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4話 狙われた二人後編

【ディーン商事本社ビル最上階 社長室】



勝負を挑まれた二人は地上960m、280階にある社長室に案内された。地上から分速1800mの社長室直通超高速エレベーターで移動した。中に入ると8mはあるであろう天井、金で縁を装飾された壁、見るからに高そうな木製の家具が並んでいた。広さは大体40帖程度であるが、奥になにやら大きな扉がある。



「改めまして、ようこそディーン商事本社ビルの中枢へ」



オカルトが二人に対して改めて挨拶をした。リナと青木はとりあえず言われるままに部屋の奥にある大きな扉の前に連れてこられた。



「で、どこで戦うつもり?こんなところでやりあったら高そうな家具とか壊れると思うけど」



「ご心配なく、そのためのこの部屋ですから」



そういって奥の扉を開けると何もない白い空間が広がっていたが、リナは部屋を一目見て気がついた



「あれ、この空間何処かで見たことが・・・確か技研の実験室」



「ご存知でしたか!この部屋は私が個人的にコレクションしたさまざまな兵器やスキルクラフトの皆さんのスキルを見るために作らせた実験室ですよ。アンドレイさんにお願いしたんです」



「あのバカ国家機密使ってるんじゃないだろうか・・・ディストラクション!」



魔法「ディストラクション」は30m圏内のすべての物体に対して爆発性の攻撃を与える通常魔法の中ではずば抜けた攻撃力を誇る魔法である。鍛錬すればある程度の範囲を限定することができるため、リナは壁の一番隅に限定して攻撃を行ったのだ



「うん、国家機密使ってるねこれ。あとで兄に逮捕状でも突きつけてやるか」



「それはご勘弁を、私も個人的な所有物にすぎませんし、アンドレイさんもちゃんと許可をもらってますから」





そういってどこからともなく許可証を見せてきた。ヴァストーク国防軍の正規許可証に間違いないが、やはり金と権力というのはセットでついてくるもののようだ。



「青木さん、私たちはさっきの部屋で対戦だよ!」



「はい、リナちゃん負けないでよ!休暇を台無しにしたこと後悔させてね」



「青木さんも負けないでね、ぶち殺すつもりで戦うから」





青木とルイナがさっきまでいた社長室に移動して扉を閉めた。オカルトが木刀を取り出してリナに渡して言い放った。





「もしこの勝負で私が勝ったらあなたが持つ破城剣を献上してもらえますか?」



「なるほど、狙いはこの剣ってこと」



ヴァストーク七大宝剣の一振りである破城剣はワーグナー家に代々伝わる宝剣である。文字通りたった一人で城を落としたという伝説を持った剣で、その実態は意思を伝えることでさまざまな形状に変形したり、質量を変動させて城壁をも破壊する巨大な槌に変化したりできる剣だ。しかしその形状を持たない特性上切れ味という切れ味はあまりなく、どちらかというと打撃武器や牽制のために使用するほうが向いている。





「逆に私が負けた場合、私が持つこの難攻不落をあなたに献上します」



「難攻不落!?七大宝剣の一振り・・・」



「はい、もともとディーン家は貧しい農家でした。ある時とある兵士が大怪我してディーン家の近くで倒れていたところを私の祖先が助け、この剣を譲り受けたと聞いています」





先程RM剣を受けとめた剣こそがこの難攻不落である。その効果は言い伝えによると「絶対に破壊されない剣」であり、言い伝えが正しければRM剣程度に傷一つつけられるわけがない。



「実はこの剣はオーバーマジックの一つであるインプレグナブルを付与された剣らしいです。通常60秒間のあらゆるダメージを無効にする効果ですが、なぜかこの剣はその魔法を永続的に受け続けているらしいです」



「なるほど、試してみようか?」



「といいますと」



「スキル複製、延命!オーバーマジック!!」



「ぬおおお!?あなた、あなたオーバーマジックを扱えるのですか!?元隊長以外見たことがないのに!!」



オーバーマジック、魔法の上位に相当する魔法で、寿命1000年分を使用して発動する人間には扱うことは不可能な魔法の一つである。その魔法はオーバーマジックを5回まで発動することができ、発動後24時間のインターバルが存在する。5回しか使用できないこともあり、どれも超強力な魔法である。



