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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
26/55

23話 ー 凪咲の想い ー

 





 後夜祭が始まった。



 体育館ではライブや漫才といったステージパフォーマンスが行われており、どうやら最後には有名なアーティストが登場するとの噂も広がっているらしい。


 体育館内はかなりの盛り上がりを見せているらしく、体育館の近くにあるゴミ捨て場にいるオレの耳にもガンガン伝わってきた。



 …… ところで、何故オレは後夜祭が始まっているにもかかわらず、こんな所でゴミと戯れているのか。


 それは、後片付けの時に「片付けくらい頑張るよ」と言ってしまったことが原因である。


 確かに頑張ると言ったし、その気持ちに嘘偽りはなかったのだが、何も全部を押し付ける事はなくね?




 そして漸く、最後のゴミを持って来たところだった。


 時刻は既に7時を回っていて、夕焼け空は水をかけられた様にじわじわと藍色に染まっていき、星達も顔を出し始めている。


 初夏も近づいて来たとは言え、真夏に比べるとまだまだ暗くなるのは早い。



 グラウンドの中心では、高く大きく燃えるキャンプファイヤーが、校舎と体育館の間にいたオレの影を伸ばす。


 一直線に伸びた影は、星見祭で役目を終えて今はもう眠ってしまったように横たわっている()()()に覆い被さったその様は、物悲しくもあり、しかし何処か輝いているようにも見えたのは、やはりみんなが頑張って作成したモノだからだろう。



 そう考えると、この仕事を引き受けて良かったなと思えてくるね。

 …… 気休め程度だけど。



 ブブッ……ブブッ……!




 感傷に浸っていると、オレを後夜祭に引き戻すようにポケットの中で震えるケータイ。



 凪咲からだ。



 やはりというか、メッセージで集合場所を指定して来たか。

 この時間まで連絡を寄こさなかったのは、オレとは別のヤツらと連んでいたからだろう。



 因みにシャーロットには既に最新のケータイを買ってあげている。

 一応中等部3-Cで、後夜祭が終わったら校門前に集合しようと伝えてあるし、何かあれば電話すれば良い。



 彼女にとって初めての祭り事。

 オレも一緒に回ってやりたかったが、クラスメイトや他の連中と接することができるチャンス。

 オレが出しゃ張るところではない。



 それに()()()()()もあるのだ。

 シャーロットとは明日、ステラのみんなで遊べば良いさ。



 オレはケータイをポケットに突っ込んで、指定された場所へと足を向けた………








 生徒の喧騒が遠くから聞こえる。


 風はなく、照らす明かりは満月を明日に控えた月とグラウンドで燃え上がるキャンプファイヤー、それと暗幕から僅かに漏れ出した体育館の光だけだ。



 ここは旧校舎の屋上。


 新校舎の屋上は一般開放されているが、旧校舎の屋上には鍵が掛かっていて入る事は出来ない…… と思われている。



 しかし、この屋上の扉の鍵は、コツを掴めば簡単に開けることが出来るのだ。

 この事を知っているのは、ステラの連中だけだった。

 …… 因みにこの扉は細工を施したワケではなく、ただ老朽化が進んだ結果こうなっているだけに過ぎないので悪しからず。




「おまたせ」


「…… お、遅いわよ?」




 オレは既に屋上で待っていた凪咲に声をかけた。


 光の加減や当たり方のせいか、凪咲の顔は仄かに赤らんでいて、ちょっとアンニュイな匂いを漂わせている。




「で、決まったのか? オレへの無茶振りは」


「……………… まぁね」




 長い間の後、凪咲はぼそりと答える。

 いつもの勢いがない。

 頼み辛い要件なのか、或いは今からオレが体験するであろう行為を想像して笑いを堪えているのか。

 どちらにせよ逃げ出したい。




「昼にも言ったけど、別に難しいことじゃないわよ?」


「…… それにしては中々言わないじゃないか」


「そ、そうね…… ちょっと早過ぎたかも」




 早過ぎたとは。

 まさか、キャンプファイヤーが最高の状態に仕上がるのを待っているのか!?

 コイツはなまじオレの身体が丈夫なのをしっているから、燃え始めたばかりの炎では物足りないと?




