第7話 弟子入りなんて“普通”じゃない!
ジャンル別7位。日間総合でも19位にランクインしました!
この上を目指そうと思ったら、かなり険しいですが、
引き続き更新頑張るので、よろしくお願いします。
そして仮のクエストを受ける日がやってきた。
武器も揃ったし、天気もいい。
早速、集合場所に行くと、リナリルさんが待っていた。
金髪を揺らし、紫色の瞳を空の方へと向けている。
今日も綺麗だな。
「おはようございます、リナリルさん」
「おはよう、エイスくん。……ん? ちゃんと武器を見つけてきたのか?」
「あ。これは拾ったんですよ」
「拾った? ちょっと見せてくれないか?」
ぼくは素直にリナリルさんに見せた。
目を細めながら、剣を検分する。
やがてぼくに尋ねた。
「拾ったといったな……。どこで拾った?」
「街の中央広場ですけど……」
「ぶぶッ――!」
リナリルさんは思いっきり吹き出す。
ごほごほ、と激しく咳き込んだ。
大丈夫かな? 風邪かな?
「そ、それは聖剣だぞ、エイスくん」
「聖剣? この剣がですか?」
「おーい。リナリルくん」
声が聞こえて、ぼくとリナリルさんは一緒に振り返った。
白髪のおじいさんが手を振ってこちらにやってくる。
おじいさんといっても、背筋がピンと伸びていて、ぼくは肩幅でも背の高さでも負けていた。
その身体に例の鉄の塊を巻いていた。
王都では流行のルックスだ。
今度、ぼくもやってみようかな。
優しい青い瞳が、穏やかにリナリルさんの方に向けられる。
「紹介しよう。今回、アシスタントをしてくださるトレインさんだ」
「トレイン・マーカスだ。よろしく」
「エイス・フィガロです。今日はよろしくお願いします」
ぼくはペコリと頭を下げた。
トレインさんは、すでに引退した冒険者だ。
現役の頃は、Aランクまでのぼり詰め、3匹のドラゴンを1人でやっつけたことから、【竜殺し】といわれていたらしい。
今は、冒険者のインストラクターとして、新人冒険者やパーティーのサポートに回っている。
「ははは……。リナリルくん。そんなに持ち上げても何にもでんぞ」
「あなたが馬鹿みたいに強かったのは、本当のことでしょう」
「一言余計なところは相変わらずじゃな。ところで その剣は?」
「おそらく聖剣かと思うのだが……」
「ははは! まさか! リナリルくん、冗談にしては笑えないぞ。どれ――」
トレインさんは、ぼくが持っていた剣を鞘ごと掴んだ。
すると――。
「ぐあ!!」
どすん、と重い音を立てて、剣は地面に落ちた。
地面と剣の隙間に、トレインさんの指が挟まれる。
悲鳴を上げ、悶えていた。
「お、おもいぃいいい!!」
「どうやら間違いないようだ。エイスくん、悪いが助けてやってくれ」
「は、はい」
ぼくは軽々と自分の剣を拾い上げた。
腰に下げる。
一方、トレインさんはフーフーと真っ赤に晴れた指に息を吹きかけていた。
「聖剣は持ち主にしか持てないと聞く。間違いなく、それは君のものだよ。私としても、自分の担当が聖剣に選ばれた者であったことは誇らしく思う。頑張りたまえ」
「は、はい……」
この剣が聖剣?
村のおばちゃんが使ってる包丁の方がよっぽど切れ味がいいんだけどな。
みんな、何か騙されているんじゃないだろうか。
ま、いっか。
リナリルさんに褒めてもらったし。
ちょっと――いや、すっごく嬉しい。
でも、本当にぼくがもらっていいのかな?
