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1話 初任務

【Г2050/5/15 南ヴァストーク、ブラウ銀行南ヴァストーク支店】



「午前のお仕事完了ですねー!お弁当何にします?支店長」


「そうですねぇ、せっかくですから幕の内弁当にしますね」


「またですか!?いっつも幕の内ばかり食べてるじゃないですか」


「いえいえ、あそこのお弁当屋さんの幕の内は格別なんですよ」



ちょうど12時になり、銀行は休憩時間に入っていた。いつもどおり馴染みの弁当屋へ電話を入れ、弁当を待っていた。今日も何も変わらない日が続くと思っていたその時に突然ドアが壊されて中に人が入ってきた。



一瞬で何が起きたかもわからず、行員達は動揺した。目の前に立っているのは金髪で三白眼の男だった。男は行員に対して何かを聞くこともなくずかずかとカウンターの内側に歩いてきた。



「あ、あの・・・何の要件でしょうか・・・警察呼びますよ」


「金庫はどこだぁ?教えねえとただじゃすまねえぞ」


「え、えっと地下にあります・・・あの・・・いったい」


「そうか、地下だな?ありがとよ」



男はそう言って行員たちに少し離れるように命令したあと突然床を殴りつけて破壊し、金庫へ降りていった。その後もう一度音がしたと思ったらすでに男はいなく、金庫にあった貴金属がなくなっていた。



「け、警察に連絡しろ!!強盗だぁぁああ!!」




一般より通報、南ヴァストーク駅前の銀行で強盗事件発生、犯人は営業中の銀行の正面から強襲数は1、スキルクラフトの可能性あり。捜査一課一係は直ちに急行してください。



「やれやれ、銀行強盗か。どれ行ってこよう」


捜査一課一係でコーヒーを飲んでいた少しよれたスーツを着ている中年の男がよろよろしながら歩いていった。黒髪の三白眼で、いつも違うところを見ているような雰囲気だ。


男は警視庁から出てパトカーに乗り込み南ヴァストークへ向かった。現場に到着すると、よろよろと歩いてブラウ銀行南ヴァストーク支店に現着した。



「PDSSSアイバリーだ、状況説明を頼む」


「アイバリーさんお疲れ様です、現在わかっているのは容疑者と思われる人物は一名、けが人はなしで金庫まで床を破壊して金庫も破壊されています。中にあった貴金属を盗みそのまま逃走しています」



「なるほど、短時間でそこまでの破壊をするということはやはりスキルクラフトだな、了解した。やつらを使ってみるとするか」


「スキルヤクトですか」


「ああ、アイツらこういうときのために結成されたんだろう?PDSSSアイバリー、SJスキルヤクトの出動要請」


「本部了解、手配します」


「さーて、スキルヤクトの初任務だ」



アイバリーは鑑識が来るまで銀行員に聞き込み調査をしていた。鑑識の現場検証が終わらない限りは現場捜査してはいけない決まりになっているからである。そうこうしているうちに鑑識がやってきた。



「おーアイバリー警部。鑑識のアンドレイ到着したぜ」


「やぁ、また頼むよ。今回はスキルヤクトを呼んでみたんだ、活用してくれ」


「おー、じゃあ志乃の姉御が来るんだな?こりゃ荒れそうだな」


「まあ、アイツは優秀だから大丈夫だ」



アンドレイが現場を調査している時にパトカーが一台到着した。中から志乃と青木が降りてきた。



「PDSJ万代、現着」


「PDSJ青木、現着しました」


「万代警部、そろそろ鑑識が終わるから終わり次第現場を見てくれ」


「了解、一応現状説明お願い」


「容疑者は1人、真昼の銀行に正面から強襲し、素手で地下の金庫室まで穴を開けた。金庫も素手でぶち壊し、そのあと正面玄関から出ていった。銀行職員ほぼ全員が同じ証言をしているから間違いはないと思われる」


