十六話『ヒントはある』
「じゃ、じゃあ。森の中に女王が居るって言うのか!? 遭難じゃねえの!?」
「そうだ……もう三十分は経つぞ」
生徒たちの中からも騒めきが聞こえる。先生たちは捜索に出ているらしいが、見つかったという報告もない。
思わず親指を噛んだ。
ヤバいな、どうする。時間が経てば帰ってくると思ったんだが、一向にその様子がない。
はっと思い、ポケットから携帯を取り出して連絡を試みる。だが、電話をしても繋がらない。どうやら森の中は圏外らしい。
雨がこのまま強くなれば危険だ。だからと、俺も追いかけて遭難したら話にならない。
ここで大人しく待っている。その選択が出た瞬間に、俺は駆け出していた。
「先生に伝えてくれ! マキを探してくる!」
「お前! 一人で危ないだろ!」
「深くまでは行かないから、すぐ戻ってくる!」
「おい! ナオト!」
ただその場に流されて、自分の意思を通せないのは子どもと一緒だ。それが悔しくて、十年もの間過ごしてきたことを忘れていた。
俺はもう、両親や子どもだったからと甘えている奴じゃない。
雨で地面がぬかるんで足が取られそうになる。森の中は陰鬱として鋭く、冷気なようなものを感じた。
やみくもに探しても見つからない。
「……クソ」
悪態を垂れて足を止めた。キャンプ場からここまで走りっぱなしだ。ここら辺で薪を集めるはずだが、マキの姿はない。
……この道を通っていない?
大きく揺らした肩を落ちつかせるために、膝をつく。
木に寄り添うように、手を置いた。
何かヒントがあれば、見つけられるかもしれない。
思いつく限りを考える。
小枝を踏んだ痕でも探すか? いや、ここら辺は他の人も通っている。どれがマキのななんか分かるか。
とりあえず、と歩き出した時、自分が触れている物に気付いた。
ざらざらとしていて、木くずが手から零れ落ちた。柔らかく、石でもあれば簡単に傷つけられそうだ。
「木……傷跡」
子どもの頃に、遭難したらどうするか考えて思いついた方法だ。
『木に痕を残しておけば、きっと見つけてくれる』
来た道を、少し戻って探そう。マキならきっとあるはずだ。
根拠のない自信があった。でも、信じている自分が居た。




