ギルマスのジジイとの会話
「痛い…… 」
「ダンデスさん、どうしたんですか? 」
シャティは、俺がヨーネフ氏の所へ丁稚に出そうとした後からとにかく近くに寄り添い動く。
今も手を繋いで歩いているのだが側から見れば仲良し兄妹に見えるだろう。
そんな事はどうでもいい
俺は懸念材料である俺自身の自己幸運が少なすぎると思い一時間毎に2ポイントずつ自分の運を保存しているのだ。
たった2ポイントの不幸
されど2ポイントの不幸
歩けば野菜の端材や動物の糞を踏んでしまったり、今なんて木箱を持ち道を歩く男に軽くぶつかられた…… ちょい木箱が当たり痛い。
「ダンデスさん今日は宿に居たらどうですか? 」
「…… いや…… 今日は行かないとマズい」
灰色肌の幼女ルー・ルー・ルー氏はヨーネフ氏を交えた会食で仕事の依頼を指名ですると約束してくれたのだ。
今日は、その仕事依頼が冒険者ギルドに届いている筈…… 初仕事は必ず綾なさねば次からは仕事相手からの期待や要望の質が下がるのだ。
依頼の質が下がると上に戻るのがしんどくなり、それが長引けば依頼人の[仕事を依頼する選択肢]から外される。
それを避けるには仕事は少しずつステップアップしていかなければ、いずれ売り物となる知識や経験やらは死んでしまうのだ。
冒険者にとっての資源は依頼の達成と質だ。それの評価を下げるという事はつまり……
だから始めての仕事は少しでも結果を出せるようには気張らないとダメだ。
———— 日本にいる時はそれが出来なかった。
歳を食って酒を飲みながらテレビをつけて意識無くボーっと目を開いていると、自分の過去の分岐点が老いたからか、分かりやすく脳内に鮮明に見えてくる。
あの時に、あれを言わなければ
あの時に、頑張って仕事を続けておけば
あの時に、女と別れなければ
そういうifを何度も脳内で繰り返し後悔をする。拳を握り殴れば良かったと思う相手を記憶の中で殴り倒したりして悪い酒の酔い方をする。
そんなダメな事を何度も繰り返し繰り返し繰り返して…… ある時に自分がさらに歳をとっているのに気付き人生を転換できるほどの分岐点を選べなくなるのだ。
「もう、そういうのは嫌なんな…… 」
「? ダンデスさん? 」
シャティが心配をして俺の顔を覗く。
人生のやり直しとは、実に素晴らしいものなのだ。
俺はそう思うだけで気分が良くなりシャティの頭を撫でる。
「ダンデスさん? 」
「…… ああ、ごめんな。行こうかシャティ」
俺は不運でいる場合ではないなと〈luck Key〉モードを解除する。
頑張って仕事をして、次こそは1人だけで老いを迎えず金をたんまり持って晩年を過ごせるようになろう。
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「あ! ダンデスさん良いところに来ましたね! 」
「ほいほい、丁度とはなんじゃらほい? 」
ギルドの備え付けのバルでメシを食べてから受付に行こうとしていたが、ギルドに入るなり職員に呼び止められた。
これは、おそらくルー・ルー・ルー氏からの依頼が来ているという事…… だろうか?
そのまま、ギルドマスターのジジイの部屋へと直行となる。
「ほら、シャティごはんごはんと文句を言わない。」
「うぇ"〜…… 」
「しゃーないのぅ…… 」
俺は布に包んだ干し肉をシャティに与えてギルドマスタールームに入る。
部屋は…… 俺が幸運で開けた壁の穴は塞がり床やら建て付けやらは新しい木材で美しく磨かれていた。
…… 天窓はステンドグラスが入ってやがる。ジジイの趣味かえ?
