5話 威力偵察
【г2050/6/14 警視庁交通部会議室】
ヴァストーク島でも多数の車が行き交っており、殆どがオートメイションとは言え、未だに事故が発生している。殆どの場合は違法改造車によって引き起こされることが多いのだが、今回5件連続で不自然な交通事故が発生したために緊急会議が招集されたのである。
会議には交通部の交通機動隊隊長と副隊長、そして鑑識のアンドレイとスキルヤクトのヴィンセントが話し合っている。
「アンドレイ君、鑑識からみて不自然であるというのは本当か?」
「ああ、間違いない。物体というのは運動エネルギーを与えると進むだろう?止めるためにもその運動エネルギーを相殺するだけエネルギーを使うんだ。車の場合はブレーキユニットで摩擦力を使用して運動エネルギーを相殺して停止しているんだが今回急に止まったとしか言えないような止まり方をして中にいた人間が慣性力により車のフロントガラスに激突したりシートベルトに締め付けられて死亡しているんだ」
「車が急に止まるというのは文字通り急に止まったということなんだな」
「そうだ、時速80kmで車が走っていたとして本来なら制動距離はおよそ100m〜150mほどと言われているが、今回起きたのは0mで止まったという現象と言っても過言ではない」
「一応道路上で発生した事故という処理をしているが、これはもしかしてスキルクラフトによる犯罪の可能性は大いにあるのではないだろうか?」
「その点ヴィンセント係長どう思いますか?」
「ええ、ありえない話が起きたと言うのならばその可能性で事故から事件に捜査方針を切り替えた方が良いでしょうね」
「ではヴィンセント課長、アンドレイ君よろしく頼む。この事故は今後殺人事件と捜査方針を切り替え、スキルヤクトに捜査を委譲する」
「了解」
【スキル犯罪対策係 娯楽室】
いつもどおりリナとプリンがゲームをしている。もちろんプリンが優勢でリナが完全に負けている。今回は将棋のようでプリンが今まさに王手をかけようとしていたところであった。青木と志乃は先日のネットワーク断線に伴う主要軍事施設へのテロ攻撃の後始末をしていた。殉職者はいなかったのが不幸中の幸いだったが、リナが壊したタコス地区の大穴に伴う損害額や工事計画などを検討していた。
何故リバースで直さなかったかと言うと野次馬が大量にいたのが原因である。それは住んでいる付近で突然爆発音とともに大穴ができたら誰だって見にいくに決まっているものである。そして魔法は秘匿されるべきもの、さらにいうなら時間遡行系のスキルが存在したとしてもその存在は明るみに出してはいけないレベルの代物である。
そういうこともあってリナはリバースは使えず大穴はそのまま放置してきたのだった。怪我人も死者もなかったため資金さえあればどうとでもなる、幸いスキルヤクトには万代志乃がいるので資金の問題も全くない。彼女の総資産は推定だけでも100兆エメラを超えるのだから・・・
「またプリンに負けた・・・志乃さーん!私じゃ勝てないから相手してくださいよー!」
「嫌だよ、私も勝てないんだから」
「実戦じゃ俺は姉御には勝てないんスけどねぇ、ゲームだと結構簡単にできるから不思議っスよねぇー」
「それが不思議なのよね、どうしてゲームだと強いのかしら、運?」
「さぁ?なんスっかね」
いつも通りの風景に扉が開いて緊急の会議が始まった。議題は先程交通部から委譲された事故、現在は事件として捜査方針が変わっている。スキルクラフトが絡んでいる可能性が高いことからさまざまな意見が出された。
「やっぱり何か磁場とかで止めているんじゃないのかしら?」
「いや姉御、磁場で止めている場合車が無傷で突然停止するのは結構説明つかない部分が多いんだ。慣性力っていう物体が移動し続けようとする力があるんだがそれが作用すると磁場の影響を受けにくい、もしくは受けない箇所は慣性力が働いて何らかの損傷や破損があるはずなんだ。もちろんボディとかの金属部分だってただじゃ済まないだろう」
「難しいわねぇ・・・プリン何か意見ない?」
「んー、時間静止の能力とかあるんじゃないスか?」
「あんたは時間を操作するスキル持ってるからありえない話というわけでもないけども・・・」
「それも恐らくないな、時間を止めてその影響でその物体の運動エネルギーが0になると仮定するならば中の人間が慣性力により死亡するというのはおかしな話になる」
