3話 狙われた二人 前編
青木来花
元日本軍中佐。情報戦に長けており日本軍にいた時はその能力をフル活用して戦場を戦ってきた。
その日本軍にもスカウトで入った経緯があり、その前に一体何をしていたのかを知っているのは佐藤警部と日本軍幕僚長の日野だけである。
現在はスキルヤクトの情報戦において一役買っており、なくてはならない存在である。
国防軍スキルクラフト連続殺人事件の時、映像分析をいとも簡単に行なっていたが、衛星の映像から戦いで生じた炎や硝煙を全て消すというのはこのヴァストークの技術力を持ってもコンピュータ処理のみでは到底できる芸当ではない。
ヴァストーク人ではないため、スキルは当然所有していない。その卓越した情報処理能力のみで戦っているのである。
【Г2050/6/12 バソキヤ商店街】
久しぶりの休暇を楽しむリナと青木。リナの絶望的なファッションセンスをなんとかしようと青木が誘ったのである。
「リナちゃん仕事中どうして喪服なんて来てるの?スーツでいいじゃない」
「んー、いつでも葬式出られるように?」
「殺す気満々じゃない・・・」
「まあスーツ姿の女より喪服姿の女のほうがインパクトあると思って」
「刑事にインパクトなんて大事なのかなぁ・・・」
リナのあまりに絶望的なファッションセンスは周囲の人間以外にさえ知られているほどにひどい。まず色のセンスが全くないのだ。
暖色や寒色という言葉を聞いた事はあるだろうか?
暖色というのは赤や黄色と言ったぱっと見た目明るそうな雰囲気を持たせる色のことである。寒色というのは逆に青や緑といった冷静な雰囲気を漂わせる色のことである。
本来この二系統をバランスよく取り入れるなら問題ないが、例えば赤と青の二色を5割ずつのバランスで服に取り入れたとする。あまり見た目は良くないのは想像に難くないであろう。
リナはそういうことを平気でやる、そしてそれは当たり前であると思い込んでいる。
他にも原色と呼ばれる色はご存じであろうか?一般的に「赤」というイメージや「青」というイメージが原色である。それより暗い色や明るい色は原色ではない。
原色はインパクトが非常に強いことから、それをメインにする事は滅多にない。ましてやそれを二色、三色と取り入れるのはもってのほかである。
もちろんリナはそれを平気でやる。歩いているだけで周りの人間は恥ずかしいのだ。
そんなリナのファッションセンスをなんとかしたいと青木は本気で思っているのである。
そんな会話をしていたところ、突然バソキヤ商店街のシステムが異常を起こした。動作不良にも見えたが青木は違うとすぐに判断した。
「リナちゃん、どうもこの商店街のシステムがクラッキングを受けてるみたい。私は捜査二課に連絡しておくね」
「システムエラーって書いてあるような」
「一昔前に流行ったE-4ウィルスの亜種みたい。アレ私がウィルスの暗号化をデコードしてセキュリティ会社に売っぱらったから沈静化したんだけどどうしてまた?」
「青木さんって刑事する前何してたの・・・?」
「どのみち私達で捜査するわけにもいかないから早いところ離れよう
「え?私達で捜査しちゃだめなの?」
「私達はスキルヤクトだよ?ただでさえ課の枠を超えた捜査が許されてるんだから人の仕事を盗っちゃダメだよ」
「それもそうだね」
「PDSJ青木です、バソキヤ商店街にてE-4ウィルスの亜種による攻撃を受けているようです、捜査二課に捜査を依頼します」
「本部了解、手配します」
スキルヤクトはスキル犯罪という特殊な案件のために創設された部署だ。捜査一課に課を置いているが、他の課が行うような事件でもスキルが関係していると関与することを許されている。しかし、警察組織というのは縦社会でありあまり良く思っていない人間も少なからず存在しているのだ。
青木はそのことを理解しているため、なるべく一般的な事件には関与しないようにしているのだ。もっとも自身が現在休暇中ということもあるだろうし、スキル犯罪がいつ発生するかもわからない現状でタスクを複数抱えるリスクも考慮している。
