第39話 そして“普通”ではない戦争がはじまる
作者本人が知らない間に、
何故か「完結設定」になってました。
もうちょっとだけ続きますm(_ _)m
「英雄村のみなさん、お世話になりました」
フォルデュナンテさんは村の入口に立ち、頭を下げた。
後ろのリナリルさんも同じく頭を垂れる。
兄妹揃って綺麗な金髪を揺らした。
「そんなんええがね」
「気にせんでよかよか」
「またきんしゃい」
「エイスのお友達なら大歓迎だよ」
英雄村の人たちが、口々に言う。
ずらりと並び、総出でリナリルさんたちを見送りに来ていた。
ほんの数日村に泊まっていただけだけど、リナリルさんたちは村の人気者になっていた。
英雄村はそもそも外界と隔絶された場所である。
外からの刺激に、皆飢えているんだ。
それが吹けば飛ぶような弱い人間でも、村の人たちにとっては珍しいものらしい。
特にトラブルもなく、ご飯を食べたり、お酒を飲んだり、踊ったりしながら、ぼくたちは村を過ごした。
気に入ったのは、村の人だけじゃない。
「おばあちゃん、おじいちゃん。元気でね」
うるうると泣いていたのは、マリルーである。
いつも元気一杯で恐れ知らずの彼女は、特に村の人から人気だった。
マリルー自身、おばあちゃん子だったそうだ。
老人の接し方を心得ているらしい。
まるで自分の故郷であるかのように、暮らしていた。
それもあって、悲しいんだろう。
数人のおばあちゃんやおじいちゃんと抱き合い、別れを惜しんでいた。
「エイスよ」
進み出てきたのは、長老だった。
「グランドキングの件、スライダルから聞いた。強くなったな」
まさか長老にまで褒められるとは思わなかった。
嬉しいというよりも、驚きの方が大きくて、何も言い返すことが出来なかった。
「どうじゃ、エイス? 村に帰ってくるつもりはないか?」
「そうだ、エイス!」
「戻ってこい!」
「お前にしかわからない薬草とかあるしな」
「俺たちがもう1回鍛えてやるよ」
村のみんなは、ぼくが戻ることを望んでいるらしい。
ぼくが村を出たのは、村での仕事――役目がなくなったからだ。
でも、今は違う。
村の中では最底辺だったぼくでも、やれる仕事があると感じている。
誰かが言ったけど、フェールト草のような薬草を見つけることだ。
弱いからこそ、ぼくにも役目があるのだと痛感した。
でも、それじゃあダメだ。
ぼくは誓った。
強くなりたい、と……。
リナリルさんや、仲間を守れるぐらい強く。
だから……。
「長老、すいません。ぼくはまだ英雄村に戻りません。まだまだ王都で勉強しようと思います」
「ふむ。そうか……。それは残念だ」
長老の長い眉がハの字に曲がる。
後ろの村人たちもがっかりしていた。
それでも長老は、ぼくの肩に手を置き、こう言った。
「本来なら、英雄村の人間が外界に出ることは禁止されている。何故ならば、我らは外界の人間とは違う。そして純粋だ。物を知らんのだ。騙され、一国の兵器となるやもしれぬ。わしは、それを心配しておる」
「長老……」
すると、長老はニコリと笑った。
視線をリナリルさんたちの方へ向ける。
「だが、お主なら大丈夫じゃ。いや、お主の仲間であればの。エイスよ」
「はい」
「良い仲間に巡り会えたな。大切にするが良い」
「はい。もちろんです」
「フェールト草はもらっておく。お主がおらんのだ。英雄村にはさぞ貴重な薬草になろうて。お主が初めて、村に貢献できた証じゃからの」
「ええ! 是非もらってください」
こうしてぼくたちは、スライダル兄さんに伴われ、英雄村を後にする。
別れ際、兄さんからも激励された。
長老の前で泣かなかったぼくだったけど、兄さんの前では特別だ。
兄弟抱き合って、別れを済ますと、兄さんは言った。
「何かあれば、オレの名前を呼べ。すぐ駆けつけてやるから」
「うん。でも、出来ればぼく1人でなんとかするつもりだよ」
「頼もしくなったな。だが、お前は1人ではないだろ」
スライダル兄さんは、後ろの仲間たちを見る。
「うん。ぼくと仲間たちでなんとかするよ」
「よく言った!」
ベン、とぼくの背中を叩く。
兄さんの本気の一撃がとても痛かった。
でも、何かとても大きなものをもらったような気がした。
スライダル兄さんは次元の扉を開けて、帰っていく。
振り返ることなく、やがて扉は閉じてしまった。
「帰っちゃったわね。なんだかやっぱり寂しいわ」
マリルーは大きく伸びをする。
聞いていたエトヴィンも同意し、首を回した。
「ああ……。でも、随分長くいたような気がするよ」
「はうぅ……。実際、村の時間とこちらの時間は違うのですぅ」
「ロゼリムの言うとおりだ。かなりの時間が経っているはず。早く王宮に帰った方が良さそうだな」
「でも、バナシェラ王国の人たち、とても喜びますよ。お兄さんが見つかって」
ぼくが言うと、リナリルさんはポンと手を打った。
「そうだ! お兄様! 王宮に帰ったら、王位はお返ししますね」
「え? 僕はリナリルがいいと思うけどね。僕は政治向きじゃないよ。出来れば、古代の遺跡をずっと探窟していたい」
「ダメですよ! 王位継承の順番では、お兄様が上なのですから。遺跡の探窟はわたしが請け負います」
リナリルさんは胸を叩く。
一方、フェルデュナンテさんはやれやれと首を振った。
でも、表情は笑顔だ。
やっぱり仲がいい兄妹なんだな。
見つかって本当に良かった。
談笑していると、バナシェラ王国の大臣が走ってきた。
随分と慌てた様子である。
いつも力無く垂れている耳も、緊張のせいかピンと立っていた。
「おお! 大臣じゃないか。出迎えご苦労だったな」
フォルデュナンテさんは歓迎する。
「フォルデュナンテ様、よくぞご無事で。お喜び申し上げます」
「そんなに僕が帰ってきたことが嬉しいのかい。君は弟や妹側の人間だったと思うが……」
「そ、それは……。い、いや! そんなことをいってる場合ではございません」
大臣さんは一蹴する。
真剣な顔を見て、皆が息を飲んだ。
フォルデュナンテさんも、大臣さんの言葉に耳を傾ける。
「何があった?」
「一大事でございます」
「お兄様の帰還以上に、大事なのですか、大臣」
「はい。実は――」
ルードガス魔帝国が我が国に宣戦布告いたしました。
「――――ッ!!」
皆は一斉に息を飲む。
確かルードガス魔帝国は、魔族の国だと聞いている。
不可侵条約を結んでいて、戦争なんて起こらないはずなのに。
「一方的に条約の破棄を通知してきました」
「なに!!」
「しかも、我が国だけではありません。近隣諸国にも戦争をしかけようとしております」
大臣さんはさらなる衝撃の事実を伝える。
バナシェラだけじゃなくて、他の国にもなんて。
それでルードガス魔帝国は勝てると思っているのだろうか。
でも、それ以上に重要なことが起こっている。
「ちょっと待って! それって!!」
「ああ! 昔に逆戻りだ」
「はうぅ……。人間と魔族の戦争がまた始まってしまうですぅ」
人間vs魔族。
平和だと思っていた世界は、たちまち“普通”ではなくなってしまった。




