3話 ーstella Ⅶ (ステラ セブン)ー
「ハル兄おっはーっ!」
やはり来たかっ!
そろそろだろうと予め準備していたので、そこまでよろける事なく踏ん張れた。
「おい、奇襲はヤメロといつも言っている筈だが?」
「ハル兄だってアタシがそろそろ来る頃合いだって思ってたでしょ? だからこの場合奇襲じゃなくて、お約束って言うんだよ、多分!」
どんな理屈だ……。
少々強引に背中からソイツを降ろす。
「ところで、片割れはどうした?」
「あ?そろそろ来る筈だけど……あ、来た来た、相変わらず足遅いなぁ」
奇襲をかけられた方を見ると、もう一人こちらに駆け寄ってきた。
「はぁ…… はぁ…… 姉さん、足、速いよぉ……」
ヨロヨロとオレ達に合流したソイツの前髪は長く、右目が完全に隠れていた。
そんな状態で走らされるとは…… かわいそうに。
「相変わらずね、二人共。おはよう、ユウ、トモ」
ナギが二人に挨拶をした。
鷲峰遊七と鷲峰智世。
双子の一年生で、オレ達の幼馴染だ。
吊り目でショートカットの髪がツンツン跳ねているボーイッシュな方が遊七。
女子野球部に所属しているスポーツ少女で、実力向上の為の努力は一切惜しまない頑張り屋さんだ。
現に、登園中の今でもハンドグリップをニギニギしていたりする…… 学園に入る前からずっと努力している凄いやつさ。
しかし頭は悪く背も低い為、周りからは『アホ可愛いキャラクター』として認識されている。
本人曰く、「馬鹿と天才は紙一重…… つまりアタシは紙一重で "天才" って事だなっ!」との事。
発想が馬鹿のソレである。
人懐っこい性格の為、上級生は愚か同級生からも"妹"のような存在として扱われることもあるようで、ユウを見た男子の目は "お兄ちゃんの目" になると聞いたことがあったっけ。
垂れ目で肩まであるボブヘアーがお淑やかさと柔らかい雰囲気を出している方が智世。
右目が前髪で完全に隠れているのも特徴的だ。
こちらは料理研究部に所属し、家事も完璧にこなす大和撫子で、運動の方は苦手としている。
が、成績は超優秀で飛び級の話が来たこともあるくらい頭が良く、また家庭的で人当たりも良い為、学園内では『彼女にするなら二年の東雲凪咲、お嫁さんにするなら一年の鷲峰智世』と言う者も多いと言う。
ただ、どちらかと言えば内気な性格で、あまり目立たないように学園で生活しているので、男女問わず支持している人間は、影からこっそり見守らなければならないと言う暗黙のルールがあるとかないとか。
お転婆な遊七と、しっかり者の智世。
こう見えて、実は遊七がお姉さん。
妹の方が背も高いし大人びているので間違えられやすいのだが。
まぁ、双子なので黙っていればよく似ているのがわかるのだが、状況を見てわかる通り、性格や行動パターンは似ても似つかない。
一体どこで差がついてしまったのか。
学園の歴代七不思議として早くも登録されようとしている事を、まだこの二人は知らない。
オレ達は二人のを、ユウとトモと略して呼んでいる。
余談だが、オレの癖として…… 特別仲のいいヤツの事を二文字に略して呼ぶクセがあるらしい。
二人をこう呼ぶ様になったのも、オレがそう呼び始めたから自然と周りの連中も真似しだした結果だった。
「いやね、楽しいことが近づいてくるとなんかこう…… 無性に動きたくならね?」
「わ、わたしは雨とか不測の事態で予定が無くならないか心配で不安になるよ?」
「トモが言ってる事、何となくわかるなぁ…… 実際に予定が中止になっちゃった日にはションボリするもん」
「ダウトだナギ。お前はそうなったら部屋にあるぬいぐるみとかに八つ当たりするタイプだ」
合流した二人は自然な流れでオレ達と一緒にじゃれ合いながら学園へ向けて歩き出す。
これもいつもと変わらない日常だ。
…… とすれば、もうすぐ奴らも顔を出す筈だが……。
「…… ハルぅ〜っ、聞いてくれよぉ!」
ほら来た。
学園が見えてきた時、新たな参戦者の声が後方から聞こえてくる。
迫ってくるのは二人の男子生徒。
一人は茶髪でピアスをつけた如何にもなチャラ男。
もう一人は、長身金髪の童顔イケメン。
情けない声でオレを呼んでいるのはチャラ男の方で、金髪の方は、ヤレヤレと言う感じでチャラ男を見ていた。
「なんだヒロ、ついに娑婆にいられなくなる様な事でも仕出かしたか…… あれだけバレない様気をつけろと何度もさぁ」
「違ぇよ!? この前買ったエロゲー、パッケージに映っていたピンク髪のロリが可愛かったから買ったのによぉ…… そのロリ、攻略対象外キャラだったんだよぉ!」
どうでもいい事で涙を流すチャラ男…… 黒木弘信。
