第6話 聖剣が落ちてるなんて“普通”じゃない
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2018/08/21 21:38 サブタイ変更しました。
ぼくは冒険者認定試験に合格した。
数日後には、仮のクエストがある。
試験の延長線みたいなもので、最近冒険者になった人とパーティーを組み、低レベル魔獣を倒しに行くという。
リーダーはリナリルさんだ。
頑張るぞ!
リナリルさんに、良いところを見せなくちゃ。
そのために、ぼくは武器を探さなければならない。
愛用の剣は村に置いてきちゃったし、街の武器屋を巡ることにした。
幸い、最近もらった報酬がある。
少ないけど、安い短剣ぐらいなら買えるかもしれない。
心許ないけど、折角冒険者になったんだから、カッコいい武器をもちたいよね。
【地形走査】を使って、街の武器屋をピックアップする。
近くの店に入ってみた。
「いらっしゃい。ここは武器屋だよ」
「あ、知ってます。えっと、この店で1番安い武器ってなんですか?」
「そうですね。この短剣ですかね」
武器屋の店主さんは、カウンターの上に短剣を置く。
んん? これが短剣?
その割りには鉄の塊みたいに見えるけど。
「すいません。こんな玩具みたいなのじゃなくて、もっとちゃんとした短剣ありませんか?」
「お、玩具!! むぅ……。ちゃんとしたってねぇ。たとえば、どんなものが欲しいんだい?」
「そうですね……。材質はオリハルコンとはいいませんけど、ミスリルの一等鉱石を使ってるもので……。あとパッシブのエンチャントがかけられるものがいいです。魔宝石は最低でも3つは欲しいですね。エンチャントの様式は、古代ベルガン語でお願いします。ぼく、あの言語しかまだうまく操れなくて……。だいたいこんなところなんですけど、ありますか?」
「そんなもんあるかぁぁぁぁああああ!!」
怒鳴られる。
え? え? ぼく、なんか気に障るようなこといった?
ぼくはただ単に、1番低レベルの武器を要望しただけなんだけど……。
「じゃ、じゃあ……。どこの武器屋さんに売ってますか?」
「そんなもの“普通”の武器屋で売ってるものか!! 冷やかしなら帰ってくれ!」
店主さんの顔がますます赤くなる。
おかしいなあ。
うちの村では、刃を鍬にして農具として使ってたぐらいなんだけど。
「そんな立派な武器がほしかったら、中央広場に刺さってる伝説の聖剣でも抜くんだな。ほら、とっとと帰った帰った!!」
武器屋さんはぼくを追い出した。
塩までぶちまかれる始末だ。
なんで怒ったんだろう。
さっぱりわからない。
その後も、ぼくは街の武器屋を回った。
けど、反応はほとんど一緒だ。
ある武器屋さんなんて、武器を持って追いかけ回してきた。
何がいけなかったんだろうか。
ぼくは玩具が欲しいわけじゃない、武器がほしいのに。
【地形走査】が間違って玩具屋を示してるのかとすら思ったけど、店の看板にはすべて武器屋と書いていた。
もしかして、王都では武器屋のことを玩具屋と呼んでいるのかな。
ああ……。やっぱり王都の“普通”はわからない。
結局、全部回ったけど、武器は見つからなかった。
途方に暮れたぼくは、一休みすることにする。
広場のベンチに座り、近くで売っていたサンドウィッチを頬張った。
すっかり陽が暮れ、広場には人の気配がない。
どうしよう……。
このままでは、クエストに素手で参加しなければならない。
リーダーのリナリルさんに、恥を掻かせることになるかも。
いっそ自分で作ろうかとも思ったけど、仮クエストは明後日だ。
さすがに時間がない。
ぼくが「うーん」と悩んでいると、ある物に目が止まった。
それは剣だ。
広場のど真ん中に刺さっていた。
いい剣だ。
材質はミスリルよりも強いアダマンタイトかな。
かかってるエンチャントも悪くないし、扱いやすい古代ベルガン語で刻まれている。魔宝石が2つなのが難ありだけど、アダマンタイトならぼくが全力で振っても壊れないだろう。
でも、誰がこんなところに捨てたんだろう?
