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2話 路地裏の殺人者

【Г2050/5/30 タコス一丁目薄暗い路地裏】



明け方の路地裏に警察官数人とアンドレイの姿があった。爆発音が聞こえたとの市民からの通報を受けたものだったが、人だったものが転がっていて、周囲の建物も少々損壊している有様だった。タコス地区は空き家が多く、この付近も空き家ばかりで住民の被害はないようだ。



「またこんな酷い死体が出てきたのか、今月で5件目だな・・・検視は済んでるんだよな?早く遺体を運び出してくれ」



ヴァストークでも検視が終わらない限り鑑識をすることは許されていない。遺体はすぐに警察へ搬送されて、司法解剖に回される。アンドレイは血痕を試験官に入れて、携帯用のエイフェスで検索をかけた。



--------------------------


鑑識用国民情報自動識別システムエイフェス


該当者一名、国防軍陸軍所属 アダラ・ジャニー中尉

所有スキル:炎操作レベルA/S


--------------------------



「これで五件目、また国防軍でSクラスのスキルクラフトがやられたのか・・・」



アンドレイはこの5月でこの手の、そして国防軍のスキルクラフトが狙われた事件を見ていた。全てSクラスの強力なスキルを使えたにもかかわらずにやられている。よほどの手練なのか、それとも慢心でやられてしまったのかは不明のようだ。



「アンドレイさん、付近に高圧電流が流れたようなあとを発見しました」


「高圧電流?この辺には高圧電線なんてなかったよな?」


「今地図を確認しています・・・あ、そうです、この付近にはそのような電線はありません」


「これは・・・相手もスキルクラフトだったということか?ならばアイツら使えるよな。とりあえず捜査一課一係のケイン警部に連絡を入れてくれ」


「了解しました」



ケイン警部は殺人や傷害を主に担当している勤続24年のベテラン刑事である。しかし、本人のスキルの影響で年齢が14歳からまったく歳をとっていない。彼のスキルは「不老」で、ただそれだけである。リナが持つ魔法の赤石と似たようだが、彼の場合は怪我をしてもしっかり治るためその点このスキルのほうが優秀なのだ。



しばらくすると、ケイン警部がやってきた。灰色のショートで前髪は七三分けしている。背は低めで黒いチェックのスーツベストに黒いチェックのズボンを履いている。見た目は14歳にしか見えないがタバコを吹かしながら近づいてきた。



「PDSSSケイン・スフィア現着、ご苦労さまアンドレイ」


「ケイン警部どうも、早速で悪いんだが、この事件スキルクラフトが絡んでいる可能性が高いんだ、スキルヤクトを手配したいんだがいいか?」


「ああ構わないとも、俺も彼らの活躍はぜひ見てみたいものでね」


「それはよかった、それじゃあ呼んだら俺は警察署にいって集めた証拠品を調べるからよろしく頼む。鑑識課のアンドレイだ、スキルヤクト出動要請」


「本部了解しました、手配します」


「ああ、こちらこそ頼むよ」



アンドレイは証拠品を持ってそのまま警察署へ向かった。ケインは現場を見ながら事件当時のシミュレーションを頭で行なっていた。被害者はどこから来てどこへ向かっていたのか。犯人はどこにいてどのタイミングで被害者を襲ったのか。そして犯人の目的は・・・



「そんなことを考えているとパトカーが二台到着して、リナ、志乃、プリンの三人が降りてきた。



「PDSJ万代現着」「PDSJリナ現着しました」


「ピ・・・ピーディー・・・なんだっけ」


「PDSJバカ現着したらしいよ」


「おまっ!!なんでそういうこと教えてくれないんだよ!!」


「あら、言わなかったっけ?」


「万代警部、ここに遊びに来たのか捜査しに来たのかどっちかにしてくれないか?」


「あらケイン警部これは失礼。気を取り直して早速なんだけど事件の概要を説明してくれる?」


「ああ、被害者は一人、国防陸軍のアダラ中尉だ。スキルクラフトでレベルはSらしい」


「そんな強いヤツが殺されたってこと?おかしな話じゃない?」


「そうだ、アンドレイに調べてもらったんだがこれはスキルクラフトの犯行の可能性が非常に高いらしい。それもクラスSを殺せるとなると・・・」


「かなりの手練てだれの可能性が高いわね、わかった」



「ケイン警部、被害者はここに倒れてたんですよね」


「ああそうだ、人の形はしていなかったらしいが・・・写真見るか?」


「はい、お願いします」



リナは写真を受け取ると、じっと見つめていた。黒焦げになった人らしき塊、体はくの字に曲がっており生きている時点で焼かれたことを物語っている。しかしそれは妙な話だとリナにはすぐにわかった。



