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もう日付が変わり、

1時間は経ったであろう都内某所。



一際薄暗い路地に1人の男が、

だらだらとあてもなく歩いていた。


男は右手を頬に近づけると、


「……いってぇ」


出来たばかりであろう口の端の傷をさすった。


その痛みに顔をしかめ、

しみると解っていながら舌で舐める。


さらに歪む男の顔。


彼は視線を少し上げると、

辺りを見回した。


「どうやって帰っかな……」


もうとっくに終電を過ぎた時間。


タクシーで帰るにも、

今の場所から自宅までの運賃分にはきっと満たない。


ネットカフェの世話にもなろうかとも思ったが、

生憎今いる場所はそういうのに縁遠いようで、


静まり返った住宅街。


実のところ、


「……どこだっけ?」


男は今いる場所がどこなのか

よくわかっていない。


「んー……怖いけど、

公園しかないか」


このご時世。


いつ何時何が起こってもおかしくないだけに

倦厭されがちな深夜の公園。


だが今この男にはそんなこと

どうでもよかった。


そう、






どうでもよかったのだ。





「ん?」


暫くよたよたと歩いていると

公園が見えてきた。


そこは住宅地を抜け、

駅に程近くビルが建ち並ぶ寂れた一画。


チカチカ光る街灯には蛾が忙しく飛び回っている。


男はそれをぼーっと眺めた。


感覚が"入ってはいけない"と、警告している。


だが、彼は、


「……」


それを無視して、

足先を公園内に向けて踏み出した。


道路と公園の境界線。


そこまで近づくと

不意に皮膚が粟立ち体がゾクリと震えた。


それでも男は一呼吸置き、

中へと入ろうと足を上げた




その時、




「……?」



男は先ほど通り過ぎた道を

また後ろ向きに戻ると、



「何で?」



不思議な光景を目の当たりにした。



「あの看板……、

電気の消し忘れか?」


男が首を傾げる視線の先にあったのは、


『喫茶店。』と書かれた看板。


もうとっくに人々が寝静まっている時間帯に

その看板は色白い光を発していた。


「……なんか、気になる」


男は公園に向けていた足を看板に移し、


「消し忘れなら消してあげとこ」


すーっと吸い込まれるように

その店に足を進めた。


そしていかにもという様な

少し傷んだ木製の扉のに手をかけると、


「あ……」


その扉は軽い力で簡単に手前に引っ張られた。




「まさかね……」


と、呟くもその場から去ろうとはせず、


「……」


恐る恐る店内に足を踏み入れた。



辺りを見回すも暗くて先が良く見えない。


静まり返った雰囲気が嫌で、


「戸締りしてないとか、

無用心すぎ……」


何気に言葉を呟いたときだった。



「うわっ!?」


暗がりだった店内にぼんやりとだが電気がついた。


驚きのあまり叫んだ途端

キョロキョロと首を八方に向けた。


ずっと暗がりにいた男の目にはちょうどいい

暖色系の弱い明かりが店内を照らしている。


それはさながらどこかのバーを思わせる雰囲気だが

それは明かりだけで、中はどこを見回しても喫茶店だった。


男は恐る恐る足を進めると、



ゴトッ



「!?」


カウンターの奥から何やら物音がした。


「ど、ドロボウ?」


男はこのまま飛び出して逃げてしまいたかった。


だが変に出て行き勘違いな目撃をされ、

泥棒の汚名を着せられたらどうしよう……。


そんな変な心配に駆られ、

彼はゆっくりとその物音のした方へ近づいた。


いつでも反撃できるよう、

テーブル席の椅子を引っつかんだ



その時、



「いらっしゃーい」

「うわぁぁっ!!?」


いきなりそこからぬっと人影が現れた。


驚きのあまり腰を抜かした男は、

へなへなとその場にへたり込んでしまった。


そんな様子をよそに

人影は壁の辺りをごそごそ探ると、



パチン



カウンター側の電気を小さいながらも灯した。


そこに浮かび上がる人影の顔。



無精ヒゲをはやし、

若干長い黒髪はボサボサ。


寝起きなのか不機嫌そうな眉は、

眉間に皺を寄せ

男を威圧的に睨んでいる様に思える。


男はどうしていいか解らず、

ただただ唖然とその男を見上げていると、


「あ?アンタ初めて?」


コクコクと頷く男に「ふーん……」と、呟き

気怠そうにカウンターの男は下を向いた。



蛇口をひねる音。


直ぐに流れる水の音で

手を洗っているのだと解った。



「俺怪しいもんじゃねぇから。

ここの店長ね」

「て、店長さん……」

「そ、マスターって呼んで」

「マスター……さん」


言われた事をただオウム返しする男に、

マスターは手を洗い終わると「座れば?」と、顎でカウンター席を示した。


男は恐る恐る立ち上がると尻餅の跡を掌で軽く払い、


「失礼します……」

「ドーゾ」


ゆっくりカウンター席についた。



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