7話 ー First contact ー
お昼時を少し過ぎた "ブルーバード" の店内は、満席では無いにしろ、未だに多くのお客さんで賑わっていた。
「いらっしゃませーっ!」
「あ、ろ、650円になります…っ」
そこには甲斐甲斐しく働く鷲峰姉妹の姿もあり、厨房とお客さんとの間を忙しなく往復していた遊七と目があったが、『もうちょい待って』とアイコンタクトを送ってきたので、店の一番奥にある窓際のボックス席に座った。
ポカポカ日差しがホットなこの窓側席は、オレ達7人のメンバーがいつも座る特等席だ。
最も、お客さんがいっぱいいっぱいの時は座れないこともあるし、退いてもらおうと思ったこともなかった。
ただ、常連客はそれを知ってか知らずか、満員でもない限り、この席に座ろうとはしない。
それを察して常連ではない客も近付こうとはせず、結果、こうして毎度座らせていただけていると言う訳さ。
なので、先に来ているメンツがいるならこの席にいるはずなのだが…… どうやらオレ達が一番乗りらしい。
「…… 今忙しそうだから、とりあえず飲み物だけ決めておくか」
「シャルは何がいい? 結構種類あるわよ?」
「わ、私…… お金持ってないので…… 」
「いいのよそんなの!ねっ?」
隣に座っていた凪咲がオレの肩に手を置いてくる。
その笑顔の上には『お前が払え、序でに私のも』と書いてあった。
「あぁ、好きなものを頼め。今後お金の事は気にするな」
そう言って分かりやすくシャーロットの目の前にメニューを差し出すと、隣で「ちぇーっ」と言いながら頭を掻いている凪咲がいた。
本気で自分の分も出してもらう気は無かったらしい。
「それでは…… 紅茶で」
てっきりジュース系でいくのかと思っていたが、選ばれたのは紅茶でした。
これが凪咲であれば、「似合わねーwww」と笑い飛ばしてやったが、流石は英国人と言ったところか、気取っている態度は一切なく、自然なチョイスだった。
「…… おい、注文決まったならさっさと言え。こちとらまだ注文が捌ききれてねぇんだよ」
いいタイミングで店員が来たと思えばこの人か。
「おらさっさとしやがれ。ん、全員水でいいな? いいんだな!?」
金髪のボサボサヘアーに厳つい顔。
一言で言うなら『ヤンキーをそのまま大人にしてしまった』様なオッサンが注文を急かしてくる。
何を隠そう、この人が遊七と智世の父親だ。
「ンなわけねーだろ。紅茶あるか?」
「ファーwwww!? マwセwてwやwがwるwww」
最早店員の態度ではない。
「新顔のだよ。オレ達はいつもの」
「…… そういや見ねぇ顔だな?なんだ、お前らのガキか?」
「ばっ、そんなんじゃないですよ!私達はそもそも恋人同士でも…… ないし…… 」
高校生にこんなでかい子供がいるかよ。
対面側に座っているシャーロットは、何事かと身を縮めていた。
「おら怯えちまったじゃねぇか。ここの事あんまり知らないヤツだから、もう少し抑えてくれ」
「…… ったく、最近の若いのは冗談も通じねぇのか?わぁったよ、紅茶といつものヤツな」
嵐の様に現れ過ぎ去っていく鷲峰父。
「あの…… 先程の方は…… ?」
おずおずと質問してくるシャーロットの目には少し涙が溜まっていた。
可哀想に…… しかし何故だろうか、その表情に唆られる自分もいる。
戒めとして太ももを強く抓った。
「オレ達の知り合いの父親だ。見た目はアレだが悪人じゃないから…… 気に障るようなら言ってくれ、消してくるから」
「…… 日本には変わった人達がたくさんいるんですねぇ」
受け入れるのかよ。
この子、見た目に反して器が大きい。
鷲峰雷火。
遊七と智世の父親であり、このカフェの店長だ。
目悪し、口悪し、態度悪しの三拍子揃ったパーフェクトヤンキー (37) である。
特に口の悪さは有名で、年上年下関係なくキッツイ言葉遣いをし、それを見た小さな子たちが泣くところを目撃したのは一度や二度ではない。
雷火が歩けば皆振り返る。
最早この島に住む人の中で、この人を知らない人はいないだろう。
ただ、それは恐れられているからではなく。
「おぅお待ちど! ナギちゃんはメロンソーダで、テメェはバナナミルク(嘲笑)、そっちのお嬢さんは紅茶だな。あと、コイツは食材の切れ端集めて作ってやったゴチャ混ぜパスタだ、有り難く食いやがれ。それと、一人1,000円は置いていけよガキども!」
サッと飲み物とパスタ (3人分) を置いていくと、慌ただしく厨房へ戻っていった。
…… そう、口や見た目こそ最悪だが、中身は澄んでいる。
困っている人は放って置けない性格で、頼られればあーだこーだ言いながら最終的には協力してくれるし、カフェに来るお客さんの相談に乗ってあげているところも見たことがある。
今回持ってきたパスタもそう。
理由を付けながらだが、何だかんだサービスしてくれるし、1,000円置いてけ発言も毎度の決まり文句で、裏を返せば1,000円出せば食べ放題飲み放題していいと言っているのだ。
