5話 ー魔法使いー
夢。
多分、これは夢だ。
人は夢を見る時、周りの状況が余りにも現実離れしていると、途中で夢の中だと気がつく事がある。
だからこれは夢なのだ。
何故なら。
「…… ハグハグっ!ハグっ、ハグハグハグっ!!」
小学生くらいの金髪美少女が、五合炊いていた米と300gの牛ステーキ4枚と30個のギョーザと10本のエビフライと鍋いっぱいのシチューとボウルに入ったサラダと焼き魚とパスタと唐揚げと……を目の前にしても、怯まず食べ続けているのだから。
すげぇよ。
何が凄いかって、ペースを落とす事なく既に5分の4は平らげているこの子も凄いが、それらを全て一人で作り上げたオレすげぇ……。
いろんな意味で夢を見ているみたいだ。
人間やろうと思えば何でもやれるもんだなぁ、お互いに。
あれからどうしたかと言うと……。
先ずは救急車を呼ぼうとしたのだが、ここは森の中で車は入ってこれない。
動かすのはどうかとも思ったが、頭に怪我を負っている訳ではなさそうなので、とりあえず我が家に持ち帰ってから掛かりつけの医者に来てもらった。
結果、ただの疲労と言う診断だったので、そのまま寝かせて様子を見る事にした。(因みにナギの部屋のベッドを使わせていた)
で、ぼちぼち夕食の準備をしていると、目覚めた女の子がキッチンに来て……。
「……おなか、空きました」
と、可愛い腹の虫を鳴らしながら裾を掴んだのだ。
初めはお茶碗一杯のお粥さんと、食べやすいように解した焼き魚を少々…… いきなり食べても体に悪いかと思い少なめに出したのだが、それは瞬きする間に消えている。
オレ達の夕食分も出すと、これまた凄い勢いで無くなっていくではないか。
逸早く状況を察したオレ達はアイコンタクトを交わし、ナギは急いで食材を買いに行き、それを受け取ったオレは兎に角料理を作った……。
そして現在に至る。
オレとナギは積み上げられていく皿を死んだ魚の様なめで見ることしか出来ず、最早表情を変える事もままならない状態。
抜け殻だった。
「ハグハグっ!ハグハグっ!!」
それでも少女は食べ続ける。
そして最後の一口を食べた少女は、満遍の笑みを浮かべてこう言った。
「おかわりです!」
二人同時に椅子から転げ落ちて頭を打った。
「大変ご迷惑をお掛けしました……」
数十分後。
しっかりおかわりを食べ終わり、一旦お腹の調子が良くなるのを待ってから、改めて少女と向き合った。
スッとした顔立ちに吊り目気味の碧眼。
膝まであろうかと言うくらいの長い金髪で、前髪の左側には羽根の様な髪留めをしているのが印象的だ。
「…… えっと、聞きたいことは色々あるんだが、先ずは自己紹介から。オレは桜庭遥希で、こっちは東雲凪咲」
ぺこりとお辞儀するナギ。
どうやらまだ夢の中にいるようで、半分意識が戻ってきてない。
「で、お前は? 地元のヤツじゃないな、見たことないし……」
流石に島の住民全員を知っている訳ではないが、こんな目立つ小学生がいたら噂くらいにはなってるだろう。
「…… シャーロット。シャーロット・ハーツです。遅くなりましたが、助けて頂きありがとうございました」
こちらもお行儀よく頭を下げた。
「日本人…… ハーフか? 日本語完璧じゃないか」
「いえ、イングランド…… イギリス人です。日本語は友達のおばあちゃんに習いました!」
フンス!と胸の前で握り拳をする金髪幼女。
なんだか微笑ましい。
…… 冷静に考えれば、この歳の子が母国以外の言葉を完璧に話せるのってかなーり凄いことなんだが、ウチにも一人いるからなぁ、天才が。
すんなり納得できてしまう。
「まぁ日本語が通じるんなら助かる。でだ、本題だけど、どうしてあんなところで倒れていたんだ? 両親はどうした?」
問題はそこだ。
もしご両親と旅行に来ているのであれば、一刻も早く連絡してやらないといけない。
夕方前にこの子…… シャーロットさん? ハーツさん?を拾って医者に見せて飯食ったりしたので、もう深夜帯に入ろうかと言う時間になっていた。
「…… 両親はいません。随分前に亡くなりましたから……」
エヘヘと笑う彼女の笑顔が痛々しかった。
「…… そうか。では何故この島に?」
オレは敢えて謝らず、話を進めた。
「実は……」
シャーロットはポツポツと話し始めた。
彼女はイギリスで生まれ、まだ記憶も曖昧な時期に両親を亡くし、祖母の元へ引き取られたのだとか。
そして最近まで祖母と各地を転々としていたのだが…その祖母も亡くなってしまった。
