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第1話 【終わりと始まり】

目を開けると草原に立っていた。

厄介事に巻き込まれたという感情と、果たしてこれからどうなるのかという期待と不安を綯ない交まぜにしたよく分からないもやもやを抱え、流れている小川へと足を運ぶ。


恐る恐る水面を覗き込むと中高生ぐらいの歳で黒髪で翡翠色の眼をした少年が映っていた。

もう後戻りは出来ないなと気合を入れるためにきつけをしてから遠くに見える見覚えのある街へと歩を進める。

教わったことを改めて思い起こしながらの道のりだった。



俺、鎌田征也(かまたせいや)は大学生である。

三流大学に必死こいて勉強して入学したところ学費の免除を頂き、親からの学費や生活費として貰う金とバイト代で悠々自適に四年目を過ごしていた。


就職先も決まり、卒論も早々に書き上げて残りの学生生活を満喫する心づもりでいたのだがそこに思わぬハプニングが起きる。

「サービス終了のお知らせ!?」


自他ともに認めるオタクである自分はあるゲームにハマっていた。

それは『ガルディアオンライン』(通称G・O)というMMORPG。

高校時代からずっと飽きることなくやっていたオンラインゲームについに終焉が来たのだった。


どのゲームもいずれ終わりがやってくる。それは購入してプレイするゲーム(ただし一部を除く)だけでなくオンラインゲームにおいても同じだ。

永劫に続くゲームというものがあればそれを開発していく人材はどれほど人身を掌握しているのか計り知れない。


他にもやっているものはあるがこれ程までに入れ込んでいたのはこのゲームぐらいで、他は惰性だったり本腰を入れていない。

どうするかと考えてはみたがバイトと狩りで徹夜明けの頭にはいい考えは浮かばずその内に寝落ちしていた。


意識が覚醒しだして起き上がろうとしたところで違和感に気づく。寝落ちする前はパソコンの前で椅子に座っていたはずだが、今は寝転がった姿勢だ。

転げ落ちたにしては体の痛みは感じなかったし今もない。


ないとは思うが体を縛られたりとかの他の異常も無いので覚悟を決めて起き上がった。

「おはようございます。」

唐突に声をかけられてビクッと身体が反応し、声がした方を見る。


声の主は二十代半ば程に見える女性。彫りが深く、輝くブロンドの髪を肩ほどまで伸ばした西洋風の外見だった。

服装は古代ギリシャのキトンに似ている。


「あ、おはようございます。」

明らかに自室ではない場所で見知らぬ相手とはいえここには自分と女性の二人しかいない。

無視するわけにもいかないのでとりあえず挨拶を返した。


「急にこのような場所にお連れして申し訳ありません。ですが急を要するお話でしたのでやむを得ず来て頂きました。」

背景係がサボったんじゃないかというぐらいの白い空間。病院などとは違い物がなく、ただひたすらに白い虚無な場所に自分達は居る。


ここから先の展開はラノベやアニメを見てきたから知っている。進〇ゼミで習った!というやつだ。


「私の管理する世界、ガルディアオンラインの世界を救っては頂けないでしょうか?」

うん、予想通り。G・Oの話が出てきたのは少々予想に反していたがあくまで許容範囲だ。なぜなら


「ところがどっこい夢じゃありませんよ?」

「え!?」

この人1050年地下に行くの!?てかそのネタ使ってくるのかよ。

夢だとは思ってたし今もそうだと思ってるけどさ。


「私としても夢で終わるならそれでいいのですがこれが現実です。非情な事にですが。」

「そっちのネタも分かるんですか。では、『だが、断る』と返せばいいんですか?」


そう言うとそれまで穏やかな雰囲気だった女性から怪しげな空気が漂う。

「いいんですか?一ヶ月後にはもう出来なくなるガルディアオンラインの世界をVRの視覚と聴覚でどころか五感全てで体感出来るんですよ?」


