第4話 王都の引っ越し方法がわからない
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2018/08/20 改稿&サブタイ変更しました。
「薬草採りをやめたい?」
カウンターの向こうに座るリナリルさんはいった。
頬杖をつき、ちょっと物憂げに綺麗な金髪をくるくるといじっている。
それがまた魅力的だった。
そんなリナリルさんの眉が動く。
緑色の瞳を、じろりとぼくの方に向けた。
申し訳ないけど、薬草採りは続けられない。
アミナさんをはじめ、おばあさんは優しいし、良い職場だと思う。
アイテム屋さんも熱心だ。
でも、優しいからこそ騙す訳にはいかない。
だから、転職する決意をした。
「わかった。アミナたちには、わたしから話ししておこう」
「すいません」
「職場が合わないことはよくあることだ。君のような青年が、願い出てくると言うのは、何かよっぽどなことがあったのだろう」
最後は理解してくれた。
リナリルさんは優しい。
だから、ぼくも甘えてばかりはいられない。
強くならなくちゃ。
そのために、お仕事を頑張らないと……。
「しかし変わっているな、君は。ステータスカードの力を跳ね返したかと思えば、今度は幻の草まで見つけてくるなんて。一体どういう暮らしをしていたんだ」
「“普通”だと思いますけど」
「“普通”ね。ギルドの情報網を使って調べさせたが、英雄村なんてものは存在しないし、見つからなかった。色々とよくわからんな、君は」
英雄村がない?
どういうことかな?
確かに村の周りには、結界が張ってあって、一般人は入れないようになっているけど……。
ぼくも出入りしていたから、見つからないってことはないんだけどな。
でも、案内人してた時って、1度も旅人が来たことがないんだよね。
だからぼくはいつも「ようこそ! 英雄村へ!」という練習だけをしていた。
「ともかく、早速仕事がある。引っ越しの手伝いだ。どうだ?」
「はい。全力で頑張ります」
引っ越しの手伝いか…………。
引っ越しってなんだろう?
◆◇◆◇◆
現場は小さな屋敷だった。
紫色の屋根に、綺麗な白亜の外壁。
狭いけど、きちんと庭もある。
依頼主は男爵位をもつ、ホイル・オン・モーラムさんだ。
爵位を持っていても、生活は庶民と変わらない。
家臣もいなくて、奥さんと子供2人の4人家族で暮らしているそうだ。
今回は、今ある家から別の屋敷に移り住むらしい。
そのために家財道具を全部移さなければならなかった。
それを引っ越しというのだそうだ。
これが王都では“普通”のことらしい。
ホイルさんからある人を紹介された。
引っ越しの陣頭指揮をしているゲイムさんという人だ。
この人も、ギルドから派遣されたらしいけど、引っ越し作業に慣れてるらしい。
「おい! 新人! それを先に運んじまえ! 早くしろ!」
とにかく声のデカい人だった。
だけど、テキパキしていて、他の人の作業具合を見ながら、的確に指示を出している。
なんか仕事ができる人って、憧れるなあ。
ぼくも、ああいう仕事が出来る人になりたい。
幸い家財道具は軽いものばかりだった。
「よっ」
ぼくは、自分よりも大きな置き時計を運ぶ。
それを見て、ゲイムさんは驚いていた。
「おいおいおいおいおい。新人、大丈夫か? 応援を呼ぶから待ってろ」
「え? これぐらい軽いですよ」
「そ、そうか。お前、見た目はとっぽいのに、結構力があるんだな」
「そうでもないですよ。村では赤ん坊に腕相撲で負けるぐらいだったんですから」
「赤ん坊に? はは……。お前、冗談が下手だな。大人4人で抱えるぐらい大きな時計を持ってて、誰が信じるんだよ?」
冗談でもなんでもなくて、本当なんだけどな。
それがきっかけで、ゲイムさんとは仲良くなった。
他のみんなも、ぼくがいてくれて助かったと誉めてくれた。
こんなに軽い物を持って、喜んでくれるなんて。
みんな、良い人ばかりだ。
引っ越しの準備を進めていると、2階から泣き声が聞こえてきた。
2階へ上ると、ホイルさんとその奥さんが、ドアの前で声を張り上げている。
どうやら、ドアに鍵がかかっているらしく、2人とも困り果てていた。
「どうしたんですか?」
「いや、お恥ずかしいところを見られてしまいました。実は――」
ホイルさんが事情を話そうとした瞬間、扉の奥から声が聞こえた。