「反社、マルBの可能性は?」


「なんとも言えないが、可能性は低いと思うな」


「了解、地どりよろしくね。私は監視カメラを先に見ておくよ。青木、一緒に来て」


「了解、頼んだよ」



テキパキと作業が進むあたり、前からの付き合いである事が良く分かる。アイバリー・プテラーと万代志乃は捜査一課時代からよく一緒に捜査していた仲である。アイバリー的には志乃は比較的苦手な人物らしいが、腕は信用している。



「しっかしどんなスキルがあったらこんな事ができるんだ・・・?」



床に開いた大穴、金庫も同様に大穴が空いている。普通なら兵器でも使わない限りこうはならないが、それができるのがスキルの怖いところである。一体どんなスキルを使えばこうなるのか推測するのはスキル犯罪を追いかけるのには必須条件なのだ。



監視カメラを一通り見たあと外に出ると、アンドレイが立っていた。



「姉御、鑑識終わったぜ」


「ご苦労さま、どうだった?」


「ああ、一点にものすごい力が加わって破壊されているな。かなりのパワーが必要だ」


「監視カメラには1コマだけ写ってたのよね、たった1コマっておかしいと思わない?29フレームで1秒よ?」


「おかしいな、速度が上がるスキルとかそんなところだろうな」


「うーん、コイツは面倒事が嫌いで何も考えなしに行動するタイプかな?」


「姉御プロファイルか?だったら似た事件が一ヶ月前にあったんだがデータ見るか?」


「本当?見てみる」


「先月現金輸送車が何かに突っ込まれて大破、現金をそのままかっさらって逃走。スキルなのか車を死角からぶつけたのかわからず捜査中の事件だ。だが指紋が出たんだ、エイフィスでヒットしたんだよ」



鑑識用国民情報自動識別システム「エイフィス」はヴァストーク国民と周辺国家の犯罪者、犯罪歴のあるもののDNAと指紋を登録して、それを識別することができるシステムである。ヴァストーク国民に関しては全ての国民に登録を強制してある。


唐突に名前を出されて困惑した志乃だが、とりあえず素で返事を返した。



「誰よ」


「ヴィント・S・ディーン」


「誰よ」


「ディーン家の親族かな?詳細は調べてくれ」



ヴァストークで知らない人はいないほどの超巨大企業ディーン商会、オカルト・S・ディーンが作った会社でたった15年で急成長した企業である。現在は金融を始め、重工業、資源発掘、航空分野、製造、造船、輸送と広い分野を展開している。もしそのディーン家の親族ならばスキャンダル案件だ。



「今はスキル犯罪専門だからアイバリー警部に調べてもらいましょう。面倒だし」


「本音が漏れてるぞ?そうだ、姉御に頼まれていたヤツ完成したから今渡すよ」


「あー、アレね。ずいぶん早かったじゃない」


「まあな、ただ一発12万エメラだからな?大切に使えよ?まあ姉御にとってははした金だろうが」


「高いわよ」



万代志乃、シィク貿易社という会社のトップだった人である。それもたった2年で会社を立ち上げてヴァストークでも有数の超巨大企業まで成長させた。しかし、このスキルヤクトができる直前に警察に逆戻りして現在に至っている。


2年より前も警察にいたので、警察→シィク貿易社→警察という少し異例の職渡りをしている。ちなみに現在の所持総資産は推定でも100兆Eエメラを超えており、ヴァストークどころか日本と惑星全てを数えても一番の大富豪であることは間違いない。



「何か追加情報があったら連絡して、私はヴィントの家付近まで歩いてるから」


「わかった、何かあったら連絡するよ」



青木を連れて銀行を離れ、付近にあるビジネスホテルの一階喫煙所でタバコを吹かしながら今回の事件内容を整理していた。



「先月の現金輸送車、今回の銀行強盗。現金輸送車は現金20万Eが強奪され、今回は300万Eが相当の貴金属が盗まれた。まったくこんなご時世に現金輸送車が走ってるなんて思わなかったわ」


