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F・P・S ―Final・Player・Selected  作者: 期待の新人
第二章 集中力に欠ける
13/33

荷物と花火 1

♠ 二日目 午後十四時 C―5エリア 来海来夢


信号をキャッチしました。『BACKPACK』起動準備OK。


 重たい鞄を背負わされたオレは、銃声とともに『C』とは反対の方向に駆けていた。

 細い腕を掴み、一目散に茂みの中へと入って行く……。


「――! ――……!!」


 鋭い銃声が何発も、小さい島中へと響き渡る。一発は、僕の足元スレスレに当たって、弾丸が地面を抉った。


「!! ――!! っと……ちょっと!!」


 ようやく、犬のようにうるさい女の声が左耳のそばで鳴って、オレは思わず後ろを振り返った。

 手汗でぬめった――確か、名前は日和だったか――彼女の腕はすんなりと抜けた。

 思えば、オレは女の腕なんか握ったことはない。しかし、どこか柔らかかった。脂肪の柔らかさではなく、女特有の――優しい柔らかさだ。


「……ご、ごめん」


 オレは、PADのマップを確認する。C―5エリアは、水辺の近くということもあってか、立派に育った木々が多かった。だが、完全に川沿いの付近へと行くと、道は開け、岩肌が覗いてくる。


「川、か……」


 日和は、オレと視線を合わせないように、水音の鳴る方に歩を進めた。

 彼女が歩くたびに、豊かに実った尻が、弾むように動く。それに見とれているオレは、股間に血が集まっていくのを感じた。

 そうだ。こいつは、彼氏がいたよな。と。だが、今は二人きり。

 オレは周囲を見渡す。この島に来てから、鳥一匹も見てはいない。いるのは、やたらと胴の長い虫や、蛾、それに、地面を這うミミズくらいだ。


「……ねえ、あんた。あんたはその、」

「ッ」


 日和の真後ろに立ち、思いきり彼女の細い身体を抱きしめた。肥えた身体の重心を前に倒すと、いとも簡単に少女を押し倒すことに成功し、短い悲鳴が何度も森の奥へとこだまする。


「おい、やめ、やめろ! 離せ!!」

「うるさい、わ、悪いようにはしない、から!」


 オレは、日和の胸を無理やり掴んだ。握力は48。「痛い!」もう一度悲鳴を上げるので、反対の腕は彼女のひび割れた唇を覆ってしまう。

 食べごろの二十台前半という若さの女は、オレの腹を膝で蹴るが、効かない。


「黙れよ!!」


 興奮により血の集うもう一人のオレを、彼女のパンツに押し当てる。背徳感よりも、快楽と高潮感を求める自分がいる。頼む、今のオレの姿を見ないでくれ。そう願いながら、オレは乳房と、女の唇を交互に揉んだ。


「ふ、うぇ、ゆ、るさな、い! あんた、なん、か、撃たれれ、ば、いい!」


 必死に抵抗するが、およそ倍の体重を持つオレの身体には逆らえず、その分涙を流して体重を軽くしてくれたようだ。


「ふ……ぐ、ふぅ……」


 にちゃああああああぁ。

 オレは、悦びの笑みを浮かべる。

 そうだ、オレは――オレは、オレは、オレは、




「お前みたいな荷物は、あたしたちのチームにいらない!!」




 ……。…………。

 お前も、か。オレを、荷物扱いして――!!


♠ 二日目 午後十四時 C―5エリア 桜井南


信号をキャッチしました。『BOMBER』起動準備OK。


 ぼくと華岡みなみは、女性の悲鳴を聞き、ようやく敵が『B』地点――すなわち滝の近くに存在すると、悟った。


「……どうしますか? 引き返します?」

「いえ、なんだか様子が変じゃない? 女性は自分と裕奈ちゃん、そしてホワイトチームの日和さんだけのはず。裕奈ちゃんたちは、『A』に向かって行ったはず……」


 だとすれば、この悲鳴の正体はなに? と……。そう思った刹那であった。

 茂みの奥から、



「死ね!」



 血相を変えて北西へと駆けていく、少女の姿があった。それだけではない。「バウ!」という、獣の声がした。茂みの中で何かが動いて、それは少女の後を追跡する――。


「な、なんだ」


 思わずぼくは銃を構えるが、間髪入れずに、「待って!」という華岡の忠告によって、銃口を下に下ろす。

 どちらにしても、ぼくの持つ狩猟用ショットガン、『R―870』であそこまで弾を飛ばすのは難しい。


「今のって、やっぱり俊介さんの彼女さん、ですよね」


およそ60メートル先で勢いよく駆けて行った彼女は、おそらく扶桑日和本人で間違いないだろう。


「ええ。髪の毛はすごくボサついてたけど、間違いなさそうね。ずいぶん慌ててどうしたのかしら」


 彼女が森の奥に消えて行った後――静寂の後に、風が木の間を通り過ぎて行った。


「……華岡さんは、彼女を追えますか?」


 そう訊くと、華岡はおもむろに頷いて、PADの『CHASER』アイコンをタップする。

 そうすると、PADの画面はカメラモードとなり――そして、地面の上に点々と現れた『何か』が表示される。


――足跡だ――


 華岡の持つ特殊能力。それは、足跡をPADのカメラに表示させ、追跡する能力だった。難点と言えば、そう、足跡は敵はおろか、味方、ひいては自分の足すらも感知してしまうということだ。