「鬼も逃げ出す所業だな」


「なんの話よ!?」




 オレは答えずに凪咲の隣に立ち、二人でキャンプファイヤーの周りでどんちゃん騒ぎを起こしている生徒達の風景を眺める。



「…………」


「…………」



 時間が過ぎて行く。

 無言の時間。

 だけど不思議と心地よい。

 何かを喋らなければ間が持たない、なんて事は全くなかった。



「……… ねぇ、ハル?」


「ん?」


「私さ、立派な魔法使いになれるかな?」



 不意に、凪咲がそんな事を言い出した。



「今でこそ実力は十分じゃないか。後は経験だけだろ」


 実際、凪咲はあの朱里亜婆さんにもお墨付きを貰っている程の実力があるし、海外にいる両親からも期待されていた。



「……… シャーロットか?」


「…… うん」



 そんなプロが認めた実力を持った凪咲がそんな事を口走る理由は一つしかない。



 シャーロット・ハーツ。


 まだ幼さが残る彼女は、規格外と言える実力を誇っていて、オレ達はそれを目の当たりにした。

 圧倒的な実力の差を叩きつけられた。


 天才。

 生まれ持っての才能。


 昔から期待されて来ただけあって、こうまでハッキリと差が分かってしまうことにショックを受けているのだろう。



「はっはっは! なんだ、シャーロットが料理出来ることがそんなにショックだったのかよ!? だーから飯の炊き方くらい教え……」


「…………」


「…… 悪ぃ」



 冗談めかしてみたが、凪咲は黙って夕焼けが沈む空と、チリチリと燃える炎を見ていた。



「シャルがウチに来てさ、私の部屋でいろんな事を話すワケよ」


「あぁ、前に言ってたな」



 あれはいつだったか。

 確か最初に三人でアミューズメントエリアに行った時。

 意見交換をしようとか何とか、凪咲がシャーロットにそんな事を言ってたような気がする。



「……凄いんだよ? イギリスだけじゃなくてヨーロッパ中を旅して、経験してた。 実力もある…… 今の私じゃ到底敵わないよ」


「シャーロットのヤツも言ってたろ? 物を出す以外は苦手って」


「そんなの今だけだよ。あの子は私が教えた事をどんどん吸収していく。 あっという間だよ」



 錆臭いフェンスに寄りかかって顔を隠した。



「……ちょっと自信、なくしちゃったかも」



 凪咲は今、どんな顔をしているのだろうか。

 オレからは見えない。


 けど。

 一緒にいて、声をかける事はできる。



「お前はさ、どんな魔法使いになりたい?」


「……朱里亜さんのような魔法使い」


「それってお前の両親と何が違う?」


「…… お父さんとお母さんは、世の中で起こっている魔法関連の事件の捜査官みたいな役職。 朱里亜さんは、自分が住む街の人達を少しでも笑顔にするような魔法使い…」


「婆さんみたいになるにはどうしろって言われた?」


「……友達のために、人の為になることをしなさいって」


「そうするためには?」


「……人の役に立つことを始めなさいって」


「そのために生徒会に入ったんだよな?」


「……うん。一生懸命頑張ってるつもりなんだ、これでも。でも、結局何も掴めなくて…」


「お前の場合さ、これからなんだよ。シャーロットは年下だけど、この島から殆ど出たことないオレ達に比べたら、アイツは色んなものを見て、触って、感じて来た大先輩さ」


「………うん」


「オレもサポートしてやる。もちろんシャーロットだって協力してくれるはずさ。少なくとも、オレはお前がシャーロットより劣っているとは思わない」


「……どうして?」


「お前がオレにとって、婆さんの次に憧れた魔法使いだからさ」


「…………」




「婆さんも言ってたろ? 魔法は使うものじゃない。何かをしてあげたい、笑顔にしたい…そんな "想いの力" が自然と "魔法" になるんだって」





「……うん」


「実力不足のオレじゃわからん次元だけどさ、魔法を使おうとしている間は婆さんのようにはなれないんじゃないか?まずはゆっくり……そうだな、慧神島じゃ広すぎるから、取り敢えず学園の連中を助けてやればいい。だから… 元気だせよ」




 凪咲の肩に手を置くと、ゆっくりと顔を上げた。


 ……なんか、吹っ切れた顔になっている。

 もう大丈夫かな。




「ありがとっ。なんかスッキリしたわ!」


「…… お前がそんなんだと調子狂うんだよ」


「照れちゃってさ……あっあと、私は別にシャルが嫌いなワケじゃないのよ!? 寧ろホントの妹の様に可愛いの。ほら、夕方と夜の間ってさおセンチになるじゃない? だから今まで抱えて来た嫉妬心がつい爆発して…」



 わかってるよ。

 そうでなきゃ、あんなに仲良くなれないもんな。



「墓穴を掘る前に黙っとけよー。 で、後夜祭でのお願いってのは愚痴を聞くことでいいんだよな?」


「えっ、違うわよ?」


「オイ」



 だったら何なんだよ。

 そう言おうとした時、グラウンドにアナウンスが流れた。




『只今より、キャンプファイヤーの周辺にて社交ダンスを行います。ミュージックをかけますので、生徒の皆さんはグラウンドに集まってください。尚、このプログラムは自由参加となっております。友達や兄弟を誘ったり、ゲロクソカップルやグループでのご参加も可能です。ぜひ挙ってご参加下さい………



 ……はい終わりぃ…。 はぁ〜〜〜っクソがよぉ、なーにがダンスさ! 彼氏いない私はこの誰もいない放送室で冷えたたこ焼き食べるのがお似合いだってかよぉ〜……あむっ……うぇっナニコレ!? めっちゃ辛いをどどどぶべぶろふしゅふしゅぶびぶっ………』



 どうやらマイクを切り忘れていたようで、独り言が丸々入っていた!

