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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第47話 スピアブライドの覚悟が“普通”じゃない!

 魔族の指先がすべてぼくの方に向けられていた。


 目の前の魔王とぼく、どっちが本物の魔王なのか。

 その問いかけに対し、魔族たちが選んだのはぼくの方だった。

 しかも、圧倒的支持多数でだ。


「どう考えても魔王様はあっちだべ」

「プレッシャーが半端ねぇっぺ」

「んだんだ」

「お前こそ、偽物じゃねぇのか」

「そうだ。偽物が偉そうにすんな」


 天井に浮かぶ顔に向かって、魔族たちは石を投げつけ始めた。


 ええ……(ドン引き)。


 これどうなってるの?

 向こうが本物なんですけど……。


『いたたたたた! ちょ! お前ら! やめんか! そっちが偽物だ! 我が本物……。いたたたた』


 魔王の方が顔に石を投げつけられて戸惑っていた。


 すると数人の魔族たちがぼくの方に進み出てくる。


「魔王様! あの偽物になんか言ってやってください」

「そうです。偽物に裁きを!」

「そうだそうだ!」


 魔族たちは盛り上がる。


 ええっと……。

 どうしよう。

 ぼくの方が偽物なんだけど。

 なんだが魔王に悪い気がしてきた。


「ご主人様、ここは1つ魔王らしく一言なんかいってやって下さい」


 ぼくに囁いたのはスピアブライドだった。


 魔王らしい一言って。

 ぼくは単なる村人なのに……。

 一体、何を言えばいいんだ。


「わかりました。妾がお教えしましょう。妾がいう言葉を復唱してください」


「た、助かるよ」


 さすがはスピアブライド。

 気が利くなあ。


 そしてスピアブライドは、そっとぼくに耳打ちする。


“魔王様は”


「魔王様は」


“スピアブライドのことを”


「スピアブライドのことを」


“好き!”


「好き!」


“好き好き、大好き!”


「好き好き、大好き!」


「はあああああんんん! ご主人様に大好きっていわれてしまいましたわ」


「はあああああんんん! ご主人様に大好きって――――」


 ――って、ちょっとスピアブライド!

 どさくさに紛れて、ぼくに何を言わせているんだ。


 ぼくが気付いた時には遅かった。

 いや、ぼく以上に怒っている人がいたんだ。


「おいこら! スピアブライド!!」


 怒号が魔王城に突き刺さる。

 その恫喝は、ぼくたちは愚か他の魔族や魔王すらおののいていた。


 鼻息を荒くし、怒っていたのはオーク――――じゃなかった。

 オークに化けたロザリムだ。

 みんな同じ顔をしているけど、1人だけ小さいからすぐにわかる。


 顔を真っ赤にしながら、スピアブライドに近付いていった。


「エイス君に何を言わせているんですか、あなたは!?」


「あらあら。怖いオークだこと」


「オークじゃありません! ロザリムはロザリムです!!」


 魔王城――というか敵地のど真ん中で喧嘩を始めてしまった。

 お互い睨み合い、一触即発の状況だ。


 ロザリムも、スピアブライドも全然“普通”じゃなかった。


「あら……。元々そういうお顔じゃなかったかしら」


「ちーがーいーまーすー! これはあなたに変身魔法をかけられて――」


 あっ……。


 ぼくはポカンと口を開けた。


 周りの魔族たちも「あっ……」と口を開けて固まる。


「「やっちゃった」」


 顔に手を当て、マリルーとエトヴィンが手で顔を覆った。


 ロザリムは思い出したかのように例の「はうっ……」という言葉を絞り出す。

 すべての元凶たるスピアブライドも、やれやれと首を振った。



『かあああああああああああああ!!!!』



 魔王の大音声が魔王城に響き渡った。

 瞬間、暴風が巻き起こる。

 同時にマリルーたちに付与された変身魔法の効果を消し飛ばした。

 ぼくが被っていた兜も剥がれ、転々と床に転がる。


 突然、魔王城に4人の人間が現れた。


『見よ! そやつらは人間だ!!』


 魔王は指摘する。

 おそらく魔法の効果を打ち消す魔法を使ったのだろう。


 ぼくらもそうだけど、魔族たちも動揺していた。

 信じられないとばかりに、目を瞬かせている。


「に、人間だ!」

「なんで人間がここにいる!」

「我々を騙していたのか」

「やっぱりな。怪しいと思っていたんだ」


 最後、絶対嘘だよね。

 圧倒的にぼくを魔王だと思っていたよね。

 手の平返しすぎない。


 すると、今度魔族たちはぼくの方を見た。


「いや、あいつはあんな顔をしてるが、実は本物じゃないのか?」

「確かに……」

「やっぱりプレッシャーはあっちの方が半端ないっぺ!!」


 依然としてぼくを本物の魔王ではないか疑っていた。


 それでも魔族たちは次第にぼくたちを囲み始める。

 徐々に距離が狭まっていった。


「仕方ありませんわね。かくなる上は――」


 スピアブライドは手を振った。


 テンプテーション!!


 金色の鱗粉が辺りに散らばる。

 すると、すっと魔族の目から生気が失われた。

 スピアブライドの得意技「テンプテーション」だ。

 あの力を使ってバナシェラ王国を意のままに操ったんだ、彼女は。


 だけど――。


『かああああああああああ!!』


 魔王がまたすぐに魔法の効果を打ち消してしまった。


『無駄だ、スピアブライド。お前のテンプテーションなど、我の前では無力だ』


「さすがは、魔王様」


『何故、我を裏切った、スピアブライド? さっきの魔法効果打ち消しの魔法によって、お前にかかっていたテンプテーションも吹き飛んだはずであろう』


 あ、そうか。

 スピアブライドって、ぼくに自分のテンプテーションを跳ね返されたから付き従っているんだっけ。


 じゃあ、今の彼女は普通の魔族に成り下がったということなのか。


「スピアブライド……。あんた、まさか――」

「四将が正気に戻ったってことか……」

「はうぅ………………それはそれで殺す」


 仲間たちもスピアブライドに疑惑の眼差しを向ける(1人殺意を向けている人もいるけど……)。


 スピアブライドはしばらく沈黙していた。

 だけど、突然口を開く。


「気付いてしまったのですわ」


『何?』


「妾の魔王様が誰であるかを!」


『はっ? お前、何を言ってるんだ?」


「難しいことではありません。妾の魔王様はエイス様以外にいないということですわ」


 スピアブライドはぼくに抱きつく。

 その柔らかな肢体を存分にぼくに押しつけるのだった。


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