「現金なんて最近見てすらいないですよねー、今じゃデジタル決済がほとんどだし現金お断りのところだってあるのに」


「そうね、そんなレアな車を都合よく狙えるなんておかしな話ね」



そんな話をしているとアンドレイから連絡が入った。



「姉御、銀行強盗事件の続報だ」


「話して」


「現場にあった毛髪からさっき話していたヴィントのDNAが検出された、毛髪は破壊された金庫からだ」


「ロビーじゃなくて金庫ならもう決まりね、緊急配備しなきゃ」


「一応データを転送しておく、令状はこっちが申請しておくから先に向かっていてくれ」


「了解、青木巡査!ヴィント・S・ディーンのスキル情報はある?」


「今調べます・・・・と、いえ、スキルデータベースにそのような登録はありません」


「ということは後発性のスキルってことか、わかった」


「あと事件の様子から検索結果にいくつか気になるものがありました」


「何?速度上昇系のスキルと硬化系のスキル?」



「なんだ、知ってたんじゃないですか」


「まあね、監視カメラに1フレームしか映らないのはおかしいじゃない。ボケてて使い物にならないし、それに武器も使わずあの破壊力ってことは肉体強化というより硬化で速度を使ってぶん殴ったってのが正しいと思ったわけよ」


「さすがは検挙率100%、ヴィントの住居は南ヴァストーク二丁目1-3です」


「了解、あ、アイバリー警部?捜査一課でヴィント・S・ディーンという男を緊急手配して、データを送るから!さて、これでアイツは公共交通手段を断たれたわけだけどどう動くかな」


「もし家にいるとするならばまだ貴金属を持っているままかもしれないですね、彼は車を所持していませんから近くにいる可能性は高いです」



「それじゃあその線で行ってみようか」



一方その頃、バソキヤ二丁目のマンションの一室ではアラームが鳴り響いていた。半ば寝ながらアラームを切り、目をこすらせながら鏡を見る。



「ふぁー!よく寝た!今日は確か火曜日で私は遅番だったよね・・・初日からフル稼働もないだろうしシャワーでも浴びるか・・・」



シャワー室へ向かってお湯を出したくらいのタイミングで携帯が鳴る。当然シャワーの音で本人は気が付かない。



「・・・・・・・・リナ電話にでない・・・」


「志乃さん仕方がないですよ遅番ですよリナちゃん」


「それもそうね、現在地と事件内容を送っておけば来るでしょ」



その時警察無線から新たな事件の情報が入ってきた。



ビーネ地区でスキルクラフトが通り魔事件を起こした模様、スキルヤクトは直ちに現場に急行してください。



「またスキル犯罪?今日二件目よ」


「まだ情報開示だけで実際私達が動いてるの知らない人がほとんどでしょうからね」


「仕方がない、私とリナでこっちをやるから青木と佐藤警部で行って」


「了解しました、佐藤警部、ビーネの通り魔やりますよ」


「了解」



志乃と青木は別れ、志乃はヴィントが住んでいるというマンションの一階にいた。緊急配備を行なっているので監視カメラや公共交通機関を利用すればすぐに通報されて情報が来るが、未だに情報はない。ということはまだ家にいる可能性が高いのだ。


令状がまだないため家に踏み込むことはできない。そこで家から出てきたところを職務質問し、うまいこと言って公務執行妨害あたりで引っ捕らえるつもりだ。



「しかしなかなか出てこないな、まさか読みがはずれて自宅にいないんじゃ・・・」



やきもきしているうちにアンドレイから令状のデータが転送されてきた。これで自宅に押し入ることができるが、目の前にヴィントが現れた。家にはいなかったが近くに買い物へ行っていたらしく買い物袋をぶらさげてのんきに歩いている。