「それじゃあ始めるよ、インプレグナブル!スーパーディストラクション!!」



オカルトに触れながらインプレグナブル(攻撃無力化)を使用して保護した後に難攻不落に対してスーパーディストラクションを発動させた。これは先程のディストラクションより何十倍も強力な爆発を300m圏内に放つ超強力な爆破魔法だ。一応実験室は全壊しないことは過去に実験済みなので遠陵なく発動した。



「さて、難攻不落は本当に無敵の剣なのか」





難攻不落は無傷だった、言い伝え通り本当にあらゆる攻撃を無力化できるようだ。





「本物ってわかったけどどうして宝剣を手に入れたいの?」



「それは戦い終わってから説明します。どうですか?やりますか?やりませんか?」



「戦いはするけど賭け事はしないよ、ヴァストーク刑法第230条1項に引っかかっちゃうし」



「ハッハッハッハ!さすが刑事はいうことが違いますね、わかりました。賭け事は抜きでやりましょう」



「あとでなんで手に入れたいのか教えてよ」



「わかりました、それでは戦闘開始ということで」



両者が間合いの外に出た。様子を伺っているのかオカルトは一歩も動かない。リナも相手がどの流派で何が得意なのか不明なためジリジリと間を詰めているが攻撃体制を迂闊に取れない状態である。





「なるほど、あなたが得意とするワーグナー流は攻撃特化型、迂闊に飛び込むとカウンターがあると踏んであまり近づけないんですね?ならばこれならどうですか!!」



オカルトが一瞬踏み込んだように見えた瞬間にリナの間合いに居た。スキルではなく純粋に体術で移動したのである。そのままリナに下段切りのフェイントをかけて平突きを放ち、直ちに横腹いをした。しかし全てリナに読まれており、横払いをした瞬間木刀を弾かれて一瞬隙が生まれた。



リナもこの隙を見逃さずに上段から一気に斬りつけた。体勢を崩しながらもなんとかそれを受け切ったオカルトはにやりと笑った。





「これはすごい、隙もなければ防御も攻撃もバランスが非常に良いですね。ワーグナー流だけじゃないようです」



「私の師匠はお爺様と山本師匠だから・・・・ね!!」



それから数十回打ち合ったのちオカルトを振り払い、再びお互いに間合いの外に立った。リナは先程の超速移動術に警戒しながらオカルトを見ているが、オカルトの方はあまり警戒せずにただ棒立ちしていた。





「言い忘れましたがスキルや魔法の使用は禁止ですよ、私もスキルクラフトですがこの戦いには非常に不向きなものでしてね」



「全部使ったらあなた死んじゃうからダメでしょ、オーバーマジックもまだ3回分残ってるし」



「おっしゃる通り、でも剣技は使っても良いですよ。私も使いますからね!!」





そう言い終わると突然その場で剣を横払いした。リナはこの技を知っている。クーデター事件の時に神父が使った「エアースラッシュ」に非常によく似ていたからだ。離れた位置から斬撃を敵に与える技であり、リナはこれを山本流螺旋流で対応した。



「エアースラッシュを予想してそれに近い攻撃手段で相殺した!?やはり思った通りの凄腕だ・・・」



「その技は昔見たことがあるから、その程度じゃ私は仕留められないよ」



「はっはっは、これは参った・・・私この技を会得するのに2年もかかったんですがねぇ!」





再び超速の移動術でリナに近づいたが、リナはその移動速度を利用して上段払い、下段切り、上段のフェイントを行なった後横払い、少し距離を置いてから螺旋流を叩きつけた。移動術の後若干隙ができるのを見抜いての行動である。オカルトは全ての攻撃をまともにくらい、床に倒れこんだ。





「っ・・・!こ、これは強力ぅ・・・・わかりました、私の負けです」



「随分あっさり負けを認めるんだね」





少しだけ呆れた顔でリナがオカルトを見ていた。技量はあるがやはり殺し合いでないと王立騎士団出身者は本来の力を発揮できないのかもしれない。一方のリナはワーグナー流でこの手の稽古には慣れていたので勝てたというのもあるかもしれない。