これ……落ちてたんだけど。
リナリルさんがそういうなら持っておくけど、持ち主がわかったら、ちゃんと返そう。
「よもや、この年で聖剣に選ばれた人間を目撃するとはな。長生きしてみるものだ。わしからもエールを送らせてもらおう、エイスくん」
「ありがとうございます」
またぼくは頭を下げるのだった。
トレインさんと合流し、ぼくたちは郊外にある森に向けて出発した。
今回の仮クエストは、新人冒険者が魔獣に慣れるため、低レベルの魔獣を倒す訓練なのだという。
ちなみに今回の参加者は、ぼくだけだ。
雑談しながら、初めて知ったのだけど、リナリルさんはギルドの受付嬢でありながら、Bランクの魔導士でもあるらしい。
「リナリルくんがいれば、わしはいらなかったんじゃないのか? むしろ若いもん2人で行った方が楽しかろうに」
「最近、付近でCランク以上の魔獣が相次いで現れていますから。用心のためです」
「それは聞いておる。なるほどな。物騒な世の中になったもんじゃ。エイスくんが、聖剣を抜いたことと何か関係があるのかの……」
「それは考えすぎだと思いますが……」
しばらく3人で森の中を散策していると、とうとうぼくは発見した。
魔獣だ!
それも、ぼくが見たことのない種類だった。
形状はネチョネチョしてて気持ちが悪い。
目も口もなければ、手も足もない。
ただうねうねと動いているだけだった。
怖い……。
こんな恐ろしい魔獣――見たことない!
ああ……。どうしよう。
ぼく、どうやって戦えばいいんだ!
「エイス君。何をスライムなんぞに臆しておる」
すると、ぼくの前に大きな影が現れた。
トレインさんだ。
鞘から剣を抜き、斬りかかる。
あっさりと両断すると、魔獣はへなへなと力無く広がり、消滅した。
すごい! トレインさん。
玩具みたいな剣で、あんな恐ろしい姿をした魔獣を倒してしまった。
「すごいです、トレインさん」
「ぬははは。褒められると照れくさいのぅ。だが、スライムぐらいで驚いてもらっては困る。これぐらい、赤子でも倒せるぞ」
ガーン!
頭に石をぶつけられたかのようなショックを受けた。
そうか。赤ん坊でも倒せるのか……。
ぼく、赤ん坊に腕相撲で負けてしまったからな。
シュンと肩を落とす。
何かいたたまれない気持ちになり、ぼくはリナリルさんたちに背を向けた。
「あの……。ちょっと用を足しに行っていいですか」
ふらりと出かける。
呼び止めようとしたリナリルさんを止めたのは、トレインさんだった。
「こういう時は、女が慰めても惨めなだけだ。わしに任せろ」
「……わかった。よろしく頼む、トレインさん」
「うむ。素直でよろしい」
トレインさんは、ぼくを追いかけた。
◆◇◆◇◆
ぼくは思い上がっていた。
この街に来て、ここでならやれると思っていた。
村でやって来た失敗の数々。
それを挽回できると、心のどこかで安心していた。
でも、それは違っていた。
ぼくはぼくのままだった。
気が付けば、森を出ていた。
広がっていたのは、だだっ広い平原だ。
すると、森の奥で何かが動いた。
トレインさんが茂みをかいくぐり現れた。
「ここにいたか、エイス君。少し話をしよう」
少しといったけど、トレインさんの話は長かった。
だけど、ぼくは黙って聞いていた。
それはトレインさんの知り合いで、とても弱かった冒険者の話だ。
虫も殺せないような優しい男の子が、主人公の話。
冒険者になれば、強くなれると思った男の子は、最初のクエストで失敗してしまった。
だから反省し、強く……もっと強くなるため、鍛錬をしたのだという。
「そして、そやつは【竜殺し】と呼ばれるようになったのじゃ」
「それって……。トレインさん」
「わしのことはどうでもいい。エイスくん、君はまだまだ弱い。だが、弱いということは、これから強くなれるということだ。落ち込む必要はない。立ち止まるな、青年よ。半歩でも、半々歩でも良い。前に進むのだ」
「トレインさん! お願いです。ぼくを鍛えてください! 強くなりたいんです」
「ふむ。……大丈夫かの? わしのしごきはきついぞ」
「頑張ります! ぼく、強くなりたいんです!」
「よく言った、エイス君! ふふ……。まさかわしが、聖剣を抜いた者を育てることになるとはの?」
その時だった。
ぼくは異様な気配を察した。
空を見上げる。
大きな翼を広げて、ぼくたちの方へ向かって飛来した。
「ワイバーンじゃ! 何故、あやつがこんなところに!!」
トレインさんは叫んだ。
その顔は真っ青になり、大粒の汗を掻いていた。
やがて、覚悟を決めた顔になる。
スラリと剣(玩具)を抜いた。
「エイス君。逃げるのじゃ!!」
「え? でも――」
「わかってくれ。……今わしに出来るのは、この命を使って、時間稼ぎすることぐらいじゃ。ははは……。かつての【竜殺し】といわれた者が、なんとも情けないのぅ」
命? 時間稼ぐ?