もちろんリナはそんな事は気にも留めていない、彼女は刑事というよりも戦闘員のほうが性に合っているかもしれない。
【シィク駅モール】
シィクショッピングモール爆破テロ事件後、シィクショッピングモールは解体され、現在何を作るのか揉めているが、シィク駅の南側にあったこの駅モールはその被害をま逃れており、現在も営業を続けていた。またテロが起きる可能性を考慮しているのか国防軍が警備に出ているという異様な光景ではあったが・・・
「さっきは妙なクラッキング騒ぎに出会っちゃったけど、今度こそ服を買いますかー!」
「ちなみにさっきのクラッキング青木さんならどれくらいで対処できたの?」
「3分もあれば犯人の特定までいけたかな?世の中で騒がれていたほど大したものでもないし」
「セキュリティ会社が一般人に情報を売りつけられるウィルスが大したことないねぇ・・・・」
「リナちゃん、これなんてどう?おとなしめで女の子らしいよ」
「スカートはちょっと・・・」
「いいじゃん、たまにははいてみなよ」
「えー、試着だけだよ・・・?」
本日もシィク駅モールにご来店いただき誠にありがとうございます。
当店よりお得な商品情報を提供いたします。当店自慢のロールケーキが賦鲬ꗣ膊럣膄韣膨ꫣ膣ꛣ450Eと大変お得と訷㔰䗣膮꣣膓跩ꦚ跣膮㐵ぅ辐鯣膗ꛣ膊ますよう駣肂
「青木さんなんか放送おかしくない・・・?」
「確かここは音声合成ソフトを用いて予めセットしておいた文章を定期的、もしくは時刻どおりに提供するはずだから・・・この雑音は・・・」
「え?これもクラッキングってこと?」
「んーーーー、これは2046年に流行った自動暗号化ウィルスだ、確かEPS-1122だったはず。また一昔前に流行ったヤツを使われてるの?なんかおかしくない?」
「これだけでそこまで情報が出てくる青木さんもおかしいと思う」
「PDSJ青木、シィク駅モールにてEPS-1122を用いた攻撃を受けているようです、捜査二課に出動を要請します」
「本部了解、手配します」
青木は少し考え込みながらあたりを見回した。何か違和感に気がついたのである。
青木は日本軍にいた時から危機察知能力が他の人間よりもあった。自身には戦闘力がほぼ皆無であったために身につけた能力といっても過言ではない。
「リナちゃん、これ私達を狙ってない?さっきより精度が上がってる」
「え?どういうこと?」
「今見ている感じだとこのフロア以外の放送は正常みたいなの、上とか下から来た人が困惑してるし、店員さんもなんか不思議なことを目の当たりにしたときの目をしてる」
「・・・・警視庁に行ってみようか」
「あーあ、せっかくの休暇なのにどこのどいつがこんなことを・・・逆探知して懲らしめてやる・・・」
「青木さんなんか怖いよ・・・」
怒り心頭の青木をよそに、少し困った顔のリナだったが、シィクモールから警視庁までかなり近い距離であるために歩いて警視庁まで向かった。
【ヴァストーク警視庁、捜査一課対スキル犯罪対策係】
長方形の特に変わった装飾などもなく、屋上に情報用のパラボラアンテナが配置されているだけで外から見たら普通のビルにも見える建物がヴァストーク警視庁である。その地上15階建のビルの13階に捜査一課があり、その中にスキルヤクトのスペースが存在した。
中に入るとあまり警察組織の内装とは思えないような空間が広がっている。正面から右側にはスロットマシンとロッカーがあり、スロットマシンに至っては毎度毎度新作が出るとその度に台が変わるという徹底ぶりである。左側には何やらプラモのようなものが透明なプラスチックケースの中に積み重なって飾ってある。これは佐藤警部が趣味で制作したものであるが、少し詳しい人間が観るとものすごく良い出来らしい。
まっすぐ進むと各員のディスク、もとい作業机がある。
拳銃が分解されて掃除途中と思われるパーツが規則正しくおいてあるのが志乃のデスク
作りかけのプラモがおいてあるのが佐藤のデスク
ディスクの上に何もおいていないのがリナのデスク
古いPCが大量に乗っているのが青木のデスク
なにやら可愛げな人形が二つほど置いてあり、書きかけの書類が置いてあるのがナビのデスク