二メートルあるかないかの距離に正座していた女性がずいずいと近づいてきて囁く。

「あなたがクソゲーと嘆く人生にようやく修正パッチが当てられるんですよ?異世界でチートを持って転生。それこそさっきと意味は違えどあなたの夢でしょう?」


確かにそうだがこんな風に囁かれると神様より悪魔に思えてくる。

さっきからこっちに都合のいい話ばかりだ。美味しい話には裏が付き物で、美人局や宗教、ツボを売られたりが最たる例だろう。


「失礼な!私は女神アテナですよ!?あなたを騙す気はありませんよ!裏と言いますか…事情はありますが。」


その言葉に何よりも驚く。

アテナといえばギリシャ神話に出てくる一柱で知恵と生活と戦いを司る神様だ。

そして何よりガルディアオンラインでは常に重厚な甲冑を身に纏い顔を出したことはサービス開始から今まで一度もない。


女体化や女性の露出が多い昨今のゲーム業界において一枚の素顔の顔グラすら出さないというのがどういうことを巻き起こすかというと、妄想合戦である。

各々がこんな見た目であって欲しい、こんな見た目なら面白い、というのがネット上で溢れることで露出が皆無なのにも関わらず、キャラクター人気投票で堂々の一位をもぎ取ったのだ。


そんなアテナの素顔が目の前にある。それだけでG・Oの廃人とすら言われる自分は異常な程に興奮していた。


「握手して貰っていいですか!?あと写メも!ってスマホがない!?なら目に焼き付けますんで見させてください!」

現代日本でやったら通報もののテンションで膝が当たるほどの距離にいたアテナへとその興奮をぶつける。


「え、いや、その………恥ずかしいので落ち着いてください。」

食い入るように見つめていると顔を赤らめて止められた。

そこで正気に戻り男の土下座を披露すると「大丈夫ですから。とにかく落ち着いてください。」との言葉を受け、深呼吸して気を鎮めた。


コホン、と咳払いしてアテナが仕切り直す。

「ともかく、ガルディアオンラインの世界に来ていただけるか。私が聞きたいのはそこです。」

「行けるなら行きたい。ってのが感想ですけど、その前にさっき言ってた事情を聞かせてください。」


まだ夢のような気もしなくもないが仮に現実なら確認しておくべきは状況だ。

知らない方が幸せなこともあるかもしれないがそれなら行かなければいいだけで、知って損は無い。


「実は…」

G・Oが無くなることでアテナや他の神の管理するその世界はいずれ終焉を迎える。

その世界はほかの世界の歪みや溜まった良くないものを減らすために作られた世界で、出てくるモンスター達はその良くないものの権化らしい。

無くなられると神々としても困るし、今いる世界にも影響があるとのことだ。

だが、こちらの世界の住人がそちらに移れば世界を維持出来る。


というのがアテナの説明だった。

しかし、まだ腑に落ちない点がある。

「G・Oが無くなることで終焉を迎えるってことはそのために作られたんですか?」

「いえ、ガルディアオンライン…G・Oと言いましょうか。G・Oとその世界がリンクしたのは偶然です。あなたの世界のゲーム開発中にこちらと波長の合った人が居まして、その人が携たずさわったことで繋がりができたのです。」


「わかりました。では何故G・Oが無くなると世界の方まで無くなるのですか?先にあったのはあくまで世界の方でしょう?」

「それはG・Oが世界の役割の補助をしてくれていたからです。」


それだけではまだ分からないので聞く姿勢で続きを待つ。

「先の通りその世界はほかの世界の良くないものを代わりに受けています。G・Oのおかげでそれの処理がしやすくなって処理する量も増えていきました。しかし、突然その補助がなくなったのに対してあった時と同じ量の処理をしようとすればどうなるでしょう?」


要はプレイヤーが良くないもの(モンスター)を処理していたから良かったものの、それがいきなり無くなって処理されるべきものだけがどんどん溜まっていくということになる。