「さて、なんで宝剣が欲しいのか教えてもらうよ」



「七振りの宝剣を全て集めると夢が叶うという伝説があるのです」



「あなたこんなにお金があるのに夢を叶えられていないの?国でも作りたいの?」



「いえ、私はお金には興味がないんですよ。私が興味あるのは・・・」



突然扉が開き、青木が出てきた。





「っしゃー!!5戦して5連勝!!あ、リナちゃんも勝ったんだね」



「バカな、あのルイナ相手に負けなしだと・・・」



「オカルトさん、ダメだったよ・・・全部動きを読まれた」



「我々の完敗みたいですね、おふたりは恐ろしく強いようです」



オカルトの人を見下すような目から、ふつうに接するような目に変わった。どうやらこの男は自分より何かにおいて優れているところを見つけると態度を変えるような男らしい。



「リナさん、先程のお話の続きなのですが、私の夢はたった1つです。私はこの世の真理を知りたいのですよ」



「この世の真理?」



「はい、なぜこの世界ができたのか。科学的にも信教的にも色々な解釈がありますが真理というものは1つしかありませんからね。真理を追い求めるために私が軍資金が欲しかったのですが、商いの資質があったらしく随分大掛かりなものになってしまいましたが」



「軍資金あつめをしていたらヴァストークで最大の企業を立ち上げちゃってましたって恐ろしい人・・・」



「あ、ひとつだけ聞きたいことがあります。ヴィントは元気にしていますか?私の弟です」





そういえばプリンことヴィント・S・ディーンはオカルトの弟だったと今の今まで忘れていた二人だったが、銀行強盗で逮捕後のことを伝えた。





「万代志乃・・・・シィクのトップだった人ですね・・・あの人には苦汁を良く飲まされたものですが彼女がそばにいるなら弟も安心してそこに置いて大丈夫ですね」



「志乃さ・・・警部を随分信用されているのですね」



青木が少し不思議そうな顔で質問した。



「信用とは少し異なりますね、2年という短い間でしたが彼女とは死闘を繰り広げていましたから」



「志乃さん相手じゃ相当手こずりそう」



「手こずるなんてもんじゃないですよ、互いに会社を潰す気でしたからね。折角ですから少しだけお話ししましょうか」



「全く、いつまでも帰って来ないから向かいにきたわよ」



「志乃さん!?どうしてここに」



「やれやれ、貴女は大人しくできないのですか?少しお話ししているだけじゃないですか」



「そうも言ってられなくなってね、青木とリナを回収するわよ」



「事件ですか?」



「そう、例のクラッキング騒ぎなんだけどコイツらだけじゃなかったのよ」



「志乃さん!?貿易社を解散してから久方ぶりです」



「ルイナこんなところで働いてたのね、どう?スキルヤクトで働かない?青木とペアなら百人引きよ」



「おいおい、ルイナ君を取られたら他企業に情報戦で負ける可能性がある。貴女はどうしてそういつも自分勝手なのですか」



「この話は置いておくわ、現場に急行よ」



「了解、ああそうだオカルトさん?難攻不落だけど借りていくよ」



「賭け事はしないのでは?」



「借りるだけだから、あとで返す」



「その時はまたお茶でも」



難攻不落を受け取ったリナ達は魔法「テレポート」でスキルヤクトに戻った。現場には捜査ニ課の刑事数人と国防軍技術研究所副所長のシガール・エルディアがいた。シガールはナビの兄であり、かつてアンドレイとともに研究競争を繰り広げていた人物だ。ヴァストークの優秀な技術は大体この男が絡んでいる。





「シガール兄どうしたの?一大事?」



「ああリナちゃん、そうなんだよヤバイ」



「それじゃあ改めて状況説明をするわよ、アンドレイはまだ?」



「姉御待たせた!シガール久しぶりだな!!相変わらず背が低い」



「余計なお世話だ!それよりヤバイんだよ!」





普段落ち着きの権化というレベルで冷静なシガールが結構慌てているあたりかなり深刻な問題が起きているのであろう。



「私から状況を説明する」



そう切り出したハg、坊主頭の男が発言した。捜査ニ課のヒッツ・ブラウン警部だ、サイバー関連の事件が多くあまり現場には出ないにもかかわらず日々戦闘訓練やトレーニングを欠かさず行っているためかかなりの巨漢だ。