酒のコルクやラベルがいくつか入った写真たてが置いてあるのがプリンのデスク
そして一番奥にある少し大きめの木製机が係長であるヴィンセントのデスクだ。
「おや、お二人とも今日は休暇だったのでは?」
少し優しげに話しかけてきた初老の男が係長のヴィンセント・C・クラークである。元王立騎士団団長という異例の経歴の持ち主であり、別の並行世界の話になってしまうがリナの魔法関連の師匠に当たる。もっともこのヴィンセントはそのことを知らないが。
「係長、ちょっといろいろとありまして、私服にて失礼しております」
「休暇をクラッキングで潰されたんです、犯人消します」
リナは上司に対しては比較的丁寧に対応することができる。兄であるアンドレイとは対照的だ。
「穏やかではありませんねぇ、具体的に何が起きたのか教えてもらますか」
「リナちゃんと青木ちゃんじゃない!買い物終わったの?」
突然背後に現れたスーツ姿の赤紫色の髪をした女の子・・・ではなく女性はナビ・エルディアだ。
アンドレイの幼馴染で元公安部情報課のエージェントだった経歴を持つ。スキルクラフトでそのスキルは「空間移動」テレポート系のスキルだが、彼女のスキルは格が違う。
その話は置いておいて、アンドレイと幼馴染で良く遊んでいたこともあり、リナとは妹と姉のような関係性を持っているため、非常に仲が良い。
青木とは国防軍クーデター事件の時に共同で作戦を行った経緯があり、それ以降彼女のクラッキング技術に魅了されて今では友達関係となっている。
「ナビさん、最近顔を見ていないと思ったら裏番だったんですね?」
「裏番人が少ないというかウチと佐藤警部しかいないから沈黙の部隊とか言われてるよ・・・」
「あの人しゃべらないですからねぇ、すごく頼りになるんですけど」
「せっかくプリン頭の人が新しく入ったんだったらこっちに一人くらい割いてくれてもいいと思うんだけど」
スキルヤクトは少人数精鋭で運用されているために、人数が非常に少ない。そのために二交代制12時間交代で運用されているのだが、夜番は現在ナビと佐藤の二人と係長で動かしている状況だ。佐藤の無口さは異常なまでであり、意見を言うこともなく返事くらいしか帰ってこない。もっとも報告書などはしっかり出来るあたり仕事に支障はとくにない。
システムエラー、DBが何者かに攻撃を受けています
突然警視庁の常駐プログラムが警告を発した。どうやらクラッキング騒ぎがとうとう警視庁にまできたようである。
「青木さん、もしかしてこれ・・・」
「っしゃー!!犯人突き止めてやるぜー!!」
青木は自身の机に勢いよく座り、予め仕込んであった対策プログラムを起動した。青木が作ったこのプログラムはクラッキングされている特定区域からアクセスしているすべてのIPアドレスを取得し、違法な場所から侵入を試みているアドレスを弾くプログラムである。
ただし非常に複雑なプログラムであり、常時起動させるとそれだけでサーバーが摩耗してしまうのでこのような緊急時以外使用していない。
「特定完了!1922.4785.22.58か、検索開始と・・・」
「青木さんわかった?カチコミ行く準備はできたよ」
「んん??これは・・・ディーン商事本社ビル・・・?」
「え?」
「これはこれは、ずいぶんと大きなところを引き当てましたねぇ・・・」
「PDSJ青木、警視庁のDBにクラッキング攻撃をしたIPアドレスを特定、捜査二課に転送します。」
「了解」
「リナちゃん、あとは捜査二課に任せよ。これ絶対面倒くさいヤツだから」
「えー、ディーン商事にカチコミいかなくていいんですか?」
「リナさん、ディーン商事ってどこにあるかご存知ですか?」
「あの一番大きい建物でしょ?ヴァストーク最大の巨大企業、ディーングループの本拠地」
「知ってるのにカチコミ行くとか行ってたんですか!?」
「関係ないよ、悪いことしてるならどんなところでも潰すだけ」
ディーン商事、かつて志乃が運用していたシィク貿易社のライバル企業だった会社である。