学校では『彼女作りてぇ〜』とか言うチャラ男だが、反面、プライベートではギャルゲーやエロゲーと言った恋愛シミュレーションゲームにどっぷりハマっている業が深い男だ。
…… 一応幼馴染なのでこいつの事はよく知っている。
普段はおちゃらけて、女!女!と言っているが、いざ女の子と話しをすると、途端に勢いがなくなる。
要はかなりの照れ屋なのだ。
「前情報も見ずに購入する冒険心は見事なモノだが…… 自分が選んだ道なのだろう? ならば前に進むのみだ! …… 差し当たり、そのゲームのファンディスクにでも期待して待っていろ。僕に泣きつくんじゃない」
「進んでねぇじゃねぇか! なんだよ進めって言っときながら待てってよ!?」
「…… 時には待つ事こそ、最大の前進に繋がることもあるのだ」
この理的に話す金髪イケメン…… リチャード・アルヴェイン。
見た目通り海外出身なのだが、どこの国の出身なのかは謎である。
謎なのはそれだけではない。
現在住んでいる場所も、両親の仕事も、何故日本語を話せるのかも、普段どこにいるのかさえ不明である。
唯一分かっているのは、この男が大の冒険好きな事。
この前も休み明けに、何処何処の秘境を探索して来たと言って、そこで拾ってきたであろう紫色の石を土産として渡された。
知り合いの店で鑑定してもらったところ、正真正銘、宝石アメジストの原石である事が判明し、驚いたのをよく覚えている。
「…… で、今までリッちゃんに愚痴をこぼしていたと」
「そうさ…… でも、お前にも聞いて欲しかったんだよぉ!」
また泣き崩れるヒロ…… 哀れ也。
因みにリチャードは高校生からの付き合いで、このメンバーの中では一番新しいメンツだ。
オレは"リッちゃん"と呼んでいる。
何故そう呼ぶようになったのかは忘れた。
「…… うわぁ、男どもがなんかキモい話ししてるわ」
「ん、なんだ?ゲームの話か!? 貸せ、アタシがソッコーでクリアしてやる!」
「ね、姉さん、そのゲームはあまり姉さんに…… と言うか、女の子に合わないと思う……」
外野から白い目で見られ始めたので、首謀者のヒロをぶん殴っておく。
「ぁいってぇなぁ! …… そう言えばメグ先輩は?」
「今日は生徒会の仕事があるって、昨日生徒会室で言ってたわよ?」
「お前は行かなくていいのかよ、寝坊助」
「私じゃ役に立てない仕事だからいいのよ。あと他の人達の前で寝坊助なんか言ったら、アンタを永遠の眠りにつかせてあげるわ」
凪咲、遊七、智世、弘信、リチャード、オレ。
そしてもう一人、この学園の生徒会長である春夏秋冬 廻流を含めた7人グループ。
学園の生徒達は、オレ達の事をこう呼ぶ。
"stellaⅦ。
誰が言い出したのかは知らんが、現学園生の中で特に注目を集めているメンバーが一つのグループに集まっているので、其奴らをステラ…… "星" に例えたのか、いつのまにかそう呼ばれる様になった。
しかし…… ナギ、ユウ、トモ、メグ先輩の噂はしょっちゅう聞くし、リッちゃんも王子様の様な風格で主に女子から注目を集めているから "星" としても恥ずかしくないだろうが。
「…ところでさ、俺ら、絶対 "星" ってキャラじゃないよな?」
「それ以上言うな。気付いてはいけない」
ヒロも同じことを思っていたらしく、隣にいたオレに耳打ちしてきた。
明らかにオレとヒロはオマケとして数えられている。
「そうか? ハル兄、一年の間じゃ人気だぞ? 面倒見が良いって! なんか優しそうだってアタシの友達が言ってたぞ!」
「…… む」
「ハル兄さん、この前生徒会の手伝いしていた時、一年生の役員を助けたでしょう? その子、頼り甲斐があったって言ってたのを聞いたよ?」
「…… むむっ」
「僕も聞いたことがある。会長と話している時の桜庭君は、年下の男の子って感じで可愛い…と。これは三年生の話しだが」
「……… むむむぅっ」
マジか、まさかそんな噂があったとは…… オレも隅には置けないね!
まぁ、お世辞だろうが、有り難く受け取っておくか。
…… で、なんでナギは更に機嫌が悪くなってるんだ?
まさか…… 寝坊助発言が敗因だったか…… っ!
「それじゃオレだけ仲間はずれかよぉ!」
「いや、お前はお前で支持されているぞ?」
「マジかYO! どんな噂だ!?」
「僕も知っている…… 男子からだ。お前が勧めてくれる漫画やゲームにハズレはない。水無星に彼を超えるヲタクはいないと専らの噂だ…… 名誉なことではないか!」
「オレだけ汚名じゃねぇかよぉぉ!」
いつも通りヒロが落ちに使われて皆笑顔を零す。
これが、いつもの風景だ。
楽しく会話していると、長い通学路もすぐに終わり学園に辿り着く。
今日も、学園生活が始まる。