「それじゃあいっそうのこと生物由来の物質以外の運動エネルギーを操作するスキルとか?」
「リナ・・・流石にそれはチートすぎるぞ」
「無い話では無いと思うんだけどなぁ・・・」
「まあ実際にあるない関係なしにその可能性もあるって考えたほうがいいんじゃない?だってスキルよ?」
「まあな、未来視だって時間の経過を操作するスキルだって物体を別の場所に転移するスキルだってあるんだからな」
「この間の・・・デスサロだっけ?あいつらの仕業かな」
「ありえない話ではないわね、スキルクラフトを作り出すことができる技術・・・キールに尋問しようか?」
「素直には喋らないからまた操るの?」
「そうするのが普通なんだろうけど、やっぱりあいつの力を使うのも気がひけるのよねー」
「いっそうのこと記憶改竄とかのスキルを使って仲間に引き入れるとかどう?」
「それはリスクが高いかもね、デスサロが何かトラップを仕込んでいるという可能性がないわけではないし」
「うーん、私ちょっと外回りしてきます」
「あんたの顔ばれてるんだから気をつけなよ」
「はーい、一応ある程度装備を整えてから行きます」
リナは事件があった交差点付近へ向かった。事故から事件に切り替わったということもあり、現場は封鎖されている。現場の入り口に引かれている虎テープをくぐり、付近の道路を見回ることにした。周囲はヴァストーク島東側にあるオフィス街で、特に何も変わった様子はない。
「たしかに道路に傷一つない・・・事件からまだ2日も経ってないからタイヤ痕があるんだったらまだ残ってるはずなのに」
「リナちゃん何かわかった?応援に来たよ」
「ナビ姉!シフト変わったの?」
「うん、青木さんと変わったけど相変わらずあっちは2人だから沈黙の部隊のままかもねー」
「あれ、青木さんさっきいたような・・・」
「多分この間の被害が大きすぎたから残業してるのかも・・・」
「残業ってレベル超えてるんだけど・・・」
「ナビ姉はどう思う?今回の事件」
「うーん、私みたいな空間転移系のスキルではないはずだからそれ以外だよね」
「やっぱりやっぱり時間を止めたり空間転移させたりじゃないよねー・・・」
「ほえー、スキルヤクトってこんな可愛い女の子がやってるんだ、面白いねぇ」
いつのまにか背後を取られ、急いで戦闘態勢に入る二人、リナは転送装置を用いてRM剣を取り出し、ナビはすぐにスキルを使えるように両手を前に出している。。背後の男は中年の男、背は170cmほどであろうか?暗い青色の短髪で若干無精髭がある。
「誰だお前は!」
「ここは立ち入り禁止だよ、すぐに立ち去りな」
「おやおやおや、せっかく実行犯が自ら現場に戻ってきてやったのにそのまま素通りで逃がしてくれるのか?スキルヤクトは親切な組織なんだね」
「実行犯だと?ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうかな!!」
ナビがスキルを用いて一瞬のうち男の背後をとり、そのまま確保しようと腕を掴みかかったその瞬間にどこからともなく鉄板がナビに向かって飛んできた。とっさにスキルを用いてその鉄板を転移させ、一瞬隙が生まれた瞬間男はナビの顔面に蹴りを入れて引き離した。ナビはかなり小柄なので凄い勢いで蹴り飛ばされた。
「ナビ姉!!相手のスキルがわからないのに飛び込んでいかないでよ!死んじゃうよ!」
「その嬢ちゃんの言う通りだ、死に急ぎかお前は」
「っ!!なああめるなあああ!!!」
ナビはビルに手を置き、そのビルをまるごと上空500mほどに飛ばした。自身の直上に落ちる瞬間に再度そのビルを飛ばし男の頭上1mほどに転送し直した。ナビのスキル”空間移動”は物体の運動エネルギーを記憶した状態で転送することができるため、落下していたビルがその勢いを保った状態で男の1m上空に転送されたことになる。
当然瞬時にビルに押しつぶされるはずなのだがビルが静止したまま動かない。
「え・・・なんで・・・?」
「なび姉!危ない!!山本流、螺旋流!!」
リナが螺旋流でビルを切断し、ビルが砕け落ちたが男の周りには何も落ちていない。
「はっはっはっは!!お前たち本当に面白いな!!少しは俺のスキルを予測してみればいいじゃないか!」
男が言い放つとビルの瓦礫が凄い勢いで飛んできた。大小様様に砕かれた瓦礫が無数の弾丸のように二人を襲ったが、リナもナビもとっさにスキルと魔法を使って別の場所へ移動し瓦礫を回避した。