ヴァストーク国内最大の企業で、重工業、鉄鋼、エネルギー関連、インフラ、金融、物流の7割ほどを掌握している。シィク貿易社が無い現在はさらに輪をかけたように成長を続けており、そのうち世界一巨大な企業になるのも時間の問題とも言われている。
「いいですかリナさん、IPアドレスがディーン商事を指してたからってカチコミにいってはいけませんよ。確かな証拠が上がって捜査令状が降りて初めて捜査ができるんです。この段階でもカチコミしてはいけないですよ」
「折角の休日を潰したところに慈悲はない、なんならスーパーディストラクションで本社ビルを跡形もなく消し飛ばせば」
「頼むからそれはやめてください!!」
スーパーディストラクションはリナが得意とする魔法技術の中で最も破壊に特化した魔法である。オーバーマジックという状態でしか発動できないため、そう簡単に放てる魔法ではない。しかし今のリナはリミッターが完全に外れているのか本当に発動してもおかしくない。
そんなことを話していると警視庁内に警報音が鳴り響いた。警戒レベル3の最大警戒レベルの警報音である。
「ん?何事でしょうかこれは」
「係長、市内のネットワークが次々にダウンしています」
「ええ!?青木さん状況を打破できますか?」
「これは無作為にネットワークを切断しているように見えますから無差別攻撃ですね、捜査二課がなんとかしてくれると思うから私は今回はパスです」
「いつもならはしゃぐのにどうしたの青木さん」
「この手のクラッキングは手を出したら負けなの、私PCは大事にする派だからノータッチー!」
「まあ捜査依頼が来ていない以上手を出すのも野暮ですからね、捜査二課は優秀な人が揃っていますし」
ヴァストークのネットワーク回線は蜘蛛の巣のように無数に張り巡らされているが、無差別攻撃というのはネットワークに存在する端末の処理速度を借りて通常発揮できないような処理速度を行使して発動する技術である。本当に無作為に端末を選択されているために、今ネットワークに接続するのはその対象にされる可能性があるため青木が渋ったのだ。
「結局どこからのハッキングだったのかな」
リナはワクワクしながらRM剣を握っている。カチコミするき満々である。
「まだ正確な事はわかってないのですが、どうやらディーン商事本社ビルで間違いないらしいですよ」
「よっしゃ、それじゃあ係長行ってきますね!!!」
「リナさん?それ以上勝手されると私も非常に困ってしまいます。ここは冷静になって一度家に帰ってはいかがですか?お休みですしね?」
歴戦の戦士であるヴィンセントのこの一言にリナは少し冷静になった。王立騎士団は騎士と呼ばれる魔法を行使できるヴァストーク国防軍をはるかにしのぐ屈強な兵士達が所属する組織だ。王室の警備を目的とした彼らは戦闘、特に殺害を目的とした訓練を受けている。ヴァストークの法律において王室を狙った時点で極刑と決まっているからである。
王立騎士団が王室のために行う戦闘は全て合法とされているため、無慈悲の集団とも言われている。そんな彼らが一切暴走行為や違法的な行動を取らない理由は団長の底知れぬ力があるためである。団長も王室に絶対忠誠を誓っているために裏切ることは絶対にない。
そんな元王立騎士団団長という人間の一言はリナの闘志を一瞬でかき消したのだ。
「帰って寝ます!係長!」
「あ、寝るのですね、おやすみなさい」
「リナちゃんある意味不寝てみたいな感じですねー」
「そうですね、青木さんもゆっくり寝てください」
「ではお言葉に甘えて」
「何かあったら連絡しますね」
「はい、お願いします」
【г2050/6/13 スキル犯罪特別対策係】
クラッキング騒ぎの翌日、リナは休憩室の机に向かってなにやら難しい顔でいた。反対側にはプリンがいる。
「リナ嬢の番っすよ、まだ悩んでるんっすか?」
「まって、もうちょっと考える」
「姉御ー!やっぱ制限時間設けましょうよ!これじゃあ時間ばかりかかりますよー」
机の横にパイプ椅子を反対にして志乃が座っていた。今日はまだ事件が起きていないために部屋で待機しているのだ。
そしてこの二人がやっているのはオセロである。
