十三話『どう思っているのか』
スズを回収して、パラソルのあるテーブル席に座っていた。美女が揃っているせいか、周囲の目が凄い。
「お兄ちゃん~お腹空いた~」
「はいはい、何が食べたいんですか」
「焼きそば! ラーメン! お好み焼きぃ~!」
数年後の妹が楽しみである。
お兄ちゃん、もうおんぶとかしてあげませんからね。
「……炭水化物ばっかじゃねえか」
「いいんだよ」
「太っても知らないぞ」
ギロッと俺を睨みつけ、ない胸を必死に突き出した。
哀れ、我が妹。
「私のナイスバディにケチ付ける気?」
「育つもん育ってから言え」
「それセクハラだよ」
妹の戯言を無視して、俺は売店へと向かっていった。
そういえば、マキの好きな食べ物ってなんだっけ。
確か、アイツはお菓子が好きだったはずだ。夏祭りとか行くと絶対にワタあめ食べてたなぁ。
あれば買ってくか。
*
お兄ちゃんを離脱させたのち、私はマキ姉に進捗を聞いた。
これだけ協力しているんだ、いい加減にキスの一つや二つやっていて欲しい。
「ぐへへっうへへっ」
「マキ姉~、帰ってこーい」
飲み物を口にしながら、マキ姉の方を眺める。
何か進展があったのはいいが、顔が蕩けていた。相変わらず凄い表情だ。美少女がしていい顔ではない。
「お兄ちゃんをうまく行きそう?」
「……じゅ、順調ってとこ。さっき体に触れたから」
「なんか抱き合ってたね」
「見てたの?」
そりゃもちろん。実はデパートの時も後ろに居ました。鈍感な兄を持つと、妹は不安なんですと懐からカメラを取り出す。
「写真もあるよ。欲しい?」
「五万ある」
「お金なんかいらないから……」
あわてて財布にお金を戻させる。
素直に欲しいって言ってくれればあげるのに、不器用な人だよ。
「写真は後であげるとしてどこまで行った?」
「手と抱き合った。ぐへへっ……」
「ピュアかっ!」
おっと、落ち着け私。マキ姉にツッコんでもキリがない。
マキ姉は決め顔を作ってまた「うへへっ」と笑う。相当お兄ちゃんと触れ合えたのが嬉しいようだ。
なーんかおかしいなぁ。許嫁って学校でも広まってるのに、これくらいで恥ずかしがってるなんて。
「この前、お兄ちゃんに許嫁って言ったんだよね?」
「ええ。でも、どうやらナオトって別に好きな人がいるっぽいのよね」
マキ姉は喜怒哀楽が激しく、どよーんとした面持ちになる。
その感情豊かさをお兄ちゃんの前でやって欲しいなぁ。
「好きな人って、誰?」
「分からない。恋愛相談されて、その人はクールで何でも出来て、頼りになる人らしい」
「……ほかに特徴は?」
「胸が私と同じくらい」
それマキ姉のことだよ。
って危ない。うっかり口にするところだった。お兄ちゃんとマキ姉の間に、私が直接干渉しちゃダメなんだ。二人のことは二人で何とかしないと。
参ったなぁ、こりゃ変な誤解が起こってる。
たぶん、お兄ちゃんはさり気なく聞こうとして、マキ姉が誤解した。さらにお兄ちゃんは告白しても断られると勘違いした……と見るべきか。お兄ちゃん、天然すぎる。
だから嫌われたくないってあれだけ強く言ってるのね。
「あぁぁぁっ! 本当にこの二人面倒臭い!」
「ど、どうしたの?」
「一肌……いや、もっと脱がないとダメか」
きっと放って置いたら、どんどん亀裂が広がってくっ付かない。
そもそも、勉強会を開こうって言い出したのもお兄ちゃんじゃないはずだ。他の誰か……私と同じように二人をくっ付けようとしている誰かがいる。
今回はうまく利用させてもらったけど、少し邪魔かもしれない。お兄ちゃんとマキ姉をくっ付けるのは、私の役目なんだ。
「少しだけ、荒療治する」
「スズ? ちょっと顔が怖いけど」
「マキ姉の、お兄ちゃんに対する望みって結婚だよね?」
「けけけっ結婚!? え、ええまぁ? できることならしたいけど? まぁ?」
焦って視線を泳がすマキ姉を他所に、私は悩んでいた。
「あとはお兄ちゃんの望みか」
「えっ?」
不安そうにこちらを見つめるマキ姉を他所に、顎に手を置き悩む。
買い物を済ませて戻ってきたお兄ちゃんは、テーブルに食べ物を置いてくれた。
……リスキーかなぁ、言わない方がいいかな。ええい、ままよ!
「お兄ちゃん」
「なんだ? ちゃんと買ってきたけど、他に欲しいものあった?」
「そうじゃなくて、聞きたいことがあるの」
「らしくなく改まって、珍しいな」
お兄ちゃんがテーブル席に着席して、買ってきた焼きそばを食べようとする。そして、私の言葉を聞いて口を大きく開けたまま、停止した。
「――――お兄ちゃんって、マキ姉のことどう思ってるの?」
 




