第3話 王都の取引値が「普通」じゃない
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2018/08/20 改稿&サブタイ変更しました。
昨日の薬草取りは、中止になった。
ぼくが知らない間に、リナリルさんが魔獣を目撃したらしい。
ギルドを通して街の衛兵に報告したそうだ。
けれど、100人態勢で山に入り、捜索に入ったそうだけど、結局見つけることは出来なかった。
それにしても、いつの間に魔獣なんて出たんだろうか。
全然気づかなかった。
ぼくが知らない間に魔獣を見つけるなんて、さすがリナリルさんだ。
あの“猫”は大丈夫だろうか。
魔獣に食われたりしていないかな。
妙に人懐っこかったし。
もしかしたら、飼い猫だったのかもしれない。
でも、王都ではペットを飼ったらダメだし。
誰かがこっそり飼ってたのかな?
捜索は終了し、安全が確保されたということで、ようやく入山の許可が出た。
ぼくは、改めてアミナさんと共に薬草を採りに行くことになった。
「大丈夫かね? また魔獣が出るんじゃ……」
「大丈夫大丈夫。あたしたちにエイスちゃんがいるんだから」
「頼りにしているよ、エイスちゃん」
アミナさんをはじめ、みなさんぼくを頼ってくる。
よくわからないけど、薬草採取を頑張れってことかな。
なら、期待に応えないと。
「アミナさん、この前見せてくれた薬草をもう1度見せてくれますか?」
もう1度、団扇みたいな葉の薬草を見せてくれる。
ぼくは【神贋】の魔法を使った。
アイテムを鑑定する魔法だ。
脳裏にステータスが浮かぶ。
名前 : 普通の薬草
レベル : 2
用途 : 主に患部の再生能力の活性化
そんなに大した薬草じゃないみたいだ。
ぼくは【地形走査】を使う。
おかしい。
この山には、この薬草よりもいい薬草が、一杯生えてるんだけどな。
いや、待てよ。
村のおばあさんたちもいっていたじゃないか。
ぼくの鑑定魔法はとてもレベルが低いと。
きっとアミナさんたちは、この薬草の隠れたステータスを鑑定できているんだろう。
「どうしたんだい、エイスちゃん」
「もしかして、今日はリナリルちゃんがいなくて寂しいのかい?」
恋バナが大好きな2人のおばあさんたちが、ぼくに迫る。
にへっへっへっへ、と肩をふるわせ笑った。
そう。そうなんだ。
今日はリナリルさんはいない。
ギルドのお仕事をしなければならないらしい。
「そ、そんなことありませんよ」
「そんな強がらなくてもいいんだよ」
「甘っずっぱいねぇ。あたしが、あと30年若かったら……」
「30年若返ったってババアのまんまじゃないか」
「うるさいねぇ。あんたにいわれたくないよ!」
今度は、ぼくを巡って喧嘩を始めた。
この前の事件で、何か怯えていた様子だけど、すっかり元気になったようだ。
「ごめんねぇ、エイスちゃん。うるさいおばあちゃんが相手で」
「いえ。勉強になります」
こうして、ぼくはアミナさんたちと薬草採取を始めた。
◆◇◆◇◆
夕方、アミナさんと一緒に王都へ戻ってきた。
籠の中には、薬草で一杯だ。
採った薬草は、そのままアイテムショップに売るのが通例らしい。
換金されたお金の何割かが、ギルドに依頼料として払われる約束になっていた。
他のおばあさんとは別れて、アミナさんがよく利用するアイテム屋に行く。
馴染みの客を見て、アイテム屋の主人は顔をほころばせた。
「こんばんは、アミナ。薬草の換金だね」
「こんばんは。今日もよろしく頼むよ」
「今回は随分と多いなあ」
「エイスちゃんが頑張ってくれたからね。ああ……。この子ね。新しくギルドに登録した新人のエイスちゃん」
ぼくを紹介してくれる。
ここのアイテム屋は、周辺の店よりも高値で取引してくれるという。
しかも目利きがよくて、アミナさんも信頼しているらしい。
「よろしく、エイスくん」
「はい。よろしくお願いします!」