「先日の無差別攻撃の後、ヴァストークの至る所にネットワーク断線が生じたのだ」



「それが何か問題なのですか?ネットワークは断線箇所を迂回すれば何の問題もなく機能するはずですが」



青木が冷静に切り出した。蜘蛛の巣のように張り巡らされたヴァストークのネットワークはたしかに至る所で断線したところで若干の速度低下が起きるだけで特に問題は起きないはずである。



「青木巡査部長、断線した場所が問題なのだ。我々も最初は目を疑ったが間違いなく事実なのでこうしてスキルヤクトの力も借りたく参上している」



「その断線した箇所とは?」



「ヴァストーク極秘回線の1つ、反射衛星砲の発射コードを送信するネットワークだ」



「え!?ということは今あの衛星砲コードを撃ち込まれたら撃ち放題ってことですか!?」



「そういう事になる、コードは司令長官が持っているからそう簡単にはいかないだろうが・・・」



ヴァストーク島の中央部にある国防軍総司令部兼要塞の通称オニヒトデのさらに中心に位置する巨大な塔のような場所が反射衛星砲の発射区画である。反射衛星砲とは超大出力のレーザー兵器で、惑星の静止軌道上にある反射衛星を中継して惑星のどこにでも攻撃することができるヴァストーク国防軍最大の兵器である。出力は最大出力13,000,000,000,000,000(1.3京)EU(EUは1Wと同義)で近距離の天体であれば攻撃できるほどの強力な砲台だ。



当然防衛のために使用するのだが、一つの国程度なら簡単に焦土にしてしまうほど強力である。

アンドレイが疑問を投げかけた。



「その話なんかおかしくないか?確か衛星砲のネットワークはノルデンのデータサーバーと直通で他の回線とはまったく関与してないものだろ?どうしてネットワーク攻撃で断線なんてするんだ?」



「おかしくないわ、ネットワークを攻撃した人物はスキルを使っている可能性が極めて高いから」



「ネットワークに干渉するスキルなんてあるんですか?志乃さん!?」



秒で青木が反応した。青木は機械を相手するのは得意だが、ネットワークを直接操作できるスキルクラフトが存在するとするなら話は別である。機械を動かすためにはどうしても機械語(0と1の二進数を用いた言語)に変換するためにプログラムを組む必要がある。しかし、ネットワークに直接干渉できる人間がいるとするならば青木が得意とするプログラムの癖を見抜く能力が完全に無効になってしまうからだ。



「SBによると回線掌握って名前のスキルで、ネットワークに自分の意識を飛ばしてネットワーク間を自在に侵入することが出来るみたい。コンピュータを使って侵入してないから侵入経路がそもそも掴めないからかなり厄介なスキルね」



「なんだか昔読んだ古い漫画に自分の存在をネットワークに保管して、脳から直接インターネットに接続してあらゆる情報を瞬時に脳にインプットするみたいなやつがありましたけどアレみたいなものなんでしょうかね」



「近いとは思うけどそれほど賢いスキルではないと思う。現に無差別に攻撃したように思わせる節はあるけど衛星砲にアクセスできてないみたいだし、多分回線の位置までは特定できたけど到達するために物理的接触が必要だからそこで止まってるのかもしれない」



「それじゃあ断線箇所に直接赴くとするか、近くの施設かなんかをぶっ壊して断線させたんだろ?」



アンドレイが冷静に恐ろしいことを言った。しかし、回線は完全に独立しているためそうでもしないと断線させるのは不可能だ





「その通り、回線付近のガソリンスタンドを吹っ飛ばしたみたい。今消防が消火作業、救急が人の救助をしているから」



「ガソリンスタンドの機械を暴走させて地下の回線を壊せるように計算して吹っ飛ばしたとするなら実行犯はかなり頭が良いことになりますね、かなり強敵かもしれない」



「既にナビを現場に向かわせてるわ、佐藤警部がナビの警護を兼ねてスナイプポイントで待機中。何かあればこっちに連絡があるけどまだないから動きはないみたいね」



「それじゃあ私が魔法で全員を移動させます、いきますよ」



「お願い、現場に着いたら改めて現場検証ね」





テレポートで現場に急行した一行は目を疑った。





「ナビ!?おい!!どうした!」



アンドレイが叫びながらナビの方に向かっていった。ナビは大概のことは自分で回避することができるが、唯一弱点がある。ナビは水を体に浴びると瞬時に力が抜けてその場に倒れこむ。過去の事故によるトラウマが原因らしいのだが、スキルがその際に発現した事もあり何かしらの因果関係があるのかもしれない。