白がプリン、黒がリナで若干白が多く、四角全て白に取られている状態だ。リナのほうが圧倒的に不利の状況である。
「決めた、ここだ!!」
囲碁のような勢いで盤に黒を叩きつけたリナだが、すぐにプリンが一手打ってきた。
「はい、5手先で俺の勝ち」
「ああああああ!!なんでこんなに強いのさ!!おかしいよこんなの!!」
「リナ嬢弱すぎっすよ、戦闘以外だとなんでも勝てるかもしれないっすねこれー」
「あんたさ、どうしてこんなゲームとか強いのさ、この間私が得意なポーカーだって全く勝てなかったし」
「なんでっすかねー、俺むかしからゲームで負けることなんて滅多にないんっすよ」
「へー、ゲームであまり負けたことないんですね」
ゲームという単語に反応したのか横から介入してきたのは青木である。
「そうだ、青木と格闘ゲームで対戦してみなさいよ、特別にスキル使用も許可してあげるわ」
「え?まじっすか?なら本当に負けないっすよ?」
「青木、いいわよね?」
「いいですよ?昨日のクラッキング騒ぎもうちの係に救援要請きてませんし」
「俺が勝ったら今日の晩飯奢ってくださいよ姉御」
「わかった、お前が勝ったらヴァストークの最高級料理をご馳走してあげる」
「まーじっすか!!本気でやらせていただきやす!!」
青木が自分のデスクからおもむろにゲームを取り出した。数年前に流行った格闘ゲームである。世界大会も行われるほどのブームを巻き起こしたものであり、現在でも大会が開催されており、落ち着いたものの今も非常に人気のあるゲームだ。
ゲームの内容は非常にシンプルで、数人のキャラから好きなキャラを選択して戦わせる純粋な格闘ゲームである。各キャラクターには決められたパラメーターと投げ技が得意、通常ワザが強力だが若干遅いなどそれぞれキャラクターに特性があり、戦い方もそのキャラクターに合ったものがいくつか考案されている。
このゲームの面白いところが必殺技の数である。1つのキャラクターに対してそれぞれ4種類の必殺技に加えて、コンボ数に応じて発動できる奥義が2つ、HPの残量に応じて発動できる必殺技が一つ存在する。特にHP残量に応じて発動できるワザが非常に厄介で、油断すると一瞬で逆転されることもしばしばある。
「それじゃあよーい、はじめ!!」
志乃が勢いよくはじめの合図をしたが、ゲームのカウントダウンが終わってから実質のスタートであるため両者は合図が終わってもまだ睨み合っている状態だった。一番盛り上がっているのは志乃なのかもしれない。
カウントが0になり、両者戦いが始まった。プリンは志乃の宣言通り時間操作「遅延」を用いて体感速度を1/10まで減速させて1フレームも見逃さないように戦った。普通に考えて全てがスローに見えるこの状態ならば負ける要素なぞ微塵もない。
相手が青木でなければだが
「KO!!青木の勝ち!!」
「嘘でしょ!?青木ちゃん強すぎじゃないっすか!?」
「プリン弱すぎ、志乃さんもっと強い人紹介してくださいよ」
「世界大会でもあなたに勝てる人いないのに誰紹介すればいいのよ」
世界大会は現在三大会まで開催されており、青木は二回優勝している、三回目の優勝をしていない理由はそもそも参加していないからであった。丁度クーデター事件の直後に行われたためにあと処理のためヴァストークにいなかったのである。
「姉御卑怯だ!!世界大会王者を相手にしろって素人の俺じゃ遅延使ってもかてねぇっすよ!!」
「騙されるのが悪い」
そんな平和な時間が流れる係を突然スピーカーから音声が流れた。
[そんなに強い人と戦いたいなら私と戦ってよ、元世界王者さん?]
「なんだ?」
「おー、スキルヤクトのサーバーに侵入するとはなかなかやりますね」
「え、なに?どうしたの?」
「何者だ?件のクラッキング騒ぎの首謀者か?」
[ごめんなさい、クラッキングを行なって処理速度あげないとこのサーバーにどうしても侵入できなくて]
「ということはここへの侵入が最大の目的だったということなのね。要件は何?」
[ディーン商事に来てください、ここまでしないとあなた方は動けないんでしょ?]
