十四話『デートの終わり』
アホ面のまま、俺は固まっていたと思う。
まさかスズが爆弾を投下するとは思いもしなかったからだ。
本人の目の前で堂々と言うのか。好きだって。
いやいや……だって、この前に聞いたんだぞ。やんわりとだけど。
「……えーっと、スズ。それはどういうことだ?」
「そのままの通り、マキ姉のこと、どう思ってるの」
「その、どうって言うのは……」
「言わなくても分かるでしょ~?」
そうですよね、はい。好きかどうかですよね!
……言えと? そしてフラれて来いというのか。
「大切に思ってるよ」
「た、大切……ふへ」
誤魔化すような言い方をすると、スズに睨まれる。そして、ため息を吐いて肩を降ろした。
「具体的にだよ。お兄ちゃんもマキ姉も、お互いをどう思ってるのか伝えなきゃ」
スズの言葉に、反論のしようがなかった。直接的な言葉で、マキに思いを伝えたことはあるのだろうか。少なくともない。
――――俺は逃げている。
「私は、ナオトと再会できて嬉しかった。十年も会えなかったから余計に」
「それは俺もだ。会いたいと思ってた……ずっと」
「じゃあ、お兄ちゃんは今のマキ姉に何を望むの?」
俺が望むこと? ……マキだったら、何を望むんだ。俺はそれがまだ分からない。
だから、せめて自分の望みを伝える必要がある。
「マキとの十年間を、埋めたい」
これが俺の本心だ。
時間の空白を埋めることはできない。でも、塗り替えることはできる。これから先にある未来をマキがいる人生にしたい。
「つまり?」
「つまり、マキと一緒に――――」
言ってしまってもいいのか。
俺の人生はこれで終わりかもしれない。
好意を拒絶された瞬間、俺はマキとの距離感が分からなくなってしまう。
例えば、好きって言ったら嫌な顔されたり気絶されたら絶望だ。
だけど、黙っていても始まらない、言うんだ。
これから一緒に過ごしたい、と言え。
「これから一緒に、暮らしたい」
「それがお兄ちゃんの望みね」
「そ、そうだ」
「…………ん? お兄ちゃん?」
「あっ間違えた。やっぱ今のなし――――」
ガシャンッという音を立てて、マキがテーブルに突っ伏していた。
ま……間違えたぁぁぁ! マキがショックで倒れたのか!? これはそういう事なのか!?
「マキ姉、マキ姉!? お、起きない……」
スズが体をゆすってみても、マキの反応がない。どうしたんだろう。
マキを覗き込んだようで、スズの表情が驚愕の色に染まった。
何かブツブツと呟いて、俺の方を見た。
「マキ姉の顔が蕩けて気絶してる……もしかして、暮らしたいって言われただけでこの有り様なの?」
「マキがなんだって? どうしたんだ!」
「えっと、お兄ちゃん……この顔、見てごらん」
スズに先導され、マキの顔を覗き込むと。
マキが、壊れていた。
「な、何があったんだ……」
「たまに、こうなるの」
「病気なのか!? 救急車呼んだ方がいいかな!?」
「あー……ある意味そうなのかもね。たぶん診察したらお医者さんに笑われると思うけど」
軽い口調で言い淀むスズに詰める。
俺の知らない事実を知っている気がした。
「スズは知ってるのか」
「まぁ、ちょっとはね。でもあんまり詳しくないから……」
たまにこうなるって、どうなったらこんな顔になるんだ。
でも、重い病気とかではないなら安心だ……いつから、こうなったんだろう。
「ところでお兄ちゃん?」
怖い笑みを浮かべて、俺の目前までスズが寄ってきた。
「マキ姉に、恋愛相談したって本当?」
「あぁ、やんわりと聞いて嫌われているか確認したかったんだ」
「……天然、鈍感。ついでに阿呆」
おっと、二つから三つにグレードアップしました。
その後、俺たちはマキが起きるまで待った。スズにあの顔のことはマキ姉が隠そうとしていることだから聞くなと釘を刺された。
起き上がったマキの何事もないような様子に驚きを隠しつつ、自宅までマキを送り届けた。
【――お願い――】
デート編終了です。次の章に入ります
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