「居た!!おいお前!」


「あ?誰だテメェ」


「ヴァストーク警察の万代志乃だ、お前に銀行強盗の嫌疑がかかっている。署まで来てもらおうか」


「お前嫌疑とか言ってる割には決めつけてるじゃねぇか」


「証拠がある、事件当時の監視カメラにお前が写っていた。そしてもう一つ極めつけは破壊された金庫室に新しい髪の毛があってそのDNAがお前のものだったんだよ」


「誰かが置いていったんだろ」



「それじゃあ1フレームしか映らなかったお前を写した監視カメラはどう説明するんだ?同行に応じない場合は公務執行妨害で現行犯逮捕して強制的に署まで送ってやる」



言い逃れができないと観念したのか、ヴィントは正面を向いて少し不機嫌そうな顔をした。しかし、その直後にニヤっと不気味な笑顔を見せて半ば挑発気味に言った。



「やれるものなら、やってみなァ」



直後に視界から完全に姿を消して突風が吹き荒れた。風が収まったかと思うと真後ろにヴィントが立っている。やはり速度を上げるスキルを保有しているらしい。



「早い!」



「大したことねぇな、あの速度を見切ることもできないなんてお前スキルクラフト追うのやめたらどうだ?俺はな、自分の時間の流れを高速化して移動できるんだぜ?極めつけに体を固くして速度を生かして攻撃できる。俺にかかればお前なんて」



「プッ!」



あまりに単純な思考回路を持っている人物に出会ったせいかつい笑いがこみ上げて志乃は少し笑った。やはりプロファイルは正しく、単純で面倒事が嫌いなタイプであることは間違いないようだ。



「てめぇ、何がおかしいんだ」


「スキルの最大の利点を教えてあげる。それはどんなスキルか判断できないうちにやる不意打ちよ。お前にその不意打ちはもうできない、ここに来る前に大体の予測をしてるからどのみち意味なかったでしょうけど」


「そんなもん必要ねーよ!!」



再び高速で突進してきたが、今度は動きを見切って交わした。その後脇につけていたガンホルダーから9mm自動拳銃を二丁取り出してヴィントに向けて発砲した。しかし、硬化スキルのせいで全て弾かれてしまう。



「そんな銃弾きかねーよ!!予想してるのにそんなもんバラバラ撃つようじゃお前も大概だなぁ!」



装備品がそれしかないと思ったのか速度はそのままにゆっくりと近づいてきた。ある程度近づいてきたところで志乃が銃のグリップで思い切り殴りつけた。しかし銃のほうがひん曲がって一丁使い物にならなくなった。



その後何度か格闘を試みたが、全て攻撃があたってもまったく効いている様子がなく、とうとう高速のパンチが志乃に直撃して20m先の乗用車に叩きつけられてしまう。



間髪入れずにトドメを指すためか志乃に向かって再度攻撃をしかけた。左手でパンチを受け止めたが、あまりの威力に左手の骨が砕けたような感覚に志乃の顔が歪んだ。しかし、その後に少し笑みを受けべて言った。



「つーかまえた・・・!!」


「あ?左手の腕を砕いてやろうと思ったが速度が足りなかったか?どのみちそれでお前に何ができる?」



志乃は腰のガンホルダーから何やら大きめのサイズのシングルアクションの拳銃を取り出して、ヴィントに向けて撃ち込んだ。撃ち込んだ弾はアンドレイに依頼していたRMJレットマタージャケット弾である。


弾芯がRMレットマターで覆われているため、ほぼ全ての物体を形状を維持したまま貫通することができる弾丸である。更に刃物のように鋭利に設計されておりヴィントの硬化能力ではRMの硬度に耐えることができず銃弾がヴィントの脇腹に命中し貫通した。



「どぉあああ!!なんだ!?俺の硬化が通用しない!?」


「お前に不意打ちができなくても私にはできる、時間を加速させると言ってたな?傷口からの出血も早まるからその加速スキルを使うことはできないだろ、お前が自白しなかったらもうちょっと苦戦を強いられたがスキルをばらした時点で私の勝ちだったな」



