竜も弱いわ。
ヒラリ……
太陽が完全に沈んだ夜空に蛆虫が湧くように空の1箇所から広がった黒い巨大なシートが降ってくる。
それは闇のように暗く黒く、四方八方からの闇を集めて縫い広げるように広がって…… 竜の寝る岩山へと向かう。
雲が下にあるので月の光が強く、その光に照らされた黒いシートは薄くなったり影の部分から厚くなるように重ねたりを不規則に繰り返して、剥き出しの平たい岩肌の上にある窪みの塒で寝る竜にフワリと優しく被さった
まるで夏用の木綿の掛け布団のように軽やかに竜にかけられた黒いシートは竜の首や尻尾や胴体の影と引き合うとグルリンとトラクター数台ぶんもある竜の巨体を覆い隠し、一気に巻き込み漆黒の黒ゴマ大福餅のようになる。
ドゥン…… ドゥンドゥン‼︎‼︎
「GAAAA…… ‼︎‼︎ 」
急な束縛に流石に驚いたのか竜は影の黒ごま大福餅の中でグニグニと暴れ回るがゴム毬のように伸びては縮み逃げる事が容易ではないと分かる。
これは…… エグいな。
俺はフとジジイと対峙した時のシャティの顛末を思い起こす。
竜でも固定できる危なっかしいモンを見た目幼い娘っ子に使ったのかこのジジイは……
ジジイは最後の〆という風に複雑に指と腕を動かし影の魔法を仕上げる。
中味は生きた竜…… という日本なら完璧に動物保護団体が苦情を出しそうな竜の大福餅は成長した雄牛ほどの大きさの後脚のみを大福餅の外に出すと小さい何万もの影の手が空から降りたシートから伸びて竜の突出した脚の鱗を、べたりべたりと引っ張り、掴み、固定する。
なるほど、この後脚をストロー代わりにして竜の大福餅からチューチューと血を吸い出すんだな…… やはりエグいなこの影の魔法……
「…… ジジイ、この影魔法があれば俺は要らなかったんじゃねぇか? 」
「いや、難易度が高いクエストは最低でも二人一組以上だ。何が起こるか分からんからな」
ジジイは自分の足元から空中へ影を伸ばしその上を歩く
「便利だなオイ 」
「だろう? 」
「…… 気持ちを隠さんねオマエさんは 」
「オマエとか…… 段々と軽口になるねあんさん」
「すんまへん」
この旅の良かった点の1つは軽口を言い合える人間が出来た事だろう。
芯の部分は何を考えているかイマイチ分からんジジイだが、ある程度の友好度があればそういうのは許すようだ。
同年代の同性の掛け合いは楽しいものだからな。
ジジイは自分の影を上空へ伸ばしその上を走って行く。
腰が痛いのか両の手を腰あたりに拳骨で添えている姿は老人なのだがスピードは陸上スポーツの短距離国内トップ選手のように早い。
「——————— チッ! 」
走り去るジジイが俺をみて優越感に浸るような顔をするので思わず舌打ちしてしまう。
「これは意地を張るか」
俺は〈luck Key〉モードのまま維持していたのでそのまま自己幸運ポイントを筋力と体力に20ずつエルフの指輪で変換し振り分けて走りジジイの後ろに着く
ジジイは俺の顔を見ながら『なんでこんなにスピードが早いんだ? 』って顔をしとる……
なるほど、この驚き顔は本当だろう。
この世界の有力者が驚くスピードはこのぐらいだと分かった。
俺のスピードは運の振り込みでさらに上がる…… つまり俺は〈キーサーチ〉と〈luck Key〉でこの世界のスピードの分野で十分に渡り歩けるという意味か。
俺は自分尺度を理解したのが嬉しく、頬が緩むのを感じた。
1ツ緩んだ顔を平手打ちし気持ちを戦闘に戻す。
「そらダンデス! 」
「おうよ! 」
ジジイはこの竜の脚の骨格が意外と可動域があると判断し影を間接の継ぎ目と剥がれそうな岩の裂け目にロープのようにキュルキュルと巻きつけ、岩を落とす。
ズゥ………… ン…… ‼︎
