竜さんパネェ
「チェイサー‼︎‼︎ 」
一瞬、日本の公用車を思い浮かべる雄叫びをあげながら、ジジイは腕をオーケストラの指揮者のように忙しく動かしながら空中を走る
そう、空中を走っているのだ。
500ポイントの魔力付与は夜の闇の全てを操るという常識を越した能力を得たようだ。
「全ての影が…… ジジイの味方かよ。おっかねぇな」
夜の空間にある闇のどこを踏んでも今はジジイの足場になっている。
そのジジイの見つめる先は巨大な赤竜だ。
闇の中を浮遊しながらジジイを追いかけるように前後左右縦横無尽に豪炎の息を放つが、光が強くなると影が濃くなる…… 真夏の木陰というレベルではない陰影のコントラストが赤竜の羽根や首やらに伸びる。
そこを見つけてはジジイが両手を動かして赤竜を束縛をしようとする。
「ジジイ! 気張らんかい! 」
「うっせ! ダンデス手伝えや! 」
荒々しい言葉使から思うが、ジジイも限界ギリギリなのか? …… いや違うなあのバカは腰の小袋…… マジックバックをたまに摩っているな
アイツ…… 赤竜の血を狙ってやがる……
小袋にある小瓶を触り赤竜の血から得られるモノの皮算用をしているな…… いやらしい顔をしよってからに。
———はぁ、——————とりあえず、手伝えと言うなら手伝うべきだろう。
強欲ジジイには困ったもんだと、シャティのミドルソードを手に持ち、何をすれば良いかを考える。
ジジイのように空を飛ぶ事は出来ないし…… ならばと試してみたかった事をしてみる
〈luck Key〉
シャティのミドルソードに幸運を…… 試しに5ポイント付与してくれ
▼シャティのミドルソードに幸運を5ポイント付与
やはり出来たか。
今までは無機物の幸運を奪う事はしてきた
付与は…… 正直なところ勿体無いのでしてこなかった。
出来ると分かればやる事は簡単だ。
「〈luck Key〉…… シャティのミドルソードに幸運を500ポイント付与! 俺に自己幸運300ポイント付与…… 」
俺の体とミドルソードが赤い光に包まれる。
へっ! ジジイめ目敏く観察してやがる。
「っし!…… 、エルフの指輪よ!ミドルソードの幸運500を攻撃力に! 俺の幸運300を筋力に変換! …… おおっ! 」
ミドルソードがギュイン! という不可思議な音を立てて震える。
…… 攻撃力を武器に付与すればこうなるか!!
チラリとジジイを見ると新しいオモチャを前にしたガキのように期待した目をしてやがる。
いいだろう。
せっかくの大物なんだ全力を出そうじゃないか。
〈luck Key〉
モード解除
〈キーサーチ〉
赤竜を無力化するにはどうすればいい?
△ここを狙って投擲
目の前に△のマーキングが出て赤竜の喉を指し示す。
「よし!…… うぅぅりゃああああぁぁぁ‼︎‼︎‼︎ 」
俺の筋力が付与された腕からレーザービームのような速さでミドルソードが飛んでいく!
剣は〈キーサーチ〉のつけた空中のマーキングに沿いながら高速で赤竜の喉へ。
赤竜は高速で飛来する剣に目を見開き、躱そうと動くがジジイの影魔法がそれを止める
「試射ってのはな楽しもんだ、ゆっくり楽しみやがれ赤竜」
ジジイはそう呟きミドルソードの軌跡を再び目で捉える。
ギュゥゥゥ…… ンンン!!!
およそ剣の飛来するような音ではない物が空中で飛び踠こうとする赤竜の喉へ吸い寄せられるように飛び込み
ブゥゥゥーーン! ドバァァァ!!!