 しかし、ぼんやりと浮かんだ黄色の足跡に対し、自身の足跡はピンク。間違えることはないだろう。


「……そのまま『B』には入らず、C―3エリアから回り込んだほうがいいと思います」

「解ったわ」


 ぼくはPADを起動し、


「あの……聞こえますか、最上さん。その……今、どこにいらっしゃいますか」


 背負っていた小型の機器に手を触れた。それは、四つのプロペラが付いた、ドローンだった。

E・M・P:『俺は今、D―2を抜けて、C―2に入ったばかりだ。……妙な、ドームがある。が、中に入ることはできない』


「ドーム、ですか……。その話は、おみやげとして後で聞きます。今、援護に来れますか?」


ドローンには小型のカメラと、赤い配線が取り付けられた、『おもり』のようなものが付いている。それは、


「今から『BOMBERボマー』ドローンを起動させます」


 爆弾である。

それを比較的安定した地面に置き、ぼくは数メートル後ろに下がった。そびえ立つ大木を視認したので、それの真後ろに、ぼくは隠れた。


「華岡さん。後はお願いします」


 彼女は短く頷いて、中腰になった。木々を縫いながら、ゆっくりと歩を進める。そして、マップ上の赤い点が移動するのを視認すると、ようやくC―2エリアのうちの一人がこちらの方へと近づいてきた。およそ、2キロはある。一時間は掛かると予想し、ぼくは『BOMBER』のアイコンをタップする。


「できるだけ、『B』に近づこう……」


 牽制もしながら。

 PADには、簡単な操縦ボタンが表示された。上昇、降下。左右前後。そして旋回である。そして中央にはドローンに取り付けられたカメラの光景が映し出されていた。正面と真下の、45度までであれば、自由にカメラの操作ができる。


「そのまま……」


 およそ高度15メートル、目標地点たる60メートル先。風で飛ばされないように、木の葉の近くで停滞させたいが……。葉がプロペラに絡まるのを考慮すると、これ以上の接近はできないだろう。


「……あと、二分か」


 PADに表示された電子時計は『14:58』を表示していた。三時間おきに、どこかのエリアが封鎖される。すでに北東と南西、その他もろもろ、その中に入るのは不可能となっている。が、事実上、これらは完全にフェンスが現れて入れないというワケじゃない。その中に間違って侵入すると、必ず入った者にデメリットがある。


「いた」


 と。カメラを真下に向ける。そこには、なぜか半裸の大男が息を切らしながら、左手の甲を抑えていた。


「察するに、」


 大男は、おそらく敵チームに回った、あのバッグパックを背負わされた男だろうか。確か、名前は解らないが、彼はゆっくりと半身を起こし、バッグパックの封を開けた――。


「……ッ」


 その中には、ありとあらゆる危険物が詰め込まれている。CODやBFなんかのFPSゲームで出てくる、投擲武器ばかりだ。それらを草むらの上で広げ――吟味する。

 手に取ったのは、いわゆる『フラッシュバン』と呼ばれる、殺傷力こそないが、相手の視力を奪うものだ。

 それを――


「え?」


 カメラは真上をとらえており、男はぼくのいる、大木の方向へと投げる。

 カラン、と音を立てて、僕の足元には筒状のスタングレネードが投下された――!



「――ッ!」



 激しい光に、ぼくはあっと声をあげて目を擦る。間一髪で目を閉じたが、あまりの眩しさにしばらく視界がバカになった。

(あいつ、ぼくのいる方向が解って――)



――ィン……



それに、なぜか耳鳴りがする。何分この状況が続いたか解らない――その間に距離を詰めてきたかもしれない、と。ぼくは何度も瞬きをしながら、PADを確認した。


「……ッ動いて、」


 ない。ただ、覗き込むように彼は身を傾けて、こちらの様子を確認した。


「お、おい……」


 男は口を開いた。


「そ、そ、そこに……いるのか?」


 ぼくは思わず口元に手を当て、姿勢を低くする。幸い、このあたりは草が生い茂っており、伏せて移動すればなんとか見つからずに移動できそうだ。

 逆に、彼は図体が大きい。逃げ果せるなら今がチャンス――だが。


(あいつを仕留めなければ、きっと先ほど負った女の後を追う――そうしたら、華岡さんが危ない――!)


 ぼくは、唇を噛み締めた。


「…………ああ」


 短く返事をする。PADのカメラを確認すると、ずいぶんと臆病なのか、大男はびくんと肩を震わせた。


「ぼくは、南。桜井南です」

「……ッえ、っと……。あの……」

「あなたの名前は?」

「…………来海、来夢」

「なるほど。来海さん、残念ながらぼくたちは……殺しあわなくちゃいけないみたいですね」


 死線――。

 それをかいくぐった者にだけ、一億という大金は支払われる。


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