十七話『告白』
岩陰に体を丸くして、雨宿りしていた。凍えるような冷風を少しでも緩和したくて、さらに小さく体を丸めた。
まさか、自分が遭難するなんて思っても居なかった。
薪を集めている場所まで行ったつもりだったのだが、森なんて久々だったから分からずに迷ってしまった。そのまま雨が降ってここにいる。
一応、道中に痕跡は残してきたが気付いてくれる人はいるだろうか。
少なくともクラスメイトは誰も分からないと思う。分かるとすれば、ナオトだけだ。
でも、ナオトは覚えていないだろう。
私のことは好きじゃない。別に好きな人がいるんだ。
本当に許せないと思う。せっかく同じ高校になったのに、話しかけてもくれなくて、幼馴染に戻れても関係は縮まらない。
「好きって言えれば楽なのになぁ……」
曇り空を見上げて呟いた。
一言も、ナオトから好意を向けられたことはない。
だけど、それは私も同じだった。
正面から好きって言ったことはない。ぬらりくらりと、過去の約束を持ち出して遠回しにやっているだけ。
――――私は逃げている。
話しかけてくれなかったって言っても、私から話しかければよかった話なんだ。なのに、変に嫌われるかもしれないって考えると怖かった。
ナオトのせいにして、自分が悪いとは思わない。
こんなんじゃ、嫌われて当然だ。
ナオトが別の人を好きになるのも納得だ。
自分を否定し、卑下する単語が頭を過っていく。遭難した事実が、これからどうなるか分からない不安に繋がって心が壊れていくような気がした。
「好きなのに……」
はっきり言っておけばよかったと後悔が続く。
もう一度会えれば、次こそはっきりと言いたい。
――――好きだと伝えたい。
「やっと見つけた……」
聞きなれた声に顔をあげた。
草木を掻き分けて、びしょ濡れの体のまま私を見つけてくれた。
彼は昔も今も王子様だった。
「良かったぁぁぁ!」
「なんで……ここが?」
「忘れたのかよ、子どもの頃、遭難しそうになったら木に傷つけておくって言ってただろ?」
「……ひぐッ」
雨は止み、雲が散って太陽が見えた。
私は無意識に下唇を噛んでいた。泣いてはならないと思ったのに、私は弱い。またナオトに助けてもらった。
思わずギュッと飛びついて、抱きしめる。
「不安だったのか?」
「うん……」
もう、一生このままなんだと思った。
怖くて不安だった。
その時の私はおかしいと自覚した。いつも私じゃない。きっと、不安と寂しさでおかしくなっていたんだ。
子どもの時のように、彼が居なくなってしまった悲しみが辛くて泣きじゃくっていた時を思い出す。
背中に手を回して、上目遣いでナオトを見つめた。
「歩けるか?」
「う、うん……ごめんなさい、すぐ立つから」
どうやら、来てくれた安心で気が抜けて足に力が入らない。
こんな恥ずかしい所見られたくない、と必死に立ち上がる。
「無茶しなくていい」
そう言って、私に背を向けてしゃがんだ。
お、おんぶ!?
「あの、無茶してない……? 恥ずかしいとか」
「実は恥ずかしい……でも、俺に出来ることって今はこれくらいだから」
ゆっくりと手を伸ばして、背中に身をもたれた。
硬いガッシリとした背中に一層の安心感が湧く。
あぁ、ナオトは常に自分に出来ることを考えて私のために動いてくれる。
それがどうしようもなく嬉しくてたまらない。
「ナオトはずっと、私のことを見てくれてたんだね」
「ん? そうか?」
「そうだよ。昔から、ずっとそう」
私はどうしたいんだろうかなんて、答えは出ていた。
許嫁とか一緒に暮らしたいとか、そう言うのはある。でも、最も大事な部分を忘れているんだ。
雨上がりで居心地のいい空気のお陰か、素直な言葉が続く。
「十年間、黙ってたことがあるの」
「黙ってたこと? あー、あの顔のことなら知らないぞ? うん、知らない」
慌ててナオトは何を言い出すのか分からないと言った様子で、首を傾げる。
「なにそれ、違うよ」
軽く笑って耳元に近寄った。
長い時間があった。
十年もの間、伝えられなかった想いをようやく口にする。
言わずにはいられなかった。
「私は――――あなたが好きですってこと」
ナオトが誰を好きだろうが、どうでもいい。私はただこの想いをぶつけたい。
十年以上経っていても、私のことを覚えていて二度も救ってくれた。それだけで、私には十分すぎるほどの幸福なんだ。




