第45話 魔族の疑い方が“普通”じゃない!
お待たせしましたm(_ _)m
本当にこんなので大丈夫なのだろうか。
ぼくはスピアブライドに手を引かれ、結界の周りを歩いていた。
結界の内側にいる魔族に、結界を一時的に解いてもらうためだ。
辿り着くと、スピアブライドは高らかに宣言する。
「魔王様がご帰還です。結界を解きなさい」
高い声が響き渡る。
だけど、なかなか結界は解かれない。
やっぱりダメだったんじゃ……。
諦めかけたその時、奇跡は起きた。
魔王城を巨大なベールのように覆っていた結界が解けたんだ。
『お早く! 人間たちが入り込みます故……』
声が聞こえる。
ぼくたちは指示通り、素早く中に入った。
瞬く間に、結界が降りてくると、再び魔王城を囲んだ。
「ともかく潜入成功だね」
ふー。
やっとこの仮面が脱げる。
息するのが苦しいんだよね、これ。
顔がかゆかったりしたら、掻けないし。
よく魔族たちがしてる仮面だけど、不便じゃないのかな。
ぼくは仮面を脱ごうとする。
その前に、スピアブライドに止められた。
「お待ち下さい、ご主人様」
「え?」
「まだ脱がないでいただきたいのです」
「どうして? 結構、この仮面苦しいんだけど」
「ご主人様の忠実な下僕――いや、奴隷として、主人に苦しい思いをさせているのは、大変胸が痛みます。ですが、どうか。今しばらくそうしていただけないでしょうか。あとで、煮るなり焼くなり、ベッドの上で好きにしていいので……」
いや、そこまで言ってないけどさ。
あと、最後の一言なんなのだろうか。
ベッドの上って、一体なに……。
「わかったよ。そこまで言うなら、スピアブライドの指示に従うよ」
「ありがとうございます。妾の予定としては、この姿のまま魔王様の居室に向かおうと思っております」
「魔王の居室!」
「魔王城の中には、たくさんの魔族が蠢いております。それを突破するのは、至難の業。それならば、この御姿のままで魔王城に入り、一気に魔王様の居室へと向かおうかと」
「良い考えだけど、危険じゃないかな。もし、ばれたりしたら、ぼくはともかく――」
「ご主人様、このスピアブライドを心配しているのですね。妾は感激です」
うう……、と嗚咽を上げて泣き始めた。
いや、泣くほどのことでもないと思うけどな。
「というわけで、魔王城に向かいましょう」
ぼくたちは件の魔王城に向かう。
こうして目の前にすると大きいなあ。
ちゃんと外壁とかミスリル製だし。
レジアス王国や、他の国と比べて大違いだ。
まあ、ぼく相手だとミスリル製でもダメだけどね。
こんな城、すぐにぶっ壊せちゃうけど。
あれ? でも、みんなに危険がない方法って、ここでぼくが魔法をぶっ放すことなんじゃないだろうか。
そうすれば、中にいる魔王もぺしゃんこになって。
いやいや、甘いな。
相手は魔王と呼ばれている人なんだ。
そんなことでやられたりはしないだろう。
まだまだぼくも甘いなあ。
城門に辿り着く。
これまた大きな城門だ。
しかも、ミスリルとオリハルコンの合成金属だった。
めんどくさいことをしたなあ。
普通にオリハルコンで作ればいいのに。
スピアブライドが話しかける。
すると、大きな城門はひと1人が入れるほどの隙間を作り、開いた。
いよいよぼくたちは、魔王城の中へと入っていく。
「うっ!」
ぼくは思わず声を上げそうになった。
そこにいたのは、たくさんの魔族や魔獣だっ。
コボルト系、オーク系、あるいはデビル系や、オーガ系。
様々な魔族や魔獣が、広い城の中にありながら、所狭しとひしめいていた。
これが魔王城の内部か。
少し緊張してきたぞ。
「魔王様、お帰りなさいませ」
ぼく――というか魔王なんだけど――を出迎えたのは、アークデビルだった。
ぼくの前に跪く。
「出迎えご苦労様、アークデビル」
「スピアブライド様も、無事のご帰還お喜び申し上げる。しかし――」
アークデビルはギラリと瞳を光らせた。
「スピアブライド様は、人類軍に寝返ったと聞いておりましたが」
「アークデビル、あなたは魔族の中でも四将の次に賢いと思うわ。警戒するのも、無理からぬこと。しかし今、妾がどなた様の御前にいるのか。あなたには見えないのかしら?」
スピアブライドは、ぼくの方に視線を注ぐ。
アークデビルもまた、ぼくを見つめた。
鋭い視線を送る。
そこには、少し猜疑心のようなものが混じっていた。
まずいな……。
やはり疑われているのかもしれない。
ここは少しスピアブライドのためにも、フォローして置かなければ。
でも、下手なことはできない。
魔王らしさがないとね。
(魔王らしい行動か。たとえば、こんな感じかな)
ぼくは魔法を唱える。
すると、嵐が巻き起こった。
その凄まじい風力に、何匹もの魔族が吹き飛んでいく。
アークデビルですら、やっとのことで堪えていた。
「な、なんという圧力だ! これが魔王様」
慌てて、アークデビルは膝を折る。
顔面に冷や汗を垂らしながら、荒い息を吐いた。
先ほどまでの疑いの目はない。
むしろ、恐怖に取り憑かれていた。
あれれ? おかしいな。
割と簡単な【風砲】を使っただけなんだけど。
これだけで驚くなんて。
もしかして、魔族って意外とビビリなんだろうか。
「まさか妾だけではなく、魔王様にまで疑いの目を向けるとはね。でも、これでわかったでしょ。ここにおわす方が誰なのか。そして、妾の忠節が一体誰に向けられているのか」
「し、失礼しました……。ど、どうぞ中にお入りください」
「よろしい……」
「ところで、一体いつの間に外に出られていたのですか? 今は、人類と戦争している最中だというのに」
「危急の時なればこそ、王としての余裕を見せつける必要があったのです。妾が側に仕えたのは、猿どもの内情に明るかったから。これでよろしい? アークデビル」
「度々失礼いたしました。……で、では最後に――。その後ろのオークどもは一体?」
アークデビルは指を差す。
そこにいたのは、3体のオークだった。
指摘されると、たちまち震え上がる。
「ぼ、ぼくはオークだよ」
「悪いオークじゃないよ」
「は、はうぅ……!」
謎の言葉を発する。
アークデビルは再び疑惑の眼差しを送った。
「そのものは、最近入った新人です。魔王様自ら、調教した精鋭なのです」
「精鋭……。そのようには見えませんが――」
「また疑うのですか?」
「失礼しました!」
アークデビルは頭を下げる。
ようやく警戒を解いた。
ぼくはホッと胸を撫で下ろす。
後ろに控えるオークたちは、もちろんただのオークじゃない。
マリルー、エトヴィン、そしてロザリムの3人だ。
ぼくだけに危険な目を合わすことはできない。
そう言って、魔王城潜入任務に加わったんだ。
そして、スピアブライドの変身魔法によって、今はオークの姿をしている。
とにかく潜入は成功したらしい。
目指すは、魔王の居室だ!
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