「あの、この中尉さんってスキルは炎操作なんですよね?どうして焼かれているんですか?」


「確かに妙な話だが、悪いが俺はスキルは専門外なんだ。君たちの意見を聞きたい」



SDBスキルデータベースによると中尉のスキルは炎操作、炎を自在にコントロール、または生み出すことができるスキルみたいね。確かに自分の炎に焼かれるのもおかしいし、他の人間が放った炎に焼かれるってそれもおかしな話よね」



「つまり何かしらの対策を行われたということか?」


「国防軍には昔スキルを無効化する特殊装置があったって話を聞いたことあるけど、たしかそれってすごく大きな機械なのよね」


「はい、私も見たことありますけどかなり大きなサイズです。とても持ち込めるような代物ではありません」


「ということはスキルを無力化されて焼かれたわけではないということになるな」


「これ、すごく難しい問題ですよ」



「はい!すんません!!俺全然わからないんスけど!」


「はい!プリン少し黙って!君は私達の護衛!」


「はい・・・」



全員で意見を出し合っているところでアンドレイから連絡があった。



「姉御!もう現場にいるよな、それでこの事件なんだが事件レベルを引き上げることにしたんだ!ちょっと一度警視庁に戻ってくれないか?いいものを見せてやる」


「いいもの?わかった、一度戻る。リナちゃんとプリンはここで待機よろしく」


「了解!」


「え?ああ、わかった」



ヴァストーク警視庁へ戻った志乃は、青木を連れてアンドレイがいる鑑識課に向かった。鑑識課は複数人が働いているが、アンドレイは別室を確保して魔改造している。技研時代の名残なのか、どうしても自分らしい場所で働きたいらしい。



「姉御、待ってたぜ!早速で悪いんだが事件レベルを引き上げたことで軍事衛星を使えるようになったんだ」


「軍事衛星を使えるようになったってどういうことさ?」


「ああ、ここだけの話しな、国防軍の軍事衛星ってヴァストークの全国土を映像として記録していてな、72時間保存してあるんだ。今回の死体の死亡予想が13時間だったから、あの路地付近の映像を13時間前から見られるってことだ」



「え、どういうことですか?ヴァストーク国防軍は国民を常に監視しているってことですか?」


「いや、こういうことが起きたときのためにとってあるってのが正しいな、アルフォードですらこの映像は勝手に見ることを許されてないんだからさ」


「なんのために撮ってるのかいまいちわからないわね・・・」



「それじゃあいくぞ、これが13時間前の路地の映像だ」



そこにはまだ生きている中尉の姿が写っていた。路地を一人で歩いているが、誰かと言い争っているわけでもなくただ路地を歩いているだけだった。その後、黒いパーカーのようなものを着ている人物と話している様子が伺えた。


その後言い争ったかと思うと、中尉のものと思われる火柱がたち、戦闘が始まった。しばらく炎や雷のようなものが走ったあと戦闘が終わった。火柱の炎が消えて、倒れていたのは中尉であった。映像でわかったのは黒いパーカーを着た人物、そして自分のスキルで焼かれた中尉という情報だけだった。



