6 そしてその後。
「んー!ピーク過ぎたね!」
お昼まで寝とく?
と、テーブルを綺麗に拭いていくナルに、
「そうだな、ちょっと眠ぃな」
「だったら夜の仕込みはわたししとくね!」
「おう、よろしく」
マスターは手を洗うとエプロンを脱ぎながらそれで手を拭き、
「2時間したら呼べよ」
部屋の奥へ上がっていった。
マスターは2階に上がると、
「天気いいねぇ」
引き窓を開け放ち、サンの上に腰を下ろした。
そこから青空を仰ぎながら、
ポケットから取り出したタバコを口にくわえた。
「結局アンタは何をしたかったんだろうねぇ」
そう呟きながら、マスターは2週間前のことを思い出した。
『どうしよマスター……』
『あ?』
『アイツ……もうすぐきっと結婚する』
『へぇ、女?』
『……トモダチ』
『ふーん』
『ずっと好きで、でも、だめだな』
『そうなん』
『絶対好きになっちゃだめなんだよ
ずっと大事に想いをしまって、傍に居続けたのに』
『実は悔しい?』
『……だな、アイツ、ホント鈍いから』
『で、だからどうだってんの?』
『……解んねえ、でも、我慢できないのは確か』
『……』
『この先仲睦まじく一緒に住んで、子供できて、幸せな姿
一生見続けるのかと思ったら……正直、俺、』
それはある常連客とのやり取り。
マスターはそれを思い出しながら、
ゆっくりタバコを吸っては吐いていく。
「もう、気は済んだだろ……許してやりな」
誰に向かってなのか……。
でも確かにそれは切実な想いで、
「後悔してるから、
俺のトコに呼んだ?
ガラにもなくちょっとビビったっての」
尽きることなく、
それは縛られたまま最悪な結末を
けれど……
「まぁ大丈夫だろ。
アンタが惚れた奴なら……な」
マスターは思いっきり背伸びをすると
タバコを携帯灰皿に押しつけて消した
そしてもう一度見上げた空は、
どこまでも澄み渡っていた。
それから数ヶ月後。
ある小説家の作品が書店に並べられた。
それは未完の作品だったが、
『貴方がこの作品に描いた未来が、
この作品の結末です。』
と、1文が添えられた。
第1話『喫茶店。』完 2007/07/06