そのナビがびしょ濡れで倒れていた。つまりナビの弱点を知っていることになるが、スキルヤクトの構成員の情報は名前こそあるが弱点やスキル、武器などの情報は当然公開もされておらず普通はわからない。



「佐藤警部、応答してください!佐藤警部!!」



青木が佐藤に無線を使用したがまったく応答がない。リナが急いでスナイプポイントに向かったが佐藤の姿がなかった。



「佐藤警部、どこにいったんだろうか・・・志乃さん!!こっちにもいません!」



志乃が消防隊員たちに現場で何があったのかを訪ねたが何も起きていないと一言。明らかに何かあったはずなのだが、気がついてすらいないようだ。





「監視カメラはこの付近にはないのよね、ガソリンスタンドの近くにあったんだけど爆発で吹き飛んでるから・・・まずい」



「姉御!俺に任せろ、監視カメラがダメなら軍事衛星の記録を見る!」



「でもあれって軍の承認がないと使えないでしょ?」



「前回の事件からまだ権限を取られていないんだなこれが」



「あんた・・・もしかしてだけど権限解除の命令取り消したわね?」



「そんな話は後回しだ、リナ!急いで俺とナビを警視庁に飛ばしてくれ!」



「わかった、急いで調べてよ」



「ああ、容疑者が誰なのかわからないが絶対に許さない」





いつになくアンドレイがやる気になっている。リナが二人を警視庁のスキルヤクトに飛ばし、現場を改めて見回した。



「ガソリンスタンドの爆発にしてはやけに地面がえぐれてる気がする・・・」



「リナ、あんたも気がついたのね。ガソリンスタンドの燃料を全て使用したと仮定してもここまで地面はえぐれない、そもそも遠隔操作のみでガソリンスタンドの燃料全てを使用するなんてもっと難しい話だわ」



「現場で爆発があった時刻はいつですか?できれば秒まで」



「えっと、本日13時22分23秒よ」



「それでは13時22分22秒の時点まで現場をリセットします。爆発に備えてください」



「総員退避!!リナ、いいわよ」



「リバース!」



オーバーマジックはあと二回使える状態であったため、オーバーマジックリバース(時間遡行魔法)を使用した。リナの場合スキルの回数制限をリセットしなければならないため最低一度はこの魔法を使用しないといけないため、ついでに発動したのである。



この魔法は24時間以内ならば指定範囲の物体、生物などをその時間まで状態を巻き戻すことが可能な時間遡行魔法だ。ただし指定範囲に存在したであろう物体や生物をその時間に存在したから瞬時にそこへ移動させることはできない。あくまで指定範囲ないの領域の状態をその時間まで巻き戻すだけなのである。



「スキル複製、体内時間遅延!」



スキル複製は発動条件を教えてもらったスキルを劣化はするがコピーすることができるスキルで、リナの父親であるエドワルトの血統が持つ非常に珍しい血統によって受け継がれるスキルだ。コピーしたのはプリンの時間干渉系スキルの遅延である。これによって自身が感じる時間を最大1/10まで遅らせることができるが、リナは1/7までしか遅延させることができない。