「そういうことか、ここまで侵入を許しておいて放置するわけにもいかないわね・・・リナと青木?現場に急行してちょうだい」
「了解、武装は?」
「通常武装で大丈夫、何かやらかす前に連絡ちょうだいね」
「はーい、青木さん行くよ」
「了解、リナちゃん暴れちゃダメだからね?」
スキルヤクトはその特殊性から自由な行動は制限されている。緊急時に即座に対応するための処置だ。しかし本部に直接クラッキングされては資料の流失などを考慮すると流石に放置できるような状況ではない。最初から青木を呼び出すための罠であることも考慮して最大戦力のリナをつけるのは当然のことである。
【ディーン商事本社ビル前】
「ここがディーンん商事・・・近くで見るとやっぱり大きいなぁ・・・」
「ヴァストーク最大の企業ってことはあるね、ところでどこに行けばいいんだろう?」
「お待ちしておりました、リナ・ワーグナー様、そして青木来花様」
「誰だ」
正面玄関にいたのは白いスーツを着た金髪の30代くらいの男だった。いかにもインテリっぽい見た目と喋り方、そして丁寧な言葉の裏に人を見下すような目つき。あまり印象が良さそうな人物には見えなかった。
「申し遅れました、私はディーン商事代表取締役社長、オカルト・S・ディーンと申します。存じておりませんでしたか」
「あ、あなたがこの超大企業のトップ・・・」
「へー、社長自らおもてなしとは私たちも株が高いじゃないか!!」
そうセリフを捨てると勢いよくRM剣をオカルトに放った。しかしオカルトはどこからともなく古めの錆び付いたように見える剣を取り出してRM剣を受けた。
「RM剣を受け止めた!?」
「まあまあ、血気盛んなことは非常に良いですがここは人目につきます、一度本社にお越しくださいませ」
「わかった、行こう青木さん」
「わかりました」
通常RM剣を受け止められる刃物は早々存在しない。過去にあった事例といえば山本が持っていた黒い刀。これは10万倍に圧縮された特殊な鉄を使っていたため、尋常じゃない強度を持っていたためである。次に前回の連続殺人で使われたDMの棒。これはRM剣と同等レベルの超機密物質であり、やはりRM並みに固い物質であるがためである。今回は一体何で作られている剣なのだろうか。
ディーン商事本社ビル、全高980mの超々高層ビルである。ヴァストーク島で最もたかい建物であり、時より最上階が雲で覆われていることもある。建物の形状自体はそこまで特殊な物でもなく、四角形をメインとした形になっている。下から順にどんどん細くなっていき、最上階付近がもっとも細い。その最上階にオカルトとともに向かった。
「改めましておふた方、ようこそディーン商事へ」
「要件は何?」
「要件は二つあります、一つはリナさん。あなたと一戦交えたいのです」
「私と?」
「クーデター事件の時あなたの活躍を私は知りました。まさか魔法を行使出来る人が騎士団以外にもいたとは存じませんでしたから」
「あなたどうして魔法のことを知ってるの?」
ヴァストークにおいて魔法技術が秘匿された技術のひとつである。山本による「世界の上書き」が行われる以前は魔法技術そのものが存在していなかったが、「世界の上書き」後のこの世界では王立騎士団のみが魔法技術を身につけ、そして王室のためにその力を行使していた。一般人から見ると魔法もスキルも見た目はそこまで変わらないために誰も疑問視する人はいない。魔法技術は騎士団と国防軍上層部、そしてスキルヤクト関連の人間のみが知っている技術なのだ。
「私、元王立騎士団の部隊長を任されていましたから、知っていますし使えます。もっとも赤石は持っていないので大きな魔法は行使できませんが」
「なるほど・・・そういう事か・・・でもどうして私と戦いたいの?」
「一度で良いからあなたのように強い人と戦いたかったのです、常に弱い人物としか対峙しておりませんでしたから。退屈でしてね」
「もう一つありましたよね、そっちの要件は私に関係しているんですか?」
「はい、ゲームをやっていただきます。格闘ゲームです」
「ってことは私が世界王者になったあのゲーム?」
「はい、しかし私はゲームはどうも苦手で興味がないのですが、今回のクラッキングを行った人間がどうしても勝負したいと」
「あなたが青木来花ね?私はルイナ。前回の世界大会優勝者よ」
「私がいない大会だったから私と戦いたいわけですね、わかりました」
「というわけです、勝負に同意していただけないでしょうか?もちろん殺傷性のない木刀で行わせていただきますので」
「わかった、木刀だからって怪我しないとは思わないでよ?」
「ええ、もちろん」
こうして唐突に呼び出された二人は戦いを申し込まれ、それを承諾したのである。