「これは・・・何をされたの」


「わからないな・・・青木ちゃんこれ解析できる?」


「えーっと、自分のPC使えばいけると思いますけど使っていいです?」


「構わないよ、データを持ち出さなければ」


「よっしゃ!やりますよー!!」


「青木ちゃんってこういう話になると妙にテンションあがるよなぁ・・・」


「それじゃあ私は現場に戻って足取りを辿ってみるよ」


「姉御よろしく頼む、あと事件レベルを引き上げたからローラー作戦も使えるぞ」


「まだやらないと思うけど頭の片隅にいれておくよ」



再び現場に戻った志乃だが、現場ではなぜか寝っ転がっているリナがいた。



「・・・何してるの?」


「被害者の気持ちになってるんですよ、あなたは何故殺されたの?と」


「そんなんじゃ犯人なんて探せないわよ」


「そうだぜ姉御!なんとか言ってやってくださいよ、リナ嬢ずっとこうなんスよ!!」



「まあ鑑識は終わった現場だからいいけどさ・・・まあいいわ。軍の監視衛星の情報が出たからそれを頼りに犯人の足取りを洗うわよ」


「了解!」


「そういえばケイン警部はどこにいった?」


「タバコ買ってくるとかなんとかで、もう10分くらい戻ってこないんですけど」


「あー、多分コンビニでトラブってるわね、コンビニ先に行こうか」



三人で近くのコンビニに行ってみると志乃の言う通り店員と言い争ってるケインがいた。



「だから!!この身分証明書見てわからないのか!」


「どう見てもあなたは未成年です!!そんな玩具で私を騙せると思ってるんですか!」


「店員さん、この人42歳です」


「いやいやそんな、ありえないですよ!!警察に指導受けてしまいます」


「あのな!!その警察が俺なんだけど、本当に人の話し聞いてないな!!」


「はいはい、わかりましたよ。私が買いますから」


「全く!!どうしてこんな目に合わなければならんのだ!もう二度とあのコンビニにいくか!!」



ケインは己のスキル「不老」が嫌いらしい。他の人から見ると寿命がないのは魅力的だと思われがちだが、スキルが発現したのが14歳のときで、それ以降体が一切成長しなくなってしまったのである。本人からすればショッキングな出来事だったようだが、今では潜入捜査などかなり有効に使っている。



「ケイン警部ってイロイロ大変なんスねぇ・・・俺にはよくわかんねぇけど今度酒付き合いまっせ」


「ほ、本当かプリンくん!!それはありがたいなぁ!!」


「俺の名前はヴィントだって言ってるじゃねぇっすか!!」


「細かいことは気にするな、それに君がヴィントって名前なの今はじめて知ったぞ」


「じゃあ今覚えてください!酒の件忘れねぇでくださいよ!」


「ああわかった、覚えておくよプリン君」


「覚えるきねぇだろ!!」



「くだらない話はその辺にしてくれる?ケイン警部とプリン」


「ああそうだった、警視庁でなんの情報を持ってきたんだ?」


「犯人らしき人物を見つけたの、今からその足取りを追っていくところよ。ところで私達は他の4件の事件を知らないんだけど、どんな事件だったの?」



「ああ、他の事件は刃物で急所を一突きだったんだ。だからスキルクラフトの犯行ではないと思っていた、今回ので異常性がわかったから呼んだんだ」


「なるほどね、あんたが苦戦するわけだ」


「殺人事件の捜査なら誰にも負けないつもりでいたんだがな、スキルクラフト絡みは俺も難しいよ。専門家絡みの時代になってきたもんだ」


「弱音なんて吐いてられないわよ、とりあえず軍関係者でスキルクラフトが狙われてるんでしょう?他の国とかの人間の可能性も考えてたんでしょう?」



「当然その線も考えて公安にも協力を要請したんだが・・・まあ手伝ってくれないな」


「でしょうね、それじゃあ軍に恨みを持っている人間でなおかつ最近表にいない人の線で調査は?」



「もちろんその線でも調査したが、結果はお察しだな」


「あの、一昨年のクーデター事件絡みととかはないですか?」


「なるほど、あの事件はひどかったな。俺もアドルフの逮捕に駆り出されそうだったが結局万代警部が赴いたようだったから俺は補欠だったな。とりあえず俺はその線であらってみるからお前たちは引き続き違う線で頼んだ」


「わかった、なにかわかったら教えて頂戴」


「ああ、それじゃあな」



ケインはオニヒトデ要塞のほうに向かっていった。三人は何らかの情報を持っていると思われるアドルフ死刑囚の元へ向かった。ヴァストーククーデター事件の首謀者であり、文句なしの死刑を宣告されたが、重要情報を持っている可能性を考慮してまだ死刑を執行されていなかったのである。


アドルフがいるのはノルデン鉱山の更に奥地にあるヴァストーク死刑囚留置所へ向かった。ここには重大な犯罪行為を行なった人間が多数留置されている。聞いただけで吐きたくなるような事件も珍しくない。


