2話 ー慧神島ー
4/14 4:45分現在まで、星見祭が開催される期間を
『6月下旬、3日間』
と記載しておりましたが、今後の展開の事を考えると、多少無理が出てくる設定となってしまいました。
誠に勝手ではございますが
『5月下旬、最終土曜日』
この一日だけ開催させることと致します。
これまでご覧頂いたユーザー様には、大変なご迷惑をおかけする事をお詫び申し上げます。
日本の九州から西の方角へ数十km離れた場所にポツンと存在する島…… 慧神島。
ドーナツ型の形状した島で、その中心にあるのは "満零湖" と言う湖がある。
波が殆ど無く、良く晴れた日の夜には満天の星空をその水面に映し出す事から、通称『星見の鏡』と呼ばれている。
島の周囲には他の島や日本本島に繋がる道やトンネルはなく、また飛行場もないので、上陸するには海路…… 船を使わないといけない。
しかし、それでもこの島は満零湖を始めとした名所が多い為、世界的な観光スポットの一つとして雑誌に掲載される程人気を集めている場所だ。
なので、こんな日本から遠く離れた孤島だが、観光客が度々訪れているので賑やかな毎日が続いている。
慧神島の特徴として、島内で其々その目的に長けたエリアがキッチリと分けられていた。
エリアは大きく分けて7つ。
一つは港エリア。
文字通り、この島に上陸する定期船が停まる場所で、慧神島のお土産なんかが多く販売されている。
二つ目はアミューズメントエリア。
ショッピングモールやゲームセンターなどが集まる娯楽に特化した場所で、大手の物には劣るがそれでも十分な広さとアトラクションの数を誇る遊園地も存在する。
三つ目はキャンプ場・海水浴エリア。
自然豊かな慧神島を堪能できるスポットで、夏には地元民から観光客まで様々な人達で賑わい、また日の出も見られる為、絶景ポイントとしても人気を誇っている。
四つ目は立ち入り禁止エリア。
この島の一部には大きな岩山があり、足場が悪く、また害虫害獣も多く出る為、特別な許可がない限り一般人の立ち入りを制限されている場所だ。
五つ目は居住エリア。
この島に住む人の居住区で、周りに観光スポットと呼べるものもないので、基本的には静かな場所となっている。
因みにオレ達が通う学園もこのエリア内にある。
六つ目は季節公園エリア。
"季節公園" と言う森の中にある公園で、散歩やピクニックをするには打って付けの場所であり、中には子供達が遊べる公園もある。
また、森を作っているのは "慧神樹" と言う樹で、春夏秋冬季節ごとに違う花を咲かせる非常に珍しい植物…… 故に、植物学的にも注目を集めている。
慧神島にしか生息しないので、ここも一部の観光客に人気があるのだ。
最後に星見エリア。
満零湖を含む美しい風景を楽しめる場所で、特に夜になると、その湖に映し出された夜空を一目見ようと観光客が挙って押し寄せる。
そのエリアの更に奥へ進むと、満零湖と慧神島全体を見渡せる地元民しか知らない高台がある。
以上がこの島の全貌。
そんな島に住むオレ達の家は、季節公園に近い場所にあって、みんなが住む居住エリアから少し外れた場所にあった。
故に。
「あぁもう、結局ちょっと走らないと間に合わない時間になっちゃったじゃないのよっ!」
「お前のせいなんだよなぁ……」
学園からも離れていると言うことでもあり、恐らく学園と自宅との距離は在学生の中でもトップクラスで離れている。
ちょっと油断してステキな朝を過ごしてしまうと、本日の様に慧神樹の並木道をマラソンする羽目になる訳だ。
その並木道を抜けた途端に、隣で走っていたナギは急に速度を緩めて優雅に歩き始めた。
「あら二人とも、おはようねぇ」
正面に向き直ると、この並木道に一番近い場所に住んでいるおばあちゃん、高田さんが声を掛けてきた。
家が一番近く、ウチは子供二人だけで暮らしていることもあって、小さい頃からよく面倒を見てもらっている、本当のおばあちゃんみたいな存在だ。