そんなことになれば


「パンク…つまりそれで崩壊して終焉を迎えるってことですか?」

「最終的にはそうなります。モンスターが溢れて人類や動物は滅亡した後に崩壊していくのです。あなたが来ていただければそれを軽減できるのですよ。」

よく出来ましたとでも言わんばかりに頭を撫でられた。

流石に小っ恥ずかしいが振り払うわけにもいかず次の質問で流す。


「経緯や理由はわかりましたけど何故俺なんですか?廃人レベルでG・Oをやってたからですか?」

「それも一つの理由ですがやはり波長の合うことが一番ですね。その証拠に今まで飽きることが一度もなかったでしょう?」


確かにそうだ。何をやっていてもどこかしらで倦怠期のようなものが来るがそれがG・Oではなかった。

だからこそ、この7年程の間出来ない時を除いてほぼ毎日プレイしてきたのだ。


あと聞くべきはと考え世界の常識や最初にやるべきことを教えてもらい、最後に1番知りたかったことを尋ねた。

「途中で言ってたチートってなんですか?」

「プリーストにしかなれませんがG・Oでの他のジョブのレベル最大の反映で上がる数値を元にしてレベル1から始めて頂きます」


そう言ってアテナが保険証位のサイズのカードを渡してきた。

STR 400

VIT 300

INT 500

RES 600

DEX 500

AGI 300


渡されたカードにはステータスが書いてありG・Oでのステータスとしては中堅にも程遠いのだがこの数値で既に十分一端の冒険者としてやっていける能力値らしい。

これが初期となる基礎ステータスになるとの事だった。


G・Oではレベルが上がる事に二次関数ばりに能力が上がる仕様だ。それに反比例するようにレベルが上がりずらくなっていく。

そしてその数値の上がり方はジョブ毎の基礎ステータスを元に決められており、本来の計算式では

(基礎ステータス+上昇値)×レベル毎の上昇率

となりその値に他のジョブの反映値が足されて最終的なステータスとなるのだがアテナの説明の通りであれば

(基礎ステータス+上昇値+他のジョブの反映値)×レベル毎の上昇率

となるため本来より更に雪だるま式の上昇をすることになる。


ちなみにプリーストにしかなれないのはG・Oで最後にやっていたジョブでそちらの世界では転職がないため変更も出来ないかららしい。

ただし、ゲームの方ではジョブ毎に装備出来るものと出来ないものがあったがなんでも装備が出来るのと、他のジョブで覚える共通スキルも使用出来るという小さくないオマケもあった。


ここまで情報が揃えば後は決断を下すのは自分だ。

少し考えたが答えはもう出ていた。

思考を読まれているはずだが不安そうなアテナに向かって宣言する。


「俺、行きます。」

その言葉とともにアテナがホッと安堵の息を漏らす。

「ありがとうございます。先にも説明はしましたがあなたにはその世界でも冒険者として過ごしてもらいます。」


「わかりました。他にすることはありますか?」

「いえ、冒険者としてモンスターを狩って頂ければあとはのんびり過ごしていただいて大丈夫です。」


「そうですか。あと何か気をつけることはありますか?」

「一つだけ、他の神も別の方を転生させてますのでなるべくその方達と争わないでください。下手すると神々を巻き込んだ戦争になりかねませんので。それでは。」


いきなり爆弾が落とされる。それでいて大したことでないようにさらっと流された。

「え、他にもいるんですか!?」

「そりゃあほかの神も波長が合えば呼びますし数が足りませんから。よっぽどのは居ないでしょうが厄介なのはいるかもしれませんから気をつけてくださいね。どうしようもなければ…殺やっちゃってください♪」


「ちょっとま…」

「それじゃあ頑張ってくださいね。では〜。」

殺っちゃってください♪じゃねえ!やっぱこの女神戦争の神だよ!だからあんな重武装脱がないままだったのか。てか話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


そうして気がつくとGOのアバターである少年の姿で草原にいた。

これから先大丈夫なんだろうか…。

思い出していたせいか心中にそんな一抹の不安を抱えたまま街へと辿り着いた。

pixivの方であげたのですが読み返して設定など甘いところがあまりにも多かったのでなるべく修正したものとなります。

忙しかったのもあり修正もできなかったのですがこちらに投稿するのを期に書き直してみました。

興味を持っていただければコメントや次回を気長に待っていただければと思います。

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