『ヤダぁ! 絶対、この家から離れないぃい!!』
『ひっこしはんたい!』
子供の声だ。
2人分の気配を感じる。
どうやら、引っ越しに反対しているお子さんが、自室に立てこもってしまったらしい。
「子供とよく話し合って決めたのですが……。やはりこの家に愛着があるらしく、住みたい――と……」
子供さんは、まだ6歳と4歳なんだそうだ。
それでも1歩も譲らない。
何をいっても部屋から出てくることはなかった。
「旦那さん。ここの家財道具を早く運び出さないと……。もうすぐ予約していた馬車が来ちまいますぜ」
ゲイムさんも困り顔だ。
ぼくはそっと手を挙げた。
「あの~。ずっと気になってたんですけど、なんで家ごと転送しないんですか?」
…………。
ぼくの発言に、みな目を丸める。
あれれ? ぼく、何かおかしなことをいった。
でも、ぼくの村では当たり前だったんだけどな。
住む場所を変える時、こんな家財道具なんて出さずに、家ごと飛ばしてたんだけど……。
「また、お前……。面白くない冗談を」
「屋敷を移築する費用なんて、とてもないんだよ、うちには」
ゲイムさんとホイルさんはがっかりした様子だ。
でも何故、そんな風に反応するのかわからなかった。
「費用なんてかかりませんよ。この家を転送させればいいんです」
「どうやって、そんなことができるんだよ!?」
「それじゃあ、ぼくがやってみせましょうか?」
ぼくは【地形走査】の魔法を唱える。
現れた魔法の地図に記されたホイルさんの屋敷に触れた。
「移転先はどこですか?」
「えっと? この辺りなんだが……」
ホイルさんは、少し郊外の場所を指差した。
王宮から離れることになるけど、庭がかなり広い。
ここなら今の屋敷を置いても、邪魔になることはないだろう。
ぼくは地図の屋敷に指を置いたまま、スゥ――ッと移転先に動かす。
「これで大丈夫ですよ。今、転送しましたから」
「はあ? お前、何をいって?」
「パパ! ちょっと見て!」
興奮気味に叫んだのは、ホイルさんの奥さんだった。
外の様子を見ながら、瞼を大きく広げている。
ホイルさんと、その後ろにゲイムさんも続いた。
窓の外を見る。
そこは、広い庭の上だった。
側にあったのは、移転先の屋敷。
当然、周りの景色は一変していた。
すると、さっきまで鍵が閉まっていた扉が開く。
両親そっくりな子供たちが飛び出してきた。
「パパ! ありがとう! 屋敷を移動させてくれたんだね」
「パパ、ありがと!」
次々に感謝の言葉をいって、飛び上がる。
ホイルさんは戸惑っていた。
だが、すぐ笑顔になり、ぼくを指差した。
「パパじゃなく、あのお兄さんにお礼をいいなさい。お兄さんが、ここまで屋敷を運んでくれたんだよ」
「お兄ちゃん、ありがとう! すっごい力持ちなんだね」
「ありがと、おにいちゃん!」
どうやら、ぼくが屋敷を持ち上げて運んだと思ってるらしい。
まだ転送魔法とかわからないのかな。
まあ、ぼくも今の魔法を使えたのは、8歳だしね。
すぐに理解できるだろう。
「ありがとう、エイスくん。なんとお礼をいっていいやら」
「いえ……。そんな。お礼をいわれるようなことはしてないですよ」
「なんて謙虚な青年なんでしょう……」
横の奥さんも、頬を染めながらうっとりとしている。
子供たちは嬉しすぎて、ぼくのために歌を歌ってくれた。
こんなに喜んでくれるなんて。
村では「普通」なのに……。
やっぱりこの街の人は、いい人ばかりだな。
◆◇◆◇◆
リナリルは1通の報告書に目を通していた。
彼女からギルドの本局に依頼していた回答書だ。
題名には「英雄村について」と書かれている。
エイスの前では、英雄村は見つからなかったといった彼女だが、実はギルドの回答書の内容は、少し違う。
役所のような定型文が並んだ後、最後の1行にこう書かれていたのだ。
英雄村について、一切の詮索を禁じる。
リナリルは回答書から顔を上げた。
「一体、エイス・フィガロは何者なんだ?」
その答えは出ない。
ギルドの回答書にも書かれていなかった。
「自分で調べてみるか……」
リナリルの緑色の瞳が、ギラリと光るのだった。
まだ作者自身が手探りなところもあり、
度々タイトル・あらすじ・軽微なレベルで内容を変更することもあるかと思いますが、
ご容赦いただきますようお願いしますm(_ _)m