リバースによって爆発1秒前まで巻き戻された現場だったが、なんと真四角に切り取られていた。その後スタンドが爆発し、瓦礫が発生したのだ。





「志乃さん・・・あの切り口は私見覚えがあります。あのシィクショッピングモールで起きたテロ事件で柱に生じた切り口とまったく同じです」



「あのテロ事件の・・・アイツがここにいた・・・!?」



いつも冷静沈着な志乃の表情が急変した。リナが殺気に気がついて二度見したほどである。



「志乃さん?」



「なんでもない、あのテロで親友を亡くしててね・・・アイツはこの手で捕まえるか始末したいの」



「確か今わかっているのはスキルは何かしらの防御壁を展開するスキルでしたよね。あの時はまだRMJなどの特殊弾頭が研究段階だったから誰も使っていなかったはず」



「そう、でもRMでもあの防御壁が抜けるか定かじゃないわね。抜けないことを前提に考えた方がいいと思う」



「兄、映像の方はどう?爆破前に誰かいない?」



「いる、いるぞ!黒いパーカーみたいなのを着ている。国防軍スキルクラフト連続殺人事件のバリーが着ていたものに似ているな」



「ってことはバリーが所属していた組織が関与しているってこと?」



「断定はできん、その線も見ておいて良いとは思うが・・・」





リナとアンドレイが情報交換している間に志乃が閃いたような顔をして言った。



「ねぇ、もしアイツが関与しているならわざわざ爆発させて私たちを呼ぶようなことしなくてもよくない?アイツのスキルなら地面に潜ってこっそりやった方が手っ取り早いじゃない?アンドレイ、断線箇所は本当にここだけなの?」



「ああ、監視システムの情報を見る限りはそうだ」



「監視システム・・・相手にはネットワークを掌握できるスキルクラフトがいるから・・・まずいかもね」



「他の箇所も断線させてそこから侵入するのが本当の目的ってことですか?」



「青木、今から監視システムにハッキングをかけて相手を引きずり出すかシステムを正常に戻すことはできる?」



「手持ちのマシンスペックでは無理です、やるならヴァストークのデータサーバークラスじゃないと処理負けすると思います」



「ならそのスペックならできるわけね?わかった」





そういうと志乃がいつも使っている携帯端末とは違う端末を手に取った





「緊急事態よ、大至急きてちょうだい」



そう言い終わった瞬間上空に巨大な宇宙船が現れた。かなりの高度があるようだがあまりのサイズに近くにいるような錯覚を受ける。全長は2000mは超えているであろうか?ヴァストークの巨大戦艦の戦闘母艦よりはるかに大きい。



「お呼びですか?万代さん」



転移装置かなにかを用いて突如現れたのはケープペンギンだった。人語を喋るケープペンギンとは絵図らはかなりシュールだが、おそらくどこかの異星人なのであろう。名をオーブ・W・アイゼンハワーと名乗った。



「ええ、急に呼び出してごめんなさいね。あなたのコンピュータ使わせてもらいたいの」



「わかりました、ヴァストークの安全のためなのですね?」



「その通りよ、角刈の仇が暗躍してる。この気を逃すわけにはいかない」



「かしこまりました、皆様どうぞこちらへ」





ペンギンに案内されて巨大な宇宙船の中へ移動した。船内は通常の宇宙船のようにも見えるが、ペンギン用なのか非常に狭い。





「青木、この宇宙船は大部分がスーパーコンピュータで埋め尽くされてるの。マシンスペックは恐らくだけどデータサーバーの数十倍はあると思うわ」



「す・・・すごい・・・これならすぐに結果が出るかもしれません。オーブさん、仕様はヴァストークのコンピュータと同じですか?」



「はい、同じです。本来ならば我々の星の言語で運用するため多少スペックは落ちますがそれでも問題はないかと思います」



「それじゃあハッキングしますよ」





わずか3秒でシステムに侵入して断線個所を特定した。隠蔽された方の断線箇所はより国防軍オニヒトデ要塞に近いタコス地区だった。



「またタコス地区ね・・・」



「志乃さん、場所は特定しましたが地下深くにあります。どうやっていけば良いですか」



「私の魔法も地上ならともかく地下のそれも狭い空間は移動するのに一度行ってみないと構造が把握できないから飛べないです」



「だからナビを襲ったのか、奴ら本当に頭が回る・・・完全に後手だわ」



ナビのスキル[空間移動]はどんな場所でも空間認識能力によって飛べるか飛べないかの判断ができるためどこであろうと座標さえわかれば簡単に移動することができる。魔法のテレポートと大きく違う点の一つだ。ナビのスキルの方が数段精度も能力的にみても性能差があるのだ。



