第50話 巨大化するなんて普通じゃない!
大変お待たせして申し訳ありませんでしたm(_ _)m
「普通っていうな!!」
魔王はいきなり叫んだ。
あれ?
ぼく、何か言ったっけ?
もしかして、心の声が聞こえていたんだろうか。
ともかく、魔王は怒っていた。
カンカンだ。
「お前たち、英雄村の人間どもにとっては、なんてことはないかもしれん。だが、こっちはあの英雄にワンパンでのされてからというもの、地獄の日々だったのだ」
すると、魔王はずっとしていた仮面を取った。
現れたのは、意外と美形な男の顔だ。
彫りが深く、鼻筋がスッと通っていた。
赤黒い瞳がギラギラと光り、ぼくを睨んでいる。
だが、その左頬は魔王の顔の輪郭が歪んで見えるぐらい大きく腫れ上がっていた。
「うわ~。痛そう~」
あれが英雄のワンパンの痕か……。
確かに痛々しい。
でも、ご先祖様は手加減したのだろうか。
あんなにもろに殴っていたら、普通は生きていないはずなのに。
スライダル兄さんが本気だったら、原型なんて残らないはずだ。
「そうであろう。醜いであろう。わかるか、貴様に。英雄の末裔よ。ワンパンでのされ、数百年経っても癒えぬ傷を負ったのだ、我は。こんなことなら、いっそ死んだ方がマシだ。部下の前にも出られない」
ああ……。
なるほど。
だから、魔族のほとんどがその姿を見たことなかったのか。
でも、今ここで恨み辛みをいわれても困るんだけどな。
ワンパンでのしたもの、呪いみたいな傷を負わせたのも、ご先祖様だし。
とっくの昔に死んでいるしね。
「ふん。この恨み……。晴らしてくれるわ」
でも、魔王様は本気だ。
階下で出会った時から感じていたバターナイフみたいな殺気が、さらに膨れ上がる。
ぼくと戦う気だ。
「あの……。一応、忠告しますけど、やめておいた方がいいですよ」
「ふん。今さら、命乞いか?」
「違います。きっと同じ結果になると思いますから」
対峙してわかった。
魔王はたぶんぼくよりは弱い。
確かに四将よりは強いだろうけど、でも倒せない相手じゃない。
「ふん。そんなことはわかっておるわ」
「なら、降伏して、人間と仲良く……」
「はん! 降伏などするものか! むしろ降伏するのはお前たちだ」
やばい。
なんか言ってることがめちゃくちゃだよ。
仕方がない。
ご先祖様じゃないけど、魔王を倒すしかない。
ぼくがぎゅっと拳を握る。
だが、その瞬間、魔王は笑った。
「ふふふ……。あははははははは! 我がこの数百年……。お前たち、英雄の民の対策をしていなかったと思うか」
見るがいい! 我の本当の姿を……。
刹那、魔王は膨れ上がる。
纏っていた衣服はたちまち破られ、巨大な泡のように膨張していく。
それはすぐに魔王の部屋を突き破る。
巨体が城の天井を破壊し、丸い月が露わになった。
夜気が入り込んでくると、土煙をさらっていく。
それでも魔王の膨張は止まらない。
自重に耐えきれなくなった床にヒビが入る。
ぼくは浮揚の魔法を唱えようとしたけど……。
「ダメだ! 下にはマリルーたちがいるんだ」
慌ててぼくは部屋を抜け、自分が作った穴に飛び込む。
階下に行くと、大騒ぎになってきた。
降ってきた瓦礫に次々と魔族たちが巻き込まれていく。
幸いマリルーたちは無事だった。
「みんな、無事?」
「エイス!」
「無事だったか?」
「はうぅ……。大丈夫?」
みんながぼくを心配する。
「ぼくは問題ないよ」
「一体何が起こってるの?」
「お前、まさかまた“普通”じゃないことをやったんじゃないだろうな」
エトヴィンは疑惑の眼差しを向ける。
ひ、ひどいなあ。
いくらなんでも、ぼくだって仲間を巻き込むようなことはしないよ。
今回“普通”じゃないのは、魔王の方だ。
「はぁああああああんんん! ご主人様!」
ぼくに飛びついてきたのは、スピアブライドだった。
どうやら、彼女も無事だったらしい。
「スピアブライド、離れて! ここを脱出しないと!」
「ぶっ殺!」
ぼくが注意する前に、ロザリムがスピアブライドを追い回す。
そんなことしてる場合じゃないのに。
みんなは肝が据わっているな。
「とにかく、ぼくに捕まって!!」
と、その時だった。
巨大な影がぼくたちを覆う。
天井の方を見た瞬間、皆は絶叫する。
無理もない。
巨大化した魔王が、ぼくたちの方に落ちてきたのだ。
「や、やばい!」
「ぎゃあああああ!!」
「はぅぅぅぅぅぅううぅ!!」
「ご主人さまぁぁああああああああ!!」
轟音が鳴り響く。
仲間たちの悲鳴はその音によってかき消されてしまった。
明日、明後日と更新させていただきます!