衝撃波を立てながら深く深く、赤竜の首に差し込まれた。
「ジジイ! 」
「ううぅぅーーん! ハァッ! 」
俺の掛け声にジジイは影魔法を赤子竜を縛り付けた時のように忙しく動かしてグルンッ! と赤竜を影で包みまた、黒ごま大福餅にする……
そして…… 魔力によってか羽根によってか分からんが、竜の飛行の原理を失った赤竜は闇の中へと落ちて行った————————————————————————————————————————————————————……
「取れたか? 」
「ああ、これで全てだ。 」
俺は小瓶に赤竜の血を詰め終わった事をジジイに伝えると、凝り固まっ背を伸ばす。
「ぅぁ…… 腰がこったわ…… 」
「おうよ、ご苦労。」
「あいよ」
小瓶の数は150を超えた所で数えるのを止めた。
数えながらやるには効率が悪い、無心になり作業を続けた赤竜の血が入った小瓶の数は山のようだ。
「さて、 どうする? 」
「…… ワシに任せてくれんか? 」
ジジイの言葉に頷く。
血を頂いた赤竜はまだ息があり諦めたように泣いている。
空中から落とした所が丁度、赤子竜の死体の近くで人間に負け熱が冷めて悲しみの中にいるようだ。
抵抗も無いので口は影魔法で縛るが頭を自由にさせてやっている、
「なあ、竜さんよ…… 人族の言葉は分かるかい? 分かるなら瞬きを三度してくれんか? 」
赤竜は涙の溜まる目を話しかけて来たジジイに向けて三回、瞼を閉じた。
「おお、 人間の言葉が分かるんか? 」
「そうじゃ、なんせ竜は長生きじゃからの退屈凌ぎに言語を覚える奴が多い。口や喉が違うから話せんがな…… 」
ジジイは影魔法で包んでいる力を少しだけ強める
「逃してやる…… ええか? その代わりワシらの事も見逃して、この先…… ワシが死ぬまでの間でええから安定してオマエの血を供給してくれんか? 」
「おーい、強欲だのう? 」
「うっせ! のう? 赤竜さんよ? 子供を殺したのはスマン、 しかしオマエの命を失っても意味がなかろう? 」
いやいやいや、その提案は無理があるだろう
そう思い静観していると赤竜は低い声でグルルルと鳴いた。
「良いのか? 約束じゃぞ? 」
ジジイの問いに赤竜は三回目を閉じ首を何とか束縛された状態で頷かせた。
「よし」
「————、!! おい!! 」
ジジイが影魔法を解きやがった!
俺は瞬時に戦闘に入るための態勢をとる。
「ダンデス、大丈夫じゃ」
ジジイは俺に目を向けて頷いている。阿呆かコイツは!
赤竜は喉から血を流しながらも羽根を広げて15メートル程、飛び上がり自分が殺してしまった赤子竜を見つめ何かを竜の言葉で呟いてから未明の空に飛び立った。
「どうなってんだ? 竜が約束を? 」
「ウム、竜は宗教か信念かがあってのう…… 約束をした事は必ず守りよる生き物なんじゃ」
「…… 我が子が、死んでも、、か? 」
「いや、己が死んだとしても…… じゃわい」
難儀な性格をしとるなと俺はため息を漏らす。
「さて、朝が明けるわい、ハッタリで何とかなったし良かった良かった 」
「もしかして…… 」
「そうじゃ! 明るくなるとワシの影魔法は霧散しとったじゃろうから…… 殺されとったかもしれんな! カッカッカッカ! 」
いや、笑うなや綱渡りすぎるだろうに……
まぁ、付与の時間は血を採取している時に終了していたからどっちにせよ赤竜が本気に復讐をしていたら殺されとったな…… 桑原桑原……
何故か俺も可笑しくなり2人で笑い合うと雲海から太陽が昇る。
「のうダンデス、」
「ん? 」
「孫娘との結婚を許す」
「いや、全く要らないです」
「ぐぬ? 」
あー…… 疲れた、これから王都に帰らにゃならんのか…… 大義だわ。
赤子竜の遺体を漁り素材として使えそうな最低限のものを剥ぎ取り俺とジジイは山を降りた。
少し欲が出て多くの素材を持って帰ろうとして帰りの崖から転落しそうになったのは御愛嬌だろう。
いや、帰るまでが遠足とはよく言ったものだよ。
もう少しで竜編終わりです。