振り返る島の人達の視線も、怯えではなく、親しみがこもったモノなので、お店もこうして繁盛しているワケさ。
程なくして客足も途絶え、店を手伝っていた遊七と智世が仕事を切り上げた頃……
「ぃよーっす! 席空いてるかぁ?」
「危ない危ない、ギリギリで帰ってこれたよ……」
「オメェらのアイドル、メグル様がきてやったぞー」
パスタを突こうとしていると、連絡していた3人が到着した。
ヲタクチャラ男と金髪イケメンと破天荒お嬢。
メンバーが濃すぎる。
3人が席に合流すると共に、運ばれるそれぞれのいつもの飲み物とパスタを運ぶオッサン。
さりげない気遣いと度量と人思いを兼ね備えたこの人は、慣れてくるとカッコよく見えるが何故か尊敬はできない。
全世界を探しても希少な人物である。
そんな雷火と入れ替わるようにして、着替え終えた遊七と智世も合流し、メンバー全員が揃った。
「…… えー、諸君らに召集を掛けたのは他でもない。昨日連絡した通り、イギリスから遥々やって来た彼女の件について協力して貰いたい」
少々席替えをし、所謂お誕生日席に移動してもらったシャーロットを見て話を切り出した。
「…… は、初めまして、シャーロットと申します!」
やや緊張気味に自己紹介をした彼女の肩は見た目よりも小さく見えた。
まぁ、知らない年上達に囲まれれば誰だってそうなるか…… いや、ここにいる半数はケロッとしてそうだな、誰とは言わんが、すまん。
「話は大体聞いている。なんでも、知り合いを頼って来たが見つからないと」
腕を組んで踏ん反り返っている廻流がシャーロットを舐めるように見ながら言った。
「名前とかもわからないんだろ? 特徴とかないの?」
リチャードがシャーロットではなくオレに聞いて来た。
顔を合わせただけの自分が直接聞くよりも、前情報を持っているオレを経由した方がいいと判断したのだろう。
「…… 正直ないな。唯一の手がかりは…… その知り合いが魔法使いと言う事だけだ」
オレの発言にシャーロットが『えっ!?』と言う顔をしたが…… まぁ問題ないだろう。
「魔法使いぃ? 実際に見たことはないけど、そう名乗る連中はいくらでもいるからなぁ…… 」
魔法使いと言うワードに対して飄々と返す弘信。
他の連中も然程気にせずに会話を続けていた。
前にも言ったかも知れないが、この島に伝わる物語『魔法使いと笑顔の魔法』って本がある。
原作と言うことになっている本は長ったらしい小説なのだが、今では子供でも読める絵本になっていて、物語も短縮されキッズ向けにマイルドな内容に変更されている為、誰にでも気軽に読むことができるのだ。
そんな絵本を見て育ったこの島の住人の中には、この物語に影響され、自らを魔法使いだと名乗る奴らが多い。
もちろん大概はこの島ならではの鉄板ジョークとしての名乗りだが、本気で名乗るヤツも少なからずいるのは確かだ。
なので今回も冗談の類いだと思っているのだろう。
なら何故シャーロットに口封じをしたのか。
理由は簡単、彼女が正真正銘の魔法使いだから。
多少名乗るくらいなら冗談で済まされるが、もし実際に魔法を使ってしまったら忽ち噂になり、最終的に全世界の魔法使い達に迷惑をかけてしまう可能性があるのだ。
と、その事は改めてシャーロットに説明するとして。
「そうだな、トモなんか中1くらいまで自分の事魔法使いだーって言ってたもんな!」
「ね、姉さんだって一緒に言ってたじゃないっ!」
「俺も覚えてる! そういや言ってたなぁ…… W魔法使いだーとか何とか…… あの頃のお前達は可愛かった!」
「黙れロリコン、会長権限で花壇の肥料にしてやろうか?」
「やめなよメグ先輩。それなら僕の雑用…… いや、旅の共に…… 」
話が進まん。
驚愕に満ちていたシャーロットの顔は、今ではポカーンとしていて、ついでに口も開きっぱなしになっていた。
「…… 話を戻すぞ? 昨日の夜、お前達以外にも連絡してみたが、何の成果も得られなかった。ので、役割分担を決めることにする。長期戦になるだろうから、各々時間があるときでいいから情報を集めてくれ」
メグは権力を使って情報収集してくれ。
ユウとトモはこの店に来るお客さんにさり気なく聞き込みを入れろ。
ヒロはヲタクネットワークを活かして魔法使いを炙り出せ。
オレとナギは実働隊として歩きながら探すから、何か分かったらオレに連絡を。
…… リッちゃんは未だ見ぬ秘境に魔法使いがいないか気にしながら冒険して欲しい。
「…… 以上だ」
「最後に突拍子も無い指示を受けた人がいるけど…… 最近太り気味だったから、うんと歩いてカロリー消費しなきゃ!」
隣でダイエット宣言している同居人はおいといて。
「役割分担も済んだし…… ソロソロ会話に入って来てもらおうか、シャーロット?」
「ふぃっ!?は、はいっ!」
余りにもポケッとしていたので声を掛けると、ビクッと身体を震わせながら何故か立ち上がるシャーロット。
勢い余ったその衝撃はテーブルにも伝わり、みんなのコップが一斉に倒れ、その場に大きな水溜りを作ってしまったのだった……。




