新しい仕事
しばらくは冒険者ギルドの仕事をして過ごす。
よくファンタジーで表現される冒険者ギルドのランクはこの世界にはない。
まあ、当然だわな。
日本で「自作の物販屋を始めました! 」 と道端で手を上げても仕事は来ん。
ISO(国際標準化機構)の規格を取りました! と家の中でテレビに話しても意味がない。
宣伝と信頼、品質と実績
それが仕事になると俺は考える。
派遣会社の受付で職歴はありません! でも各種の国家資格あります! と書類を出して官公庁で働きたいと言うと馬鹿にされるか呆れられるだろう。
この世界でならば、冒険者ギルドで……
冒険者始めました!ランキングはAです!
「なら竜の討伐を任せよう」 とはならんだろう。
…… もし実力があるヤツでもAランクの中には
竜を倒せるのと倒せんの
城の防衛に向くの向かんの
そういうのがおった場合に環境次第で同じランキング内で不公平がでるわ!
Aランクなのに竜を倒せないんですか? と防衛のプロに対してサラ砂の平原で言うのは阿呆じゃ。
Aランクなのに我々を見捨てるんですか? と細い路地が多い場所で背の丈もある大きな剣を構える冒険者に言うのは阿呆じゃ。
冒険者ギルドでの依頼遂行数と達成数、エラー品質を出さない実績を重ねて個人の名前を売る。
個人の名前こそがランキングとなる。仕事の受注は口コミと派遣会社の精査だ。
いくらキーサーチというおかしな能力魔法を持っていても新人の俺と元農民のシャティには相応の仕事を周回するしか出来ん。
「おいしーーい! 」
「…… これ、シャティ大声を出すな、人目につく」
と言っても〈キーサーチ〉と〈luck Key〉がある俺達は命や怪我の心配もなく仕事をこなして過ごしている。
こうして、王都の甘味屋に入り無駄銭を使うぐらいには余裕がある。
シャティは貧農の家庭に居て砂糖は黍のような物を齧るしかした事が無かったらしく毎日の様に浪費をしている。
そのおかげか、ガリガリであった身体はふっくらとしだし血色が良く胸と尻の膨らみも露わになり出した。
もう少しすればミニマムグラマーになり誰か貰い手があるだろう。
「なあ、シャティ美味いか? 」
「うん! ありがとうダンデスさん! 」
ほのかに香る甘い匂いは甘味か? シャティのものか?
もう少しで色気も出るだろう。金の程々にある商人に嫁いでくれたら御の字だ。
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「ダンデスさん、そろそろ次の仕事に行きませんか? 」
「…… 金になって身の丈の仕事なら良いよ」
食べたら働く——— 労働者の基本として冒険者ギルドに出勤すると職員に声をかけられる。
ブルーオーガを倒したという実績をもっての仕事は、ボスを失ってもまだハグレで王都街道に現れるノーマルオーガの討伐を主にしている。
キーサーチを多勢に知られるのもまだ嫌なので誘われる数人組みのパーティを全て断りシャティと2人だけで仕事をしているのだが面倒だった……
シャティと俺しか証言がなくまた、オーガの遺体の状況証拠しか討伐の実力を示す物が無いので次の仕事へのステップアップまで少しの時間がかかったのだ。
「…… 大丈夫だと思いますよ、これが注文書です! 」
「ほかほか、あんがとうよ」
二つ折りの薄い木版を渡されて感慨に耽る
冒険者ギルドの壁にある仕事書は[誰でもいい][出来るならいい]というものばかりだ。
オーガの討伐なんかは力量や信用に足らん冒険者なら受付で止められるが…… まあ、言わば壁の誰でも見ていい仕事は死ぬ死なんどうでもいいような無秩序だな。
直接に渡される仕事はつまり……
「早く見ましょうよ! 」
「ああ、そうしよう」
グダグタとした思考の整頓をしていると肩口からシャティがワクワクした顔で注文書を覗き込む。
俺達はギルドのトイレ横にある扉無しの電話ボックスのような部屋に入り木版の内容を見る。
このスペースは指名の仕事を他の冒険者に仕事を横取りされたり諸般の問題が起こらないように用意されている
「はぁ…… ダンデスさん近くで見るとホント…… 」
赤い顔でシャティが言い澱む。
困った子だと頭を撫でると今度は俯く。
「恋は他でしなさいな」
「ゔーーーーっ」
「まるで仔犬じやの、」
涙目のシャティの背中をポンと軽く叩き木版の注文書を開く。
オーダー内容
報酬としてこの仕事を充てる。
ギルドマスター:ゲルハル
仕事内容【護衛】
王都に買い物に来ていた地方領貴族であるヨーネフとその娘を自領まで送賓する事
報酬
金貨一枚
ps.ワシはタバコの友人と生きたんじゃよ? 子孫であるマツモトの悪虐は目に余る。ダンデスであろうとするなら人脈は必要となろう。ワシに感謝するといい。
————————————ゲルハル
「———————————チッ! ! 」
「…… ! え? ダンデスさんどうしました? 」
「ああ、何でもない。詰まらん言葉遊びをするギルドマスターにイラついたんさね」
タバコの友人…… 異世界人に松本の名前…… 悪虐という言葉と[ダンデスであろうとするなら]か……
ジジイめ…… この数週間で調べやがったな……
ゲルハルは異世界人の友人がいて、 その子孫であるマツモトが俺を貶めた拷問を知っているし許せない。ダンデスと偽名を使い生きるなら人脈は必要となろう…… て事か。
ワシに感謝するといい。
「クソっ」
感謝するしか無い状況になおさら腹が立つ
「…… シャティ、この仕事を受けていいか? 」
「ええ! 私はダンデスさんとなら何処へでも! 」
「そういう言葉は大切な時に言いなさい」
「はい! 大切なので言いました! 」
ふふふと一直線な好意に思わず笑ってしまう。
ホントに良い子だよシャティは。
俺は受付に戻り仕事を受ける事を伝える。
ふと目を上げるとニヤニヤするジジイが見ているのに気づく。
——————————ふん!
俺は一度、ゲルハルに頭を下げ冒険者ギルドを辞した。
短くてすみません。
お昼は吉牛に行きます。
最近は牛皿定食についてくる生卵に生姜を混ぜ混ぜ混ぜしてから肉を浸けて食べるのが好きです。
美味しいですよね吉牛。