剣の側には石碑があった。
【聖剣ユグドラシル】と書かれている。
さらに「この剣を抜けし者。伝説の光の者となるだろう」と碑文が刻まれていた。
この剣が聖剣?
いやいやいやいやいやいや……。
あり得ないって!
こんなの剣なら、近くに住んでた子供の自由研究でも作れるよ。
だったら、誰かが落としたのかな?
不用心だな。
悪用されたらどうするんだろうか。
ぼくは剣の柄を握る。
軽く力を込めると、スポッとあっさりと抜けた。
「近くの番所に届けよう。剣がなくなって困っている人がいるかもしれないからね」
早速、ぼくは衛士さんたちが寝泊まりする番所へ行く。
落とし物は届けてあげないと。
【地形走査】を使って、場所を特定する。
番所の前で槍を持った衛士さんが立っていた。
夜だからだろうか。
欠伸をし、眠たそうにしていた。
「こんばんは。あの落とし物です」
ぼくは例の剣を差し出す。
「ありがとう。剣が落としものなのかい? 随分、物騒だね。ちなみに、どこで拾ったんだい? 詳しく教えてくれないかな」
番所の中に入り、本格的に事情を尋ねられる。
椅子を勧められると、衛士さんは紙に向かってメモを取り始めた。
「えっと……。中央広場です」
「広場のどの辺りですか?」
「近くに石碑がありました」
「石碑? ああ……。【聖剣ユグドラシル】の」
「それです。その石碑に突き刺さってました」
「突き刺さっていた――と……うん?」
衛士さんは羽根ペンを手から離した。
ぼくが持っている剣をマジマジと見つめる。
すると、今度は顔が真っ青になっていった。
汗が浮かび、顎からドボドボと流れていく。
「あ、あの……。その剣、触っても良いかな」
「いいですよ」
剣を渡した。
途端、衛士さんは剣を落とす。
地面と刀身に挟まれ悶絶した。
「おっっも! 剣、重っも!!」
「大丈夫ですか?」
ぼくはひょいっと剣を拾い上げた。
あれれ? そんなに重いかな……?
全然軽いんだけど。
「あの……。君、ちょっと尋ねるんだけど……」
挟まれた手をプラプラと動かし、衛士さんは息を切らしながら尋ねた。
「その剣を、君が引っこ抜いたの?」
「え? ええ、まあ……」
「――だよね。そうじゃないとここまで持って来られないよね」
「はい。そうですね」
「すごい!」
衛士さんは叫んだ。
「すごいぞ! 君! 聖剣は君を選んだんだ!!」
え? え? ええええ??
どういうこと?
言ってる意味がわからない。
聖剣がぼくを選んだ?
ていうか、聖剣どこにあるの?
どう見ても、ぼくの前にあるのは、“普通”の剣なのに。
「あの……。とりあえず、この剣を預かってもらえますか?」
「何をいうんだい? それは君のものだ! 大事にしないとダメだぞ! ああ……。なんという日だ。神よ。衛士で一生終わると思っていたのに。まさか伝説の聖剣【ユグドラシル】を抜く人間を見届けることができるなんて」
「いや、困ります。持ち主の元に返してあげないと。きっと困ってますよ」
「違う。君は今から困ってる人を助けるんだ。さあ、行くんだ! 人々は君という救世主を待っているはずだ」
衛士さんはすっごくいい顔をして、ぼくを送り出した。
ぼくの方はというと、何が何やらわからない。
つまり、ぼくが持ち主を探せってことかな?
この街ではそういう仕組みになっているのかもしれない。
早く王都の“普通”になれないと……。
仕方ない。
持ち主を見つけるまで、ぼくが預かっておくか。
……それまでこそっと使わせてもらおう。
ちょっとぐらいなら問題ないよね。
綺麗にして返せばいいんだし。
こうしてぼくは、ようやく自分にあった武器を手に入れることが出来た。
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