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F・P・S ―Final・Player・Selected  作者: 期待の新人
第一章 人生を賭ける
3/33

オリエンテーション 1

 さて、今日も終わったワケだし、さっさと帰宅して、風呂入って、寝るか。

 早朝、午前六時。車のキーをポケットから取り出し、コンビニの裏に停められていた、燃費の悪いワゴン車に鍵を差し込む。ドアを開け、シートベルトに手を伸ばす、


最上もがみ伸也くん?」


 車に乗り込んで帰ろうとしたが、若い男の声によってそれは阻まれた。

 窓を二回ノックし、無遠慮に男はドアに手を掛けた。「ちょっとお話があるんですけど、よろしいですか?」男は小生意気な笑みを浮かべた。高級なブランドのスーツ――天と地、月とスッポン、縁もゆかりもないような二人組の邂逅だ。


「なんです?」

「キミ、最上くんだよね。おいしい話があるんだけど、ちょっと聞いてくれないかな」


 彼はスーツの内側から一枚の紙切れを取り出し、強引に俺の手のひらにねじ込んで来た。


「……帆野村ほのむら、さん? 株式会社レクリエーション・ツール?」


 思えば、名刺なんて生まれて初めてもらった。


「私はこの会社の、企画開発委員会の委員長を就任していましてね。今日、キミに声を掛けたのも、私たちの開発したレクリエーションに参加してほしかったからです、最上さん」


 再び、帆野村は営業スマイルを浮かべた。急に敬語を使って、わざわざ「さん」付けで名前を呼んだし。


「レクリエーション?」


 悪い人では無さそうだが、『レクリエーション』という言葉があまりにも怪しくて「一体、どういうことなんですか?」腕を組み、首を傾げる。


「サバゲ―、という単語は聞いたことがあるかな? 5対5のサバイバルゲームに参加してほしいのです。一人1000万円を所持し、敵を全滅させればチーム全員で総額一億円を分け合える、銃撃戦。もちろんですが参加費はいただきません」

「……サバゲは知ってます。参加したことはないけど――それって、詐欺とかじゃないですよね。負けたら1000万払わなきゃいけないとか」


 あまりにも縁のない『億』という言葉が出てきて、怪しまない人がいるのだろうか。おまけに、


「現実的じゃありません」

「ふ……。先ほどお伝えしたように、参加費はいただきません。無料で参加可能の一獲千金のチャンス。敵を倒せば賞金が手に入りますし、仮にあなた方のチームが負けたとしても、お金は一切いただきませんからね」

 それに、

「レクリエーション・ツールはこう言ってはなんですが。金が有り余っています。あなたの勤務先であるコンビニエンスストアという事業も、毎日数億円と稼いでいるんですから、現実的ではない、というのは憶測でしかありません」


 帆野村は、駐車場の真ん中にぽつんと置かれた小売店を、一瞥する。

この男が言うことが本当ならば、確かに一獲千金のチャンスである。しかし、世の中美味しい話だけで生きていけるワケがない。

 5vs5ということは、あと九人は必要ということだ。残りの九人がバカならまだしも、きっと怪しんで来ないに決まってる――。


「きっと、最上さん。あなたなら勝てるはずです」

「根拠は――? それに、参加するなんて一言も言ってませんし、」

「あなたの目を見れば解ります。……あなたは必ず参加しますし、必ず『生き残り、帰ってきます』」


 それだけ言い残すと、彼は踵を返して暗闇の中に消えて行った……。

 名刺の裏面には、一週間後の集合場所が記載されていた。



 ……ここで、いいのかな。

 一週間後、俺はバカ正直に集合場所、東京都新宿区のビルへと足を運んだ。地元が神奈川だから、都営新宿線を利用すればすぐの距離にあった。

 俺の心境が変わったのは、二日前だった――。

 どうせ俺の人生は終わっているし、いっそのこと盛大な詐欺に合い、死んでいくのも悪くないと思ったのだ。これが本当の話なら、勝ったときに俺の人生は変わる。敵は五人。それら全員を倒し、一億円を獲得できれば、五人で分け合って2000万。この2000万があれば、昨日まで腐っていた俺の人生も多少は変わる――そう信じ、電車に揺られながらやって来たのだ。

 しかも、もし騙されたとしたら、被害者全員で警察を呼ぶという手もある。十名もの目撃者がいれば、そういう手も打てるのだ。

 集合場所のビルの隣には、つい最近建設されたばかりの、巨大なドームが建っている。新宿一帯を完全に買収し、スポーツ、ライブ、劇、その他、同人即売会等の目的とされて造られたという。

