文豪の神
物語を、書く。
物語を、綴る。
物語を、認める。
物語を、紡ぐ。
私の物語を、世の中に、発表することにした。
私が考えたお話が、誰かに届く。
私のお話が、誰かに届いて、何かを感じてもらえたらいいな。
私が書いた、私のお話。
私のお話を読んだ、古い知人が感想をくれた。
面白いね。
いいね。
もっと書きなよ。
でもさ。
書く前に、僕の書いた物語も読んでくれよ。
私は、すすめられたお話を読んだ。
難しくて、私には理解ができなかった。
感想を、どう伝えようか。
僕の話、読んでくれた。
読んだけど、よく分からなかった。
君は語彙力がないから理解できないんだよ。
語彙力がなくても書ける話はあるかと思って。
魅力のない物語を世の中に出す勇気を認めてあげるよ。
私のお話は、勇気を出さないと出せないものなんだね。
そうだね、でも、これから変わるよ。
かわる?
君は僕の物語を読んだだろう。
理解はできなかったけれど、読んだよ。
君の中に、僕の文字列が吸収された。
私は、内容を覚えてないよ。
覚えて無くても、僕の文章は、君に影響を与えたのさ。
私、影響を受けたの?
君は今後、僕の影響を受けた文字をつないで、僕の文字を綴るのさ。
あなたのお話を、何一つ思い出せない私が?
僕に影響を受けた君は、もはや君の物語を書くことはできないんだよ。
私が書く物語は、あなたのものだということ?
そうだね、僕はこうして、世の中すべての物語を書いているんだよ。
あなたの物語を読んだ人は、すべてあなたの物語を書くということ?
そうだね、僕は、僕が一人しかいないという悲しい現実を、他人が僕の物語を綴るという手段で凌駕しているのさ。
あなた、自分が書いていない物語を、自分の作品だというのね。
何をいっているんだ、僕の物語を読んだすべての人は、僕の能力を分け与えられた選ばれし者なんだよ。
あなたには、物語を書く人すべてに影響を与える能力があると、いうのね。
何を言っているんだ、僕だって影響を与える物語は選ぶさ、駄作は僕の物語じゃない。
あなた、文豪の神でも名乗ったらどうなの。
もう名乗っているよ。
聞いたことがないわ。
名乗ってはいるけれど、世間が認めてない、ただそれだけのことなのさ。
文豪の神は、宇宙一の文豪を名乗っているけれど、自分の手で書いた物語はひと作品だけで、なぜか実家の中古車販売店を、手伝っている。
今日も自らの手を動かすことなく、他人を使って、すばらしい物語を、書き続けている。
文豪の神の手は、機械油に汚れて、思いついた物語のかけらすら、文字に残そうともせず、ただ、破れたぼろきれを、ぬぐうばかり。
文豪の神の物語をのぞいては、いけませんよ。
あなたの物語が、乗っ取られてしまいます。
文豪の神が、あなたに近づこうとしていますよ。
私、忠告しましたからね?
あなた、文豪の神に、チェックされてますよ?
甘い言葉に、惑わされないで。
あなたの物語を、守ってあげて。