第49話 魔王が“普通”のことをいうなんて“普通”じゃない!
いよいよ最終決戦?
ぼくは長い螺旋階段を上る。
思ったより魔王城は複雑に入り組んでいた。
中が迷宮のようになっているんだ。
下からは剣戟の音が響いていた。
マリルーたちは頑張ってるらしい。
でも、いくら英雄村の空気を吸って強くなったからといって、体力が無限にあるわけじゃない。
早くぼくが魔王を倒さないと、マリルーたちが危険だ。
ぼくは【地形走査】を起動する。
魔王城の全体を映した地図が映し出された。
やっぱりかなり迷宮化されている。
順路通りにいっても、魔王が待つ部屋に行くまでかなり時間がかかりそうだ。
仕方ない。
ぼくはコンコンと天井を叩いた。
ミスリルと鉄の合金だろう。
バナシェラ王国の王宮よりはマシだけど、魔王城なんだからせめて全面ミスリルにしたらいいのに……。
前にリナリルさんが、ミスリルは高価だっていってたけど、あんなの銀に圧縮した魔力をぶつけて、いくらでも人工的に作れるんだけどな。
それに安全面ってコストよりも大事だと思うけど。
でも、まあ……。
ぼくの考えが、王都では“普通”じゃないんだろうけどね。
「よし。これぐらいなら大丈夫だろう」
ぼくは魔力を練る。
すると、右手に炎が宿った。
それを一気に解き放つ。
【地獄の竜咆吼】!
紅蓮の炎が飛んでいく。
あっさりと天井を突き破った。
一直線に伸びていき、そのまま空の彼方まで打ち上がる。
「こんなものかな……」
大きな大穴を見て、ぼくは呟く。
飛翔魔法を使うと、ゆっくりと空いた穴を通っていった。
◆◇◆◇◆
最後の穴を通る。
雰囲気が一変した。
一際だだっ広い部屋に出る。
大きな柱に、青白い炎を灯した篝火。
側には赤黒い絨毯が敷かれていたけど、ぼくの魔法によって大きな穴が空いていた。
たぶん、ここが魔王の部屋だ。
「よく来た英雄の末裔よ」
部屋に声が響いた。
ぼくは振り返る。
果たしてそこには、魔王らしき男がいた。
漆黒のローブに、首からはアミュレットを提げている。
身体は大きく、軽くぼくの3倍近くはあるだろう。
その顔は赤色の仮面で覆われ、唯一紫色の唇だけが見えていた。
どんな化け物だろうと思っていたけど、その姿は人に近い。
しかし、今まで対峙したどんな魔獣や魔族よりも覇気を放っていた。
ぼくは質問する。
「あの……。本当にあなたが魔王なんですか?」
「な! ここまで来て、それを訊くのか、貴様!!」
「え? だって……。その……。こう言ったらなんですけど、魔王って感じがしないんですよ」
確かに強そうではあるんだけど、グランドキングより明らかに弱い。
兄さんが相手なら、鼻唄を歌いながらでも倒せる相手だろう。
全魔族を統べ、世界を震撼させた悪の親玉には見えなかった。
「貴様、我を愚弄するか!?」
魔王は手を挙げて、抗議する。
なんかもうその仕草だけで可愛いく思えてしまう。
でも、その時ぼくはずっと気になっていることを尋ねた。
「ところで、なんで玉座からずり落ちているんですか?」
そうなのだ。
魔王はずっと玉座から落ちて、尻餅をついた状態で威勢を放っていた。
それは何かにすっごく驚いて、玉座から落ちたような体勢だった。
「し、仕方なかろう。いきなり火柱が立ったのだ。驚くのは無理はなかろう! 一体誰だ。魔王城を破壊するとはけしからん!」
「あ。すいません。……それ、ぼくです」
「お前か!!」
「迷宮を突破するのに時間がかかりそうなので、ショートカットを自分で作りました」
「ショートカットを自分で作りました……ではないわ。我が手塩にかけた迷宮をぶっ壊しおって。あそこにはお前を倒すめの罠があったのだぞ」
「罠? ああ……。あれのことかな? なんかのアトラクションかと思いました。割と楽しかったですよ。英雄村の子どもたちにはうけそうかなって」
「ふざけるな! お前らを楽しませるために配置したのではない!」
「まあまあ、落ち着いて……。あまり興奮すると、血圧上がりますよ」
「う、うむ……。確かに――――って、我を老人扱いするな!!」
ぜぇぜぇはあはあ、と魔族は肩で息をする。
なんだかもうお疲れの様子だ。
やっぱりおじいちゃんなのではないかな。
お年寄りはいたわってあげないとダメだけど、魔王は別だよね。
「も、もうよい!」
やっと魔王は玉座に座り直す。
大げさに咳払いすると、哄笑を上げた。
「ふはははははははははは! よくぞ来た、エイス・フィガロよ」
なんかさっきまでの魔王の雰囲気はなくなっていた。
一旦リセットしたかったんだろうな。
たぶん、そうだ。
「だが、お前の命もここまでだ。長年の因縁……。ここで決着をつけてやる」
「え? 因縁? ぼく、あなたと会ったのは初めてですけど」
記憶の中から探ったけど間違いない。
ぼくと魔王は初対面のはずだ。
でも、魔王はぼくの名前を知っていた。
単なる村人の名前を……。
すると、魔王は頷いた。
「そうだ。お主とは初めて会う。だが、お前の村の人間たちとは、切っても切れぬ縁があってな」
「英雄村と?」
「ふふふ……。教えてやろう、エイス・フィガロ。何故、我が突然挙兵したか」
いや、別に気にならないけどなあ。
どうせ世界征服とかそんな感じだと思うし。
でも、なんかさっきから聞いてほしそうな顔をしてるしな。
ご老人の話には付き合ってあげないと……。
「我が挙兵した理由、それは英雄村の人間――すなわちエイス・フィガロ、お前に復讐をすることだ!」
魔王は大笑を響かせながら、宣言する。
ぼくは何もいわなかった。
何もいえなかったのだ。
だって――。
魔王の理由はなんかとても“普通”な感じがしたからだった。
おかげさまで『ゼロスキルの料理番』が無事発売となりました。
有り難いことにコミカライズも決まっております。
もしよろしければ、チェックしていただければ幸いです。