大きめの拳銃を中折りして、薬莢を取り出して再装填した。この拳銃は一発しか弾が入らない銃で命中しない可能性も考えるとかなりリスクがある。すこしよろけながらヴィントは笑顔で言った。



「ぐっ・・・ずいぶん久しぶりに痛みを感じた・・・お前ただで済むと思うなよ・・・」


「負け惜しみ?さて、とっとと署まできなさい!傷害と器物破損の現行犯もつけておくから」


「なに勘違いしているんだ、俺のスキルはそれだけじゃないんだぜ?俺はな、自分以外の時間を減速させて早く動くこともできるんだ・・・」


「え?」


「加速と違ってパワーは乗らないがお前を殴り殺すには十分だ・・・覚悟しろ!!」



そう言うと動きが確かに早くなった。まったく追いつくことができず、志乃は使い物にならない左腕をうまく使ってガードをする。しかし、痛みと速度によって追いつくことができずに殴打をくらいっぱなしになってしまった。そして銃を奪われ絶体絶命の状況に追い込まれた。



「トドメだ、お前の銃で頭を打ち抜いてやる・・・死ね!!」



ヴィントが引き金に手をかけて銃弾が発射された。しかし、志乃に命中せずに銃弾は壁に命中した。よく見ると志乃の前にRM剣レットマターソードを持ったリナが立っている。



「すみません、今日の朝ごはん何にしようと悩んで悩んで結局食べずに携帯みたらここの現場にきてと書いてあったので来ました。おはようございます」



「・・・遅い、でも間一髪だったわ、助かった」


「え?私遅番です!!遅刻じゃないです!!むしろ早いですよ!!」


「誰だ・・・いつの間に・・・」



「てか志乃さんどうしたんですか?左腕がタコさんになってますよ?」


「複雑骨折でしょ、医者に行けば治してくれるから大丈夫。それよりその男が例の銀行強盗の容疑者よ、殺さないで捕まえて」


「はーい、というわけでプリン頭のお兄さん、あなたには死なない程度にいたぶらせていただきますね!」



「・・・・お前正気か?その女と一緒にお前も殺してやる」


「その子ね、普通の人間だと思ったら大間違いよ」



ヴィントが再び時間減速スキルを使用してリナに攻撃を仕掛ける。しかし、時間が変化していないかのように普通に攻撃に対応してむしろRM剣で完全に押されている。硬化化のおかげで致命傷まで傷をつけられるには至っていないが、明らかに傷が増している。



「なんだこいつ!!時間減速1/10までしてるのになんで普通についてくるんだ!?追いつくのが精一杯だなんて!!」



少し距離を取るが、リナは縮地を使って一瞬で距離を詰める。ヴィントは必死なのに対してリナは完全に遊んでいる雰囲気だ。



「リナ、遊んでないでとっとと片付けてくれる?痛いから病院に行きたいんだけど?」


「はーい、というわけでプリン頭さんちょーっと痛いですよ」



そういうと、RM剣をもう一本転送装置を使って取り出し、ヴィントの両足に突き立てた。RM剣はヴィントの両足を貫通し、大量に出血した。その後懐からチョークのようなものを取り出してヴィントの首に巻き付けて固定した。



「今あなたにつけたチョークはスキルを発動すると自動的に仕込んであるRM製の毒薬が差し込まれる監視チョークだよ、スキルを使ったらあなたは死ぬ。おとなしくしなさい?そのまま放置して両足の出血で死んでもいいけど」



「くっそ・・・こんな・・・こんなところで捕まるなんて・・・」


「別にあんたを取って食おうなんて思ってないわ、リナ、コイツに魔法あたりを使って出血だけでもしてもらえる?」


「はーい、ヒール!!」


「出血が収まった・・・で、どういう意味だ」



「実は私達は今日から稼働した警視庁の新組織”スキルヤクト”なの。スキルを用いた犯罪を捜査する専用の部署よ。ただね、あなたみたいなSクラスの攻撃的なスキルを持った人材がいなくてね、ちょうどいいところにあなたがきたわけ」


