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F・P・S ―Final・Player・Selected  作者: 期待の新人
第二章 集中力に欠ける
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荷物と花火 5

 だろうね。ぼくが生きて帰って来れないはずがないんだ。だって……、



「ぼくは、あの『花火』の中を生き延びたんだよ!」



 BOMBERはPADの画面に視線を下ろし、ドローンを起動させる。

 空中を漂うドローンがぴくりと動き、ゆっくりと旋回した。


「ぼくは生きるよ……キミを殺してでも、生き延びて見せる!」


 そして、復讐する。と、BOMBERの心に火を点けたのは、もう一人の散弾銃使いだ。

 BACKPACKはもう一度身を屈めて、ショットガンを拾い上げた。PADに視線を下ろす――左後ろを向き、一発。右手を当てたフォアエンドを後ろへと後退させると、『R―870』の右側面から、大きな薬莢が飛び出した。

硝煙の匂いは、あの日の花火の匂いを彷彿とさせる。

「ぎっ」BACKPACKは小さく悲鳴を上げ、後退した。弾を運よく避け、散らばった弾は草木の中へと消える。

 ならば……。

 BACKPACKにも、考えはある。冷静になって、頭を使え。手元に残された武器はまだ、大量にあった。サバイバルナイフ、形の違う爆弾――二つは先ほど投げた、フラググレネードである。フラッシュグレネード。いずれも、BOMBERに対する回答ではない。


「オレだって生きたいよ! こんなところで死にたくないんだよォ!!」


 PADに映された、黄色の点。それをタップすると『BOMBER』の文字が出る。そう、この段階でBACKPACKは『BOMBER』の意味が何たるかを考えることになる。


「あの子……まだ一度も力を使ってない。『BOMBER』……爆弾――?」

「一生そこで考えてなって!!」


 もう一度トリガーを引く。が、弾が切れた。慌てたBOMBERはその場にしゃがんで、リロードをする。『R870』はポンプアクションと呼ばれるタイプのショットガンだ。弾を込める際は、十の下に位置するローディングポートから、一発ずつをチューブマガジン内部に込めてゆく。


「おっけ」


 BOMBERは最後にフォアエンドをスライドさせ、弾の装填を完了する。

 ここをいつまでも跋扈としているワケにはいかないんだ。


「「はぁ――はぁ……ッ」」二人の息づかいが、ほのかな光の差す、木々の間をすり抜ける。


 BACKPACKは、一番右端に置かれていたスモークグレネードと、バッグパックの底に入っていた最後のアイテム、注射器を取り出した。『Adrenaline』と書かれたテープが貼られていたため、彼は迷わずそれを右足の膝上に突き刺した。


「ああ……あ……!」


 ちくりとした痛みの後に、BACKPACKの頭の中はスッとした。コーヒーやエナジードリンクを飲んだ後とは違う、猛烈に冷静的な、真逆の『興奮』の頂点へと位置するのだ。


「オレは……荷物じゃ、ない」


 その直後、大男はスモークのピンを抜き、真下にそれを落とした。

 煙は踊るようにBACKPACKの周囲を包み込んで、濃い灰色の煙によって、完全に覆われてしまう。だが、


「見えてますよ……」


 上空からのカメラが無かったとしても。BOMBERにはPADがある。真横に移動してゆく黄色のアイコンに向けて、彼はショットガンのトリガーを引く。


「くそっ」


散弾は広がり、煙の中をすり抜けてどこかへと消えた。伏せたのか――? 地面に向けて放つが、またしても無反応だ。その理由は――


「……ッ!?」


 殺すことに集中しすぎたBOMBERのPADには、不可思議な『映像』が映っていた。そして――曲だ。作曲家、ヨハン・ゼバスチャン・バッハ。その曲名は、


「G線上のアリア――」


なんで……なんでッ。

いつもは心安らぐはずのクラシック音楽だったが、さらなる焦燥感を、BOMBERは駆り立てられた。

 映像には、様々な色のブロックがいくつか並んでいる。およそ三十個。これらはタップすると裏返り、元のマップを表示した。すべてをタップし終えると、ようやく正常に戻って、曲も鳴り終わった。

 ホッ。BOMBERはひと息つくが、


「――ッ」


 BOMBERに対して右側面。煙をまとって現れたBACKPACKは、一メートルほど距離を詰め、トリガーを引いた――。


♠ 二日目 午後十六時 D―5 緑ヶ丘影像


信号をキャッチしました。『VISION』起動準備OK。残り使用回数、2回。


 俺はPADを確認した。メールが一件届いたのだ。

 足を止めると、ゆっくりと盾を手に後退する友則の尻が後頭部に当たった。


「っと。キミにそんな趣味があったとはね。まあ人は見かけによらないし。でも、この言葉だけは送らせてくれ、そうか、そうか、つまりきみはそういうやつなんだな」


 友則エーミールの言葉を無視し、俺は告げる。


「…………。死んだ」

「誰が」

「それは……。……クズが死んだ」


 ハ。と、友則は小さく笑って返した。


「このゲームに参加している全員、クズ人間だと自覚しているよ」

「……じゃあ、ヒントだ。俺は彼のことを、よく知らないだろう」

「僕だって、キミのことを全く知らないよ。緑ヶ丘影像っていう名前で、『RE:Vision』という宗教団体の長だったってことくらいさ」

「それだけ知っていれば、充分に知り合いと言えるだろう」


 俺は皮肉を込めて言って、友則の顔を見上げた。


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