「GWOOO!!!!!!!」
やはりエグい。
竜の膝は影魔法と結んだ岩の重さに引かれブリン! と脱臼した。
ブラリと垂れた竜の脚に俺はシャティから借りて来たミドルソードを鱗と鱗の間、皮膚があると思われる部分にしっかりと当て、肉を切るのではなく材木やプラスチックを切るように意識しながらミドルソードのブレード面に体重をかけ思いっきり刃を引いた。
「分かってんじゃねーか、バカか若いのは竜のような硬い鱗の上から何度も何度も斬りつけて得物をパーにするからのぅ」
「…… 刃物を使う商売をしているのに、そんな事をする馬鹿はおらんだろう? 」
「いや、これがまたな…… いるんじゃよ。そういい奴がなぁ…… 」
俺はジジイと会話をしながら、ジジイの腰にぶら下げた小袋から次々と出されるガラス瓶に滴る竜の血を入れていく……
ジジイの小袋はマジックバックという魔道具らしく作る難度が高く、販売価格が高い代物だ。
ジジイの掌に乗る程の小ささなのに一体、幾つのガラス瓶が入っているのやら…… 魔法とは全く本当に不思議なものだ。
ほぼ、流れ作業になっている血詰め作業をしていると竜の動きがより緩慢になりだす…… ?
「…… ? なんだ? 」
「どうした? 血の瓶詰めは手伝わんぞ。手が汚れるからのぅ 」
「違うっての…… ホラ…… なんかチッチッチという音がせんかい? 」
飼い犬を呼ぶような舌打ちの音がチッチッチと聞こえ、その音にやっと気付いたジジイは一瞬に顔色を蒼白にしてシャティのミドルソードを影を操り俺から取り上げ大きく上段で振りかぶる。
「お…… おい」
焦り唖然とする俺を無視するようにジジイは竜に被せた影のシートの首の部分だけ開ける
「チッ‼︎‼︎ チッ‼︎‼︎ チッ‼︎‼︎ チッチッチ‼︎‼︎ 」
「うわっこりゃ…… なんだ! 」
開けた隙間から閉じ込められていた舌打ちの音が溢れ出る。
「やっぱりかよ…… チェイサァーーー! 」
シュッ ——————— ズヌゥゥゥン…… !
なんとジジイはミドルソードで竜の喉から首の半ばまで叩き斬ったのだ。
ビシャッ ビシャッと噴水のように血が吹き出るのをジジイはチラと見て、身を低く屈め周りを見渡しだす。
「おい、殺せるならこんな面倒な順序は要らんかったのではないかい? 」
「…… 跼まれ…… この竜は赤子じゃ」
言われた通りに身を屈め今の言葉の意味を考える
「深く考えるな。本当に赤ん坊の竜じゃ」
「…… こんな大きいのに…… か? 」
「そうじゃ。 今のチッチッチという音を出していたのはホレ、首を刎ねた辺り…… 竜の喉仏辺りにある鶏の顎にあるような肉垂があるじゃろ。」
確かに、竜のそこを狙って刎ねたんだろう斬撃で2つに分かれた肉の袋がある。
「それがあるのは赤子竜の印じゃ…… どうも柔いと思っとったんじゃが…… 赤子なら肉が柔らかいのも納得じゃ…… で、じゃな…… 竜は元々は群れる事は無い。個々の力が強いから当然じゃ」
そりゃそうだ。それだけ強い生物ならば数匹まとまると食料が尽きるだろうしな。
「だが、赤子は弱い…… 命の危機があった場合は顎の肉垂に空気を入れチッチッチと大きくならし…… 」
バサッバサッと何かが羽ばたく音が聞こえる。
なるほどな、これはヤバイな。
「さすがに察したか。そう…… チッチッチと音を鳴らして[竜の親]に助けを呼ぶんじゃ」
ジジイと俺は雲海の向こうから高速て飛びながら近づいてくる、今殺した竜の数倍も大きな赤竜を見つめていた。
親の復讐とはさぞや恐ろしかろうな…… と俺の心は恐怖を過ぎ、むしろ落ち着きはじめていた……。
前回の話で不手際がありました。
すみません。
修正は済んでいます。