 それには用事はない。あるのは、目の前のビルだ。


「ま、やるだけやってみるか」


 エントランスには『レクリエーション・ツール、イベント専用ホール』と書かれたプレートが備わっていた。

 自動ドアから内部へと入ると、一気に冷房の効いた室内へと歓迎される。かつてないほどの気持ちの高揚感に、室外気温の概念を忘れていたが、気づけばシャツと肌の間をべったりとした汗が張り付いていた。


「こんにちは、名刺と身分証明書をお持ちですか?」


 エントランスには、一人の受付嬢がいた。彼女以外、誰もいない。妙な涼しさの正体はクーラーだけではなく、静かな雰囲気のせいでもあった。

 俺は何も並んでいない受付の前で、帆野村の名刺、そして運転免許証を見せると、


「最上伸也様ですね? 左手のエレベーターから、六階のホールへとお進みください」


 言われるがまま、俺は歩みを進めた。

 エレベーターはやたらと広く、デパートのものを彷彿とさせる。


「……やば、緊張してきた」


 サバゲ―の予行練習はした。草むらに隠れたり、遮蔽物から飛び出して銃を撃つ練習をしたり――持参の銃では参加不能と書いてあったので、衣装共々きっとレクリエーション・ツールが用意してくれるのだろう。

 六階のボタンを押すと、俺一人を乗せた箱はゆっくりと上へ。


「確か……弾が当たったら手を上げるんだよな……猛者とかいたらどうしよ……っていうか、本当に勝てるのかな……」


 詐欺云々の話はすでに忘れ、どうやったら勝てるのか、ということで頭がいっぱいだ。

 エレベーターが開くと、イベントホールと言われる広い会場に着いた。椅子やテーブルは用意されておらず、代わりにちらほらと人の姿があった。

 部屋の一角に置かれた、バッグパックが置かれていた。それが一つだけなのが気になるが、登山でもするのだろうか、と思うほどぎゅうぎゅうに詰められていた。

 バッグパックとは反対の一角に視線を送る――「あれ、伸也?」――友人の声がして、俺はびっくりした。友則の姿がそこにあった。彼は嬉しそうに顔を見上げ、他の数名も一斉に顔をこちらに向けた。



「「「「「「「「……」」」」」」」」



 だが、その後はすぐに顔を伏せた。


「……なんでトモがここにいるんだよ!」


 俺は友則の隣にしゃがんで、耳打ちする。「一週間前、帰ろうとしたところを男の人に引き留められてさ、おいしい話があるって!」彼もまた、同じような口車に乗せられたようだ。


「伸也が来たから、これで十人だ。数は揃ったね」


 彼は嬉しそうだった。周囲を見渡せば、俺と友則以外で八人。

 一番最初に目が合ったのは、ショートヘアの少女で、目の下に深いクマが刻まれていた。彼女はすぐに目を逸らす。その先には、彼氏が彼女を後ろから抱き着く形で待っている、カップルの存在があった。


「……じろじろ見てんじゃねーよ」

「――ッ……す、すみません」ショートの女の子は、すぐに謝った。


 他には、四十近くであろういい歳をした男もいたし、眼鏡を掛けた、やや陰湿そうな女もいた。ずっと体操座りをしている、大人しそうな少年。おせじにも痩せてるとは言い難い、ふくよかな体系の男子。

もう一人。男はずっと、自分の指の爪を噛んでいた。

 彼の瞳は澱んでおり、少年時代から虐待を受けていたと伺える。と、言うのも、彼には見覚えがあったのだ。『RE:Vision』という、一年前に世間を騒がせたな宗教組織がある。……それらを統べる宗派の最高権力者――すなわち教祖と呼ばれた、『緑ヶ丘影像みどりがおかえいぞう』死刑囚である。死刑囚、と言うのは揶揄で、実際は容疑者だ。

 若くして教祖となったが、幹部らを利用し危険薬物によるマンション住民へのテロを起こし――集合住宅だけでも十二件。老人ホーム、さらには有名チェーン店、ブランド店社長宅にまで押し寄せ、殺人罪に次ぎ、銃刀法違反。

 未遂で終わったが、大量の爆薬による新宿駅爆破を企んだテロ等準備罪も兼ね、ネットでは自称裁判官気取りのSNSユーザーに死刑を宣告された。その容疑者がなぜ、この場に招かれたのか――。

影像と目が合うと、ものすごい形相で睨まれたため、「詮索はよそう」と自分に言い聞かせる。


「えー、皆様、お久しぶりでございます。帆野村です。本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


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