「どういう意味だ・・・」


「あなた、警察で働かない?拒否権はないわよ?どのみち警察にパクられてそのまま牢屋だから」



「牢屋を選ぶかお前たちの犬になるかどちらかということか・・・」


「まあそういうこと。別に牢屋を選ぶならそれでもいいけどどうする?」


「牢屋にいくくらいなら、わかったよ!煮るなり焼くなり好きにしろ・・・」



「リナちゃん聞いた?煮たり焼いたりしていいんだって!!」


「何しましょうかね、今日はプリンの煮付けですか?」


「お前らたとえ話ってしってるか?カニバリズムのやべー奴らだったのか!?」



「まあどちらにしろ良いスキルを持ってるしかなりの人材ね、ちょっと頭がバカで直感的なのが欠点だけど、 調 教 し が い がありそうだわ」


「ここここの人目がマジだ・・・ひぃぃぃああああ!?」


「あのさ、ふたりとも病院行きなよ・・・」



そんな話をしているうちに、マンションの周りにパトカーが数台止まっていた。そのパトカーからアンドレイが歩いてきた。志乃やリナが暴れたあとの処理にきたようだ。



「おーおー、思ってたより被害が少なくてよかったよ」


「兄、あんたはいいよね?後片付けしかしないんだからさ」


「いやー、お前達が暴れた分だけ俺の仕事増えるんだぜ?今回はこの程度でよかったけど今後のことを考えると後片付けもバカにならねーよ、なんとかならないのか?」


「前線に立つ私達も大変なんだよ!贅沢言うなぁああ!!!」


「ああああ!!!」


そういうとリナはRMナイフを転送装置で取り出してアンドレイの腕に突き立てた。アンドレイもまったく警戒をしていなかったせいかそのまま腕にナイフが突き刺さった。アンドレイは冷静に鎮痛剤を飲んで何事もなかったかのように話し続けた。



「そうだ姉御、この事件なんだがきな臭い話があるぞ」


「止血してから話しなさいよ・・・それでなに?」


「今回と一ヶ月前の現金輸送車の事件だが、どっちも今回の銀行が絡んでいるんだ」


「こいつディーン家の人間なんでしょ?兄弟とか親の会社は襲わないんじゃない?」


「そういう意味で言ったわけじゃない、ブラウ銀行南ヴァストーク支店の所有物が襲われているってことだ」


「同じ支店の所有物・・・まてよ、アイツバカなのにどうやって現金輸送車のルートを?おい髪型プリン、先月現金輸送車を襲ったのもあんたよね」


「なんだよ髪型プリンって・・・確かにそれも俺だけどそれがどうしたんだ」


「誰かに聞いたんじゃない?そのルートを」


「電話があったんだよ」


「誰から」


「それがわからない、非通知で変声機を使っていたんだ。俺も流石に怪しいとは思ったんだが一応確認のために向かったら超レアな現金輸送車が走ってたんだよ」


「それはいつの話よ」


「一ヶ月前だな」


「犯行の直前ということか・・・アンドレイ、その日通知の電話のログを漁ってほしいんだけど」


「俺の専門外だぜ?青木ちゃんにやってもらえばいいじゃないか」


「今別件で動いてるから使えない、頼むよ」



「わかったよ、あともう一つあるんだが、この2つの事件は保険をかけた次の日に起きているんだ、おかしいと思わないか?」


「保険か・・・前回も今回も被害額ってたいしたことないわよね」


「ああ、合計金額にしてもたった80万Eくらいだ。それで保険の方なんだが、金額にかかわらず1000万Eの保険金が支払われている」


「なんで被害額より明らかに多いのよ」


「そういう保険らしい、審査も厳しいから銀行系列くらいだぜ?」



ヴァストークにおいて銀行が狙われることはほとんどない、何故かと言うとヴァストークは電子マネーがほとんどすべてであり、銀行に行ったところで現金は存在せず、借入をする場合も即座に金額が振り込まれずに一度本社に経由して本社で電子マネーを補充してもらう仕組みになっているからだ。


