第４８話 仲間のパワーアップが“普通”じゃない！
『スピアブライド！ 貴様ぁぁあああああ！！』
顔だけの魔王はプンプンと怒っていた。
真っ黒な影しか見えないのに、心なしか顔が赤くなっている。
そして怒っているのは、魔王だけじゃなかった。
「離れなさぁぁぁぁぁあああい！！」
ぼくとスピアブライドの間に入ってきたのは、ロザリムだ。
一目見てわかるほど、顔が赤くなっていた。
なんかもうエルフどころか、怒れるドワーフみたいだ。
大きなこん棒をぶんぶんと振り回し、ぼくとスピアブライドの間に割って入る。
「ちょっと！ 危ないじゃないの！」
「わわわわわ！ ロザリム、落ち着いて！」
「ぶっ殺す！」
完全に性格が変わっていた。
ロゼリムはスピアブライドキラーに覚醒していた。
だが、慌てたのは、ぼくやスピアブライドだけじゃない。
ロザリムが振り回すこん棒に、周りの魔族たちが巻き込まれていく。
次々と吹き飛ばし、壁や天井に叩きつけられた。
す、すごい力だ……。
いつの間にあんなに力がついたんだろう。
怒りで我を忘れてるってレベルを越えている。
“普通”じゃない。
『ええい！ 貴様ら！ 何をしている！ 相手は人間４人に、裏切り者１匹だ。囲んで潰せ！！』
魔王の指示が飛ぶ。
いよいよ魔族たちのターゲットはぼくたちの方に移った。
「お前ら、よくも騙してくれたな――――ぎゃっ！」
「今、ミンチにしてやるよ――――ぎゃっ！」
「覚悟――――ぎゃっ！」
だけど、魔族たちは構えを取る前に吹き飛ばされていく。
次から次へとロザリムにぶっ飛ばされていっているのだ。
「経緯はともかくロザリムやるじゃない！」
「ああ！ オレたちも負けていられないな！」
やる気を漲らせたのは、マリルーとエトヴィンだ。
マリルーは魔法を唱える
【氷華爆咲】
すると、驚くほど大きな氷塊が生まれる。
まるで隕石のように魔族の頭上に降り注いだ。
「「「「ぎゃああああああああああ！！」」」」
魔族たちの悲鳴が響き渡る。
すごい威力だ。
マリルーってこんなに強かったっけ？
驚いていたのは、ぼくだけじゃない。
魔法を放った本人も同様だった。
「あ、あれ？ いつも通り、魔法を使っただけなんだけど……」
パチパチと目を瞬かせる。
「マリルーも、ロゼリムもやるな！ オレだって！！」
エトヴィンも魔族の群の中に突撃していく。
ダッと地を蹴った瞬間――。
「あれ？」
エトヴィンは一瞬にして魔族の背後に立っていた。
速い……！
ぼくは見えていたけど、周りの魔族は全然わからなかったらしい。
反応が完全に遅れていた。
「なんだかわかんねぇけど！」
エトヴィンは何故かパワーアップしていた身体能力を活かし、次々と魔族に襲いかかる。
１００体いた魔族が一気に消滅してしまった。
「ぶっ殺す！！」
ロザリムも相変わらずだ。
スピアブライドを追いかけながら、魔族を吹き飛ばしていく。
魔族たちも混乱していた。
スピアブライドと一緒に逃げ始める。
「あはははは！ やるじゃない、ちびっ子エルフ！」
そんな中、スピアブライドだけが楽しんでいた。
華やか笑声が、魔王城に響き渡る。
カオスだ……。
これって、たぶんカオスっていうんだ。
なんていうか……。
もはや“普通”じゃない状況だった。
何せぼくの仲間たちが、魔族を蹴散らしているんだ。
出会った頃は弱かったぼくの仲間たちが……。
「どうして……？」
ぼくは首を捻った。
１つ可能性としては、マリルーたちが英雄村で滞在したことが考えられる。
ぼくが育った英雄村は、特殊な場所だ。
魔力が濃く、食べ物なんかにも多く魔力が含まれている。
おかげで、仲間たちは病気にかかってしまった。
だけど、今頃になってその効果が出てきたのだろう。
英雄村の濃い魔力が身体に馴染んできて、とても強くなってしまったんだ。
あそこの空気を吸っただけで強くなるなんて……。
マリルーたち、すごいや！
「エイス！」
マリルーはぼくに話しかけた。
「行って！ 魔王のところへ」
「え？ でも――」
「私たちなら大丈夫。なんだか、すっごく力が溢れてくるの」
マリルーはまた魔法を放つ。
大きな炎の柱が立つと、魔族たちは消滅してしまった。
「ああ。これなら大丈夫だ！ 行け、エイス！ 魔王を倒してこい」
「ご主人様、頑張ってください」
「ぶっころ……じゃなかった、はうぅ！ エイスくん、ここはロザリムたちに任せてください！」
次々に仲間たちから声をかけられる。
皆、同じ事を言う。
行け、と……。
魔王を倒しにいけ、と……。
ぼくは身が震えた。
これは武者震いというヤツなのだろうか。
それはわからない。
ともかく“普通”じゃなかった。
ぼくが仲間を守るものだと思っていた。
スライダル兄さんも、それが英雄の血だと教えてくれた。
でも、違う。
いつの間にか、ぼくは仲間に支えられていたんだ。
ぼくは意を決した。
「わかった！ 行くよ！」
「頑張って、エイス！」
「応！」
「はうぅ！！ エイス君、お気をつけて！」
「ご主人様、愛してますわ」
それぞれの激励を受け、ぼくは上を向いた。
魔王の顔が見える。
「ふふ！ 来い、エイス・フィガロよ！ 魔王の間で待つ！」
すると、魔王の顔は消えた。
低い笑声だけを残して……。
ぼくは螺旋階段を登り始める。
最終決戦の予感がした。
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