうだった? とりあえずいいから食べてみて」
「いや、こんな豪華なもん食べられないんだけど」
高級料理店に行って出てくるようなレベルだぞ。絶対高校生が昼飯に食べていいもんじゃない。
マキに返そうとしても、素早い動きで躱される。
「俺は普通のお弁当でいいよ」
「わ、私がスズのご飯食べてみたいの」
「そうか? だけど、流石にこれは豪華すぎる」
「いいから、私の手料理なんだから食べてよ!」
「わ、分かった」
マキは乱れた髪と息を荒くしていた。
そう切羽詰まったような言われ方すると、食べて欲しいんだなとは分かる。
まぁ、せっかくなら食べよう。
「いただきます」
伊勢海老を一口含むと、香ばしい香りと弾力のある触感が伝わってきた。
うまっ、マキってやっぱ料理の腕も天才なのかよ。しっかりと濃い目の味で、後味もいい。
「お、美味しいかな?」
「……好きかな、この味」
素直に感想を述べる。でも、内心はバクバクであった。
俺の好きな味だけど、味なんか楽しんでいられるか!
何で合法的にマキの手作り弁当食べられて、しかも二人っきりの状態なんて緊張する!
「好き!? す、好き……あたしも」
「えっ」
「こ、このお弁当私も好きだなー! あはは!」
マキもスズのお弁当が気に入ったらしく、上品に食べている。
なんだろう、俺の感想が嬉しかったのかな。機嫌がよく見える。
「ん? どうかした?」
「あっいや、俺の感想で喜んでのかなーって」
「……嬉しいよ、そりゃ。ずっと、この日のために勉強してきたんだなって」
「っ!!」
俺は思わず天を仰いだ。
緊張よりも先に尊さが突き抜けたのだ。
可愛すぎるだろ。
「ねぇ……私たちって許嫁よね」
「お、おう。そうだな」
「でも、まだ溝がある気がする」
「仕方ないだろ。俺たちは長いこと離れていたんだ。そう簡単には埋まらないさ」
お互いの距離感がいまいち分からない。それは今に始まったことではないのだ。俺たちが高校で一緒になった時から感じていた。
俺たちは幼馴染ではなくなったのではないか。
「……今でもさ、まだ幼馴染って認めてくれる?」
「当たり前だ。何年経っても、マキは俺の幼馴染だ……マキがいいならだけど」
おい、自分で言うと恥ずかしいぞ。
「ん……ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
なんで敬語になってんだ俺。
でも、少し嬉しかった。
マキが俺を幼馴染だと認めてくれているんだ。
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