その留置所のもっとも奥にある独房の中にアドルフがいた。リナは安全のために拘置所の外にいてもらった。山本の件で感情的になられるのはよくないからだ。



「ああ、お前か。俺になにか用か」


「単刀直入に聞く、最近スキルクラフトの犯罪が多いの。組織的なのを知らない?」


「ふん、そんな話俺が知るわけ無いだろう。知っていても答える義理はない」


「おめぇせっかくこんなクソ山奥まできたんだ、なんかいい話でもきかせろよ」


「ずいぶん生きのいい若者だな、いいだろう。そうだな、俺が若い頃の話を」


「わかった、あんたが嘘をついてないことは確かね。邪魔したわ」


「まて、一つ思い出したことがある。俺が計画を練っていた時に聞いたうわさ話だが、それでもいいなら教えてやる」


「あら、突然どうしたの?」


「お前万代志乃だろ?お前の親父には昔世話になった、そのよしみで教えてやる」


「そう、それでなに?」



「スキルクラフトで構成した最強の武装集団を作るという動きがあったんだ、その組織の名前はわからないがタコス地区に拠点があるらしい」


「タコス地区・・・やっぱりそうなのね」


「何か心当たりがあるようだな?ま、俺はどのみち死ぬ定めだから話し相手に来てくれるならまた何か情報を提供してやる」


「そう、死ぬ前に来るとする」



外でリナと合流したが、予想通り不機嫌だった。



「志乃さん、あのクソ野郎と何を話ししていたんですか?」


「情報をもらってきただけよ。やっぱりタコス地区になんらかの組織があるみたい」


「リナ嬢ちょっと怖いんスけどどうしたんです?」


「なんでもないよ、ちょっと昔に色々あってね」


「えー?まさか昔付き合ってたのがあのおじs」



その瞬間RM剣がプリンの股ぐらに突き刺さった。プリンは現在スキルを使えない状態であるために一気にプリンが青ざめた



「じょじょじょじょじょじょじょじょジョーダン!!本気にならないでくださいよぉぉお!!」


「ならいいんだけど?あんまりからかうと容赦しないよ?」


「すんませんした・・・」



スキルクラフトの犯罪組織がある可能性が出てきた、近年の犯罪率増加となんらかの関係があるかもしれない。更に精度の高い情報にするために一度警視庁に三人は戻った。



「アンドレイいる?」


「んー?ああ警部ー。先輩なら今買い物ッスよー?用事だったらボクがやりやーす」


「アンドレイの助手か・・・まあいい、最近起きたスキルクラフトによる第一級事件のファイルをまとめてほしいんだけど」


「んあー、わかりやしたー。いつまでに用意すればー?」


「なるべく早めがいい、アンドレイにもいっておいて」


「あいー」


空色の天パーでものすごくやる気のないメガネの男は、コンピューターの前に座ると白衣を脱いで灰色のパーカーのフードを被った。ぱっと見ハッカーっぽい感じにも見えるが、彼にそんな能力はない。



「姉御、アイツ誰っすか?」


「ぶっちゃけね、私も名前聞いたことないのよ。みんなもさ夫っていってるわ」


「天パーだからってかわいそうっすよ・・・なんか同情できる・・・」


「あんたプリンだもんね」


「言うなー!!」



そんな話をしていると、ケイン警部が来た。何やら情報を国防軍から持ってきたらしい。



「おお万代警部ちょうどよかった、国防軍も事態を重く受け止めているらしくてな、今日からおとり捜査をやることにしたらしい」


「おとり捜査?それの協力を警察にってこと?」


「そういうことだ、俺たち警察組織には強力な武力は存在しないか・・・いや、そうでもないか」



ケインはリナの方を見て言葉を訂正した。今やリナの戦闘力といえばヴァストーク最強なのではないかとも言われているからである。



「と、とにかくだ。強力なスキルクラフトに対抗するべく最強のスキルクラフトを用意してくれたんだぞ?感謝しなくちゃな」


「初めまして、レミ・エルディア少佐です。みなさんのお役に立てるよう務めたいと思います」


「あれ?レミ姉どうしたの?」


「リナちゃーん!おとり捜査担当することになったのー!よろしくね?」


「レミ少佐、私は万代志乃と申します。ご協力感謝します」


「警部さんよろしくお願いします」


「早速だが、おとり捜査の概要を説明する。今まで起きた事件から犯人は単独犯の可能性が非常に高い。加えて国防軍のそれもスキルクラフトに何らかの恨みがある人物であると結論づけている」