「リナちゃんあれ何!!なんのスキルかわからないんだけど!」
「さっき会議室で私が予測を立てたんだけど、やっぱりありえるかも」
「予測内容は?」
「物体の運動エネルギーを0にするスキル。もしかしたら0にするだけじゃなくて逆に与えることもできるのかも」
「なんだよそのめちゃくちゃなスキル!!ありえないでしょ!!」
「ありえなくないんだなぁ、嬢ちゃんたち?なんだよわかってるんだったら先に言ってくれよな!」
「うわあああいつのまにか近くまで来てるじゃん!!」
「なび姉落ち着いて!多分あいつのスキルには効果範囲があるはずだからある程度距離を保てば大丈夫だと思う」
「はっはっはっは、その通りだ!赤紫のねーちゃんよりあんたの方が冷静に分析できるようだな?かなりの実戦経験があるみたいだな」
「こちらPDSJリナ・ワーグナー!!殺人事件の犯人と遭遇、大至急応援要請!スキルクラフトでおそらくSSクラスの化け物です!」
「本部了解、国防軍にも応援要請します」
「応援を呼んだのか?いいぜ、その方が楽しいからな!」
そう男が言うと電柱やアスファルトがめくれてリナ達に飛んできた。リナはRM剣で受け流しつつ様子を伺っている。
「ナビ姉、このままじゃ完全に消耗戦になるよ!」
「うん、でもここで撤退するとオフィス街の人たちが巻き添い食うことになるよ!!」
「じゃあ時間稼ぎだね、スキル複製、縮地!」
今度はリナが男の近くに縮地で近づいた。縮地はテレポートと違って移動後のラグが全くないために瞬時に行動することができる。しかしリナは男に剣を振りかざす前に動きを止めた。
「RM剣が動かない・・・!?」
「学習能力のない嬢ちゃんだな、運動エネルギーを0にできるって予測してたじゃないのか?そんな危ないもん振り回してたらだめだろ!!」
「ならばこうだ!RM剣でダメなら格闘戦に持ち込めば!」
RM剣を転移装置を用いてしまうとすぐに素手で攻撃したが、リナはステゴロの格闘戦はあまり得意ではない。しかしリナはそれ以上に重要なことに気がつきすぐにテレポートを用いてナビの方へ戻ってきた。
「リナちゃんどうしたの?」
「指輪の運動エネルギーを調整されてどこかに飛ばされたら私かなりまずいことになる・・・」
「あ、その指輪って確か24時間身から離すと死ぬんだっけ」
「何コソコソ話をしているんだ?今度はこっちから攻撃するぞ!さっきはビルをぶつけようとしたみたいだから俺もビルでも投げ付けようか!!」
そう言うとこの凄い速度で5階建のビルが真横に飛んできた。ビルを投げるのが日常スポーツのような光景になっていたが、リナがディストラクションでビルを吹き飛ばし、なんとか応戦する。
「この戦闘でわかったことがいくつかある、一つは範囲が大体30mくらい。おそらく物理的に繋がっているものなら30mより離れていても一つの物体とみなされて一緒に動かすことができるみたい。もう一つは生物はこのスキルで操れないってことかな?」
「ナビ姉、それだけわかれば少しは作戦を立てられるかもしれない、志乃さん!!聞こえますか!」
「今移動中、もうちょっと待ってよ!んで、どうしたの!」
「容疑者のスキルですけど概ね私が推測で言ったことの通りみたいです!操れる範囲はおよそ30mです!」
「まさにチートね、もうすぐ国防軍の装甲部隊が来るからきたら一度合流しましょう、AIを搭載した無人高機動戦闘車両だから足止めくらいはできるでしょ!」
電話越しに志乃がそう言った瞬間国防軍の無人高機動戦闘車が列を組んでやってきた。50mほど離れてすぐに砲撃が始まった。しかし弾頭は男の前方3mほどで完全に停止して、弾頭部分がごろごろと床に落ちた。
「なんだ、着弾後に爆発するタイプの砲弾じゃなかったか。ちょっと警戒して損したぜ!!じゃあ返すな!」
そういうと弾頭が再び宙に浮き、戦闘車に撃ち返された。戦闘車もかなりの装甲があるため大破することは無かったが攻撃が完全に意味を無さないことを証明してしまった。しかし足止めが目的であるために有効な攻撃手段ではないがさらに砲撃を続けた。
「今のうちに志乃さんと合流しよう、志乃さん今どこにいますか!」
「後方100mにいる、急いでこっちにきて」
「了解っと」
ナビの空間移動で志乃と合流した二人だが、どうにもならないくらいのスキルを目の前にかなり絶望した顔をしていた。リナは指輪の件もあり役に立たず、ナビのスキルも相性が悪い。スキルヤクトでも高火力の二人が使えない以上つぎの手を考えるのは至難の業である。
