三話『幼馴染が看病に来てくれたけど、運悪く覗いただけ』
次の日、プールから出た後に、俺はびしょ濡れで数時間居たため風邪を引いて学校を休んでいた。
昨日の事があって、テツから血涙を流されてズルいと言われる始末。
クラスの女子から邪険には扱われなかったから良かったものの、なんつうか空気が妙だった。全員ずっと俺のこと見てきたし。
「あ~、風邪ってこんな辛かったか?」
気が付けば夕方でベッドから起き上がり風呂場へと向かう。
そういや、誰か帰ってきてたな。スズか?
とりあえず風呂入らなきゃ、汗で気持ち悪いんだ。
階段を下りて、お風呂場のドアを開けると人が居た。
「……へっ」
タオルに身を包む、美少女が居た。
湯で濡れた髪は青黒く艶があり、シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。腰のラインがはっきりと見え、太ももから水滴が落ちていった。
着替え置き場にはしっかりと下着もある。
「マキッ!?」
「……ん」
秒でドアを閉じ、背もたれにして座った。
マキが居たマキが居た! お、落ち着け俺。
つーか、これラッキースケベって奴じゃん!
このあと『キャー』って言われてパトカー呼ばれる奴だよ! 何とかしねえと。
「……キャー」
やる気のない叫び声が耳に届く。
逆に怖えよ、もっとやる気出してくれ。
とりあえず弁明だな、よし。
「マキ、これは不慮の事故という奴だ。シャワーを浴びようとしただけで、決してマキの裸を覗こうとか、そういう魂胆はない。その証拠に何も見てないぞ」
ようやく再会した幼馴染にセクハラして、嫌われるとか最悪だ。
ええい、今はこの事実を何とかしよう。それにもし、妹にこのことがバレたら……明日からお兄ちゃんキモイって言われるかもしれない。何がなんでも隠さねば!
「……ん。本当に何も見てないの?」
「ああ見てない」
「ナオトはなんの下着が好き?」
「俺か? エレガントな感じかなぁ。青色のパンツでもいいと思うけど、マキは美人だしスタイルもいいからもっとこう、派手な感じもありな気がする」
「ふーん、見たんだ」
オーマイガー。誘導尋問は聞いておりません。
必死に言い訳を考えても思いつかず、とりあえず口を動かして時間稼ぎをするんだ。
「待て待て待て! 青色のパンツでも似合ってるから!」
「お、大声で言わないでよ」
「青色のパンツでも似合ってます……」
「小声でも言うな!」
そういうことではないらしい。裸を見られたことに対する女子の怒りとは大抵グーパンがお決まりだと思っていたけど、マキは違う。
俺に危害を加えることは何があっても絶対にしない。それが優しいから余計に罪悪感が半端じゃないんだ。
「俺が悪かった。ちゃんと罪を償うよ」
「どうやって……?」
「もう一度、見せてくれないか」
「……見たいの?」
大真面目に扉の前に立ち、堂々と告げる。
俺は真面目だ。邪な気持ちで言ってるんじゃない。
「罪と罪で相殺すればチャラだ! 算数でもマイナスとマイナスはプラスになるって習っただろ。そういうこと」
「どんな理屈なのそれ……」
すると、横から聞きなれた声が届く。視線を送ると、小柄でショートヘアーの少女が横に立っていた。
……我が妹ではないか。
「お兄ちゃん何やってんの」
「スズか。これは罪を自分なりに何とかしようと思ってだな」
「……お兄ちゃん、天然すぎだよ」
同じ高校で一年生の小金スズは、俺の妹である。
扉の前で、スズは両手を腰に置いて呆れていた。
「スズ……この兄をどう思う?」
「天然、鈍感」
「すまん……」
せめて俺の頭がもうちょっと良ければ、気の利いた言い訳が出来たのかもしれない。
妹がしっかり者だと、上は立つ瀬がないんだ。
「まったく、同じ学校だったのにマキ姉とまともに話してなかったんだってね」
「いや……だって美人になり過ぎて、俺なんかが話しかけちゃダメだと思ったんだ」
「マキ姉はそんなこと気にしないよ。昔あれだけ仲良かったんだから」
「昔は昔だって言うじゃない?」
ジト目でこちらを睨んで来る。
なんですか我が妹。何か言いたげですね。
「お兄ちゃん、よく考えてみてよ。普通、助けてもらったとしても男の家に一人で看病しに来る?」
「マキは昔から責任感が強いんだ。恩はしっかりと返す奴だから」
幼少期にマキを野犬から助けたことがあって、棒で振り払うとか簡単なことだったけど、マキはそのことを何週間も周りに言いふらしてくれた。俺が凄い奴認定されるほどで、自慢話の一つになった。
でも、それも十年前のこと。
「だってさマキ姉」
「スズ、本人の前でそういう話するのはやめて」
「え~、だって二人見てるとじれったいんだもん」
スズの視線に合わせると、そこには着替えを済ませたマキが居た。どこか憂いた色が表情に残り、言動は少しばかり焦っているように見えた。
「……昨日は助けてくれてありがとう」
「お、おう……それより、さっき覗いたのすまん」
「お風呂借りたの私だから、いいの」
「急に雨が降ってきて濡れてたから貸したんだよ、お兄ちゃん」
「そういうことだったのか」
相変わらず、マキの表情に変化がない。
ま、まぁそうだよな。昨日お礼をしに来ただけなんだ。つまり、今日が終わればそれ以降関係もない。ひと時の夢なんだ。
「お兄ちゃん、早くお風呂入ってきな。マキ姉がご飯作ってくれたからそれ食べるよ」
「分かったよ。ありがとな、マキ」
「ううん、これも役目だから」
俺は風呂場に入って服を脱ぎ始める。そこでふと、疑問が浮かんだ。
役目ってなんだ、まぁいいか。
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