最期に祖母が、この慧神島の知人を頼る様に言い渡されていたシャーロットは、遥々この島に来た…… まではいいものの。
「…… 路銀は既に尽き、最後の金もこの島に来る定期船に使ってしまったと」
「…… はい」
「その知り合いとやらは見つかったのか?」
「…… いえ、実は名前はわからないんです。ただ一つわかっているのは」
シャーロットは居住まいを正して言った。
「その方が、慧神島に住む魔法使いだと言う事です!」
「「!?」」
…… 魔法使い。
それは一部の人間しか知らない存在…いや、信じない存在。
それを宛も当たり前に実在する様な口振りで言った。
もしかすると…。
「もしかして、お前は魔法使いなのか?」
「はい、そうです! その中でも私は幸運な事に生まれつき膨大な魔力を持っているので、大抵の魔法は使えます!」
えへんと胸を張るシャーロットを他所に、オレといつのまにか復活したナギはアイコンタクトを飛ばし合う。
「(どうする?オレ達が魔法使いだって言うか?)」
「(この島では大丈夫かもしれないけど、ちょっと様子を見ましょう…もしかしたら何かの冗談かもしれないし)」
結論は出た。
一先ず誤魔化す事にしよう。
「魔法使いねぇ…… 確かにこの島には魔法使いに関する物語が多いけど、実際に見たことはないな。そもそも魔法ってのが現実にあるのか? 少なくともオレは見たことがな……」
「嘘ですね。ナギサさんのリボン、マジックアイテムですよね?」
「「うっ!?」」
間髪入れない指摘を受けて、二人同時に背筋が跳ねた。
ナギがポニーテールにする際、いつも決まって同じリボンを使って髪を結わえる。
それはずっと昔、オレがナギにプレゼントしたものだった。
オレの"願いを叶える魔法"を掛けて。
「そのリボンからは、微弱ながら魔法の力を感じます! なので、魔法の事を知らないと言うのは嘘です!」
「「ししし、しまったぁぁぁっ!!?」」
ビシィッ! と指を差すシャーロット。
ノリノリである。
あと、微弱で悪かったな。
「…… まぁ、確かにオレ達は魔法使いだ。けど、あんまり周りで魔法魔法って言うなよ? 海外はどうか知らんが、日本ではただのイカレポンチだと思われちゃうから゛っ!?」
「ちょっと、こんな小さな子の前で変な言葉使わないのっ!」
「い、いかれ…… ぽ…… ?」
「ほら真似しちゃったじゃない!謝れこのっ!(蹴り)」
「…… 申し訳ございませんでした」
ただ、魔法使いのことに関してはあまり公にしない方が良いことは確かなので、改めて注意しておいた。
「そ、そうだったのですね…… 以後、気をつけます!」
すんなり理解してくれた。
「頼む……そういや路銀は使い果たしたって言ってたな?ってことは、この島には滞在する間どこに泊まるんだ?」
「…… ? 決まってます、やはり野宿…」
「ダメよ!」
バァーンとテーブルを叩くナギ。
テーブルが傷つくからやめて欲しい。
「女の子が野宿なんてダメっ! 服もボロボロだし…ハル、部屋は余っているんだし、知り合いが見つかるまでここに泊めてあげようよ?」
もちろん言われるまでもなくそうするつもりだった。
「あぁ。空き部屋片付けて布団出しとくから、お前らは風呂入ってろ… その泥まみれの服や布も洗濯にだしとけよ」
「了解。さ、シャーロットちゃん、お風呂場はこっちよ!」
「は、はい、ありがとうございます…… !」
ナギはまだ状況をよく理解していないシャーロットを連れて風呂場へと消えていった。
……さて。
オレはケータイを手に取り、いろんな場所に連絡した。
多分、明日は例の魔法使いを探し回る羽目になるはず。
今から情報を集めておけば、よりスムーズに動けるだろう。
連絡し終わった後、空き部屋を軽く掃除して布団を用意した。
3人暮らしか…… 久しぶりだな。
突然始まった期間限定の生活に、少しワクワクしている自分がいたのだった……。
一方、お風呂場では……
「うわっ、シャーロットちゃん髪キレイ…肌も凄いハリがあって…… 羨ましい、やはり年の差かっ!?」
「あわわ…… な、ナギサさんとあまり変わらないと思いますが……」
「違う、ぜんっせん違うわ!くぅーっ、英国の血も羨ましい…… 既に私と同じくらい………あるし…」
「そそそそんなことないです!ナギサさんのキリッとした顔立ち、凄くキレイですっ!」
「ありがとっ。でも、シャーロットちゃんも後5年もすれば、自ずと大人っぽさに磨きがかかるわよ!」
「ふふっ!流石に二十歳にもなれば、もう大人っぽさと言うよりは立派な大人…… ですね!」
「えっ?」
「…… えっ?」
夜は更けていく。