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F・P・S ―Final・Player・Selected  作者: 期待の新人
第二章 集中力に欠ける
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荷物と花火 2

♠ 二日目 午後十四時 C―5 来海来夢


「みんなの荷物を背負ってあげられるような……そんな優しい子になりなさい」


 それが、オレの母の願いだった。物心つく前に父を亡くし、女手ひとつで育ててくれた母――。少しでも楽をさせてあげたいと思ったのは、中学の頃だったか。


「ふう、ふう……今日も重いなぁ」


 小学校の頃、毎日毎日重たい荷物を持って登校していた。

 御存じだろうか。

 今の小学生は、筆記用具、教科書、リコーダー、鍵盤ハーモニカ――それらの勉強道具を毎日ランドセルに詰め、登下校をせねばならない。5、6キロもの荷物を持ち歩かねばならないという時もある。

苦痛を訴える小学生は数多く存在した。

 小学校に上がったころから、その重い荷物を運んだことが、まるで勤労にこそ美徳があり、その逆は悪であるという謎の規則が出来上がるのだ。


「おーい、荷物持ちィ! 今日も俺ん家に頼むわー!」

「あ、俺も俺もー!」


オレは生まれつき図体が大きかったから、下校中にみんなの荷物を持って、家庭へと届けるなんてこともやっていた。

オレだけは省かれて――みんなは校庭で遊んでたっけ。そんな日々を送っている間に、『何とかして、小学生への負担を減らしたい』という、浅薄ながら、そんな夢を追うようになった。

教科書等々を学校に置きっぱなしにする、『置き勉』と呼ばれるシステムがある。しかし、それを認可する学校は当時少なく、小学生の苦痛を知る文科省の人間も一握りだ。

ゆえに、オレは文科省の人間になれるように――努力した。

中学、高校と勉強し――そして、大学。

文科省教育委員会への道は、遠くとも近しい距離に位置する――希望が見えた。負担を『背負う』のはオレの役目だと。

だが、オレはその段階で失敗した。試験の合否は――『否』の文字だった。

 そこからは……もう、小学生の荷物が増えようが、どうでもよかった。


「そもそも、オレにはもう関係ない」仕事が与えられれば、教科書なんて持ち運ばなくていい。調べものをしたくなったら、辞書よりもスマホ。


 さらに、ニュースでこの前見たが、すでに小学生の『置き勉』を認める学校が増加する傾向にあり――きっと数年後には、誰も重たい荷物なんて持たなくて済む。そんな世界は、オレが提案なんてしなくても実現される。

 何のために、オレは荷物を背負ってきた。

 オレが背負ってきたのは――荷物だったのか? オレは、当時使っていたランドセルを背負った。黄色の帽子をかぶって、ラインが横に入った、当時お気に入りだった服を着る。

 だけど、着れなかった。パツパツになったシャツが、時代の変化を表している。

 ランドセルの中身は――すべて捨てられていた。子供の頃、散らかしたランドセルの中身を片付けたのは、すべて母だったから。もういらなくなったのだ……、

 希望も、何も……。未来も、過去も。すべて。ランドセルは、空のままだった。


 こんなに軽いものを、オレは背負っていたのか。


 最後に、そんなオレの姿を見た母は、泣きじゃくって言った。



「この家の荷物だったのよ、アンタは」



 と――。

 オレはそのままの姿で家を出た。そして、帆野村に会ったのだ。


「――来海来夢くん、ですね?」


 家から駅に向かい、数十メートル先の交差点で、彼は待っていた。信号は青だったが、こちらに向かってくる様子はない。

しかし、今の時刻は真夜中の一時だ。明らかに怪しい男の次の言葉を、オレは待った。


「おいしい話があるんだけど、ちょっと聞いてくれないかな」


 こうして帆野村と出会い――説得された。一億があれば……『置き勉』というシステムが全世界で認められるようになる、と。そうすれば――


「キミは勝利の金で――キミの声を、世界に公言するんだ」


 大丈夫。



「キミは必ず生き残り、帰ってきます」


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