「姉御、ちょっといいっスか?」
「何よプリン、あんたこの状況をどうにかできるの?」
「いやね、俺ならあいつと正面からやりあえると思うんっスよ」
「そうか、あんた元々ステゴロでずっと戦ってたもんね」
「んで、姉御の判断に任せるんっスけど、チョーカー外してくれないっスか?だってあいつ物体を操れるんでしょ?チョーカー操作されて死んだら死にきれねーっス」
「プリン、逃げたら今度は殺すわよ」
「あい、逃げねーっスよ」
「司令車両はここか?おもちゃを返すぜ!!」
いつのまにか10m付近まで近づかれ、高機動戦闘車を志乃達がいる司令車両に叩き込んだ。しかし、志乃達は車両の外にいる。そして行く手を阻むようにプリンが仁王立ちで立っていた。
「おいあんちゃん、死にたくなければそこをどきな!それともあの嬢ちゃん達をかばおうってのか?」
「てめぇこそ大人しくしな、俺はアイツらとは全く違うぞ」
「たわごとを言う、じゃあ串刺しにでもなってろ!」
男はそう言うと標識を弾丸のような速度でプリンにぶつけてきた。普通の人間なら串刺し間違いなしだがプリンに当たった標識がぐにゃりと曲がってプリンの目の前に転がって落ちた。
「何かしたか?お前物を投げちゃダメってお母さんに言われなかったか?」
「なんだこいつ?硬化系のスキルか?ならば身動きを封じればいいだけのことだな」
プリンはゆっくりと男に近づいていった。アスファルトや鉄板やビルの破片が大量に飛んでくるがそれを全て無視して進み続ける。プリンの硬化スキルはRMのような通常じゃ考えられないような固さじゃない限りどんな攻撃も通じないのである。
志乃達に負けた敗因は完全に慢心していたこととRMという物質をしらなかったからだ。
「物投げ飛ばすのはこれで終わりか?それじゃあお前を逮捕するぞ」
「ならばこれでどうだ?」
「DMだったか?なるほどな?姉御!!液体窒素!!」
「了解、冷凍弾全弾発射!」
志乃が合図すると戦闘車から特殊弾頭の冷凍弾が発射された。DMはRMの研究段階で生まれた物質で固さはRMと同レベルだが弱点がある。それが温度差に弱いと言うことだ。通常の温度差なら問題はないが液体窒素で急激に冷やされるとボロ炭同然の硬度まで落ちる。
そしてプリンの硬化能力は熱体制もあるため液体窒素を浴びてもさして問題はないことは実験データから判明していたためあらかじめこのような作戦を志乃が立てていた。本来はDM対策で用意していたのだが、プリンが前線で戦うときもこれは有効である。
「液体も操れないようだな、お前のスキルは一見すれば無敵に近いが弱点もそれなりにあるらしい」
「くそっ、舐めるんじゃねえぞ!!硬いなら人体の弱点を狙えばいい話だ!」
男がそう言うとプリンに格闘戦を挑んできた。最初は互いに読み合いながら戦っていたがプリンはまだ奥の手を隠している。
「姉御、そろそろ確保していいっスか?」
「いいよ、なるべく殺さずに生け捕りにして」
「了解、時間加速、10倍!!」
時速にして400kmのパンチを男に命中させた。男はものすごい勢いで吹き飛ばされたが着地点にプリンが先回りして受け止めた。男は完全に意識を失っているようだが死んではいないらしい。
「はい確保、まあざっとこんなもんだな!チョーカーをつければいいんだっけか?」
「プリンあんためちゃくちゃ強いじゃない!見直したわ!」
「姉御だから俺はやればできるっていったじゃないっスかー!!!」
なんとか容疑者を確保したが、オフィス街の交差点付近がめちゃくちゃになっていた。人の立ち入りを禁止していたために人的被害は一切ないのと、目撃者もいないため今回はオーバーマジックのリバースで修復をした。おそらくふつうに直すなら10億Eはくだらなかっただろう。
【г2050/6/15 警視庁刑事部長室】
刑事部長に呼び出されたヴィンセント係長は最近のデスサロ関連の事件について問われていた。ここ一週間で大規模なテロ事件や殺人事件が相次いでいるためである。対策を練る必要もあるが、それ以上にデスサロという組織をなんとかしなければならないため打ち合わせも兼ねている。
「ヴィンセント君、昨今の君たちのチームの活躍は聞いている。まずは労をねぎらわせてくれ」
「いえ、被害を抑えきれないところもありますから素直に喜ぶことはできません」
「警察組織は常に後手なんだ、最小限の被害で済んでいるだけまだマシだと私は考えているよ」