「ケイン警部、それなんだけど向こうで情報があって何やらタコス地区にスキルクラフトの犯罪組織があるらしいのよ」


「犯罪組織?それが本当なら近年の事件もそこが母体の可能性があるということか」


「まだ可能性だから本格的には動けないけど、頭に入れておいて」


「わかった、話を続けよう。なのでレミ少佐を協力者にしたわけだ。彼女はヴァストークでもいちばん有名なスキルクラフトの軍人だから食いつかないわけがないからな。俺たちは犯人に遭遇した場合彼女の援護と犯人の確保だ」



「レミ姉の援護って・・・むしろ巻き込まれそうで怖いんですけど」


「リナちゃんにだけは言われたくない・・・」


「えー・・・」


「まあどっちが強い弱いとか怖い怖くないは置いておいて、日時と場所はどうなっているの?」


「場所はタコス地区のなるべく人通りが少ない路地だ、時刻は昼間じゃないとレミ少佐は動けない」


「多忙な人そうだものね」


「暗いの苦手なだけじゃん・・・」


「リナちゃんなにかいったー?」


「い、いや?なんでもないよ!!」


「協力できる時間が少なくて申し訳ないです・・・」


「いいのよ、強力な味方がいるってだけで心強いもの」


「明日から順繰りとやっていこうと思うんだが、問題はないかい?」


「問題ないわ、今日はこの捜査はここらにして明日に備えましょう。もさ夫くん、資料頼んだわよ」


「うぃーっす」



一先ずの捜査を打ち切り、明日からのおとり捜査にマトを絞った。リナはそのまま鑑識課に残って調べ物をしていた。そんなとき青木の映像解析が終わり、なかば興奮状態でリナに掴みかかった。



「リナちゃん!!やったよ、やったよおお!!」


「あ、青木さん落ち着いてください」


「とにかくコレ見て、見て!!!」



映像には炎や雷が全て消え、二人がしっかりと確認できるようになっていた。アダラ中尉がスキルを発動し、黒パーカーの人物を攻撃しているように見えるが、黒パーカーはまったくどうじておらず、手を前に出している。



「これは・・・もしかしてこの犯人の動きって」


「えっとですね、もうちょっと拡大してっと」


「スキルを吸収してる!?」


「おそらくですがこの人のスキルは相手のスキルを吸収してそれを使うことができると思います」


「そんなスキルがあるのかな」


SDBスキルデータベースにそのような登録はありませんね、ですが確認されていないだけという可能性もありますよ?リナちゃんのスキルもですよね?」


「確かにそうですね・・・それじゃあレミ姉危ないんじゃ」


「可能性は高いです、リナちゃんが守ってあげてください」


「・・・わかった、明日に備える」



【Г2050/5/31 タコス地区路地裏】



おとり捜査初日、レミは路地裏に待機していた。周りより若干暗いせいか少しそわそわしている。タコス地区はそこそこ高い雑居ビルが立ち並んでおり、陽の光がまったく入らないような場所もある。なるべくそういう場所は避けているが、人けが少ない場所となるとかなり限られている。



「こちらレミ、す、少し暗くなってきた・・・」


「こちら本部、まだ昼下がりだから大丈夫」


「了解、待機を続けます」



本部にはケイン警部と志乃が待機していた。周りには私服の警官を数人、レミのいる路地の建物にはリナが待機している。何があっても一先ず即時対応は可能な状態だ。


精度を上げるためにSNSや匿名掲示板でそれらしい情報を流し、情報屋を用いて裏にこの時間にレミがいることを予め周知させておいた。そのためかかえって人通りが余計に少なくなっている。狙いが高レベルの軍に所属するスキルクラフトなら黒パーカーの人物は見逃すことはないはずだ。