「おそらく敵はリナと青木がディーンの本社にいたことも把握してる。ディーンの行動を見てそれに便乗したところからナビと佐藤警部を現場に送ることをあらかじめ推測して実行にうつしたと考えるのが妥当ね。完全に私のミスだわ」



「アルフォード司令長官はどこに?」



「幸い本国にいるわ。流石に奴らも手が出せないはずよ」



「手が出せない本国ということは・・・王都にいるんですね」



「そう、国王陛下と会合中だから警備は王立騎士団。いくらなんでも騎士団相手じゃ部が悪いもいいところだからね」



「兄、司令長官と今コンタクトとれる?」



「ああ、王城にいるが取れるぞ」



「それじゃあそこから動かないように言っておいてほしい、事情を説明すれば大丈夫だと思うから」



「わかった、連絡する」





アンドレイがアルフォードに現状を説明し、最悪の事態は回避できそうである。あとは衛星砲の回線をなんとかすれば良いだけだ。





「今のところ敵の後手に回ってる。この状況を敵が予測していると想定するとおそらくアルフォードに連絡するところまでは読んでるわね。でも青木がハッキングによって場所の特定まで出来ているところは予想していないはずよ」



「そうか、宇宙船のスーパーコンピュータを使うなんて誰も予想しないはず。それじゃあ私たちが取る行動が他にあるならノルデンのデータサーバーに行って解析する可能性か・・・」



「あの、志乃さん。これ衛星砲が狙いじゃないのではないですか?」



「青木わかった?これは衛星砲じゃなくて狙いはデータサーバーよ」



「断線箇所の特定のためにデータサーバーのコンピュータを用いてハッキングをかけると踏んでいるなら最低1分は通常回線にアクセスすることになるからその間に意識をデータサーバーに飛ばして何かしらの情報を盗むかデータサーバーをクラッキングして破壊するのが目的でしょうか」



「データサーバーの場所も特定できるしね、でも幸いにも宇宙船のコンピュータは数秒しか繋げてないから敵さん今頃大慌てよ」



「それじゃあ現状断線を復旧させるだけで問題はないということですか?」



「迂回路を作って切れた部分は破棄したほうがいいかもしれないわね。アンドレイ!技術スタッフとシガールを使って大至急回線の工事をして」



「了解、優秀な奴らばかりだから2、3日で復旧できると思う」



「さて、私たちは一応断線箇所に掃討戦仕掛けに行くわよ。佐藤警部もどこにいるのかわかってないしね」



「了解、近くまでテレポートします」





タコス地区に移動した三人は移動後直ちにディストラクションで地下に大穴を作った。タコス地区は空きビルや空き家などが大部分を占めているため、その地区に人が住んでいないのは既に把握済みである。



「あと30m、ディストラクション!!」



何度かディストラクションを用いてついに回線がある区域に到達した。そこには件の回線掌握のスキルクラフトとテロ事件の容疑者と思われる黒パーカーがいた。



「ついに会えたわね・・・お前を逮捕する」



「ふ・・・フフフフ・・・これはこれは予想外の展開がおきているな?おいキール!お前は逃げろ、ここは俺が対処する」



「ああ、殿頼んだぞ」



「絶対逃がさない・・・ここでは転送装置は使えないですよ」



「な・・・どうしてだ・・・?」



「私のクラッキング技術をなめないでほしいですね、あなたは所詮回線にしか潜り込めないみたいですけど私はハードウェアならなんでもクラッキングすることができますから」



「リナ、キールとかいう男を確保して!」



「了解、佐藤警部をどうしたかあとでじっくり聞いてやる。お前を秘匿兵器への攻撃による国家反逆罪で逮捕する!」



「貴様らがそうやすやすとキールを逮捕できると思うなよ?」



そういうと青白い透明な板状のものがリナとキールの間に現れた。おそらく黒パーカーの男がもつスキルである。



「残念でした、この場は私の勝ちだね!」



よく見ると防御壁の一部が形成できていない。リナが手に持っているのは難攻不落だった。難攻不落の絶対的な非破壊性によって難攻不落がある部分から先を防御壁が展開できないでいたのである。