「何よりの言葉です、感謝いたします」
「君を呼んだのはデスサロの件だ、あれから少しでも何かわかったか?」
「はい、デスサロという組織ですが、元はヴァストーク島タコス地区にあったのですが、現在は拠点を移動したようです。もともと拠点があったとされている場所は現在は何もありません。痕跡も鑑識に徹底的に調べさせましたが何も見つかりませんでした」
「ということは現在デスサロがある場所は不明ということか、国外逃亡などは考えられるか?」
「その線も薄いと考えています。彼らの目的は未だにわかりませんが、ヴァストーク王国に何かしらの恨みがあると考えております」
「なるほど、今後も今回のような強力なスキルクラフトが出てくる可能性はあると思うか?」
「はい、現在取り逃がしたシィクショッピングモールテロ事件の実行犯もかなり強力なスキルクラフトで彼だけでも十分脅威です。あのようなスキルクラフトがまだ沢山いると考慮すると非常に危険な状態が続いていくと予想しております」
「次の目標は予想できるか?」
「おそらく次は空港や港施設をターゲットにすると踏んでいます。今のところの標的は市民や軍施設でした。意表をつくという意味でも確率はそれなりにあるかと思います」
「中央島にある程度監視網を張っておこう、だが内密にしなければこちらが警戒していることがバレる恐れもあるな」
「そうですね、あとできれば監視衛星の運用もこちらにいただけると幸いです」
「わかった、国防軍と掛け合ってみよう。ご苦労だった、下がっていいぞ」
「では、失礼します」
【スキルヤクト娯楽室】
ひとまず事件も解決し、一段落したスキルヤクト。相変わらずプリンが暇を持て余してチェスを机に出し広げている。
「姉御ー、チェスの相手してくださいよー」
「やだ」
「じゃあリナ嬢」
「いやだ」
「じゃあナビちゃん!!」
「いや!」
「・・・・オンライン対戦でもやろ・・・」
「あんた、オンラインでゲームするならこの部屋以外でやってよ?青木がこっちの番手じゃないから何かあったとき困るから」
「はいはいわかりましたよ姉御」
「まったく、チョーカー外してからなーんかムカつく態度とるわね、またつけてやろうか」
「つけてもらって構わないっスよーだ!!もうなれたっス!」
「じゃあプリン、私と模擬戦やろうよ!模擬戦!!」
「リナ嬢手加減知らないから嫌っス!!さーオンラインチェスやってこよーっと」
「ったく、あいつの手柄だから今後チョーカー外すようにって係長の指示だけどやっぱり納得いかないわ」
「今回はプリンいなかったら正直全滅もありえたからもっと大事にしようって係長の配慮だと考えよう?志乃さん」
「そうね、何かあったら眉間に風穴あけてあげるわ」
「殺処分じゃ可愛そうだよ、せめて懲戒免職とかに」
「冗談よ、さて、デスサロの情報集めてきますかね」
「それじゃあうちは兄ぃのところ行ってからかってくる」
「私・・・留守番じゃないですか!!」
「じゃ、任せた!!」
「ひどい!」
係長と刑事部長の心配を他所に比較的平和な時間を過ごすスキルヤクトのメンバーであった。しかし今回の事件は事件を起こすのが目的というよりもまるでスキルヤクトを挑発に来ていたかにも見える。リナはその違和感を感じつつ一人書類の整理をしていたのであった。
【デスサロ作戦本部】
「ライン、お前の言う通りアイツらをおびき寄せるよう仕向けたが思った以上に戦闘力が高い集団だな」
「ああ、あのリナとかいう小娘はそのへんのスキルクラフトよりも、軍人よりも、下手すりゃ王立騎士団よりも強い。戦闘力をできる限り把握しておきたかったんだが」
「相手が悪いとみたのかとっさに身を引いてしまったということだな」
「まあ相性が悪い相手であったのは間違いなさそうだ、プッシュのようなスキルクラフトをぶつければ勝てるかもしれないな」
「ナビという女は水に弱いから概ね無力化できる。リナはまだ検証がいるが、それ以外は雑魚と踏んでいたのだがあの金髪の男はかなり厄介かもしれん、貴重なデータは取れたからプッシュには感謝しないとな」
「ところでプッシュはどうするんだ?回収するか?」
「いや、このアジトの情報は知らないからそのままでもいいだろう。俺の面は割れてるから俺の情報が漏れたところでなんの問題もない」
「では次の段階に進めよう」
「全てはデスサロ様のために」
「全てはデスサロ様のために」