そんな厳戒態勢の中、一人黒いパーカーを着た人物が姿を荒らした。



「レミ・エルディア少佐だな?」


「ん?そうですけどどちら様?」


「俺の名前はバリー・ビー、元諜報部の人間だ、お前に問いただすことがある」


「何?諜報部だったってそれ言っていいことだったっけ?」


「まあ聞け、俺はとある人物を探している。指から銃器のように弾丸を発射できるヤツを知らないか?国防軍にいるはずだ」


「さぁ?そんな変な人物に心当たりはないよ?あとその程度のスキルじゃ役に立たないんじゃない?」


「お前から見たらそうだろうともよ、ノンスキルから見ればそれだけで脅威だ。そう、ノンスキルから見たらお前たちスキルクラフトは脅威なんだ・・・排除せねばならない」



黒パーカーの男バリー・ビーは手を前に出した。中尉を殺した時と同じ動きであったため、本部はレミに警告をした。



「こちら本部、アイツは映像の解析からなんらかの方法でスキルを吸収することができる、注意して!」


「了解、こっちも攻撃していいの?ダメなの?」


「今バリー・ビーなる人物の足取りや痕跡を追ってる、しばし待て」


「・・・どうした?何故何もしてこない」


「アタシのスキルは知ってるよね?本気で戦うつもり?」


「それが俺たちの脅威になりえるならば倒さねばなるまい」


「何故?今ただでさえスキルクラフトによる犯罪が増えてる、あなたはどう考えてるの?」


「ああ、ちょっとスキルクラフトを製造しただけであのざまだ、やはりチンピラ風情にはもたらすべきものじゃなかったな」


「スキルクラフトを製造・・・?」


「話が過ぎた、どうせ今から死ぬ人間に言っても意味はないがな。じゃあそういうわけだ、死んでくれ」



突然水圧カッターのような勢いで水が噴射され、レミに向かっていったがレミは涼しい顔をしている。よく見るとレミには届かずに1mほどのところで途切れている。スキル温度操作を用いて水が途中で蒸発しているのだ。



「さすがは国防軍最強と言われているだけはある、ならばこれならどうだ」



今度は中尉が使っていた炎操作だ、巨大な火柱がレミに直撃した。しかしやはりレミは涼しい顔をしている。温度操作を用いれば炎が直撃しようとも当たる前に温度を変化させて炎を打ち消しているのである。



「はぁ、大口叩いてる割には大した攻撃してこないのね・・・」


「な、何を・・・ならばこれならどうだ!」



今度は光が収束し、レミに向かって放たれた。しかし今度は光が歪み、レミには当たらずソレていった。熱による光の屈折を利用したのだ。



「気が済んだ?もう眠いんだけど帰っていいかな」


「・・・・ならばこれでどうだ」



今度は肉弾戦のつもりか、黒い棒のようなものを取り出し、殴りかかった。レミは相変わらず棒立ちで何もしようとしていない。本部の戦闘待てをまだ守っているようだ。


今度は黒い棒がレミに直撃し、吹き飛ばされた。レミも何がおこったのかわからず目を丸くして相手を見た。さっきまでと同じように温度操作で棒を器用に溶かすつもりだったのだが、10億度という超高温にも耐えられるあの黒い棒は想定していなかったのだ。



「なんだあの棒は・・・」


「なるほど、このDMダークマターは熱耐性があるのか・・・これは都合がいい」


「本部、DMについて詳細を」


「DMは軍が極秘開発しているRMレッドマターの前段階だ、なんでそんな物を持っているんだかは不明だが、事態は深刻と判断し、戦闘を許可する」


「了解、それじゃあお望み通りアタシのスキル、食らうといいよ」


「最初からそうすればいいものを」


バリーは手を前に出した、例のスキルを吸収するスキルを発動するのだろうか?事前にそのことをレミは知っているが、あえてスキルを発動した。



「塵になれ、プラズマ収束砲!」



全力の1/100とはいえ、人が食らうと塵も残らない威力だ。しかし予想通りスキルは全て吸収された。バリーはニヤリと笑いながら語る。



「ハハハハハ!!貴様ら攻撃系のスキルクラフトはやはり敵ではないな!!お前のスキルでお前は死ぬんだ!!食らうがいい!!」


「リナちゃん、そろそろ頼んだよ」



物陰からリナが出てきた、即座にオーバーマジックを発動させ、インプレグナブルを使用した。これは1分間あらゆる攻撃を無効にする防御系の魔法だ。



「何人出てこようと関係ない!!死ねぇ!!」



レミが発動したときと同程度の威力でプラズマ収束砲が放たれた。しかし二人はインプレグナブルの効果でまったくダメージを負っていない。それと同時にリナは縮地で近づいて対スキルクラフト用のチョークをバリーにつけた。



「バリー・ビー、傷害の現行犯で逮捕します。余罪として国防軍連続殺人事件に関しても容疑が欠けられているので直ちに署まで連行する」


「なっ!!警察ということはスキルヤクトか!?もうここまで捜査が進んでいたとは・・・」


「スキルを使うとアンタは死ぬことになるよ、そのチョークはスキルを発動すると自動的に致死量の毒が」


「スキルを使わなければいいんだろう?おらぁ!!」



一瞬のスキをついてDMの棒でリナを追い払い、チョークを破壊した。流石にRMに近い強度を誇るDMの棒ではチョークも耐えきれなかったようだ。



「兄にあとでアレを改良してもらわないと使い物にならないみたい、仕方がない・・・スキル複製、延命!エキストラマジック!!オーバーエナジーバースト!!」



実に二年ぶりにエキストラマジックを発動した。見た目はレミのプラズマ収束砲に非常に近いため、バリーはスキルだと勘違いして吸収しようとしたが、魔法を吸収することはできずにそのまま吹き飛ばされた。かろうじて生きている状態のようだ。