もし電子マネーを強奪する場合は本社へ強盗にいくか、もしくはクラッキングしかない。当然セキュリティは頑丈であり、本社も強固なセキュリティで守られているためほぼ不可能と言える。



そんな事情もあってか、見舞金という意味も込めて保険会社は高めの値段設定で満額支給の保険を銀行の支店に進めているらしい。



「これは新手の保険金詐欺なのかな」


「さぁな、どのみち支店には再度調査に入るべきだ」


「そうね、アイバリー警部?今どこにいるの?」


「今南ヴァストーク支店にいる。どうしたんだ?犯人は確保したんだろ」


「ちょっと事情が変わった、支店長はいる?」


「ああ、事件後の調査のために全員から正式な調書を取っていたからな。当時勤務していた人間は全員いるぞ」


「適当に理由をつけてまだ帰さないでくれる?」


「わかった、その事情ってのが原因だな?お前のことだ、確信まで迫ってるんだろう」


「頼んだわ。アンドレイはさっきの電話の発信源を特定して、一応裏を取っておかないといけないから」


「あいよ、あと姉御はその怪我じゃ無理だ。そのプリン頭と一緒に病院へ行って来い」


「プリン言うな」


「あの、私がやります。ダメですか?」


「・・・・・・・・」


「あ、あの!そんな不安そうな顔で見つめるのやめてもらえます!?」


「姉御、俺も行くから・・・とりあえず安心して病院に行ってくれ」



プリン頭のヴィントと志乃は救急車で病院に運ばれていった。リナとアンドレイはその足で南ヴァストーク支店まで向かった。テレポートで飛ばない理由はアンドレイが発信源を特定するのに少し時間を要するからだ。