「おはようおばあちゃん、今日も元気そうで何よりです」
先程までオレを鬼の形相で見ていた顔は何処へ行ったのやら。
アイドル級のスマイルでナギは挨拶を交わしていた。
小癪なことに、走って乱れていた制服や髪の毛はしっかり整えられていて、流れていた汗も完璧に拭かれ、荒れていた吐息すらも通常通りになっていた。
側から見れば今まで走っていたなんて誰も思うまい。
「学生さんは大変ねぇ…… 今日も勉強頑張るんだよ?」
「はい。生徒会役員として恥じないよう、学園生活を謳歌しますよ!」
…… オエッ。
これが家の外での東雲凪咲の姿である。
家ではズボラな癖して、他人の目があると途端にスイッチが切り替わり、如何にも優等生としてのキャラクターとなる。
やはりコイツは詐欺師だ。
込み上げてくる吐き気を必死に抑える。
ナギの顔を知っているのはオレを含め極限られた連中しか知らない。
「…… あら、ハル君はどこか具合が悪いのかしら?」
「いえ、彼は今日寝坊しまして……今、先に家を出た私に走って追いついたばかりなので疲れているのでしょう、ね?」
そう言って肩に手を置いてくるナギ。
学園でもこういったスキンシップが多く、しかも誰に対しても友好的な態度を取るので、老若男女問わず人気がある。
特に男子からの支持は厚く、オレ達と同じ学年…… 二年生の間では『彼女にしたい女の子No.1』との声も高い。
噂によれば、一年生や三年生も注目していると聞いたことがある。
……ので、幾らオレがナギの普段の行いを公に晒したところで誰も信じないだろう。
そう考えている内に、肩からはジワジワと痛みが増していく。
徐々に握力をかけているのだ、この女は。
「(余計なことは言わないでよ?)」
アイコンタクトをキャッチしたオレは、ビシッと言ってやった。
「そうなんだよ。いやぁ、春眠暁を覚えずって言うか最近寝起きが悪くてさぁ」
勝ち筋は見えなかった。
これ以上機嫌を損ねられても面倒くさいので、鍛え抜かれた演技力でナギに合わせる。
「大丈夫?随分急いで来たみたいだけど……」
「…… あぁ、大丈夫だ。認めたくない現実に目を背けたいだけで」
気遣いアピールも欠かさない辺り、ナギの猫被りっぷりは最早達人の域にまで到達しつつある。
「ほっほ、凪咲ちゃんは将来、いいお嫁さんになるねぇ……」
「や、やめてくださいよー!まだまだ至らぬところが多い学生ですよー?」
この様にご近所との付き合いも良いので、商店街で買い物をすると何かとオマケしてくれる店が多い。
その辺、家事をしているこっちとしては大変有り難いのだが…… どうにも納得できない。
「….… では私達はこれで。 行くわよハル!」
「あぁ、じゃあなばあさん。今度また庭の掃除手伝うよ」
高田さんと別れて再び学園に向かい歩き出した歩き出した。
程なくすると、チラホラと学園生を見かけるようになり、学園に近づくにつれてその数も多くなる。
気がつくと周りは学園生でいっぱいになっていた。
私立水無星学園。
偏差値が高いわけでも、特別な授業が受けられるわけでもない、何処にでも有り触れた学び舎。
違うところと言えば、この学園…… と言うよりこの島全体に言える…… は、大層なお祭り好きらしく、体育祭や文化祭を始め、クリスマス祭、卒業祭と事あるごとにイベントがあるので退屈しない点か。
直近であるのは5月に開催される "星見祭" 。
本来この島の行事で、5月の最終土曜日に星見エリアの一部でお祭りが開催されるのだが、それに便乗して前日である金曜日に規模を小さくした文化祭を開催するのだ。
4月後半の現在。
その時期を意識してか、生徒達……特に入学したばかりの一年生達はかなり浮き足立っていた。
「ハ〜ル〜兄っ!!」
と、周りの学園生を見ながら通学路を歩いていると。
浮かれている学生の筆頭がオレの背中に抱き付いてきた……。