五話『マキが勘違いをした』
短編の所です。
眠っていた俺は、休日の土曜ということもあってのんびりとしていた。
起きる時間もかなり遅いため、誰かが声を掛けない限り起きない。
些細な声が耳に届いた。
「可愛い……寝顔も好き」
なんだ? 誰か喋ってるな。
僅かに瞼を上げると、マキが居て俺の動きに気付き離れていく。
なんだ今の、夢か。
ベッドから起き上がって、ぼけーっとしていると声が聞こえる。
腰まで伸びる黒っぽい青髪にハーフアップをした美少女が、エプロン姿で立っていたのだ。
「朝よ。ご飯できてるから、早く顔洗ってきなさい」
「ん~?」
「っ!? 可愛っごほんっ。ご飯冷めちゃうから! もう……そんな可愛い顔ズルいじゃない」
ブツブツと呟いて顔を赤らめる。そっぽ向いて台所に戻っていき、しなやかに揺れる髪から柑橘系のいい香りがした。
判然としない頭を回転させて思い出した。
誰だろう、すんなりと耳に入ってきたな。
「まるでマキみたいな……声が聞こえた……えっなんで家にいるの!?」
視界が急激にクリーンになり、ベッドから飛び上がってさも当然に立っている幼馴染へ問い詰めた。
「ま、マキが俺の家にどうしているんだ」
「何言ってるの。昨日も居たでしょ?」
「まさか朝ごはんを作ってくれるとは……」
「お母様に頼まれたからよ。なに、私だと不服?」
「嬉しいけど、マキが朝から居るなんて夢か?」
「胸板……ふひっあっ! 寝癖を直してきて!」
咄嗟にマキが背を向けてしまう。
指摘を受けて近くにあった鏡を手に持つ。乱れた髪に胸板が見えているヨレヨレのパジャマ姿だった。
今、一瞬だけマキの顔がふにゃって綻んだように見えたけど気のせいか。
「ごめん」
「いいから、こっち見ないで」
あぁ、こりゃ怒ってる。
俺の馬鹿。好きでもない男のパジャマ姿なんか見たくないよな。
お目汚ししてすみません、と付け加えて洗面台へ向かった。
「夢じゃ、ないな」
歯を磨きながら、過去を思い出す。
幼少期に俺はマキと親密だった。よくある、結婚を誓うとかそういう感じの。子どもの頃というのは現実を知らないだけで、純粋だった。
そして俺の恋はそれで終わるはずだった。高校に入って、マキと再会するまでは。
「……やっぱ可愛いよなぁ。めっちゃ怖いけど」
どうにも性格が変わっているらしく、俺に鋭い視線を向けてくることが多々ある。
でも、そんなマキを俺は好きだ。怖くても、世話焼きで優しい一面がある。さらには可愛いんだ。
「告白、してみるか?」
「何してるの?」
「あっ!? 今のき、聞いてた?」
「何の話よ。まだ寝ぼけてる?」
よ、良かった。聞かれていないようだ。
適当に返事をして、鏡に向き直る。
でも、絶対断られるよなぁ。アイツは男なんて選び放題だし、俺選ぶくらいならもっとイケメンでお金持ちを選ぶか。
よし、さりげなーく聞いてみてダメだったら今の関係を続けよう。
朝食にしてはやけに気合が入っている食卓に座り、両手を合わせた。
「ど、どう? 味は」
「最高、毎日食べたいくらいだ」
「……ん。あなたの好きな濃いめの味付けで作ったもの」
「あれ、俺濃いの好きって話したっけ」
「へっ!? い、言ってた!」
「そうか」
まぁ、昨日来た時にテンパって話したかもしれない。
想い人が家に来て、ご飯まで作ってくれたら正常な思考を保てるはずないだろ。今も無理だ。
「悪いな、朝ごはん作ってもらって」
「いいの、これも幼馴染の役目だから」
「役目って、十年以上離れてたんだぞ?」
「私がしたいからするの。いいから食べて、おかわりもある」
黙々と旨いご飯を食べて、ある程度進んだ所で俺は話を切り出した。
俺のことをマキが好きかどうか知らないよりも、知りたいという欲が勝ったのだ。
「なぁ、マキ。大事な話があるんだ」
「改まってなによ。あぁ、勉強なら教えるわよ。運動も付き合ってあげる、何してほしいの?」
怒涛の魅力的な提案に、呆気を取られつつ話を切り出す。
やっぱマキは優しい。
「その――――実は、好きな奴が出来たんだ」
突如、衝撃が走る。
ゴンッという鈍い音と共にマキがテーブルに頭部を強打させていた。
綺麗に食器を交わししていたため、ダメージはマキのデコのみ。
「マキ!? 大丈夫か!?」
「……ふぅ、ええ。大丈夫よ。で! 何?」
「お、おい。なんか興奮してないか?」
「してない」
「お、おう」
赤く染まった頭部が気になっていたものの、ほ、本人がそう言うのなら、そうなんだろうと納得する。
「好きな奴が出来てさ、告白しようか悩んでるんだ」
「ひぐぅっ……誰よその女」
「な、名前は言えない」
えぇ!? 涙目でめっちゃ睨んで来る! 怖すぎるんだけど!
俺みたいなのに告白される女子の気持ち考えろってこと!?
……そうだったら、俺終わったな。
「どういう子なの?」
「えーっと、クールで世話好きで優しくて……勉強もできて健気な子なんだ」
「へぇ~、ふーん、そうなの」
「あ、あぁ! 告白したいんだけど、たぶん相手は俺のこと眼中にないし友達だとしか思ってない」
「そうでしょうね」
やっぱ、そうなのか?
俺のことなんか好きじゃないよな……分かってたじゃないか。
結局、昔は昔で今じゃないんだ。
「諦めなさい。その子はあなたには合わない」
「そっか、だよな。いやー、ありがとう。悩んでたんだ」
「ええ、それがいい」
マキは箸を置いて、テーブルから離れていく。
台所に立って、包丁を取り出すと俺に問いかけた。
「で、誰?」
「いやいやいや! 何するつもりだ!?」
「ナオトをたぶらかすなんて、とんでもない女よ。許せない」
「そんなんじゃないって! その子は俺のことなんか好きじゃないだろうし!」
「なおのこと許せない」
なんとか包丁は戻させたけど、ど、どうすればいい。
友達思いなのは変わりなくて嬉しい。でも問題を起こされると困る。
「名前は言えないんだって」
「なんで言えないの」
「は、恥ずかしいからだ」
「……じゃあ、教えて。どれくらい好きなの?」
「え、えーっと……十年以上好きだったくらいには」
ほ、本人を目の前にする滅茶苦茶恥ずかしいな!
実質愛の告白みたいなもんだぞ! ああ、何がさりげなく聞くだよ、これじゃあ伝わるだろ!
「……じゅ、十年……」
ほら、マキの様子もおかしい。やっぱり気付かれたんだ。
これで、俺とマキの関係も終わりか……だよな。俺みたいな奴には贅沢な時間だったんだ。
「十年も……私以外の女を……カハッ」
遺言のように呟き、マキが倒れる。
意識を失って倒れる様子に気付き、咄嗟に支える。
「マキ!? マキぃぃぃ!」
俺の告白がそんなにショックだったのかぁぁぁ!
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