「敵の前で手札を切るのは今後に影響するけど仕方がない・・・志乃さん、少しの間持ちこたえてください!マルチテレポーテーション!!」



マルチテレポーテーションは指定範囲にいる人間や物体を全て手で触れることなく移動させる魔法だ。ナビの空間移動やリナのテレポートの魔法は手で触れたものしか飛ばすことができないがこの魔法はオーバーマジックという事もありスペックが数段高いのである。



「キール!!!ちくしょう、これで計画がだいぶ狂うな・・・やむおえん」



「私から逃げようなんてそうはいかないわよ・・・この時を一年待った・・・角刈の仇とらせてもらう!」



「誰だそいつ?テロの巻き添えにでもなったのか?それは悪い事をしたな」



「殺す」



そう一言いうと志乃は腰のホルスターからRMJ弾頭が装填された12.7mm×98mmの超口径を放てるハンドガンを取り出した。アンドレイが作った特殊ハンドガンであり、威力はハンドガンどころかライフルよりも破壊力が高く、貫通力だけで言うなら戦車の徹甲弾並みの銃だ。



「ずいぶんでかい拳銃だな、撃ってみろ?」



「舐められたものね・・・死んで後悔しろ」



志乃が黒パーカーの男の胴体に向けてハンドガンを放った。志乃は反動で後ろに吹き飛ばされたが弾丸は命中した。



「なんて威力だ!!ハッハッハッハ!!俺じゃなかったら間違いなく死んでいたな!!」



「・・・・っ!!」



少し反動で後ろに下がった程度で防御壁で完全に守られていた黒パーカーの男は防御壁を真横に展開して志乃に襲いかかった。志乃は瞬時にかがみ回避をしたが、空間を支えていた柱が全て破壊されそのまま空間が押しつぶされた。



「また会おうスキルヤクト。今回はお前たちに勝ちを譲ってやる」



そう言い残すと黒パーカーの男は転送装置でどこかへ消えていった。青木もリナと一緒に移動したため転送装置のロックが解除されていたのである。一方の志乃は瓦礫が自分のところにだけないことに気がついた。



「佐藤警部!!」



「奴らに縛られていました、間に合ってよかったです・・・」



捕らえられていた佐藤はこの現場にいたようだった。一度めのキールを守るために放った防御壁が佐藤を縛っていた鉄製の鎖を破壊したのだ。というよりは佐藤が行動を予測して切れるように移動していたというのが正しい。



佐藤も幸い空間が完全に崩壊する前にRMの盾を用いて志乃を庇ったため重傷を負うことはなかった。二人は転送装置を用いてリナたちと合流した。





【警視庁尋問室】



警視庁捜査一課にある尋問室でキールに話を聞いたが当然答えることはなかった。そこで銀行強盗の黒幕であったヤハン・シチュワートに対して司法取引を行い、彼のスキルを使って情報を引き出すことに成功した。





組織名はデスサロ。バリーが言っていた単語、もしくは名詞である。そしてボスのコードネームもデスサロらしい。本部があるのはタコス地区のタコス駅の地下にある元々ディスコがあった場所らしい。今回の事件を起こした目的は青木の推測通りデータサーバーの位置特定と掌握であった。



そして一緒にいた黒パーカーの男のコードネームはラインというらしい。しかしそれ以外の情報は知らされていないのか不明だった。ただもうひとつだけわかったことがあった。





スキルクラフトを作ることができる技術がある。





事実このキールという男もその技術を用いてスキルを発現したらしい。仮にそんな技術があるならばいくらでも強力なスキルクラフトを作ることができ、今後も凶悪な犯罪が増えていくということになる。そしてコードネームラインの作戦立案が脅威だ。志乃の行動ほぼ全てを予測して完全に後手に回された事から見てかなり場数を踏んでいる。





「ライン・・・今度会ったら・・・今度こそは・・・」





「姉御ー!そんな怖い顔してどうしたんすか?恋人の仇みたいな顔して」



「私に恋人なんていなーい!!調子狂うから黙ってなさいプリン!!」



「うわああああ!!やめて!!拳銃ぶっ放さないで!!おねがい!!謝るから!!おねがいいいい!!!」





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