ぼくはペコリと頭を下げた。
持ってきた薬草を、カウンターの上に置く。
「じゃあ、ちょっとお時間いただきますよ。ん? エイスくん。その薬草はいいのかい?」
アイテム屋さんは、ぼくが小脇に抱えていた草を指差す。
「あら? それ……。私たちが摘んでいた薬草とは違う種類よね」
「え? そ、その……。自分で使おうかと思って、採っておいた薬草なんです」
山に生えていた他の種類の薬草を、ぼくはこっそり摘んでいた。
これを使って、自分用の薬を作ろうと思っていたんだ。
アミナさんは、ぼくが採ってきた薬草を見る。
「うーん。残念だけど、これは単なる草よ」
「え? そうなんですか?」
おかしいなあ。
それなりに貴重な薬草を採ってきたつもりだったんだけど。
……そうか。
アミナさんにとっては、単なる草なのかもしれない。
ぼくでは全くわからない“普通”の薬草を大量に採るぐらいだからね。
「んん? ちょっと待ってくれ。その草を見せてくれないか?」
ぼくが採った薬草は、アミナさんからアイテム屋さんに渡る。
葉の裏、茎の様子を入念に確認した。
すると、アイテム屋さんの顔が、みるみる赤くなる。
ふんと鼻息を荒くした。
ぼく、何か怒らせるようなことをしただろうか?
またか……。
こうやって村でもよく怒られていたな、ぼく。
「エイスくん!」
アイテム屋さんは語気を荒くする。
ぼくはぴくりと首を竦め、覚悟を決めた。
「こ、この薬草……。どど、どこで拾ってきたのだね」
「へ?」
「どういうこと? アイテム屋さん」
「これ……ソルマ草だよ」
「え? ソルマ草ってあの幻の?」
「煎じて飲むだけで、最上ランクの毒や呪いを癒やせるっていう草さ。たぶん、レベル90以上の価値があるんじゃないかな」
「9……90!!」
いきなりアミナさんは声を張り上げる。
倒れそうになったのを、ぼくが慌てて受け止めた。
アイテム屋さんのいうとおり、あれはソルマ草だ。
魔獣の毒や呪い、麻痺なんかを治癒できる。
あれれ? でも、そんなに驚くようなことかな?
割とそこら中に生えてるし、幻っていわれるほど大層な薬草じゃないとは思うんだけど……。
「普通の草と見分けがつかないから、採取はかなり難しいっていうのに。よく見つけられたね。私だって、こうやってよく鑑定するまでわからなかったのに」
「えっと……。そ、そうなんですか?」
【地形走査】を使えば、瞬時に辺りの草を選別してくれるし、よく生えてる地形などを紹介してくれる。
そんなに難しいことじゃないんだけどな。
「アイテム屋さん、それでおいくらなの?」
「そうだね。金貨100枚はくだらないと思うけど」
「き、金貨100枚!!」
え? 金貨100枚もするの?
村では二足三文にもならなかったのに?
「金貨100枚って……。ちょっとした家ぐらいなら足られるお金よ」
またアミナさんが目を回す。
アイテム屋さんは興奮冷めやらず、カウンターを叩いた。
「エイスくん! 是非買い取らせてくれ! 100、いや金貨108枚だそう」
「ええ? そ、そんなにもらえないですよ。金貨1枚でいいですから」
「何をいっているんだね! そんな値で買ったら、店の信用を失う! あと、その残りも売ってくれないか? 10枚はあるね。じゃあ、まとめて金貨1100枚でどうだ? 今、店にはないんだが、明日お金を工面するから」
100枚が今度は、金貨1100枚……。
一体、どうなってるの?
こんなゴミ薬草に、1100枚って。
「す、すいません。やっぱりこれは売れません。そんな高値で取引して、ご迷惑をおかけするには……」
「いやいや、これは“普通”の値段なんだよ。もう少し色を付けてあげたいぐらいなんだ……」
「ご、ごめんなさーい」
ぼくはアイテム屋さんからソルマ草を奪い取る。
そのままお金ももらわず、店を出て行った。
ダメ! こんなの絶対“普通”じゃないよ!
勘違い系主人公エイスくんをこの後もよろしくお願いします!