「おいおい、随分と綺麗になっとるね? 」
「…… 誰かさんが壁ごと掃除してくれたらのう…… せっかくなんで色々と新調したんじゃ」
ギロリと目だけ怒りジジイが口と声色で笑顔を作る
部屋付きの体の大きいルルルは出来るだけ存在を消そうと苦笑した顔で一歩、後ずさる。
「ほぅ…… こんなに見栄え良くなるなら、その誰かさんに感謝しないといかんよ? ギルドマスター? 」
「怒りで抜け毛が増えるくらいに感謝しとるよ赤髪のボケ餓鬼にな…… 」
「はぁー? 感謝してるのに怒るのかい? 感謝してる相手に餓鬼というのかい?妄言多謝って言葉を知っとるか? 」
「…… 盲亀の浮木って言葉で返そう。ワシに感謝は? 」
「ガキなのでその言葉の意味が分からんな」
ハッとジジイは笑い首を後ろに傾け見下す演出で俺を見る。
「ガキはガキらしくしてればいいのによ? 」
「あ"? 何だと耄碌したから言葉を間違えたかい? 可哀想にねぇーーーー? 」
「あん? 何だ? 」
「あん? 耳も悪りぃのかい? 辞めちまえよ人を束ねるには体がついてかんだろ? 」
「「あ"ぁん? なんだコラ! やんのか!? 」」
ギルドマスターとは何故か話すとこうなる。
まぁ、彼はこうなった所で仕事の斡旋を取りやめる馬鹿ではない…… それに……
「もーーーー! ダンデスさんもギルドマスターもやめて下さい! 私、泣きますよ!? 」
といった具合にシャティが止めてくれる。
以前、街中で同じような事があった時にはジジイ2人が悪ノリを続けてみると本当に泣き出したのだ。
「ふえーーーん、お2人が喧嘩するなんて嫌ですよー! 」
俺とジジイはこうなると弱く、宥め賺し涙目のシャティに鱈腹に甘味をご馳走する事になったのだ。
「はぁ、オマエとは喧嘩しかしてないような気がするのぅ」
「正しく」
ジジイは笑いながら注文書の木版を俺に投げ渡す。
「おいおい、投げるかよ? 」
「…… オマエ、どんな手を使った? 確かにワシがヨーネフを紹介した…… そこからなぜ王都で医療の賢者と言われるルー・ルー・ルーに辿り着くんじゃ? 」
「情報料は? 」
「やらん」
しばらくジジイと見つめ合うが…… コイツの情報網ならすぐに辿り着くだろうし素直に言う事で義理を売るか
「—————— 万能薬を作り、ヨーネフ様の娘であるエリアルお嬢様を完治させた…… どうした? 」
ジジイは信じられないと言った顔と動きで俺を見る。
「万能薬を再び作る事は? 」
「出来るが、それには条件がいる…… 以上だ」
「条件…… のう? 」
ジジイめ色々と勘ぐっとるな。まあいい。
「では俺は仕事があるから…… 行くぞ? 」
「…… おう、行け行け! 」
全く、元気なジイさんだよコイツは……
俺はジジイに頭を下げ、シャティと部屋を出た
…… おいおいダンデスのガキは自分が何をしたか分かっとるのか?
最後にしおらしく赤い頭を下げて出て行ったガキを思わず心配してしまうわ。
「おい、ルルル」
「はい、ギルドマスター」
ルルル…… コイツはルールールーと同郷でダンデスのガキがルールーと繋がりを持った事に大変驚いとった。
…… 普通は会えないんじゃよルールーとは
アレは気に入った貴族や王族やらしか看んのじゃ
ヨーネフは元仲間じゃから診断も受けられる。
並みの貴族じゃと部下が診療の対応する…… ルールーの存在を下級の地方貴族の中では知らない者もおる。
ルルルの親は憧れからルールーの名前をもろたと言うとったな。さぞ、彼女に会えるダンデスが羨しかろう。
「その理由が[万能薬]とはのぅ…… 」
「ギルドマスター、それが本当ならば…… 」
「うむ、どんな回復魔法でも治らず、それを治すに必要な物を…… 王国の賢者でも作れなかった物を作れるとなると…… 」
こりゃ、黙っとかんとヤバイかもしれんわい。
ワシゃそれなりにダンデスを気に入っちょるしのぅ
「ルルル、万能薬の事、秘密にな」
「……っ、! はい分かりました。 」
まぁ作った本人がイマイチ分かっとらんからいずれ……
ギルドマスターのゲルハルはルルルの淹れた茶をジッと見てダンデスの安全を願った。
こんばんは!
今日も読んで下さいましてありがとうございます!
もし、少しのパケットを消費する事になるのですが…… 良ければ勝手にランキングのリンクを踏んで貰えたら…… いやいや滅相も御座いません。
出過ぎました。すみません。