一体、何をいっているんだろう。
ぼくがボケッと立っていると、トレインさんは舌打ちした。
「チッ! 恐怖で身が竦んでおるのか。無理もない」
今度はトレインさんは走り出した。
「さあ、来い。化け物め! やーやー! 我こそはかつて【竜殺し】と恐れられた冒険者――トレイン・マーカス! 仲間の仇を討つなら、今が絶好の機会だぞ!」
挑発する。
すると、ワイバーンは鋭く急転し、トレインさんの方に向かって急降下してきた。
トレインさんは「来い!」と声を張り上げる。
剣を正面に構え、目をつむった。
「すまん。エイスくん……。そなたとの約束、果たせぬかもしれん」
すると、奇妙な音が平原に広がった。
メキィメキィメキィメキィッ!
トレインさんは目を開ける。
その瞳には、急降下してきたワイバーンの顔を、アイアンクローするぼくが映っていた。
「え、エイスくん?」
「どうしたんですか? トレインさん。変なことを言い始めたと思ったら、いきなり走り始めたりして」
トレインさんの顔は依然として、真っ青になっていた。
いや、先ほどよりも濃いような気がする。
汗の粒の多くなっていた。
トイレでも行きたかったのかな?
「え、エイスくん。それ――」
トレインさんは、ぼくが捕まえているものを指差す。
それは翼の生えたトカゲだった。
飛竜にしては小さいし、珍しいトカゲだな。
少なくとも村の周囲には見なかったタイプだ。
そういえば、この前も黒い大トカゲがいたな。
この辺りって、トカゲが多いのだろうか。
「ああ。ちょっと待ってくださいね」
ぼくはアイアンクローをしたまま、ジタバタともがくワイバーンというトカゲを、地面に叩きつけた。
意識を失ったのだろう。
ようやく大人しくなった。
「ふー。大丈夫ですか、トレインさん。おトイレ行きたかったんですよね。ぼくは大丈夫ですから、行って来てください」
「と、トイレ?」
「あ、あと……。明日はよろしくお願いします。どんな修行をするのか楽しみです」
「ちょっと! ちょっと待って、エイスくん」
「へ――?」
突然、トレインさんは硬い地面の上で正座する。
三つ指を突き、ゆっくりと頭を下げた。
「わしを……いや、私を弟子にしてください」
「へ――?」
で、弟子ぃぃぃいいいいい!!
「どうやら思い上がっていたのは、私だったようだ。年のせいかの。目がくもっっておった。お主のような実力者を見抜けなかった」
「い、いや……。ちょ、ちょっと待って――」
「【竜殺し】など持ち上げられ、過去の栄光にあぐらをかきすぎていたのかもしれない。どうか頼むエイスくん――いや、師匠! 私を、私を鍛えてくれ!!」
トレインさんは平伏する。
うだるような炎天下の中。
老人は額を擦り続ける。
その白髪を見ながら、ぼくは固まっていた。
いやいやいやいや……。
ぼくみたいな村人に弟子入りって――。
こんなの「普通」じゃないよ……!!!!
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