 いや、本来の台本の中にもヤベェ言葉が入っていたが。



「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」


「いいんじゃね? 寧ろいい笑いが取れて……」


「放送室は飲食禁止よ!?」



 そっちかよ。

 流石は生徒会役員。



「はぁ、なんか予定とは全然違うわ」


「何を企んでたんだよ一体……」






 呆れて凪咲の方を向くと、そこには差し伸べられた手があった。








「……………… ハル、私と踊ってもらえませんか?」








 その時、一陣の風が二人の間をすり抜けた。

 凪咲のトレードマークのポニーテールと桜色のリボンがそよそよ揺れる。


 少しだけ潤んだ瞳。

 火照った頬。

 艶やかな唇。


 真っ直ぐな笑顔。



 ……あ、あれ?

 ナギって……こんなに可愛かったっけ?



 いや、確かに美少女だと普段から思っていたけど。

 なんだろう、うまく言葉に出来ず……



「あ、あぁ……」



 そっと、差し伸べられた手を取った。


 男のオレの手よりも遥かに小さい手。

 シャーロットに会いに行く時も握ってしまったけど、細く柔らかいその手は、少し力を入れるだけで壊れてしまいそうだった。


 だから、優しく、優しく握った。



「オレ、ダンスなんか知らないぜ?」


「わ、私だって…… まぁ雰囲気でどうにかなるわよ」


「グラウンドに行かなくていいのか?」


「恥ずかしいし。 それに今はアンタと……って、言わせないでよ…」


「お、おぅ、すまん…」



 ぎこちない会話は、流れ始めた音楽に遮られた。



「まずはどうすんの、雰囲気だけで踊れちゃう凪咲さん?」


「そそ、そうね! まずはこう、アンタが私の背後から両手を握って……」


「こうか?」


「ちょっ、それじゃ両手を縛られた挙句吊るされてるみたいじゃないっ! イヤよ私、初めてが緊縛だなんて!」


「お前が両手を握れって……オイ暴れっ、うをっ!?」


「ひゃっ!?」




 ドサリと二人で倒れこむ。


 凪咲の頭を守るために、ギュッとその頭と体を抱きしめながら硬いコンクリートへ背中を打ち付けた。



「かはっ!」



 肺に溜まっていた空気が強制的に押し出される。



「ナギっ、大丈夫か?」



 痛かったけど、不思議なことにオレの第一声は凪咲の身を案じる言葉だった。



「だ、だいじょ……っ!?」



 体を起こした凪咲の顔が、さっき沈んでいった夕陽に負けないくらい真っ赤に染まる。


 状況を整理しよう。

 オレは倒れる途中に、凪咲を庇うように抱きしめて、自分が下敷きになるように倒れた。


 今、仰向けになって寝ているオレの上に、凪咲が馬乗りになっている状態だ!



「…………」


「…………」



 互いの顔が近い。

 しかもただでさえ近い距離が更に縮まっていく!?

 オレは寝ている状態なので、近づけてくるのは必然的に凪咲の仕業になる。



「ちょ、ちょっとまて、落ち着け一旦冷静…打ち所が…」


「は、はるぅ…私っ…」



 唇と唇との空間がなくなろうとした。


 瞬間だった。





『Ladies & Gentleman & おとっつぁん、おっかさん! おまいら……つまらん、つまらんよ!? 祭りってのはね、はしゃいでナンボよ。 お行儀よくダンスなんてしてる場合じゃねぇ!! 生徒会長であるこの春夏秋冬廻流様がぁ、あのキャンプファイヤーの様にお前達の心に火を点けるロックなミュージックをながしてやるよぉ! 行くぜ武道館、私ことメグ先輩がぁ、お前ら学園生と輝く星々に捧げる、the 電波ソング -メタルver- メドレーっ!!』




 チャカチャカチャカチャンチャンチャン!




 素っ頓狂なメロディーが学園内に激しく響き渡った。






「……はは、ははははははっ!!」


「ふふっ、あははははっ!!」





 さっきの妙な雰囲気は何処へやら。


 オレ達は笑い転げた。




「ひぃ、ひぃ……あぁ可笑しい…ふふっ! メ、メグ先輩、こんなっ…怒られちゃうわよぉっ…ふふっ!」


「はっ、はっ、腹いてえ… あー腹筋割れるっ……! あのバカっ、先生達が放任主義だからって……やりすぎっ…クククっ……!」



 二人の大爆笑が旧校舎の屋上に響き渡る。




 一頻り笑い転げたオレ達は、仲良く寝転んで夜空を見上げていた。



「……あーぁ、ホント予定通りにはいかないわぁ」


「まだ何か企んでたのかよ……」


「もういいわ、今日はね」


 笑いまくったせいで出てきた汗が、夜風に当てられてヒンヤリと体を冷やしていく。



「私達、これからどうなるのかしらね」


「さぁな、さっきも言ったけど、これからさ」



 凪咲より早く立ち上がったオレは。




「…… そろそろ行こうぜ、シャーロットが待ってる」




 今度は凪咲に手を差し伸べた。




「…… うん!」




 凪咲は手を取り立ち上がる。



「さ、今日の晩御飯は何かしらね〜」


「あっ、すっかり忘れてたや……」





 オレ達は屋上を後にした。


 そして合流したシャーロットに指摘されるまで、ずっと二人の手は繋がったままだったのだった………






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