「な・・・なんだこのスキルは・・・いやこれはスキルではないというのか・・・」


「観念してさっさと署まで来なさい、でないともっときつい攻撃を食らわすよ」


「こんなところで・・・捕まるわけにはいかん!デスサロ様に迷惑をかけるわけには・・・」


「デスサロ・・・それがアンタたちの黒幕ってわけ?」


「そんなこと言えるか、じゃあな!!転送装置起動!」



バリーは転送装置でどこかへ転送していった。軍以外に転送装置を所有しているのは、想像以上に大掛かりな組織が絡んでいる可能性が高くなった証拠だ。



「こちらリナ、犯人を取り逃しました。デスサロなる人物、または総称について調査をお願いします」



「本部了解、犯人を確保できなくても情報は引き出すことができたわね、上出来だわ。レミ少佐と引き返して」


「了解、周辺を修復し次第撤退します。リバース!!」


「おー、凄い!建物とかアタシの傷が治っていく・・・」


「レミ姉帰ろう、テレポート!」



捜査本部に戻った二人は、あらかたのことを報告した。バリ・ビーなる人物、スキルクラフトを作るという発言、そしてデスサロなる人物か総称。ウルベルトが言っていたスキルクラフトによる犯罪組織は実在するのはほぼ間違いないことが確定した。



「それじゃあアタシは国防軍に戻るわ、なんやかんやで協力できてよかったよ」


「レミ少佐、ご協力ありがとうございました」


「いやいや、万代警部も頑張ってね!」


「はい」


「リナちゃんもありがとね!また二人で戦えると楽しいと思うよ」


「レミ姉と協力するといつもろくなことがない気がする・・・」


「まあまあ、それじゃあねー」


「さて、犯罪組織の存在が確定したわけだが、これからどうしましょうか」


「まずはバリー・ビーの正体を確定することが大事だと思う」


「それじゃあ青木に調査させましょう。モサ男君が珍しく仕事が早くて資料は全部揃ってるし」


「わかりました、周辺の調査を開始します」


「あとはデスサロの情報か・・・またウルベルトに聞いてくるかしら」


「それは志乃さん一人で行ってください、私はそろそろ定時ですので帰ります」


「そう、お疲れ。私も捜査は明日にして帰るわ、青木ー無理しないでよ?明日からでいいんだからね」


「わかりました」



青木以外捜査本部に人がいなくなり、青木も一時間ほど立つと自宅に帰宅した。それとほぼ同時刻、タコスの路地裏で動きがあった。



「はぁ、はぁ、てめぇ、誰の差金だ?」


「デスサロ様の名前を奴らに知られました、これは大きな失態です。死を持って償ってもらいます」


「その件はデスサロ様に詫びを入れて解決したんじゃなかったのか!」


「してません、デスサロ様はバリー・ビーを消すように私に命令を出しております。あなたは優秀だと思ったのですが、とんだ誤算です」


「ちくしょう!!てめぇこそ死にやがれ!!」


「まったく、その程度のスキルじゃ私を倒すことはできませんよ」



【Г2050/6/1 タコス地区路地裏】



昨日の戦闘区域内にアンドレイと警官が数人居た。首なし死体があるとの報告を受けてそれの調査と鑑識を行うためである。


「・・・・こいつはバリー・ビーだ、首から上はないけど」


「アンドレイさん、これは組織絡みで間違いないですよね」


「間違いないだろうな、口封じかもしくは知られたくない事実の一端をしゃべったからかもしれない。どちらにしろ俺達にとっては有効な証言をコイツがしたことになるな」


「あとはスキルヤクト次第ですね」


「ああ、頑張ってもらわないとこの国は瓦解するかもしれないぞ」



バリーの死体を発見したとともにより強力なスキルクラフトの組織の存在を再確認したアンドレイは、鑑識を済ませて事態を本部に伝えるために署へ帰還した。

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