会議室 1
新宿某所ビル。会議室を装ったモニタリングルームは、『人類選別』の瞬間を見届ける、二人の男がいた。
『株式会社、レクリエーション・ツール』。
代表取締役社長と、その騎士である、企画開発委員会委員長、帆野村だ。
選別される十名の落とされた島の、南東から北西、北東から南東への航路を行ったり来たりする二台の飛行機。そこから見える景色が、会議室の巨大なモニターに投影されていた。
「……企画開発委員会委員長」
「はい、なんでしょう」
帆野村は立ち上がって、社長の傍へと歩を進めた。社長は、年寄りだった。妻を病気で亡くし、子は事故によって失った。その背中はどこか寂しそうだ。
「選ばれし屑は交戦し――そして、この戦闘を通して、何を得る?」
「それは、失われた時間でもあり、これからの人生を謳歌するための、金でもあります」
社長は、呑みの席でも自分が運転するからと言って、いつも酒は飲まなかった。しかし、殺風景な彼の机の上には、小さなノートPCと、ワイングラス。
――一本の、赤ワイン。コルクを抜いてから、すでに二十四時間が経過していた。
一向にそれは注がれる気配はない。が、いつでも飲むことができる。用意周到ではあった。
「高価なワインほど、興味のないものはない。飲んで、喉に通し、食道から胃の中にそれが垂れれば、果たしてその胃袋にはそのワインの価格を越えられるほどの値が付けられると思うか?」
社長は言う。
「答えは、無い。あるいは、一瞬だけはあるかもしれない。『値段』の付いた状態とは、胃液と混ざらないようにワインだけを摘出し、開封後と等しい保存状態を保つこと。
それは、奴らも一緒だ」
飛行機からの映像がズームアップされ、黄色のテントを映す。背を向け、行くべき場所の反対側に歩き出した狙撃手の姿があった。
「死ねば、価値が下がる。と、言うことでしょうか?」
「それは違うな――。奴らは死ぬことにも価値がある。そうすることが、世界を保つための――『人類選別』――なのだからな」
室内の温度を適温にするエアコンの音が、静かに鳴っていた。