南ヴァストーク支店に到着し、アイバリー警部と合流した。その後支店長のところへ赴いた。



「あなたが支店長ですね、私はリナ・ワーグナーです」


「は、はい・・・あの?聴取はもう終わったのでは?」


「そのことなのですが、まだこの事件終わってないんですよ」


「と・・・申しますと」


「実はですね、先程実行犯を捕まえたのですが、そいつだけでは今回はともかく前回の現金輸送車を襲うことはできないんですよ、それにそいつも証言していましてね」


「それは大変です、是非捕まえてください!こんな毎月のように強盗にあっては商売になりませんから」


「そうでしょうとも、それでですね?この支店の行員全員の指紋とDNAがを提供してほしいんですよ」



「わかりました、お願いします。一応他の行員にもプライバシーというものがあるので再度確認を取ってもらっても良いですか?」


「ええもちろん。あと支店長は採血もお願いします」


「私だけですか?わかりました」


「それじゃあ兄、あとはよろしく」


「ああわかった、採血するぞー」


「はい」


「そういえばこの銀行の事件さ、保険をかけたとたん起きたんだよな」


「そうですね」


「偶然か?」


「偶然ですよ、私も驚いているくらいなんですから」


「そうか、それじゃあ俺が次に言う言葉をあててみろ」


「お前が事件を起こした張本人じゃないのか?ですか?」


「残念、外れだ」


「違うんですか」


「なるほどなるほど、やっぱりそうだったか。おいリナ!見失ってないよな?」


「今追跡中、それでその情報は正しいんだよね?」


「ああ、俺の情報は絶対だ、信じろ」


「根拠もないのに信じろだって?わかったよ」


「あの・・・私はどうすれば」


「ああすまん、話の続きだったな?実はな、保険の受け渡し先がおかしいんだよな。本来であるならばブラウ銀行本店、もしくは支店に受け渡し先を指定するだろ?」


「ええ、契約した先に本店にしました」


「それでな、話が変わるようだがお前の血液から微量のLSDが検出されたんだ、わかるか?」


「え?さっきと話がつながっているんですか?わかりませんよ」


「だろうな、コイツは幻覚系向神経剤だ。簡単に言うと洗脳とかに使う薬物といったらわかるかな?」


「え?何故そんなものが私の血液からでるんですか」


「それでな、お前の銀行の行員に少量のLSDで人間をコントロールするスキルを持ったスキルクラフトがいるんだ。知ってたか?」



リナは容疑者を追っていた。南ヴァストーク支店の金庫室へ抜ける階段付近で容疑者を発見した。アンドレイの言う通り金庫に向かっている途中だった。


「いた!止まれ!!ヴァストーク警察だ!」


「な、なんだ!?ボクに何のようだ!!」


「ヤハン・シチュワート、あなたを現金輸送車強盗、及び銀行強盗事件の首謀者として逮捕します。逮捕状です、神妙に縄につけ!」



「なんでボクがそんなことをしなきゃいけないんだ!!勝手に決めつけるんじゃない!!」


「LSDを使って支店長を操作したんでしょ?それで支店長にLSD、証言と違う保険の受取先、そしてあんたが情報を渡したヴィント・S・ディーンの通話履歴、あんたの携帯にも履歴残ってるね」


「い、いつの間に携帯を・・・返せ!」


「これは証拠品として預かりますー!さてさて、通話の内容ですけど電話局から回収して音声加工の逆探知中、もうすぐ結果が出るけどあんたの声紋と比べてみる?」



「・・・かくなる上は!!喰らえ!!



ヤハンは液体の入った容器をリナに投げた。しかし、それをキャッチしてRM剣を取り出し、ヤハンの足に突き刺した。



「ぐああああ!!!痛い!!痛いぃぃぃい!!!!」


「あんた私をなめすぎ、手の内がわかってるのにLSDに警戒しないと思った?スキルヤクトはね、多少の不祥事があっても上層がもみ消してくれるように作られてるの、どうする?抵抗するならこの場でバラしてもいいんだけど?」


「ひぃ・・・・・・・」



戦意を完全に喪失したヤハンを見て、すぐに懐から監視チョークを取り出し、さらに手錠をヤハンにかけた。



「確保!おまわりさんあとはよろしくね!」



稼働初日にして二転三転した事件が解決した。通り魔のほうも佐藤警部が現行犯の容疑者を狙撃して片付けたようだ。ちなみに容疑者は絶妙な位置を狙撃されて死亡はしていないらしい。リナは報告をするために病院へ向かった。


プリン頭のヴィントと志乃は同室にいた。



「お前がバカで助かったよ」


「うるせえ!!何も考えなくてもうまくいくって言われたんだよ!!」


「らしいわね、ところでなんであんなことしたのさ」


「・・・・金がなくてさ、髪染め買えなかったんだよ」


「へ?」


「お二人とも元気そうでよかったです」


「おいおいおい聞いたかリナ!!ぷっ!コイツ髪染め買えないから・・・そんだけのために銀行強盗って・・・アハハハハハ!!」


「へぇー、本当に頭悪いんですね!プリンさん!!」


「ねえ、頭プリンなの嫌だからさ、髪染めさせてくれない?ね?」


「そのほうがお似合いよ、今日からあんたはプリンな」


「これからよろしくね、プリンさん!」


「おい!!!なんでだよ!!せめて名前で呼んでくれよおおお!!!」



こうしてスキルヤクトに新たなメンバーが加わった。ヴィント・S・ディーン改めプリンである。強力なスキルを保有しているにもかかわらずその頭の弱さから宙ぶらりんな状態にある彼がこれからどう活躍するのかは、まだ誰にもわからない。





ヴィント・S・ディーン(プリン)

元ニート(銀行強盗など犯歴あり現在拘留の代わりにスキルヤクトで雇用中)

スキル:時間操作(加減速10倍)、硬化

特技:スキルを使った体術

趣味:酒のラベル集め

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